西加奈子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
主人公の働くことに対するマインド、構え方みたいなものがすごくリアルだし、自分にも重なる部分があって、本当によく頑張ってるなと讃える気持ちで読んでいた。
何かに負けたくないが、それが何なのかはわからない。自分で作った敵であり、その労働環境や、社会の構造が生み出した何かに負けたくない。その現場で敗者になりたくない。そんな気持ちで自分にエネルギーはもう残っていないのに、毎日なんとか奮い立たせて働いている。助けを求めたり、その場から逃げたりすることは負けになってしまうので、続けなくてはいけない。そういう、しんどい状態が主人公の過酷な生活や職場の人間に向けられる思いなどから伝わってきた。
最後の森との会話が心に残った。
これは勝ち負けとは違うんです。戦うのは戦うんだけど、なんていうんだろう、勝敗じゃないんです。勝敗が決まったら、その戦いがそこで終わっちゃうじゃないですか?負かしちゃったら終わってしまうから。まだ、言葉がないのかなぁ。何ていうんだろうこの感じ、あ、抗う?抗い続ける感じかな?分かってもらえますか?とにかく、何かを長く、しつこく、続けるんです。
自業自得とか自己責任とか、そんな言葉は、その人が安心して暮らせるようになって本当に心から安心して暮らせるようになってから初めて考えられるんだから。初めて負える責任なんだからって。
私もそう思います。本当に思います。そんな盾はいらないんです。ちゃんと大切な現実を見えるようにしないと。それで大切な現実って、今ここに困ってる人がいるってことなんですよ。
本当にその通りだなと思う。
社会や組織の問題を、あいつは精神が弱かった、能力がなかったみたいに、個人の問題にすり替えて片付けてしまう傾向があると思う。そういう環境では、やはり弱い奴にも無能なやつにもなりたくないから必死になって働く。だから、負けられない構造ができあがるのだ。でも、そもそも働くって、勝ちでも負けでもなく、やりたい仕事を長く続けて、自己実現に向かっていくことが目的なのではないか。そのためには、困ってる時に助けを求めたり、自分のことも相手のことも大切にして助け合っていくことが重要だと感じた。 -
Posted by ブクログ
この物語の中で、私がいちばん信頼できたのは薫だった。
家族の誰よりも冷静で、静かで、それでも家族から離れすぎない。その立ち位置が、最後まで変わらなかった。
兄を中心に回っていた家族が崩れていく過程は、丁寧に、繰り返し描かれる。
その分、物語全体の語りはやや密で、読み手に休む余白が少ない。そんな中で、薫の存在だけが、説明を増やさず、出来事をそのまま受け止めているように見えた。
さくらの存在も大きい。
行き詰まったとき、物語の流れが詰まったとき、彼女はまるで文章の中の句読点のように、ほんの少しの休みをくれる。
全体として、この作品は言葉の密度が高く、
多くのことが語られる物語だった。
それでも読後は、しんと静かだ。
神様はどんな球でも受け止めてくれる。たとえそれが変化球でも超スローボールでもワンバウンドしてても。そう信じたい。
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「孫係」
いつも身なりを綺麗に整えて、完璧をこなしている大学教授のおじいちゃま。
パパとママ、学校の先生や、友達に「優しくて、いい子」をこなしているすみれ。
すみれは、いつも素直で感情豊かな人たちを少しバカにしている。自分は「人にとっていい人をこなしているだけの、嫌な人間」だと、悩んでいた。
だけど、実はおじいちゃま、同じように完璧な(みえていた)おばあちゃまも、家では悪態を尽きていて、愚痴っていたという。
しかし、じいちゃまはいう、これは「陰口」や「卑怯」ではなく、相手にとっての優しさや思いやりがあるからこそ、「いい人」をこなしているのだと。
だから、すみれさんも、その自分を係だと思って生活をすればいい。貴方は孫係で、私は爺係。時には、生徒係となり、友達係となるのだ。
そう考えると、自分だけじゃなくて、案外、みんな○○係を演じているんだな。 -
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ネタバレ面白かったが、かなり独特な作品。リズム感も独特だし、普通の価値観で読むとどこかズレてくる。常人には見えない何か。1Q84を思い出すような作品だった。
読みやすいのは読みやすい。けど、はじめに書いた通り、普通の価値観で読むとしんどいかもしれない。言葉で説明できない何かを登場人物全員にあって、特にツマは、動物と話せたりヨルと対話できたりと半分何でもあり。
