【感想・ネタバレ】わたしに会いたいのレビュー

あらすじ

『くもをさがす』の西加奈子が贈る、8つのラブレター。
この本を読んだあと、あなたは、きっと、自分の体を愛おしいと思う。
「わたし」の体と生きづらさを見つめる珠玉の短編小説集。

わたしを生きるための言葉。#Imissme ――わたしに会いたい。

コロナ禍以前の2019年より、自身の乳がん発覚から治療を行った22年にかけて発表された7編と書き下ろし1編を含む、全8編を収録。
・「わたしに会いたい」――ある日、ドッペルゲンガーの「わたし」がわたしに会いに来る。
・「あなたの中から」――女であることにこだわる「あなた」に、私が語りかける。
・「VIO」――年齢を重ねることを恐れる24歳の私は、陰毛脱毛を決意する。
・「あらわ」――グラビアアイドルの露(あらわ)は、乳がんのためGカップの乳房を全摘出する。
・「掌」――深夜のビル清掃のアルバイトをするアズサが手に入れた不思議な能力とは。
・「Crazy In Love」――乳がんの摘出手術を受けることになった一戸ふみえと看護師との束の間のやり取り。
・「ママと戦う」――フェミニズムに目覚めたママと一人娘のモモは、戦うことを誓う。
・「チェンジ」(書き下ろし)――デリヘルで働く私は、客から「チェンジ。」を告げられる。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

性や癌、身体のことがテーマな短編集。
久々の西加奈子。勢いがあって面白かった。
とくに「あらわ」のぶっ飛んだ感じが好き。
「チェンジ」の不満のぶつけ方も好き。

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2025年12月06日

Posted by ブクログ

(あなたのなかから感想)
「がん」が一人称で語り部をやっていたと判明するのがいい。自分は今まで自分の身体も「私」という一人称に含まれると考えていたが、この話では「がん」という自分と呼べるかグレーな存在が体の中から自分のことを二人称呼びしてくる。大腸菌とかミトコンドリアとかの共生生物(?)からしたら「私」も「あなた」なんだなと思った。人間の生命を蝕む悪というのが人間から見た「がん」だが、「がん」はただそこに存在するだけで、その善悪は人類が勝手にラベル付けしたものだという当たり前のことに気付く。
自分はまだ「がん」を意識せずに生きているが、死にたいほど辛いのに死ぬのが怖いというのが自分がやがて味わう苦痛なのかと思うと恐ろしくてかなわない。

(あらわ感想)
ホルマリン漬けにしておいた自分の乳首を乾燥させて樹脂固めしてピアスにするの最高だ。恥など露には元々無かったが、偽りの恥を演じるのに辟易して恥とされているものを両耳にぶら下げるのかっこよすぎる。

(掌感想)
「表参道にあるパンケーキ屋、めっちゃ美味しいらしいで!」、「甘酒って飲む点滴と言われてるんやって。」、←これを「知識」として送ってくる人は本当に居て自分はとても対応に困る。こういうどうでもいい雑談が出来るというのはスキルの一つなのだろうが、自分はその人は休日の過ごし方がとてもつまらない人間だと感じてしまう。視野は広げれば偉いということでは無いが、なんて浅薄な情報を選び取って、かつそれを何故容量の限られた脳みそに埋めようと思えるのだろうと感じてしまう。

(ママと戦う感想)
親の善意が間違ってる時が一番苦しいのは本当にそう思う。そして自分が将来子供を育てることになった時に自分の苦しみなぞとうに忘れて同じことをしてしまいそうなのが怖い。親に間違った善意を向けられると、孝行しないことは悪であるという価値観が染み付いてるゆえ、感謝を期待されているのだろうという義務感から「ありがとう」を絞り出す。これが本当に苦しい。こんなに誰も幸せにならない間違いは減れば減るほどこの世が良くなる。

