様々な背景と事情の中で定時制高校に通う人たちが、教師の導きで科学部の一員となり、教室で「火星のクレーター」を再現する実験にぶつかっていく物語。
とてもいお話だった。
昔々、高校生の頃、私が通っていた学校にも定時制の課程があり、2年生の時には同じ教室を使っていた。
ある時、黒板に「ちゃんと掃除をするように!」みたいなことが書いてあり、ほとんど掃除のようなことをしていなかった私たちは教室がきれいだったのは定時制の人たちが掃除していたお陰だったことに気づかされ、それからはしっかり掃除をして帰るようになったのだった。
そこから私たち全日制と定時制の人たちとの黒板を介した交流が始まって……みたいな佳い話にはならなかったのだが(ならんかったんかい!?)、まあ、純で素直な高校生だった時代のお話。
物語の中で、ペンケースを盗られたと思い込んだ全日制の女子が黒板に暴言を書いたり同じ席の昼夜の生徒間で机の中にメモを入れてやり取りをする場面を読んで、そんな昔を思い出した。
なので、古き時代に生きた私の感覚だと、定時制と言えば、何らかの事情で進学せずに働いている人が学びに飢えて通ってくるというイメージだったのだが、この本を読めば、『授業中のリスカなんてありふれてるし、暴行事件も多い』とか『虐待を受けていたり、育児放棄に近い状態で育ったりした子どもたちが毎年何人も入ってくる』など書いてあって、世の中が変わったことを今更ながらに知った。
そんな高校の4人の生徒、なにをやっても負のスパイラルから抜け出せない不良の岳人、夫と二人で料理店を切り盛りするフィリピン人のアンジェラ、起立性調節障害を抱え保健室登校を続ける佳純、かつて中学を出てすぐに集団就職で上京してきた長嶺。
章ごとにそれぞれが定時制に通ってくる背景が知れていく。高校に通えず働くしかなかった長嶺とその妻の学び直しの話にグッとくる。
生徒たちの身上と科学知識が溶け合って進む話は山あり谷あり、分かり易い展開だしちょっときれいすぎる感じもするが、ぶつかり合いながらも少しづつ前に進んでいく姿にはとても好感。最後の学会でのプレゼンの場面にはじんわりと感動が広がる。
作者さんのあとがきを読んで実話を下敷きにした話だということに驚いたが、『定時制の一年次というのは毎年、混乱のうちに終わってしまう』と言われるような環境でも、人間の可能性を信じて仕掛けた教師の方々を素晴らしいと思った。
本筋とはあまり関係ないのだが、、、第一話には、またしてもディスレクシアが登場。今年読んだ本だけでも3例目。こういうことを通してこの障害に対する理解が広がり、努力していないと決めつけられる人が少しでも少なくなると良いなと思った。
オポチュニティの轍、なかなか味わい深い絵面。