だからこそ、とても大切で繊細な事を登場人物は息をするように実行している。あれほど自分に正直な人たちもいないのかもしれない。愛する人を愛して、自分の感情にとても正直。側から見たら子どもと同じかもしれない。じゃあツマも言っていたが、大人の定義とは一体なんだろう。何かを我慢することができたら、初めて大人の仲間入りなのだろうか。そういう価値観もあるが、ある意味いつまでも大人になれないと実感できていることは最強なのかもしれない。
ちょっと世間とズレてる若者夫婦の田舎移住生活エッセイと思えばかなり楽しめる。1Q84のような世界観が好きな人にはオススメです。 -
Posted by ブクログ
自分と重なる部分が多かったw
他人の目を気にせずに自分らしく振る舞えたらどんなに楽か。"変な人"とか"嫌われること"を恐れずに自分らしく生きられたらどんなに人生楽しいか。周りの人は皆それぞれのことに集中してるから自分が気にするほど自分のことなんか見ていないのはわかってるのに…自意識、ほんと疲れます。
心身が疲れたら環境を変えてみるのも大事だなと改めて気づかされた…
今いる環境から少し離れるだけでも心身が解放されるし、旅先に"置いていく"ことで心身が楽になれるかもしれない(20代前半のわたし、そうすればよかった)
そして、見ず知らずの人と交流することでその人たちから影響を受けて少しは図太くなれるかもしれない!笑
読んでよかった作品でした。 -
Posted by ブクログ
気軽に読み始めたつもりが、想像以上に重く、強い読後感のある長編だった。
先日、家族で話していたとき、夫が「物価の安い国に行きたい」と言った。私は「旅行はもともと好きじゃないし、今の生活を続けるほうがいい」と答えた。そのとき、自分が続けてきたこととは違う方向に向かう“自分の否定”が、いかに怖いかをあらためて感じた。
大人になるほど、自分の価値観や経験に固執しやすくなり、それを次の世代に無意識のうちに押し付けてしまう。外から見ればその構図はよく分かるのに、当事者としてそこにいると「これが一番いい」と信じ込んでしまう。
「声をあげる」「助けを求める」ことが当たり前にできる世の中になってほしい。そのためには、私自身がそうした場面でもフラットでいたいのに、現実にはとても難しい。
作中の“森”は、一見フラットで感情に流されないように見える。でもその内側には「嫌い」「負けない」というはっきりした感情がある。
フラットであることは、無表情や無関心ではなく、自分の中にある強い気持ちとどう折り合いをつけるか、ということなのかもしれない。
読み終えたあと、頭の中がぐちゃぐちゃになった。いったん空っぽにして、もう一度ゆっくり考えたいと思った。 -
Posted by ブクログ
2015年に「サラバ!」で直木賞作家となった西加奈子さんですが、2021年にカナダ滞在中に乳がんと診断され両乳房切除等の治療を受けました。その時の経験が本著のベースになっていると思います、
8つの短編からなり、一般社会の価値観や世間体に縛られることなく、自分自身を肯定することを描いています。
今まで「自分の身体が愛おしい」とか「自分の身体で生きていく」とか考えたことがなかったように思います。何か当たり前すぎてそんなことに疑問を持ったことがないということかな。
この本を読んで、自分の体の一つひとつや、目に見えない臓器に対しての感謝や、もっと自分のことを好きになってもいいのでは?という気持ちになりました。自分は自分の嫌な部分を知りすぎているから中々自分のことを好きになれない気持ちの方が大きかったように思いますが、その嫌な部分をひっくるめて自分のことを好きになれるように今までよりはポジティブに考えてみようと思います。 -
Posted by ブクログ
舞台
著:西 加奈子
初めての海外に選んだのは、亡くなった職業作家の父の思いがこびりついているNY。主人公である29歳の葉太は忌み嫌う亡き父との何かを探し、惹かれるようにその地へ降り立った。
初日からトラブルに巻き込まれる葉太。それどころではないトラブルに巻き込まれ、窮地に追い込まれる中でこそ辿りつける心境もある。葉太の運命やいかに・・・。
太宰治氏の「人間失格」が大好きな著者。物心ついて頃から作家の父親の影響から自宅にある書籍と共に育っている。いさかいのあった父との関係性と自身の存在の葛藤の中で、日本ではなく、父の何かがあるNYで自分探しを行うことになる。
人間のだらしない分やかっこ悪い部分が著者の独特の視点から没入しながら触れることが出来る。葉太のかっこ悪さはどこかで観たかっこ悪さではなく、自分のかっこ悪さを映しだしていることに気づくのは私以外にも多いはず。
心を描くだけではなく、NYの良さも悪さも空気感が感じられる描写はさすが。
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