(チェンジ)
毒を吐くパートが読んでいて気持ちいい。

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2025年10月20日

Posted by ブクログ

2025.09.30
結論 :55歳男子のワタシが、女性を理解しようとする歩みはこれからも続けないといけないなと感じた。
「あらた」と「チェンジ」の2作が特に余韻をもたらした。
自分が男で大変だと思うことよくあるけど、女性はワタシよりもっと女は大変だと日々感じて生きている。

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2025年09月30日

Posted by ブクログ

初、西加奈子作品!
表紙のデザインで選ぶ事も多くて、この表紙はあんまり惹かれなかったけど本大量買する時に勢いで買った中にあった本。
ほんと出会えてよかった!勢いに任せておいてよかった!
全てのお話が、女性の生きづらさや葛藤を描いたお話で、すごく真っ直ぐで刺さった!
くもをさがす、も読んでみたいと思った!

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2025年08月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「くもをさがす」を読んだばかりだったので、余計に西さんご本人の闘病などが反映された作品だと強く感じました。
8作の中で3作、主人公が乳がんに罹患しているし、特に「あらわ」の乳首の話や、「Crazy In Love」はそのまんま西さんのご経験の話じゃないか!と。
ふみえの「例えば自分の経験をベースにした小説を書く場合、私は、出来る限り登場人物と距離を取ろうとする。」という言葉を読んで、これも西さんのやり方なのかなあと思った。
やっぱりカナダの女性の言葉が関西弁に聞こえるっていうのが面白い!

「わたしに会いたい」以外の作品はすべてジェンダー感というか、女性性に関するメッセージがかなり強かった。
性的に見られるのを嫌悪する人が多いと思うが、「あらわ」のようにエロく見せることに誇りを持つ人もいる。人間一人一人、考え方がそれぞれ違うということを忘れて「男」「女」といったものに区切りがちになるのは気をつけないといけない。

時間がなく駆け足で読んでしまったので、また改めて落ち着いて読み返したいと思えた作品です。

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2025年08月15日

Posted by ブクログ

初めての西加奈子さん
表現がすごいな、うってなるくらい真っ直ぐで、感じてたけど表現できずにいた、気づかないふりしてたことをズサズサ言葉にしてる
読んだ後に、誰かと話したくなる短編だった

あなたの中から
胸をグッて掴まれつづけてるかんじ
女性が、生まれて生きていくその時々で晒される苦しさを淡々と1人の女性の人生と一緒に体験する、一緒に苦しくなる。
ある人が読んでも、なんとも思わず、人ごとになるのかな。大袈裟だなって思われてしまうのかな。こんなに生きにくい世界だってことに当事者以外は気づくことができないのかな。

ママと戦う
同じことを体験したことがあるわけじゃないんだけど、その気持ち悪さ、そのやるせなさ、悔しさ、わかる。わたしも戦いたいって思う
当たり前になって言及もされない女性に課せられた生きづらさが社会に蔓延してるってことを気付かされるし、そう思うことはおかしなことじゃないんだって思わせてくれる。

チェンジ
心の叫び
自分の違和感や怒りに蓋をしなくていいんだと、息がしやすくなりましたって長濱ねるちゃんの感想があった。
黙って飲み込むことしかできなくてそうすることが当たり前だ、みんなそうなんだからって思ってる時の救いになる

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2025年11月13日

Posted by ブクログ

自分自身を取り戻す過程を描いた短編集


とくに最後の「チェンジ」は終わりに向けてのスピード感が素晴らしく、力をもらった

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2025年06月21日

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受容と、それでもわたしはわたしでありたい
そんな叫びの本
マインドフルネスとかカッコいい言葉でも表現できるんだろうけど、それよりもっと人が持っているレジリエンスに肉薄した1冊
「この本読んでるんですよ」と人に言うための本ではなく、脈打つ動脈のような自分のための本

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2024年11月03日

Posted by ブクログ

ほんとのわたしはどこ?

