【一言感想】
読んでいて不快かつグロテスク。特殊世界にはつっこみどころ満載。しかし,多重解決や叙述トリックは見事。クセの強い作品だが,白井智之の作風は嫌いではない。
【感想】
生殖のために男女が身体を結合させて「結合人間」になるという特殊世界を舞台にしたミステリ。この世界では,結合による突然変異として,時折,うそがつけない「オネストマン」と呼ばれる存在が生まれる。当然,この特殊な設定を活かしたプロットで描かれている。白井智之の作品らしく,グロテスクな描写がある。また,ネズミ,ビデオ,オナコと呼ばれる登場人物は,かなり不快な人物として描かれている。
人気モデル川崎千果と映像作家ヒロキによる結合とオネストマンが誕生するシーンが描かれたプロローグから始まる。このプロローグもちょっとした伏線になっており,
この小説は,「少女を売る」と「正直者の島」の2つに分かれた構成になっている。「少女を売る」は,栞という少女が,なぜ,死の直前になって友達をほしがったのかというホワイダニットになっている。栞という少女は,学校では周囲を見下しているようなタイプの少女だった。それが何でも言うことを聞くようなスタンスでネズミ,ビデオ,オナコが運営する寺田ハウスという売春
をしていたのか。真相は栞の復讐。性被害を受け「羊歯病」という病気になった栞は,殺害された弟の復讐のために寺田ハウスの3人に羊歯病を移そうとしていた。自分だけだと3人と性交渉できないので,別の少女を連れてこさせ,連鎖的に感染させようとしていたというもの
グロテスクな設定ではあるが,ホワイダニットの謎としては驚かされる。読んでいて不快な点に目をつぶれば,ミステリとしてはそれなりの作品に仕上がっている。
後半の「正直者の島」は一転してクローズドサークルモノになる。寺田ハウスの3人が映画を撮るために7人のオネストマンを集める。しかし,寺田ハウスの3人は今井イクオクルミという探偵により船から落とされる。オネストマン7人がたどり着いたのは狩々ダイキチモヨコとその子どもが住むというカリガリ島。カリガリ島で,狩々ダイキチモヨコとその子どもの麻美が殺害される。オネストマンの7人はいずれも犯行を否定。ほかの人物がいるのか,誰かがオネストマンではないのか。読者には2人,オネストマンではない人物が含まれていることが示されている(誰がオネストマンでないかは分からない。)。そのうちのどちらかが犯人なのか。
続いて,神木トモチヨが殺害される。
この物語でも,多重解決が示される。まずは今井イクオクルミの推理。狩々ダイキチモヨコを殺害したのは神木トモチヨ。決めては,狩々ダイキチモヨコが宿舎に怒鳴り込んできたことを知らなかった(そのとき神木トモチヨはいなかった。)こと。神木トモチヨを殺害したのは丘野ヒロキチカ。神木トモチヨが,狩々ダイキチモヨコを殺害した場面を見ることができ,脅迫できたのは丘野ヒロキチカしかいないという消去法での推理
続いて犯人と指摘された丘野ヒロキチカの推理。犯人は浅海ミズキハルカ。狩々ダイキチモヨコは二重人格で,自分を殺そうとしていた。医者である浅海ミズキハルカは疑心暗鬼になるように嘘の検視をしたというもの。これは現場の状況に全く合わず破綻
そこに今井イクオクルミの依頼者である茶織(栞の友達として拉致された少女)の妹と伯父が現れる。茶織の復讐に来ているが二人は死亡。定期船の乗組員は殺害される。今井イクオクルミも死亡。浅海ミズキハルカも死亡
次に生き残った丘野,小奈川,杯が推理。包丁を利用したアリバイ工作ができたのはノーマルマンの二人組。7人の中からノーマルマンを探し出せば犯人が分かる。杯,丘野,小奈川,双里の4人に一人でもオネストマンがいれば全員オネストマンになる。そうすると犯人足り得るノーマルマンは浅海と今井の二人。犯人はこの二人う推理。丸一日眠らせる睡眠薬を使っていたというトリック
エピローグで,ヒメコが現れ,オナコと再会。真相が明かされる。丘野ヒロキチカのふりをしていたのは,オナコ。オナコは丘野萌子という名前だった。丘野という表記を利用した叙述トリック。寺田ハウスの3人のうち,オナコは女で,オナコだけが生き残っていた。丘野ヒロキチカとは船で入れ替わった。物語の中で,オネストマンの1人,杯はヒメコの父親だった。最大のポイントはカリガリ島には,もう一人少年がいたこと。オナコであるとばれると今井に殺されると思ったオナコはその少年と結合した。オナコが犯人。神木トモチヨはオナコ丘野ヒロキチカのふりをしていることに気付き,ゆすったので殺害された。
ボーナストラックの船橋結合人間は結合人間スーツを着ている自分が結合人間だと思った恋人を自殺させた男
の話。おまけ程度
なんというか不思議な魅力がある作品。グロテスクだし,不快な描写が多いし,特殊世界のミステリだけど,どういう世界なんだとつっこみたくなるような世界観。しかし,ミステリとしては多重解決となっており,叙述トリック(オナコ→丘野と丘野ヒロキチカを「丘野」と書いて誤信させる叙述トリック,そもそもオナコの性別がはっきりしない叙述トリック)も効果的。オナコが真犯人で,カリガリ島にはもう一人少年がいたという真相にも意外性が十分。寺田ハウスが解体されるきっかけになった中村大史が兄弟を監禁という前半部分のニュースがちょっとした伏線になっているのも見事
白井智之の描く作品は,確実に読む人を選ぶけど,個人的にはクセの強いこの作風は嫌いではない。とても人には勧められないが。★4を付けたい。