近藤史恵のレビュー一覧
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流行病が蔓延していたあの頃の、張りつめた空気や生きづらさを鮮明に思い起こさせる作品だった。時間の経った今だからこそ、当時の不安や息苦しさを「なかったこと」にしてはいけないのだと突きつけられる。
前作『ときどき旅に出るカフェ』に続き、ほぼ同時代的に描かれた物語であるからこそ、登場人物たちの戸惑いや緊張感は生々しい。先の見えない日々の中で揺れる人々の心模様が確かな温度をもって描かれている。
この物語を「前を向かせてくれる物語」として受け取ろうとすると、結末にはどこか苦さが残り、描かれていた人間模様は完全な救いや希望ではなかった。
この後味の苦さこそが、あの時代を描いた物語としての誠実さなのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
★3.5
近藤史恵の処女作品らしい。出版されたのは1993年という事で、32年ほど前。とはいえ、まだ平静だったはずなんだけど、文体はコーヒーを“コオヒイ”とか、デザートを“デザアト”の様に書き、「一体いつの時代なんだ?」と惑わせられる。
タイトルが『凍える島』なので、北の島の話かと思いきやさにあらず、瀬戸内海に浮かぶS島という事になっている。そんな島で連続殺人が発生していくのがこの作品。絶海の孤島で起きる連続殺人という作品は数多あるけど、上述の様な文体であることもあり、緊張感と共に、何故だか気だるさを感じさせられるのは気のせい?
近藤史恵は、シェフは名探偵シリーズや、サクリファイスの様な作品で知っていたけど、この作品はそれらのどれとも違う、また独特の作品でちょっと驚かされた。 -
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『下田にいるか』 坂本司
(『和菓子のアン』の坂本さん)
コロナ禍の鬱屈した日常に、ふと「そうだ! 伊豆に行こう」。会社員の主人公が思い立ったが吉日とばかりに、電車に飛び乗って一泊旅へ。美味しい海の幸やご当地グルメに舌鼓を打ち、イルカショーでは童心に返る。
いつもモヤモヤとしていた仕事の悩みも、潮風と旅先の景色に浄化されていく。
ひと言
「まずは行ってみればいい。おいしい景色は逃げない。」
『情熱のパイナップルケーキ』 松尾由美
初読作家さん
パイナップルケーキの香りに誘われて、ひとり台湾へ。
職場に馴染めず、派遣という立場の曖昧さに息苦しさを覚える主人公。けれど旅先で出会う味と空気が、凝り固まった視点を少しずつほどいていく。
離れてみると見えてくる、同僚たちのささやかな感情。
彼らの隠していた想いと、自分の本心。その距離感を確かめるような“はじめて”の一歩。
ひと言
「少し遠くへ行くだけで、人の気持ちは案外よく見えてくる。」
『遠くの縁側』 近藤史恵
どこかで読んだ気がする——そんな「既視感」の正体は、きっとこの作者特有の“食と少しの孤独”の空気感。あるいは、ただ忘れただけ。
アムステルダム出張で盗難に遭い、急遽ひとり取り残される女性。
ビジネスでも観光でもない、宙ぶらりんな3日間。
頼るものが消えた時、彼女は少しずつ街に溶け込んでいく。
店先に並ぶコロッケの温度、夕暮れの運河、
見知らぬ地の「縁側」に腰掛けたような心地よさ。
それは日常のきしみをそっと癒やす時間でもある。
ひと言
「知らない街のコロッケは、なぜあんなに美味しいのだろう。」
『糸島の塩』 松村比呂美
初読作家さん
福岡・糸島。海風に磨かれた“美味しい塩”の産地。
けれど主人公の心は、しょっぱさより苦さ多め。
不倫相手が始めた旅行会社で働き、コロナ禍の煽りもあって経営は綱渡り。
詐欺同然のツアーを売る自分に、ときどき嫌気が差す。
そんな境界線の上で出会う、一人の女性旅行者。
まっすぐ旅を愛するその姿に触れて、
「本当は何が好きだったか」を思い出して
ひと言
「苦味と塩味があるから、旅はおいしくなる。」
『もう一度花の下で』 篠田真由美
こちらも初読作家さん
幼い頃に祖母と過ごした、あたたかな記憶。
その懐かしさに導かれて、箱館へひとり旅。
香り高いコーヒーが、封じていた家族の記憶をそっとほどきはじめる。
そこで浮かび上がるのは、知らなかった家族の確執。
過去の恋、叶わぬ想い——
ちょっと“耽美な不倫ファンタジー”の気配すら漂って、大人の感傷と子どもの哀しさが混ざり合う。
ひと言
家族の物語は、甘いだけでは淹れられない
『地の果ては、隣』 永嶋恵美
こちらも初読の作家さん
大学卒業前。別れた恋人と行くはずだった卒業旅行を、そのままひとりで敢行した主人公。
行き先はサハリン。日本からほんの少し北へ行けば届くはずなのに、いまや遠い隣国となったロシアの地。
同じツアー客それぞれのサハリンへの思いと、
歴史に引き裂かれた記憶たち。
「旅」と「国境」が交差する場所で、
彼女は自分が見ようとしてこなかった世界を見つめ始める。
ひと言
「遠いと思っていた“隣”は、意外とすぐそばにある。」
『あなたと鯛茶漬けを』 図子慧
コバルト出身の作家さん/初読
家庭にそれぞれの事情を抱えた人たちが集まった、小さな劇団。
忘れ物をきっかけに加わった主人公の女性は、病気の多い家族のもとに育ち、外食経験がほとんどなかった。食事は生きるための作業でしかない。
けれど、新しくできた友との時間の中で、
“おいしい”ことが人生に力をくれると知っていく。鯛茶漬けの湯気の向こうで、
少しずつ、彼女の世界があたたかく開けていく。
ひと言
「誰かと食べるごはんは、明日を変えてくれる。」
出版時期はコロナ禍。
外出や食事に制限がかかったあの頃を逆手に取って、旅や“はじめて”の味の物語がそろっていた。
初読の作家さんも多く、
「まだまだ読書の旅は続くなあ」と思わせてくれる一冊。
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Posted by ブクログ
ネタバレ「強がって生きないといられないくらい弱いから」とか「弱いところを見せられるくらいには強くなって」とか、20代のころにそんなルートを通った結果、多分自分は結局、ある程度強い人間だったんだなと、うっすら思う今日この頃。
ゆえに、どうにも主人公の弱さのようなところにもやもやしてしまう。
強く見える人も、その後ろにいろいろ抱えているものがあるよね、という気づきを得るまでの作品なのは重々承知の上で、自分とは少し、相性が悪かったんだなと。
ハラスメントをうまく受け流せ、とは言わないけれども、自分の弱さ・かわいそうさをずるずると引きずられていると、どうにもこうにも。
歌舞伎のチケットをポンとくれるなんて、羨ましい以外の感想がない。
いただきものだとしたって、それをいただくだけの環境だということだしねぇ……。
とはいえ、チケットをもらうのではなく、自分で買えるように働きたい、というモチベーションはすごく分かる。
歌舞伎もオペラも縁がないけれども、バレエは時々見に行くので、年々高騰していくチケット代に嘆きつつも、こういうときに躊躇なくチケットを買うために働いてるんだと自分に言い聞かせて買っている。
歌舞伎やオペラ、演劇のストーリーにも絡めつつの、ちょっとした謎解きはなかなか楽しいけれども、そう毎回謎にまきこまれては、せっかくの舞台がもったいない。
舞台の醍醐味は、日常も、気がかりも、謎もすべて忘れて、どっぷりとその世界に浸るところにあるはずなのに。