長岡弘樹のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
長岡弘樹『緋色の残響』双葉文庫。
日本推理作家協会賞受賞作『傍聞き』で主人公を務めたシングルマザー刑事の羽角啓子と一人娘で中学生の菜月を全編の主人公にした5編収録の連作短編集。裏表紙の解説によれば、本作がシリーズ第1弾ということなので、今後シリーズ化されるようだ。
刑事である啓子の推理や洞察力も凄いが、娘の菜月も負けていない。つまりは母娘が二人で主人公を演じることになり、どの短編でも刑事事件が菜月の周囲で起きるというのは仕方の無いことなのだろう。
全ての短編が一定水準に達しているが、中でも表題作の『緋色の残響』が面白かった。
長岡弘樹の短編は登場人物の心理を余り詳しく描くことはなく、伏線が張り巡らされたストーリーだけが淡々と進行していく。あからさまな伏線もそうなのだが、謎解きも機械的な感じがして、無機質な短編に仕上がっているように思う。
それを善しとするか否かはそれぞれの読み手の受け止め方の自由であるが、個人的には、小説としての物足りなさを少しだけ感じる。
『黒い遺品』。伏線に次ぐ伏線が見事に回収され、真相に結び付く面白さ。夫が残した遺品、古い新聞記事の写真、似顔絵……
地元の不良グループのサブリーダーで飲食店勤務の19歳の男が何者かに殺害される。シングルマザー刑事の羽角啓子は部下の黒木駿と聞き込みを行うと殺害時刻に現場から逃走する不審な人物がいたことが判明する。そして、その人物を目撃した可能性のある人物が、啓子の娘の菜月であることを突き止める。
犯人の動機については全く触れられない点が不満と言えば不満。
★★★★
『翳った水槽』。またも菜月が事件の鍵を握る存在となる。そんなことがそう何度もあり得るのかとも思うが、創作の世界だから大目に見よう。犯人は直ぐに判るのだが、啓子がどうしてその人物を犯人だと見破ったのかが短編の読みどころとなる。
ある日、菜月の女性担任が家庭訪問に来るが、啓子は急な事件の捜査で帰宅出来なくなり、家庭訪問は後日あらためて行われることになった。テーブルの上に担任が手帳を忘れて行ったことに気付いた菜月は、手帳を届けに担任のマンションに行く。マンションの担任の部屋に行くと、部屋は施錠されておらず、担任はベッドで寝ているようだった。
手帳を届けに来たとメモ書きを残し、マンションを後にした菜月が母親に連絡を取ると、家庭訪問に来た菜月の担任が何者かに殺害されていたことを知らされる。
理屈ではそうなのだろうが、そう上手く判るものなのかという点が疑問。
★★★★
『緋色の残響』。『推理小説年鑑 ザ・ベストミステリーズ2019』に選出された表題作。既読作。講談社文庫の『2019 ザ・ベストミステリーズ』に収録されていた。全ての真相が明らかになった瞬間に背筋に電気が走るような衝撃を受ける大傑作。
菜月がかつて通っていたピアノ教室で生徒が異状死する。死因はピーナッツによるアレルギーということで、当初、ピアノ教室の教師が疑われていたのだが、嫌疑不充分で釈放される。しかし、啓子は諦めていなかった。それ以上に……
見事な伏線回収。これぞミステリー短編のお手本とも言うべき作品。
★★★★★
『暗い聖域』。張り巡らされた伏線がドラマを生む。まさかの展開に驚いたが、今の時代なら十分にあり得ることか。
ある日、菜月は中学校の同級生の男子から料理を教えて欲しいと頼まれる。扱う食材はアロエ。その後、暫くして、その男子が高所から転落して大怪我を負う。犯人とその動機は……
『緋色の残響』と類似した伏線かと思えば、伏線はそれだけではなかった。
★★★★★
『無色のサファイア』。継続は力なり。諦めずに目標を達成するために一つのことをやり続けることは難しいことだ。
