貴志祐介のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ死ぬほどネタバレしてるので気をつけてください。ていうか、もはやネタ解剖しちゃってます。あくまで感想の域は超えませんが。↓↓
本書を読んで強く印象に残ったのは、極限状態での人間の恐ろしさ以上に、「人間は『善か悪か』だけでは決して割り切れない」ということだった。
その象徴が「藍」だと思う。
終盤、藍がゲームの主催者側にいることが明らかになる。藤木からすれば明らかな裏切りだが、彼女自身が自由な意思でその立場を選んだわけではなく、状況的にゲームに関わらざるを得なかった側面もある。そう考えると、藍もまたゲームに囚われた一人だったのではないか。ただし、だからといって彼女を善人として見ることもできない。藤木を助けることさえ、純粋な善意とは限らない。ゲームを盛り上げる「撮れ高」のためなら、藤木を生かしておくことには十分な意味がある。つまり藍は、藤木を助けながら、同時に藤木を利用している。ここが面白い。
「藤木を助けたのは情だったのか、それとも撮れ高のためだったのか」その境界が曖昧だからこそ、藍を単純な善人にも悪人にもできない。人間の行動には、情と打算、善意と自己都合が同時に存在する。人間は、純粋な動機だけでは動いていない。藍は、その矛盾を極端な形で見せている。そして、この「状況」と「意思」の問題は、藤木やグールとの対比でも浮かび上がる。藤木は、極限状態でも考えることをやめない。何を食べ、どこへ進み、誰を信じるかを、自分の頭で判断し続ける。一方、グールは生き残るために人間としての一線を越えていく。
藍はその間にいる。ゲームの側にいながら、完全には割り切れない。だから私は、藍を「人間性の最後の砦」のように感じた。怪物になってしまったわけでも、正しい人間であり続けたわけでもない。悪に関わりながらも、完全には人間であることを捨てきれない。その「なりきれなさ」こそ、むしろ最も人間らしいのではないかと思った。
そして、この作品で本当に恐ろしいのは、殺し合いそのものだけではない。藤木たちにとっては生死を懸けた現実が、主催者にとっては「撮れ高」のある娯楽でしかない。人間の苦痛や恐怖まで、誰かにとってはコンテンツになる。そう考えると、藤木が奪われていたのは命だけではなく、「自分の人生を自分だけのものとして生きる権利」だったのではないかと思う。そして、ここから自分自身にも問いが返ってくる。私たちも、仕事や組織、人間関係など、自分では選べない条件の中で「自分の意思で」選択していると思っている。しかし実際には、与えられたルールの中で選ばされていることもある。
だから、この作品から持ち帰りたいのは、「自分はいま、本当に自分で選んでいるのか。それとも、与えられた状況の中で選ばされているだけなのか」と、ときどき立ち止まることだ。同時に、他人を判断するときも、その人の行為だけを見て「善人」「悪人」と決めつけない。その人がどんな状況に置かれ、何を選ばざるを得なかったのかまで考える。ただし、それは行為の責任を免除することとは違う。
『クリムゾンの迷宮』は、極限状態で人間がどこまで残酷になれるのかを描いた作品だと思っていた。でも読み終えてみると、それ以上に、「人間は、与えられた状況の中で、どこまで自分自身でいられるのか」を描いた作品だったように思う。
藤木は「場所」から脱出しようとし、藍は「役割」から逃れきれない。そしてグールは、人間であることそのものから遠ざかっていく。そう考えると、三者がそれぞれ違う「迷宮」を歩いていたように見える。そして私たちもまた、自分では選べない状況の中で、それでも選択し続けている。
自由とは、何でも好きに選べることではなく、選べない状況の中で、それでも何を選ぶかということなのかもしれない。この作品を読み終えて、一番自分に残ったのは、そんな問いだった。 -
Posted by ブクログ
日常に潜むホラーを、虫の生態系に重ねた情景描写が、身体の芯からゾワっと感じ、貴志祐介の味が出ていて良かった。
保険会社に勤める主人公。保険を売るということは、「死」という事象に価値を提供しなければいけない。そんな立場の主人公ならでは目線で、「生」とは。「死」とは。という部分に触れられている。
そこには会社員としてのロジカルな思考と、人間としての本能的な思考とで、主人公の中に常に葛藤がある。
その葛藤の末に出した道理から外れている存在を、「サイコパス」や「人間の形をした化け物」といった表現で切り離そうとしている様子と、全てを受け入れようとする、心理学を学ぶ彼女という存在がその対比構造を分かりやすくしていた。
十人十色という言葉があるように、人間という種族を一つの型にはめることはできない。その型から溢れた人間を括る言葉があってはいけない。私はそう考えさせられた。
これは単なるホラー作品ではなく、社会と多数性・人間とはどうあるべきか。という問いをかけられているような、とても考えさせられる作品であると思う。
