ユーミンの曲を女性作家さん達がトリビュートし
創作された物語の短編集。
小池真理子「あの日にかえりたい」
まだ共同玄関や共同トイレが一般的だったころに
学生時代を過ごした主人公の郷愁の物語
既に老年に入った主人公が人生を振り返るような
切ない物語。短編の中に人生の流れがつまっていて
さすが小池真理子さんだなと思った。
桐野夏生「DESTINY」
村上春樹が愛読書の争いごとを好まない青年の物語
変わらぬルーティーンの中ではっと目についた
女学生に少し惑わされてしまうけれど、また
普段の日常に戻っていく。何も劇的なことは
ないのだけれどシニカルでとても良かった。
村上春樹とか山田風太郎とか主人公の愛読書が
渋いのが良かった。
江國香織「夕涼み」
THE、江國さん。
江國さん定番設定の仲良しの姉妹が出てくる。
主人公は姉の花、妹の結婚のお祝いに関東郊外から
都内の独身時代のいきつけの串揚げ屋さんに出てくる。
妹との会話の中で、重大な悩みではないけれど
少し心を重くする家族の悩みを反芻したり。
平和な姉妹のやり取りの中に差し込まれる花の
夫婦のやり取りの回顧がちょっとゾクっとした。
家族って平和とか安心の象徴と思われるけど
責任とか逃げられないとか閉ざされた重しも
含まれていてそういうことをとても上手に表現していて
幸せな気持ちとちょっと背筋が寒くなる気持ちが
両方感じられて読み物としてとても面白かった。
綿矢りさ「青春のリグレット」
柚木麻子「冬の終り」
この2編は軽く読んでしまったので特に感想はなく。
川上弘美「春よ、来い」
一番ページ数をとっていて短編の中に
永井カナコ38歳、上原多恵13歳、衣笠雄大29歳の
三人のことが交互に視点が変わって描かれている。
当初三人に接点はなく大人二人には秘密があって、
13歳の子供はいじめを受けている。
衣笠雄大のパートは少しユーモアがあってお父さんも
良い味だしていて、上原多恵ちゃんのパートは悲しいけど
どうにもできないむなしさ、子供の無力さが感じられ
でもそれでも頑張って毎日淡々と過ごしている
強さも感じられる。永井カナコさんのパートは
パートナーも含め皆優しさに満ちていて
とても良かった。最後ハッピーエンドってわけではない
けれど、焚火にあたるしっかりとした暖かさではなく、
白熱灯に手をかざした暖かさのようなふんわりじんわり
した余韻があって、少しだけ良い方向へ行きそうな
終わり方でとても良かった。
一旦全部読み終わってからもう二度も春よ来いだけ
読み直している。毎回じんわりと目が潤む、
そしてこれでいいんだよって自分のこと含め皆の人生を
納得できるような読後感。さすが川上さん。