啓子は、その類い稀な洞察力から菜月が中学校で虐めを受けているのではと心配する。2年前に質屋で起きた強盗殺人事件。捕まったのは啓子の同級生の男で、菜月が通う中学校の卒業生だった。冤罪の可能性が高い事件だったが、本人の自供により無期懲役の判決が下る。中学校の新聞部に所属する菜月は男の無罪を信じて、キャンペーンを行い、ある行動に出る。
この母親にして、この娘あり。見事な伏線回収と結末。そして、珍しくオチもある。
★★★★★
本体価格670円
★★★★★ -
購入済み
よい作家さん
ミステリを読み慣れてしまうと、本当に驚くことって減ってしまって、楽しめる作品が減ったなぁと寂しく思っていた。
そんなとき、こういうアプローチもあるんだ!と感動した。
いま、この作家さんに出会って良かったと思う。
まだまだ沢山読んでみたい! -
Posted by ブクログ
長岡弘樹『教場X 刑事指導官・風間公親』小学館文庫。
シリーズ第5作。6話を収録。
新人刑事の中から経験3ヶ月程度の者を1名選び、風間公親が3ヶ月間みっちり指導する風間道場で新人刑事が捜査した事件の顛末を描く。いずれの短編も犯人は始めから明らかにされているのだが、まるで風間が最初から犯行の全貌を知っていたかのようなストーリー展開が続く。
そして、全編に漂う千枚通しを凶器にした通り魔の影。かつて、風間の右目を奪った通り魔は未だ犯行を続けているのだ。果たして……
風間公親を描いたと思われる表紙イラストはドラマで主役を務める木村拓哉に似ているのは、コマーシャリズムの1つということか。
『第一話 硝薬の裁き』。風間道場の門下生である鐘羅路子は証拠を掴み、被疑者を追い込むことが出来るのか。益野紳佑の妻・才佳は、半年前、車にはねられ亡くなる。事故の唯一の目撃者である娘の麗馨の証言を警察は採用せず、犯人とされた男は不起訴となっていた。何度も男に謝罪を求めていた益野はついに自作の改造銃で男を射殺する。★★★★★
『第二話 妄信の果て』。こちらも犯人は始めから明らかになっているが、どうやって嫌疑を固めようというのか。なるほどと思ったのは市販の地図に無断転用防止のトラップが仕掛けられているということ。全く知らなかった。地元新聞社から内定を得た大学4年生の戸森研策は担当教授からゼミ論文の単位を認めない旨の連絡を受ける。慌てて、教授の家に駆け付けた戸森は誤って教授を転落死させてしまう。風間公親の指導を受ける下津木崇人は戸森の犯行を証明しようとする。★★★★★
『第三話 橋上の残影』。余りにも偶然が重なり、偶然により犯人が確定してしまうのには少し興醒め。ある事件をきっかけに恋人を自死で失った過去を持つ篠木瑤子は原因を作った男を通り魔殺人に見せかけて刺殺する。風間道場の中込兼児は殺害された男の身元と犯人を特定しようと捜査する。★★★★
『第四話 孤独の胞衣』。犯人の犯行を証明したのは何と……なかなかの謎解き。工芸家の浦真幹夫と関係を持ち、妊娠した短大生の萱場千寿留は出産を決意する。浦真に呼び出された千寿留は子供を奪われそうになり、逆上して浦真を殺害してしまう。風間道場の隼田聖子は極めて証拠の少ない殺人事件の捜査を行う。★★★★★
『第五話 闇中の白霧』。互いに相手を殺害しようとする男女の犯罪者コンビ。自業自得といったところか。名越研弥は相棒の小田島澄葉と共に闇サイト経由で違法な薬物や商品を仕入れ、莫大な冨を得た。そろそろ足を洗おうとした名越だったが澄葉は同意せず、澄葉が邪魔になった名越は澄葉を毒殺する。折下、毒により苦しみながら倒れる澄葉を目撃したのは風間道場の紙谷朋浩だった。★★★★★
『第六話 仏罰の報い』。最終話。風間公親が教場で指導官になった理由が明らかになる。著名な有機化学者の清家総一郎は実験中の事故で両目に劇薬を浴び、失明したことから一線を退いた。隠遁生活を送る清家は娘に暴力を繰り返す元詐欺師の夫を千枚通しで殺害する。風間は事件現場に既に風間道場を卒業している平優羽子を呼び出す。★★★★★
本体価格780円
★★★★★