貴志祐介のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
目を覚ました主人公の視界に広がる、深紅色の奇岩。その「深紅(クリムゾン)」は、やがてサバイバルの暴力と交錯し、血の深紅とも重なる。
昔観た映画「トータル・リコール」の火星の風景を思い出すような非現実的で異様な光景でした。
貴志祐介さんの『青の炎』『天使の囀り』と同時期の作品と思うと、現実と虚構の境界をあえて曖昧にしながら、人間の本能や恐怖を描いていた時期なのかな。
この作品は、私の苦手なゲーム的展開。
早く真相に辿り着かないかな、とこの「ゲーム」に潜む悪意の表現へのシフトに期待していましたが、むしろこれは展開そのものを楽しむタイプの小説なのだと思います。
仕組まれた舞台で、読者自身もゲーム -
Posted by ブクログ
過去の父親の冤罪事件。
その清算を目指す青年の大胆な構想。
冤罪の“冤”は、ワ冠に兎。
あまり意識したことはなかったけれど、
面白いところをついてきたなと感心します。
そして、薄氷を踏むのですではなくて“駆ける”。
割れる前に抜け切るんでしょう。
青年の中で閉じ込められたままの父の“兎”。
自らが、再びの“兎”となり、取調室へ向かう。
薄氷を少しでも証拠で重ねつつ、
警察・検察と対峙していく様子は、
ラストが予測されるとはいえ緊張感があります。
そして、迎えるラストには『青い炎』で読んだあの破滅感を味わうことになります。
上手くいきすぎかなとか、
叔父さん反省してない方が面白かったのにと -
Posted by ブクログ
ネタバレ福森家で起きた一家惨殺事件を調査する霊能者・賀茂禮子と中村亮太。
訪れた事件現場の屋敷は、曰く付きの呪物で溢れ返っていた。戦国時代から続く恩讐が今回の事件の引き金になっているのだろうか。事件の夜を生き延びた福森家の子供たちを更なる脅威から守れ。
呪物紹介ツアーが長くて閉口した。
庭木も多分に呪われていて、屋敷の門から母屋に入るまでにも随分時間がかかった。事件の内容もよく分からないうちから繰り広げられる講釈に、早く物語の全体像を掴みたいという気持ちが先行して、とてもじれったかった。母屋の中に入れば、河童の木乃伊や天尾筆などを始めとしたエピソードをちゃんと持った呪物が多かったので、その完成度はさ -
Posted by ブクログ
貴志祐介の短編集。SFがほぼかな。
『夜の記憶』は、現状が全く分からない状態で始まり、徐々に情報が明かされていく感じ。なかなか理解に手間取った。
好きだったのは『呪文』。
植民惑星における、諸悪根源神信仰を中心とした憎悪の物語だった。極限の環境下で、文明がどう歪んでいくのかが描かれている。前提として、私の知る地球の外での物語であるため、到底現実的だとは言えないはず。それでも何故かリアルだと感じてしまうほど、憎悪の書き出し方が巧み。主人公が、生きて星を去ることができるのか最後までヒヤヒヤした。
PKや呪いが主軸になっている点が、同著者の『新世界より』や『さかさ星』に近しいところを感じる。