宮内悠介のレビュー一覧
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10棟からなるその病院は、火星の丘の斜面に、カバラの『生命の樹』を模した配置で建てられていた。
亡くなった父親がかつて勤務した、火星で唯一の精神病院。
地球の大学病院を追われ、生まれ故郷へ帰ってきた青年医師カズキは、この過酷な開拓地の、薬もベッドもスタッフも不足した病院へ着任する。
そして彼の帰郷と同時に、隠されていた不穏な歯車が動き出した。
(あらすじより)
SFで精神病をメインに取り扱うのって珍しい。
地球では機械とAIと豊富な薬によって、的確な診断と薬物投与が行えたが、火星では設備も薬も人も足りずに、対話を中心とした全時代的な治療が行われている。
現在の治療でも(たぶん)行われている薬物による症状のコントロール。
「どうして発症するのか?」は分からなくても、原因物質は分かるので薬物でコントロールできるという危うさ。
中世から科学黎明期の、現代から見ればありえない治療も当時の技術水準では根拠があり、最先端だったりする。
つまり、未来から見れば現在の治療が「科学的にありえない」かもしれないという指摘が透けて見える。
医師の精神状態や先入観によって患者の診断にバイアスがかかったり、社会情勢なども影響してくるなど、外科や内科と違って目に見えない病なので精神病って難しい。
思えば、「正常」の定義も結局は大多数と言うだけであって、個々に見れば誰でも少しは異常性を抱えているのではないか。
なーんて考えながら読んでみました。
病院最古の患者チャーリーってハンニバル・レクターがモチーフだよね? -
Posted by ブクログ
最近ハマりつつある作家さん。
こんな話も書くんだなあ、とちょっと意外。
(一緒に須賀しのぶの文庫新刊も買ったので、てっきり須賀さんのピアノものだと思って読んでいた節もあり、あれ⁈ってなりました。)
アメリカの難関(かつクレイジーな)音楽学校を受験する脩。
そこでライバル兼良き仲間と出会い、父の後を追うのだが、というストーリー自体は裏側でありながらも、王道な展開。
アメリカという国の行き着く先を「仮想実験」するという部分も、面白い。
ただ、脩にあんまり感情移入が出来なかったからか、(なんだよ、アンリミテッドブレイドワークスの使い手め)と、分かる人には分かるだろうツッコミを入れて終わってしまった私なのでした。
「同じ曲を、日本のテーマパークで耳にしたことがある。
父がいなくなったあと、新たにできたガールフレンドと足を運んだ場所だった。作りものの空間のなか、子供たちを模した人形が、人間の壁を越えて手を取りあうアトラクションだ。いわば、アメリカの一つの潰えた夢。アトラクションを観ながら、脩はこんなことを思った。」
「イッツアスモールワールド」には二種類の歌詞が存在すること(ちなみに、私は、おとぎーばーなしのようなーから始まるバージョンで覚えていた)を初めて知ったのだけど。
ディズニーランドにあって、あのアトラクションの意味って何なんだろう、と思ったことをふと思い出した。 -
Posted by ブクログ
「わたし」が似非科学と対峙する連作短編だ。
と言っても、「わたし」は決してその似非科学を暴いてやっつけるようなヒーローではない。
ただそれを「見る」だけだ。
SFともミステリーとも言い難い本作。
スプーン曲げや代替医療など扱う題材は面白い。
しかしながら、どうにもうまく表現できないが、私にとっては読みにくく、そこまで厚いとは言えない文庫本を読むことにいささか難儀した。
著者と私との波長が合わない、それが最もぴたりとはまる表現なのだろう。
シンクロニシティと崇拝、言霊と水質浄化、プラセボと終末医療......。
どれもこれも弱った心にするりと入り込んで狂信的とも言える信仰を集める。
それゆえに私の心はその描かれた疑似科学を拒んだのかもしれない。
知れば洗脳されてしまうかもしれない。
第六感、それも似非科学だろうか、本能が危険だと知らせた。
これは作り話、そう思っていても、簡単に人の心は流されてしまうものだから。
そんな考えこそが、いや、真実を突いているかも、いや、それも科学じゃない、いやいや、科学だって万能じゃない、仮定の話ばかりだ.....。
堂々巡りが、「かも」が、私の頭を埋め尽くしていく。 -
Posted by ブクログ