ってな事で、西加奈子の『わたしに会いたい』

わたしに会いたい
あなたの中から
VIO
あらわ

Crazy In Love
ママと戦う
チェンジ

の短編集

西さんらしい内容と言うのか、今を生きる人間の複雑になってきた環境(色んな考え方、色んな生き方、色んな情報)が、飛び交い過ぎて生き方や人に対して優しくあったり、また逆に生きにくかったり厳しかったりで何とも言えない世界。

昔みたいに飛び交う情報が少ない方が考える事も少なくて生きやすかったのかと思ってみたり。

じゃが、全ての短編からは『生きてく』ってエネルギーが溢れてる感じを受け取ったかな。

個人的にはママと戦うがなんか好きじゃったな

身体のガタが出てきてるので何かしら格闘技とか習いたい

2025年24冊目

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2025年09月27日

Posted by ブクログ

私もわたしに会いにいかなきゃと思った。
西さんありがとう!
ママと戦うが1番好き。
逞しくわたしで生きないとすぐ何かに縛られる。センター試験の日が狙いという日本の闇、最低。日本は安全じゃない。恥ずかしい。

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2025年04月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

2作目「あなたの中から」
1人の女性の半生を淡々と綴ってる作品なんだけど、なぜか本当に涙が出そうになった。
女として消費され続け、自分の価値を自分で認められなかった人が、病気を通じて自分の価値を見つめ直す話。
がん細胞の目線から話が展開するのがユニークだし、希望の見えるラストだったので読後がとても清々しかった。

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2025年03月25日

Posted by ブクログ

全編覆う辛辣さシニカルさが、ヒリヒリチクチクして痛かった、しんどかった。
振り切ったキャラの登場人物や状況設定の短編の中で、書き下ろしの「チェンジ」が、理不尽な世の中を呪いながら悪戦苦闘してる主人公の普通さが自分の感覚に馴染んで、一番腑に落ちた。

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2025年02月15日

Posted by ブクログ

人はそれぞれ違う部分があって当たり前なのに、自分と違う部分を持った人、違う考えを持った人を蔑んだり、怖がったり、たぶんどこかで自分もその一員なんだろうなと思った。

『チェンジ』の最後、全てをぶつけた真っ直ぐな言葉たち、なんかスッキリした。
この短編の中に出てくる人たちみたいにかっこいい人になりたい

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2024年09月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読み始めたとき、正直なんのはなし?って少しなったけど
読めば読むほど、大切に思える作品だった。

女性ならば1つは共感できる話があるだろうし
男性ならば女性を知るという意味で読むのもいいかもしれない。

乳癌を経験した西さんだからこそ
治療の辛さや、大変さ
周りからどう見られるかがリアルに表現されていた。
看護師さんとのやりとりが「くもをさがす」と一緒で
西さんの経験が生かされている素敵な作品なんだなあと改めて感じる。


生理や痴漢の被害、ルッキズムでの偏見や差別に
強く立ち向かっている女性が多く登場してきて
勇気をもらえる話が多い。

少し刺激的な話もあるけど
中学生や高校生にぜひ読んでほしい作品でした。
身体の特徴はみんな違うけど
みんな自分の身体を好きになれればいいなと思いました。

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2024年09月23日

Posted by ブクログ

短編集ってどれだけ良くても長編小説の充足感には届かないんだけど、これは本当に全部の話が良かった。
全話通じて、西さんの静かで力強い怒りが脈打っていて、
多様性やらMeToo運動やら言われているけど
それでもまだまだ私たちの中にも見えない、いや見させてもらって来なかった変な価値観の根がはっているのだと思い知らされた。
2編目の『あなたの中から』では涙が出た。

