宮内悠介のレビュー一覧
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第147回直木賞候補、第33回日本SF大賞受賞作品。
囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋をテーマに、そのプレイヤーたちにとってゲームとは何かを一人のジャーナリスト目線で描く連作短編6篇。
表題作の主人公灰原由宇の凄みに引き込まれ、そのラストシーンの美しさにやられた。
そして彼女は最後の短編「原爆の局」にも再登場し、成長した姿を見せる。
原爆投下の後も対局を続けたという本因坊戦のエピソーと、「棋士は、いつも内なる火と闘っている。外の火など、いかほどでもない」という相田の言葉に、昨年の名人戦で震度4の揺れをものともせず、集中を切らさなかった藤井名人の姿を思い出した。
闘う者たちの姿を側から客観的に見つめるジャーナリストの「わたし」の位置付け。冲方丁の解説を読んでなるほどと感じ入った。
そして、闘うものの傍で一人負い目や孤独感を味わう「わたし」に対し、自らの万年筆を与えた相田の優しさ。
今まで好んで読んできた将棋小説とは異なり、なかなか哲学的な表現もあって難しくもあったけど、読後はとても良かった。 -
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過去にテレビでスプーンを自由自在に曲げ、エスパーとして名を馳せた千晴。結婚した夫はマンションから転落死してからは、外との交流を遮断して、愛犬のテルミンと暮らしていた。その千晴がインタビューに応じるという…。
サルの習性、超能力(スプーン曲げ)、ロボトミー手術、『水からの伝言』問題、ホメオパシー、洗脳といった、現代ネットで受けそうな話題を題材に、最大限の皮肉を交えながら描くSF短編集。
最後の作品を除いて、ほとんどが雑誌の記事のような俯瞰した視点で描かれ、テーマがテーマなだけに、現象も読者も突き放すような、ニヒルと言うよりはスノッブと言うか冷笑が似合うスタイルである。
そのせいか、誰かがどうにかするのだろうと1作目を読みかけて、つらつらと(作品内の)事実を垂れ流しているという印象を受けてしまい、どこに視点を置くかが分かりづらくて、最初はかなり読みにくい。
『水からの伝言』あたりから、人が見え始めてわかりやすくなってきたものの、のめり込んでしまう前に終る印象だな。最後の作は、人に視点を置かれてしまって逆に読みにくかった。
実際にあった事件や問題をうまく絡めており、いろんな資料に当たって書かれており、それらが作品中で単なる引き写しにならずに血肉になっているところは素晴らしい。
ただ、のめりこめない。なぜか。
おそらく、どの現象も信用できないという作者のスタンスにあるのではないかと思われる。批判なら批判側に徹底的に感情移入させるように書かれていればよいのだが、そういう書き方もされないので、単にバカげた現象を第三者として紹介するような小説になってしまった。
単品としてはそれぞれ読むところがあるが、その冷笑をまとめて読むと、まあ胸焼けするのである。
この人は、長編を読んでみるべきかな。 -
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ボードゲームを題材とした短編集。
どの短編も面白いのだが、自分はチェッカーと麻雀を題材とした短編2本が特に面白かった。
チェッカーの絶対的王者がいたのは別作品で知っていたが、それを使ってこんな短編に仕上がるのかと。ボードゲームにコンピューターを組み込むのは現在珍しい事では無くなっているが、なるほどそう来るかと。
また、麻雀の短編では全くこのゲームを知らない人に比べると少しでも知っている方が段違いに面白かったと思う。私は面白く読めました。参考文献に亜空間でぽんを見かけた時にはフフッと。
しかし、全く知らない物でも単語くらいしか知らない囲碁の話でも面白く読めたから大丈夫かな。
どの短編でもゲームを通して人と人ならざるものとの関係を思わされて面白かった。
もしかしてどの分野でもトッププレイヤーになるとその境地に達するのかな。
そしてどの作品もフィクションでありながらノンフィクションかのように読ませるのも面白かった。部分的にノンフィクションをちりばめられているから余計にそう読まされるのでしょうがこの点も面白かったです。
