● 総合評価 ★★★☆☆
新種のウイルスの流行により,人間のクローンを食するようになったという異世界を舞台としたミステリ。異様な設定の上,かなりグロテスクな描写もあり,読む人を選びそうな作品。ミステリとしては,食人法を成立させた政治家,冨士山博巳のもとに,本来では送付されるはずのないクローンの首から上と脅迫文が送付される…という謎が提示される。クローンを梱包して送付したのは柴田和志という男。クローンを梱包して送付した場面はこの男の視点で描かれており,読者には柴田が犯人でないことは明らか。いったいどのようにして冨士山の首から上と脅迫文を冨士山に届けたのか。
更に,プラナリアセンターに火が放た...続きを読む れ,4420人分の人間のクローンが焼死する。
このミステリに仕掛けられた仕掛けはいくつかある。まずは叙述トリックとして柴田和志と柴田和志が作っていたチャー坊というクローンの視点が混在しているという点。風俗嬢の川内ゐのりと接触していた「柴田和志」は,実はクローンのチャー坊だった。また,川内ゐのりも風俗嬢と「守銭奴」というバンドのメンバーである川内ゐのりの二人がいる。守銭奴のメンバーの川内ゐのりが接触していたのは本物の柴田和志である。
この2つの叙述トリックにより,読者に対し,チャー坊が裏で犯罪計画全体を構想していたことが隠されている。
作品内のトリックとしては,冨士山が政敵である野田丞太郎を殺害したときに,アリバイトリックとして自身のクローンを利用する…というものがある。そして,このクローンが事件の実行犯。この事件における犯人は,柴田和志のクローンであるチャー坊と冨士山博巳の黒^ンの二人。チャー坊による柴田和志に対する復讐,プラナリアセンターの破壊そして,冨士山のクローンによるクローンの革命。クローンと人間を入れ替えることで,クローンの社会進出を狙う革命だった。
ほかの書評でもあるが,特殊世界の設定はかなり苦しい。個人的にはあまり気にならなかったが,設定の細かい点には無理があるとは思う。
叙述トリックが見事に決まっており,チャー坊が柴田和彦として,風俗嬢の川内ゐのりと会っているとは思わなかった。これは柴田和志によるチャー坊の飼育シーンのグロテスクさが,まさかチャー坊が人間として行動していると思わないという点につながっているようにも思う。そうするとグロテスクな描写も,この作品のプロットには不可欠だったということだろう。
ミステリとしては,冨士山にクローンの首から上を送り付けた点について多重解決が示される。ここは面白い。真相の意外性があるといえばある。正直,チャー坊冨士山のクローンを結び付け,この二人による共犯とは思わなかった。
結論としてどういう評価かというと…。悩む。読んでいるときは,この話をどう決着付けるか楽しみで一気に最後まで読んだ。そして結論は意外性があった。そうすると満足度が高くなりそうなのだが,そうでもない。伏線も見事といえるのに…。なぜかというと,やはりアンフェアに感じる部分があるからだろう。チャー坊が人間して行動していたという部分と柴田和志の飼育シーンでのチャー坊の描写にギャップがあり過ぎて,やられたという感じにならないのだ。
冨士山のクローンが冨士山にとって代わったというところもそう。本当にそんなことができたのかが疑問。チャー坊と冨士山のクローンの出会いもご都合主義。やられた感が少なくなっている。また,由島三紀夫の存在など,ほったらかしの伏線と感じるものもある。
「殺戮に至る病」や「殺人者」シリーズを読んだときも感じたのだが,どうにもグロテスクな描写が苦手で読みこめない。これも減点対象。評価としては★3で。
● サプライズ ★★★☆☆
真相が,チャー坊と冨士山のクローンが計画した犯罪たという点はサプライズがある。柴田和志→チャー坊と,二人の河内ゐのりの存在を,それぞれ1人の人物と誤信させる叙述トリックなど,驚ける要素はある。しかし,どうも伏線が回収されきっていると感じられず,そこまでやられたと感じられなかった。むしろ,なんとなく説明不足だと感じてしまう。もう一息でもっと驚ける傑作になっていたと思う。
● 熱中度 ★★★★☆
冨士山にクローンの首から上と脅迫状を送り付けたのは誰か,野田丞太郎殺しの真相,プラナリアセンター爆破の犯人など,話のスジ,謎は非常に魅力的。これをどのように決着付けるつもりか。最後まで一気に読み進めることができた。熱中度は水準以上
● インパクト ★★★★★
クローン人間を食べる世界という特殊世界の設定,グロテスクな描写など,インパクトは十分。叙述トリックも見事。インパクトは十分
● キャラクター ★★☆☆☆
個性的なキャラクターぞろいなのだが,いくら性格を使い分けているといっても,柴田和志に飼育されているチャー坊と柴田和志のふりをして,川内ゐのりに会っていたチャー坊の描写が違い過ぎて,同一人物とはとても思えない。叙述トリックとしては面白いが納得しきれない。由島三紀夫の存在も割り切れず,キャラクターとしては難あり。
● 読後感 ★★★☆☆
川内ゐのり,チャー坊,冨士山のクローンの三人の会話で真相が語られるエピローグを読んだ後の読後感は悪くない。本物の芝田和志がイヤな人物であり,こいつがひどい目に遭う終わり方が読後感をよいものにしているのだろう。とはいえ,ここでも由島三紀夫の存在がネック。エピローグの蛇足感がひどい。とはいえエピローグがないと,由島三紀夫は何だったの?と思ってしまいそう。総合的な読後感としては★3で。