最後主人公が考えたように、黒い家は未来の日本なのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
底辺YouTuberが旧家の災難(呪いのオンパレード)に巻き込まれるドタバタ劇。まず600P超と長い。登場する呪物アイテムの解説が丁寧すぎるほどあるのと、状況説明が変に丁寧だが、トータルの期間としては実は短い。
前半戦はとにかく状況把握と呪物の解説に耐える必要があり、後半戦は確かに実際の呪いや敵との対峙で読みやすく面白くなってくるので要注意。呪物は覚えようとしても無駄。ぶっちゃけお宝鑑定団見ている気分。
ストーカー気質の彼女の話や、呪物を分析する友達の話が意外に面白かったのにそこはあっけなく終わってしまい何の意味があったのかわからない。主人公の霊感が強まる背景もなかったため、感情移入もしにくい。
人間側のラスボスは結局ぼんやり、ラストもよく分からずじまい。。不完全燃焼。
旧家の呪い↔︎YouTuberの関係や、途中出てくる西洋の呪い↔︎旧家の呪いの混合は面白いから、そこをもっと立たせてほしかった。
全体を通して面白い要素はあったものの、読後感として謎が解けたスッキリ感や、登場人物への共感が少なくモヤモヤが残る一冊でした。 -
Posted by ブクログ
防犯探偵シリーズの第4弾です。
腰を据えて、頭のギアを一段上げないと、置いていかれてしまうぞと思いました。
密室やトリックの組み立ては相変わらず精密で、理屈がきれいに噛み合った瞬間の気持ちよさはさすがです。
キャラクターも安定していて、感情を排した視線が物語全体を冷やしてくれる分、事件そのものに集中できます。
反面、その精密さゆえに人物の体温が遠く、感情で転がされるというより“解く作業”に寄る瞬間もあります。
2編とも面白いですが、個人的には「ゆるやかな自殺」の方が切れ味がよく、後味の悪さまで含めて効きました。
好き嫌いは分かれますが、推理好きの脳を確実に起こしてくる一冊でした。 -
Posted by ブクログ
嵐の夜に起きた資産家の一酸化炭素中毒死と、容疑者とされた甥への不当な調べ。警察の圧力によって無理やり調書にサインさせられた「強要された自白」から始まる事件は、15年前の不当捜査や世間の冷ややかな目、そして「不幸の連鎖」が複雑に絡み合う壮大なドラマの幕開けだった。
取調室で「やっていない罪を認めてしまう」過程の恐ろしさや、長期間拘束された際、普段から抑圧に慣れている人ほど耐性があり、自由奔放な精神の持ち主ほど絶望したときに脆いという人間心理の考察には深く納得させられた。
そして、法廷での英之と石川検事の遣り取り。一見攻め立てているはずの検事の方が、実は英之の緻密に組み立てた「台本」の上で踊らされているのではないかという疑念がじわじわと湧いてくる面白さがあった。
しかし、そうした設定や心理戦の構図の面白さは理解できるものの、実際に文章を読み解きながら進んでいく旅はとにかく長かった。ストーリーに起承転結の起伏が少なく全体的に平板に感じられ、スラスラと楽しむというよりは「途中で投げ出さずに最後まで読まねば」という半ば義務感でページをめくっていたのが正直なところだ。
心理戦の綿密さやテーマの深さは分かるものの、エンタメとしてのテンポ感や爽快感を求めるにはかなりの根気が要る。真実を追う道中が非常に長く感じられ、なんとか最後まで読み切ったという達成感だけが残る読書体験となった。 -
Posted by ブクログ
…合わないな、合わないな、と思いつつ、やっぱり最後まで読み通した、下巻!なんだかんだじっくり味わった。もう、バケネズミらやバケネコ?やら、何とかもどきやら、キモチワルイ動物は勘弁…!と思いながら。いや、それどころじゃない、最終巻は、悪鬼が登場し、いよいよ無残なジェノサイドの描写のオンパレード。こ、こういうところがぁ、ちょっと苦手なんだよ、、、と思いつつ読み通した!
物語のたたみかた、しかけ、さすが構想30年。結構好きでした!風呂敷広げたが最後畳みきれなかったりしないかな?と危惧していたが、杞憂でした!それが読めただけでも読み通した甲斐があったよぉぉ。
最後はやっぱり、差別問題だよね。そんな予感はした。 -
Posted by ブクログ
おすすめの大長編SFという情報として知った本書。文庫の上中下を読み通した今結論づけると、私にはやや合わなかったかな。ただ、設定はそそられるものはある。構想に30年?!かけたというのも納得のワールド。
なにがあわなかったかというと、とにかくキモチワルイ架空の生き物がたくさん出てくるところと、主人公と仲間たちが、何かと不注意や謎の冒険心で危険に自ら突っ込んでいっては、危険に追い立てられるというワンパターンで物語が進むところ。もともとそういう、ゾワッとや、ハラハラ、がちょっと苦手で…。
ドボルザークの新世界と、遠き山に日は落ちて…とノスタルジックな和の夕方を想起させる世界観と、第三次世界大戦でも起きたのか?!という退廃を気取るような近未来感のなかに育つ子供たちという設定が、カズオ・イシグロの私を離さないで、に近くて、冒頭はかなりワクワクした。