女性だけでなく全人類に読んでほしい作品。

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2024年09月16日

Posted by ブクログ

私たちはなぜ、性について語ることについてタブー感や恥ずかしさを感じてしまうんだろう。
太ること、頭髪が少なくなること、体毛が濃いこと、一重瞼であること、背が高いことや低いことを、なぜ忌み嫌うんだろう。
おならをすること、げっぷをすること、排せつすること、生理がくること、生理が終わることをなぜ人から隠したくなるんだろう。
私は、自分のからだが唯一無二のものであること、自分自身で大切にしてあげないといけないということをちゃんと教わってこなかった。
からだとこころはつながっているのに。

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2024年09月16日

Posted by ブクログ

ずっと読みたかったこの小説。
女であるがゆえの苦しさ短編集。
わかる、すごくわかる。
容姿への評価に縛られて行きてきた人生だったし、今も縛られている。
でも女である苦しさを感じながら、女であることで得を感じるくらいには女を利用している私は、
純粋に怒る事は出来ない。

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2025年11月21日

Posted by ブクログ

全「わたし」の短編集。
女性特有の悲惨さを集めてどう立ち向かうのかっていうお話たちが、悲痛だったりポジティブだったり感情がいったりきたり。
人間の暗い部分をあっけらかんとした関西弁だったり単調に語ってみたりと重くなり過ぎないように書くところが少し不気味だった。

VIOが面白かったな。発想が斬新。
乳がんのお話も自身の経験をもとに書いたのかなって思うとリアルで他人事ではないなって危機感を感じました。

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2025年11月16日

Posted by ブクログ

女性の身体や人生についてさまざまな角度から描いた短編集。
不思議なものでコロナについて書かれているとすごく昔のことに感じる…。
西さんが持つ、フェミニズムやSRHR、紛争や平和へのしっかりとした温かい眼差しが伝わってくる良作揃いだったと思う。
「VIO」がお気に入りかな。

★時間とお金のムダ
★★普通〜微妙
★★★よかった
★★★★心が動いた(感動した、意表をつかれた、ショックだった)
★★★★★人生の本棚に入れたい

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2025年06月24日

Posted by ブクログ

今の私には、とても重く読み進めるのが怖くて、途中で断念しました。

3編まで読みましたが、どの話も共感するところもあれば、表現しづらい違和感を感じるところもあり…。
心に余裕がある時に再読したい

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2025年05月23日

Posted by ブクログ

あなたは、自分の『存在を認識した』瞬間を覚えているでしょうか?

う〜ん、なんとも難しい質問ですね。あまり深く考えると哲学的な質問にもなってしまいそうです。私たちは、この世に生まれ、自分以外の人間との関わりの中に、やがて、自分という『存在を認識』しはじめます。それは、大人への階段を上っていく中では必然とも言える瞬間です。

そんな瞬間の起点はもちろん人それぞれに異なります。何かしらインパクトある出来事がそこに起点を与えてもいきます。それは人の数だけあるとも言えると思います。

さてここに、『5歳の時』に『わたし』の『存在を認識』したと語る主人公の物語があります。まさかの『ドッペルゲンガー』が登場するこの作品。そんな存在が『わたし』の存在を意識させてもいくこの作品。そしてそれは、インパクトある舞台設定が繰り広げられる西加奈子さんの短編集な物語です。

