宮内悠介のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
平和への切なる願いを抱いた人類は、その自由意志によって
おのれのエゴイズムを去勢することさえできる
ところが、エゴを捨てたあとには自由意志すら残らない
人間らしさを失って、社会に適応できなくなってしまうということだ
このジレンマ
これを打開するべく設定されたまやかしの希望こそ
すなわち宗教であり、物語であろう
まやかしの希望でも、あらたな人のつながりを生んでくれるなら
なんの問題もないように思えた
ところがそれは
価値観の異なる人間どうしに、あらたな軋轢をも生み出したのだった
軋轢は、またあらたなエゴと争いを生み
さらに人々の罪悪感と現実逃避で過激になっていくだろう
あくまで争いを嫌う人々は、 -
Posted by ブクログ
精神医療が発達し、ほぼ全ての精神疾患がコントロール可能になったかと思われた近未来、突如発生した症状「突発性希死念慮」。恋人の発症と自死を防げず、追われるように地球から火星へとやってきた精神科医カズキ・クロネンバーグは、火星で唯一の精神病院・ゾネンシュタイン病院で働き始める。カバラの「生命の樹」を模した構造を持つこの病院でカズキが直面したのは、スタッフも物資も不足する中でギリギリの医療活動を続けねばならない壮絶な環境、権謀術数に明け暮れる政治手腕に長けた幹部医師たちとの抗争、そして「特殊病棟」に長年入院/拘束され、同時に君臨し続けている謎の男。かつてこの病院で勤務していたカズキの父もまた、カズキ
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Posted by ブクログ
火星の精神病院に赴任された青年医師カズキ・クロネンバーグ。
はじまりから続く、この不穏感。
火星という地球を飛び出したSF要素に、精神病院という、人ののぞき見趣味を刺激するような設定で、ワイドショーをみるぐらいの軽い感覚で読み始めた。
しかし読んでみると、近い将来を予言しているかのようなリアルに感じる世界が構築されており、サスペンス部分もありながら、人間ドラマもしっかり描かれている、きちんとした骨格を持つ作品だった。
人の善なるものが終始どこかに存在していて、自分自身の病的な部分も治癒されたかのような清涼感ある読後感。
私にとって初の宮内悠介氏の作品だったが、また別の作品を読んでみたく -
Posted by ブクログ
日本の某メーカーが愛玩用として開発した少女型ロボット「DX9」。歌うことが主な機能の彼女らは、安価で改造しやすい低スペックの製品であったことから、世界各地で大量に購入され、本来の用途とは異なる目的のために改造・使用され、世界各地で降り続ける。ヨハネスブルグの高層ビルから、ニューヨークのツインタワーから、アフガンの戦場から・・・DX9が「降る」光景を共通項に、不穏な世界情勢の中でもがく人間像をリリカルに描き出す連作短編集。
少女型ロボットが、空から降ってくる。それも、時によっては雨のように大量に。
SFとジャンル分けするには、あまりに詩的で幻想的な世界。その一方で、舞台となるのは戦場であったり