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ネタバレ【収録作品】
「じゃあ、これは殺人ってことで」東川篤哉
「悪霊退散手羽元サムゲタン風スープ事件」結城真一郎
「未完成月光 Unfinished moonshine」北山猛邦
「人魚裁判」 青崎有吾
「答え合わせ」 荒木あかね
「最後のひと仕事」宮内悠介
東川篤哉の作品はノリが苦手だが、このダイイングメッセージはうまいと思う。
「未完成月光」は、雰囲気あり。
「人魚裁判」は『アンデッドガール・マーダーファルス』シリーズの一篇。らしくて好き。
「悪霊退散……」は、ゴーストレストランを題材とした連作の一つ。動機が持って回っている感じ。
「答え合わせ」は、語り手のひねくれ息子と犯人が不快。
「最後のひと仕事」は天才の奇人ぶりを示す。 -
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タイトルを見て予想した通り青木雄二『ナニワ金融道』のパロディだった。取り立ての舞台はなんと遥か未来の宇宙という、かなり野心的な設定ではあるんだけど・・・。
様々な本格SFのエッセンスが盛り込まれているとのことで、元ネタを知っていたらニヤリとさせられてそれなりに楽しめそうだ。しかし『ナニワ金融道』もアイザック・アシモフのロボット工学三原則もちゃんと読んでない(中居正広主演のドラマは観たことがある)私にとっては、ちょっととっつきにくかったというのが正直なところ。アンドロイドの意識に関する考察など、内包しているテーマは結構難しく感じられ、宮内さんらしいといえばその通りなんだけど、さすがにマニアックすぎるんじゃないかなあと思った。
語り手である取り立て屋と、その上司にあたるハラスメント男との掛け合いは馬鹿馬鹿しいながらも結構好き。初読時はあまり難しく考えずに読んだほうがいいかも。 -
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未来の火星を舞台としながら、精神医療史を総括したうえで精神医療というものをクリアな目で見てみる試みのような性質のある小説でした。この分野の知識がない人には内容はむずかしいと思いますが、それでもすっきりとして無駄のない文体なので、すらすら読めてしまう。知識をかみ砕いて読者に伝えるワザにも長けた書き手という感じがします。
地球帰りの精神科医・カズキが働きはじめる火星の精神病院・ゾネンシュタイン。「突発性希死念慮(ISI)」と「エクソダス症候群」という、未来世界で問題となっている架空の精神疾患が物語のカギとなっています。
物語世界を築き上げるのには骨が折れそうな舞台設定なのですが、序盤からぐいぐい、そしてスマートに読者を本の中に引き込んでいく筆致でした。言うなれば「冷温な文体」で、落ち着いている。そのなかで、たびたび、突発的な動きが生まれて、そのギャップで引き込まれるところがあります。終盤にかけてはセリフ回しを巧みに使って独特の思想を露わにすることで読ませるつくりです。
宮内悠介さんははじめて読みました。第一印象として、構成力が洗練されている感じがしました。そして、社会性に優れている。社会、組織、仕組みなどをよく知っている。これはエンターテイメントを創るうえではそうとうの武器なのではないでしょうか。また、巻末の参考文献の膨大な量からしてよくわかるし、読んでいてもその中身からはっきり感じられるのだけれど、勉強量がすごい。知識量と、その処理能力がこの作家のストロングポイントなのかもしれない、まだ一作しか読んでいないのでわからなくはありますが。
ここからは気になったところを引用します。最初は、主要人物であるチャーリーのセリフから。
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「この病院では、貴族客が一人一ペニーで入場し、患者を見物して楽しんだそうだ。このとき、見物客は長い杖を持ちこんだ。患者を突いて興奮させるためにな」(p98)
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18世紀や19世紀の癲狂院の様子についてのところですが、こういった闇がやっぱりあるんですよね。人間の素地にはこういったところがあるので、誰しもちょっとは自分を律しないとと僕なんかには思えるのです。