『初めて「わたし」の存在を認識したのは、5歳の時だ』と振り返るのは主人公の『わたし』。『わたしより4つ上で、くるくるの天然パーマが可愛らしい、痩せた男の子』という『いとこの基(モト)の家に遊びに行っていた』『わたし』は、『四人姉妹だったわたしと違って、一人っ子のモトの部屋に』ある『たくさんのおもちゃ』や『たくさんの本』の存在にモト自身を『憧れの存在』と認識します。『妖怪を教えてくれたのも』、『赤ん坊』が『母親の股から出てくることを教えてくれたのも』モトで、『家も近かったし、幼稚園にも近所にも友達がいなかったから』『毎日のようにモトの家に遊びに行った』という『わたし』。そんな『ある日』、『わたしの歩き方がおかしい、と先生に言われた』ことをきっかけに『幼稚園を休』み、『ママと一緒に病院に行った』『わたし』は『色々体を見られ』ます。『そして、わたしの骨が変形していること、歩き方は生涯直らないこと、を告げられ』ます。『ついでに、骨の成長が途中で止まるから、体も大きくならない』とも言われた『わたし』。そんな『帰り道、ママは何も話』さず、『家に着いても』話しません。やがて、ようやく『なんで。』と『とても静か』に、『平坦』にそんな言葉を口にした母親。そして、『お姉ちゃんたちはわたしのことをこれから先一生「友達なんて出来ない」し、「彼氏も出来ない」し、「子供を産むことだって出来ない」』と言います。
場面は変わり、『モトの家に行』き『やっと安心した。はず』でしたが、『ずっと「なんで。」と呟』く『私』。そんなところに『モトが帰ってき』ました。しかし、『部屋を出る前に、モトの声が聞こえ』ます。『あれ?どうしたの?』と言うモト。『家にいるのはわたしだけのはず』にもかかわらず、『来なよ。』と言うモトを『不思議に思って玄関に向かうと』『玄関の扉を半分開けたまま、外に顔を突き出してい』るモトの姿がありました。『モト。』と言う『わたし』に、『ピクッと体を震わせ』るモトに『誰を待ってるの?』と訊くと『うわああああああ!』と『大声を出す』モト。『どうしたの?』と訊くも『え?え?ミィ?』と『まるでわたしに100年ぶりに会ったような言い方』をするので『そうだよ、ミィだよ、ハロー。どうしたの?』と言う『わたし』。そんな『わたし』に、『え?え?あれ?え?ずっとそこにいた?』と訊くモトに『ううん、モトの部屋にいたよ。でも、モトの声が聞こえたから。誰に話しかけてたの?』と返すと『ミィだよ!』、『そこにミィがいたんだ!』と『玄関の扉を開け』るモト。しかし、『その先には、ジャーン、わたしが…もちろんい』るはずがありません。『そこ、そこの角にいたんだ、今!』、『こっちを見てるから、なんで来ないんだろうと思って。』と続けるモトに『わたしずっと部屋にいたよ。』と答える『わたし』。訳が分からない出来事であるも『モトはもちろんそれを知ってい』ます。『それは、「ドッペルゲンガー」という』ものでした。『もう一人の自分で、同時に異なる場所に現れる。でも、自分のドッペルゲンガーに会うと、その人は死んでしまうのだそうだ』という『ドッペルゲンガー』。『ミィ、会わなくて良かったよ!』と『珍しく興奮』するモトは、『まるっきりミィだったよ!』と続けます。そう、『それが、わたしが「わたし」を意識した最初の瞬間だった』と思う『わたし』。そんな「わたし」の物語が描かれていきます…という最初の短編〈わたしに会いたい〉。『ドッペルゲンガー』というまさかの存在を登場させるインパクトある表題作な好編でした。

“この本を読んだあと、あなたは、きっと、自分の体を愛おしいと思う。「わたし」の体と生きづらさを見つめる珠玉の短編小説集。 コロナ禍以前の2019年より、自身の乳がん発覚から治療を行った22年にかけて発表された7編と書き下ろし1編を含む、全8編を収録”と内容紹介にうたわれるこの作品。「すばる」の2019年1月号などに掲載された5編、「文藝」2022年春季号など掲載の2編、そして書き下ろしの1編から構成されています。8つの短編に関連性はありませんが、とことん『女性』に向き合っていく作品ばかりになっています。

