恩田陸のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ物書きを生業とする強い女たちのキャラクターが立っていておもしろかった。最後のお互いに上手ウワテをいく展開もかっこいい。けれども親近者の死をテーマにしているにもかかわらず、常に食べ物はしっかりと口にしていて、みんなどことなく他人事で冷静な感じが終始ちょっと不気味な印象があった。最後までその感覚が拭いきれず、誰の嘘にも共感できなかったのがのめり込めなかった要因かもなあ。
一旦真相がわかって落ち着いたときの、えい子さんの「書き直し」が好きだった。
本筋から少しズレるかもしれないけど、つかさが尚美に対して感じた同じ「観察者」としての立場の違いがなんだか面白かった。mbtiでいうと尚美はINFJぽいというか…人の評価を気にする自己肯定感の低い人間がゆえに、興味の中心に他者がくることがなく、自分を介在して他を理解しているのだろうなと。そしてこの感覚は人それぞれ少しずつ違うんだろうと思うと、ここについて他の3人のタイプも描いてほしかったなあと思った。
【彼女は他者と自分を常に対峙させて観察していたことである。つかさの場合、『彼女は林檎が好きで、あたしは葡萄が好きだ』だが、尚美の場合は『彼女は林檎が好きだけど、あたしは林檎じゃなくて葡萄が好きだ』なのだ。】
あとは芦沢央さんのあとがきがよかったなあ。
本を時子を示す名詞と重ねて、
「エネルギッシュで華やかで饒舌な負の引力。」と。
そして、
「たとえどれだけたくさんの人に読まれている本であろうと、本はこっそりと自分だけに世界の理を教えてくれ、見たことのない景色を見せてくれ、感情に名前をつけてくれた。登場人物の心の中にカメラをセットして、その人が目にしている光景から心の動きまでもを追体験させてくれた。」これは読書体験の良さをあらわす最高の表現だなあと思った。 -
Posted by ブクログ
理瀬シリーズの短編集。
各章、主人公や時間軸が違います。
なんだかんだで舞台が学園が舞台になっているものが好き。
理瀬が大学生になってしまっているから、今後はそれは望めないかもしれないけど、理瀬やファミリーたち、憂理・ヨハンたちの学園生活がまた読みたい。
それぞれのキャラクターが魅力的なので、こうやって短編でもいいから、またみんなに会えると嬉しいな。
「水晶の夜、翡翠の朝」
理瀬が去った後のヨハンの学園生活。
ヨハン、本当天使の顔で悪魔の所行。容赦ないわ!
「麦の海に浮かぶ檻」
校長先生が学園の生徒だった時代の話。
校長も悲しい過去を背負っていたんだね。。女装の理由が切ない。
「睡蓮」
理瀬が小学生の頃に白百合荘に住んでいた時の話。
ラストで亘の彼女と車に乗っていた「精悍な若い男」って男の時の校長?
「丘をゆく船」
黎ニと麗子のお話。その後の未来を知っているからこそ、辛いー!
「月蝕」
理瀬が去った後の学園での聖の話。
聖もなかなか過酷な運命を背負っているようで。
「絵のない絵本」
「黄昏の百合の骨」の後日談の位置付けで、理瀬が主人公。アンジェラの正体は想像もしていなかったので、ゾクっとしました。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ恩田陸氏による2004年の作品。
当時、氏は飛行機恐怖症であったとのこと。とはいえ海外への憧れは強く、ムズムズしていた模様。
本作では恐怖症をおして、ゆきたかった英国・アイルランドへ赴き、その道中を綴るという作品。
なお、文庫化に伴い、『麒麟麦酒横浜工場』『札幌落雪注意』『オリオンは新年、東の空から上る』を収録
・・・
で、本作、ありていに言えば恩田氏による旅行記です。
飛行機恐怖症をアルコールで紛らわせるさま、飛行機で読む本をチョイスする、そして現地で楽しむ様子など、私のポイントにドはまりしまして、楽しめました。
特に好きだったのは、こんなくだり。
随行したK嬢は恩田氏の搭乗前の緊張をほぐそうとし、歴史上好きな人物について聞き合う。呼応して恩田氏は歴史上の人物から、探偵へのハマり役になりそうな人をあれやこれやと考えるくだり。作家の想像力の強さを感じました。
ガンジーやマザー・テレサを探偵へと仕立て、しかもそれを偶然見てしまった少年の目線から物語の端緒を描くなど、スラスラと面白そうな冒頭部分がさささと出来てしまう様にすげーなー、とつぶやいてしまいました。
あの人物はハマりそうとか、政治家はダメだとか喧々諤々する様子も良かったです。
他にも、現地での飲みっぷり、日本の三工場の見学等もなかなか面白かったです。自分で行くときの参考にしたいと思います。
そういえば、北海道旧本庁舎を見学に行った際に樺太コーナーという展示に立ち寄った旨がありました。ソ連の侵攻のギリギリまで樺太から北海道へ通信を担う女性たちの最期のメッセージ(その後集団自決)が書かれていましたが、先日読んだ『硫黄島上陸』を彷彿とさせました。戦争の爪痕は目にとめないだけで、日常に潜んでいるのかもしれませんね。
・・・
ということで恩田氏の旅行エッセイでした。
普通に面白い作品でした。
英国、アイルランドへの旅行を考えられているかたのみならず、沖縄・札幌・横浜のビール工場の見学を考えられている方には参考になる情報がある?かもしれません。