2018年末に刊行された新しめの日本SFアンソロジー。短編8編+エッセイ2編が収録されています。
アンソロジーを読むこと自体、ちょっと良い(と見込んだ)食事処にぷらっと入って「おまかせコース」を頼むようなもので、満足したい気持ちと、意外なものを味わいたい気持ちが同居していると思います。
個人的には
...続きを読む両ポイントともにちょうど良い感じの1冊でした。編集者の匙加減の素晴らしさもあるんでしょうが、SFというジャンルの中での振れ幅もなかなか心地良かったと感じました。
(正統派SFもありつつ、一見ファンタジーでは?日記では?となる作品や、突き抜けたシュールさの作品があって、色彩豊かでした)
1編挙げるとすると、個人的には「イヴの末裔たちの明日」が面白かったです。AIに仕事を奪われ、ベーシックインカムで養ってもらう世界を舞台に、「これから人間にできるのは新薬治験くらい」というネットの書き込みを見て治験ボランティアを始めた主人公は…という話。
結末を読んで、こういう世界は本当にあり得るよなぁ…と思いました。でもそれはユートピアなのかディストピアなのか、正直悩んでしまいます。
あと、個人的に短編を読むときに気にしているのが、どれだけ早くその短編の世界を理解できるか、です。
別に早い方が良い訳ではなく(遅すぎると短編だと終わってしまいますが…)、書き出しに個性が出ると言うか。割り切って説明調で書くケースもあれば、最初に象徴的なパーツを掘り下げて書くケースも。
本著を読んで感じたのは、前者のような親切かつクイックな、ある意味ラノベ的な書き出しもアリだなぁというコト。時代に合わせた変化なのでしょうか。
各短編それぞれの個性が組み合わさった、面白いコース料理でした。
次巻も読んでいきたい、出版元の矜持を感じる作品集です。