かなり個性の強い作品ばかりという印象が残るこの短編集ですが、今回のレビューでは、そんな中から3つの短編に順番にフォーカスする構成としたいと思います。

 ・〈あなたの中から〉: 『私はここにいる。「あなた」の中にいる…「あなた」が生まれる前から、「あなた」の中に、ずっといた』という『私』は『あなた』のことをずっと見ています。『逆子で生まれた』『あなた』を見て、『なんだ、女か。と言った』祖父。『「あなた」の家には、「跡取り」が必要』であり『跡取りは絶対に男でなければならないの』でした。『「あなた」の母は、「あなた」を胸に抱きながら、祖父に』『次はきっと、男の子を産みます』と『頭を下げ』ます。そして『「あなた」が4歳の時』『この子は器量が良くないから、良縁は望めないかもしれないね』と言う祖母。そんな中『待望の跡取り』となる弟が産まれます。『家族の視線が弟に注がれている間、「あなた」は様々な冒険をし』ました。『幼稚園の友達と性器を見せ合い、近所のインターフォンを押して逃げた』『あなた』。そんな『あなた』は小学校に入り『最下層のブス』と呼ばれるようになり…。

『あなた』、『あなた』、『あなた』…と語りかけられていくような文体がこの短編の大きな特徴です。このような独特な文体で思い出すのは2023年に第168回芥川賞を受賞された井戸川射子さん「この世の喜びよ」です。小説でめったに使われることのない三人称による表現で描き切られた物語はインパクト絶大であり強く印象に残っています。一方で西加奈子さんのこの作品では、短編全体を『あなた』で通すのは井戸川さんと同じですが、一点異なるのが冒頭にこんな言葉が置かれているところです。

 『私はここにいる。「あなた」の中にいる』。

井戸川さんの作品とは異なり物語の視点はそんな『私』にあることがわかります。このことによって『あなた』をその中から見る『私』という関係性がハッキリする中に『あなた』が産まれてから以降の人生を描いていくのです。

  -『中学に入ると、「あなた」は再び太った…「あなた」はブスではなく、最下層のブスと呼ばれた』。

  -『「あなた」は大学に行きながら、キャバクラでアルバイトを始めた…キャバクラで女を売ることは、「あなた」をゾクゾクさせた』。

  -『「あなた」は欲情される女であり続けた…「あなた」は密かに男性社員を見定めていた』。

そんな風に描かれていく『あなた』の人生は壮絶極まりないものです。一体『あなた』はどうなってしまうのか、『あなた』にどんな人生が待っているのか…もう、キョーレツという他ない物語が繰り広げられていきます。

 ・〈あらわ〉: 『両の乳房を切除してから』『生活は変わった』というのは主人公の露(あらわ)。『切除して数週間は、傷口の痛みや突っ張り、胸に繫げられたドレインの違和感にばかり気を取られていた』ものの『徐々に元の生活に戻ってゆくうち、肩こりが劇的に軽減していることに気づいた』という露は、『Gカップの乳房』が『露の肩に相当の負担をかけていた』ことに気づきます。『持っていたブラジャーを全て捨てた』露は、一方で『自分には似合わないと諦めていたTシャツを何枚か買って、それに合わせたジーンズとスニーカーを身につけると』『自分が生まれ変わったような気が』する露。そんな『露が乳がんと宣告された時、右胸にあったしこりは、3センチほどの大きさになってい』ました。『抗がん剤治療を受け』、『あらゆる体毛を失った』露は、『無毛の頭のままで過ごし』ます。そして、『その姿で外出すると、周囲の、露を見る目が変わ』ったのに気づきます…。

 『両の乳房を切除してから、露(あらわ)の生活は変わった』。

そんな衝撃的な一文から始まるのがこの短編です。主人公の名前が露(あらわ)という点でもインパクトがありますが、この冒頭の状況は、露が『乳がん』治療の手術によって『乳房』を失ったことが語られることからはじまります。一つのポイントはそんな露の職業です。現在28歳という露。

 『彼女の職業は10代から続けていたグラビアアイドルで、乳房を失った途端、その仕事も失った』。

『両の乳房を切除』したことで露は自分の置かれた立場を実感します。『露自身ではなく、露のGカップの胸こそが、大切なのだった』という現実に気づく露。『乳房はなくなっても、自分にはキャリアがある。「エロく見せる技」は、10年の経験でことごとく心得てい』ると思うも、『乳房のない露は、もうエロくないのだ』と思いつめていく露は、ふと一つのモノに気づきます。