次は知識としての記述のところを。
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かつて、ジェームズ・ファロンという神経科学者が、二十一世紀の初頭、自著でこんなことを明かした。自身の脳をポジトロン断層法スキャンにかけたところ、前頭葉や側頭葉の共感やモラルに関係する部位の活性状態が低く、典型的なサイコパスの脳であることが判明したというのだ。(p253)
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この科学者は、それでも自分は暴力などを働いたことがないし、社会順応したサイコパスだと結論したようです。それはそれだとしても、この引用部分にあるように、自制がきかないなど、前頭葉が弱いなあと思える人っています。また、自分本位で共感性が見られないなあと思える人もいるものです。たとえその人がサイコパスではなくても、老化によってこのような状態になることがありますし、僕は「サイコパス様症状」と口には出さずに考えることがあるんですが、そういったところと符合する部分でした。
最後、おまけですが、途中に朝鮮朝顔がててくるんです。「ダツラ」とルビがふってあった。村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』の「ダチュラ」とつながって「ああ!」と思いました。長らくあれは創作かと思っていたんですが、違いました。本作『エクソダス症候群』は村上龍『希望の国のエクソダス』のように、エクソダスが掲げられた本ですし、リュウという頼もしい脇役が出てきたりもして、宮内さんは村上龍さんの熱心な読者だたったりしたのかも、なんてちょっとだけ頭に浮かびました。まあ、わかりませんけども。
最初の方で書いたように、本作は冷温な進み方をしますから、すごく感情を揺さぶられたり振り回されたりするのを好む人には物足りないかもしれません。しかし、淡々と物語を味わいたい人には、文体が端正ですし、知識部分についていけたならば、すーっと読めてしまうに違いありません。僕は精神医療分野にはちょっと心得があるので、ひっかかることなくおもしろく読めました。 -
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人工衛星もGoogleマップも寄せ付けない神出鬼没の山、イシュクト。バックパッカー、刑事、世界医、さまざまな思惑を抱いた奴らが〈世界のバグ〉であるイシュクトを目指して動きだす。大量の注釈を施したメタSF。
円城塔の『プロローグ』と『エピローグ』をお話的に混ぜちゃって、『烏有此譚』の形式を後付けしたみたいな感じだな、と思ってしまうのは許してほしい。宮内さんは完全にエンタメにチューンナップされていて抜群にわかりやすいけど。注も読者をケムに巻くためには使わず、「ああ、これはね」とポテチ片手に横から話しかけてくるような親密さが楽しい。
いろいろ盛り上がりそうなバトルシーンはすっ飛ばすのに、世界医バディが瑣末なバグを修正するくだりをしっかり書いているのが、デバッグという作業の実情を描いているようで好きだった。この世界を動かしているシステムエンジニアの愚痴を聞かされる展開は西崎憲の『ゆみに町ガイドブック』でも読んだばかりだが、本書は神も意味も目的もない世界をキャラクターが飄々と乗りこなしている。「さーてと、地球救っちゃいますか」な展開も、注で挟まれる与太話も併せて「バグも楽しんだもん勝ち」なエンタメ作。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ読後感は良い。
たくさんのメッセージが詰められていた。空襲の現場を子供に見せるのは教育としてでも良くないとか、共同体では話し合うことが大事とか。
真木の存在は不思議な安心感があった。趣味が同じ他人が自分に興味を持って近づいてくる嬉しさ。書棚を見て「やっぱりニーチェあるじゃん」みたいな。
あと、ディレイ・エフェクトが起きた時に、社会にどういう影響があるかっていうのの描写の細かさ、良かった。動物園では戦時中に殺処分がされたらしいけど、時系列的にその出来事より後の出来事が再生されてるから、動物たちが殺処分をみて動揺することはないから安心、とか。