平和への切なる願いを抱いた人類は、その自由意志によって
おのれのエゴイズムを去勢することさえできる
ところが、エゴを捨てたあとには自由意志すら残らない
人間らしさを失って、社会に適応できなくなってしまうということだ
このジレンマ
これを打開するべく設定されたまやかしの希望こそ
すなわち宗教であり、物語であろう
まやかしの希望でも、あらたな人のつながりを生んでくれるなら
なんの問題もないように思えた
ところがそれは
価値観の異なる人間どうしに、あらたな軋轢をも生み出したのだった
軋轢は、またあらたなエゴと争いを生み
さらに人々の罪悪感と現実逃避で過激になっていくだろう
あくまで争いを嫌う人々は、社会の片隅に隠れ
いつしか死の世界へと迷い込んでいくだろう
そのように、死の欲動に抗おうとする人間の理性は
敗北を宿命付けられているわけだ
しかし、僕は思うのだけど
ファウストが最後それを見出したように
死の欲動に直面してなお、揺るがない生の喜びというものも
自己満足のそしりは免れないにせよ、あるのではないだろうか
疑似科学シリーズと銘打っておきながら
どうも本物のエスパーとしか思えない人物を出してきたところに
ある種の詭弁性を持った連作短編集
SFということにはなっているんだろうが…
修業して、超能力が身につくと信じた集団は実際いたからなあ -
Posted by ブクログ
精神医療が発達し、ほぼ全ての精神疾患がコントロール可能になったかと思われた近未来、突如発生した症状「突発性希死念慮」。恋人の発症と自死を防げず、追われるように地球から火星へとやってきた精神科医カズキ・クロネンバーグは、火星で唯一の精神病院・ゾネンシュタイン病院で働き始める。カバラの「生命の樹」を模した構造を持つこの病院でカズキが直面したのは、スタッフも物資も不足する中でギリギリの医療活動を続けねばならない壮絶な環境、権謀術数に明け暮れる政治手腕に長けた幹部医師たちとの抗争、そして「特殊病棟」に長年入院/拘束され、同時に君臨し続けている謎の男。かつてこの病院で勤務していたカズキの父もまた、カズキには言えない秘密を抱えたまま息を引き取っていた。目に見えぬ悪意と亡き父親の影を感じながら日々の勤務に追われるカズキの前に、火星特有の症状「エクソダス症候群」の集団発症が襲いかかる・・・
こうしてあらすじを書くとまるでサスペンスか医療ホラーか、といったエンタメ色の強い作品のように思えてきますが、それは鴨の筆力の拙さ故で、実際には精神医療史と精神医療を巡る社会の変遷を軸にした、重たい読後感の作品です。作中のある登場人物が精神医療に関するペダンティックな語りを延々と続けるシーンもあり、相当な事前準備の上で構成された作品であることが伝わってきます。
前作「ヨハネスブルグの天使たち」を読んだ時は、「少女型ロボットが空から降ってくる」というヴィジョンありきで後からストーリーが付いてきたような中途半端なイメージを受け、その現実味のなさが鴨的には馴染めなかったのですが、それに比べると今作は地に足がついた展開で、ストーリー展開で読者を引っ張って行こうとする勢いがあります。ある意味、「普通の小説」っぽくなってきた感があります。
ただ、ラストの展開は正直ちょっと尻窄み。魅力的で謎めいた登場人物を前半どんどん投入してきた割りには、活かし切れずに小ぢんまりと納まってしまった印象です。鴨はこの方の作品をそれほど読んでいるわけではありませんが、何となく方向性を模索しているところなのかなという感じがしました。筆運びは相変わらず達者ですし、これからますます多様さを増していくのかもしれません。これからも注目していきたいと思います。 -
Posted by ブクログ
火星の精神病院に赴任された青年医師カズキ・クロネンバーグ。
はじまりから続く、この不穏感。
火星という地球を飛び出したSF要素に、精神病院という、人ののぞき見趣味を刺激するような設定で、ワイドショーをみるぐらいの軽い感覚で読み始めた。
しかし読んでみると、近い将来を予言しているかのようなリアルに感じる世界が構築されており、サスペンス部分もありながら、人間ドラマもしっかり描かれている、きちんとした骨格を持つ作品だった。
人の善なるものが終始どこかに存在していて、自分自身の病的な部分も治癒されたかのような清涼感ある読後感。
私にとって初の宮内悠介氏の作品だったが、また別の作品を読んでみたくなった。