 『乳首』

まさかの『乳首』の存在を思う露が描かれていく展開はこれまたキョーレツそのものです。これは、女性にしか描けない物語、女性だからこそ描ける物語だと思うインパクト最大級な物語でした。

 ・〈チェンジ〉: 『指定された部屋の扉をノック…人が近づいてくる気配がして、背筋を伸ばす。営業用の笑顔を作る』、そして『こんばんは』と声を出すも『多分30代くらいの、細い男の人』に、『自己紹介をする前に』『チェンジ』と言われてしまったのは主人公の『私』。『3ヶ月前から、この仕事をするようになった』という『私』は、『昼間はアパレルの店員をし』、夜の空いた時間に『デリバリーヘルス』をするようになりました。『客が指定する場所(自宅やホテル)まで出向いて、挿入以外の性的なサービスをする』という仕事には『送迎のドライバーが現場まで送ってくれ』ます。『危険な客に当たったら』『外で待機している』ドライバーに『連絡すればよい』という体制。そして、『今日指定された』のが『新宿のラブホテル』でした。『チェンジ、言われたら、その場で事務所に連絡して、代わりの女の子を呼ばないといけない』と、『一人残された廊下で』電話をかける『私』は…。

まさかの『デリバリーヘルス』の”お仕事小説”的側面を見せるこの短編。主人公が『チェンジ』と言われてしまった後の様子を描いていきます。『デリバリーヘルス』の主人公という点でもインパクト絶大ですが、そんな物語に影を落とすのがこの作品が執筆された時期に関わるものです。『ホームページ』にこんな表記があることが記されています。

 『アルコール消毒や手洗い、うがいの徹底、望む人には行為時のマスク着用』

そうです。あの辟易するようなコロナ禍がこの短編の背景にあります。『客が密集する危険はない』ものの『濃厚接触、しかも知らない人とのそれであることに変わりはない』という『デリヘル』。コロナ禍を舞台にした作品は数多ありますが、『望む人には行為時のマスク着用』という謳い文句はこの職業ならではです。そこには、こんな皮肉も続きます。

 『それで何が防げると言うのだろう(そもそも、マスクをしたままフェラチオなんて出来ない)』

ノーコメントとしたいと思います(汗)。一方で、この短編では感染者数が増えた場合に『赤色に発光』する都庁、『東京アラート』を『なんだよそれ』と思う主人公の姿も描かれます。

 『そもそも「警戒を呼びかけられた」ところで、働かないと、生活が出来ない。そんな私たちに、あの光は何の意味があるのだろう』。

そんな風にコロナ禍の『警戒』をある意味で冷めた視点で見る主人公の『私』。『チェンジ』という言葉を投げかけられた『私』の心情をそんな冷めた日々の中に上手く描いていく、この短編集を締めるに相応しい大人な短編だと思いました。

以上、3つの短編を取り上げましたが、他の短編も含め、女性だからこそ描ける、さまざまな立場、境遇の女性主人公の日常がこの作品には描かれていきます。『生理』や『陰毛』、『乳房』、『乳首』といった女性の体を赤裸々に描写していくこの作品は、女性の方にこそ是非読んでいただきたい、心の機微が存分に丁寧に描かれていました。

 『それが、わたしが「わたし」を意識した最初の瞬間だった』。

『ドッペルゲンガー』というまさかの存在が描かれていく冒頭の短編〈わたしに会いたい〉を含め、インパクトある物語展開にギョッとさせられること多々のこの作品。そこには、生きづらさの中に日々を送る8人の女性の物語が描かれていました。生々しく赤裸々な描写の頻発に驚かされるこの作品。女性ならではの表現に満ち溢れたこの作品。

「わたしに会いたい」、そんな女性が発する心の声が聞こえてくるような作品でした。

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2025年03月31日

Posted by ブクログ

短編集。乳がんにまつわるものが2編。執筆時に西さんが乳がんが発覚し闘病されていた経験が基になっているのだろうか。

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2025年03月03日

Posted by ブクログ

著者が癌を患い闘病した体験を基にして書かれたのだろうなと思わされる短編もあり、前作の『くもをさがす』のノンフィクションの内容を思い出した。

女性ならの視線で書かれており、性や女性の芯の強さが小説全体の核になっているように思った。

中々書くことがはばかれるような内容も多くて、それに敢えてチャレンジして小説を書いたのだろうと感じた。

著者の西さんは、闘病生活を経て久しいが元気で過ごされていたらいいと思う。また、素敵な小説を書いて欲しいと思います。

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2025年01月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

西加奈子さんの性的に生々しい描写は時として苦手なこともあるが、その独特な感性と語り口にいつも感心する。
「VIO」の主人公リナが、脱毛レーザーを照射された瞬間に〈とんでもない殺人兵器〉を思いついた…というくだり。 黒い色だけに反応し燃やすレーザーが存在するのだから、黒い髪、黒い瞳、黒い皮膚を持つ人間だけを殺す兵器が開発されていてもおかしくない、という発想にハッとさせられた。 どこかの国が狂信的な白人至上主義・人種差別に傾倒したら、そんな恐ろしい兵器が使われる日が来るかもしれない…なんて。

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2024年12月09日

Posted by ブクログ

『生と性、抑圧と解放』をテーマにした8篇の短編集。女性の生きづらさと、それでも生き抜く逞しさが描かれていた。
最も心に残った章は『あらわ』で、グラビアアイドルの“あらわ”が乳がんのためにGカップの乳房を全摘する話。彼女の前向きな姿勢や明るさに触れ、先日の乳がん検診で、要精密検査となった自分の不安な気持ちが少し落ち着き救われた。

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2024年11月25日

Posted by ブクログ

西さん自身の乳がんのお話だったのかな。明るくサクッと書いてあるところに芯の強さを感じた。最後のお話は何かに最高にブチギレててスカッとした。

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2024年11月14日

Posted by ブクログ

大好きな西加奈子さん。
短編は初めて読んだ。コロナ禍の内容なのが特徴的だったかな。
なんだかすべて強烈に性的で、少し胸焼けした。短編なのに。

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2024年10月18日

Posted by ブクログ

かなりあけすけに綴られたお話が多く、ドギマギしながら読んだ短篇集。
その中の「ママと戦う」の結末が、いちばん気に入った。

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2024年10月05日

Posted by ブクログ

性に関する投げかけ。これってどうなの?という問いかけが多い。決めつけや価値観に苦しみながらのそれでも強く生きようとする人々が描かれていた

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2024年09月20日

Posted by ブクログ

わたしに会いたい
著者:西 加奈子

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**内容説明:**
西加奈子が贈る8つの短編からなるラブレター。乳がんの治療経験や生きづらさを通して、女性の体と心に焦点を当てた珠玉の短編小説集。自分の体を愛おしく思えるような作品です。コロナ禍以前から2022年にかけて発表された7編と、書き下ろし1編が収録されています。

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**感想:**
西加奈子さんならではの生々しい表現や、意外性のある展開、時折挟まれる笑いがとても印象的です。女性が自分の心と体、そしてそのセンシティブな部分に向き合い、葛藤しながらも前向きに進んでいく姿が描かれています。それぞれの短編を通じて、様々な女性の人生を疑似体験したような感覚を味わいました。読むたびに新たな気づきがあり、どの作品も非常に力強いメッセージを持っています。

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2024年09月12日

購入済み

考えさせられました

8つの短編があります。どうして「わたしに会いたい」というタイトルなのか?主人公はみんな本当の自分を生きていないのかもしれませんそう思ったら、自分自身はどうかな?と考えてしまいました。

#深い

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2024年07月07日

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