川上弘美のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
三作の短編。
「蛇を踏んでしまった。」
「最近よく消える。」
「夜が少しばかり食い込んでいるのだった。」
冒頭から『⁉️』と鷲掴みにされる。
そして淡々と不可思議なことを語られ、粛々と物語が進んでいく。
ファンタジーというには謎展開すぎて、お伽話のような感覚。
話の中に教示や諫言を見つけられなかったが、著者の独特の物語は想像の斜め上どころではなく、四方八方どこに連れて行かれるかわからない楽しみを得ることができた。
物語を読むというより、摩訶不思議な世界をただ浸る体験ができた。
物語を読むというよりも、摩訶不思議な世界を楽しむという感じ。 -
Posted by ブクログ
松任谷由実の曲を元にしたトリビュート小説集
著名な作家さん達による、別角度からの切り口で綴られる物語
歌詞をそのまま物語にしたものではない
むしろ設定のリンクはそんなにないかも
タイトルにインスパイアされた短編という表現の方が近い
収録は6編
あの日にかえりたい/小池真理子
DESTINY/桐野夏生
夕涼み/江國香織
青春のリグレット/綿矢りさ
冬の終り/柚木麻子
春よ、来い/川上弘美
解説:酒井順子
・あの日にかえりたい/小池真理子
いまも私の心は学生時代を過ごしたあの場所にいる
昭和の学生運動が盛んな頃の大学生
男を巡る友人とのちょっとした行き違い
大学生の頃に戻りたいと思う人は結構いるかもですね
・DESTINY/桐野夏生
大学職員の独身男子が心奪われた「運命の人」とは?
規則正しい生活の中で出会った運命の人という思い込み
片想いという状況にものすごく共感する
でもまぁ世の中そんなもんですよね
・夕涼み/江國香織
かつて暮らしたポルトガルのあの光景を忘れられない
もうすぐ結婚する妹との会話の中で、自分の結婚生活やそこに至るまでのことに思いを馳せる。
特別不満があるわけでも、後悔しているわけでもなくて、むしろ幸せなのだけど、ふと遠くを見てしまうことだってある。
もうすぐ結婚するという妹との会食
自分が結婚するまで、そして結婚生活に思いを馳せる
夫の事は嫌いではないし、むしろ今の生活に幸せを感じてはいる
ただ、昔に夫と見た、老女達が無言で夕涼みをする光景を思い出し、自分の将来を考える
恭二の行動がある意味でホラー
まず前提としてDVだし
その解決法をいきなり勝手にしてくるとは……
重すぎる愛は、確かに怖さを感じる場合もあるでしょうね
文章から感じるいつもの江國さんっぽさ
「――」で挟まれる詳細、()でテンポよく繰り返される挿入、「行かれる」という言い回し
私はこの文体が好きなんだろうか?
・青春のリグレット/綿矢りさ
離婚直前の私の心を占めるのは元彼への悔恨だった
離婚が決定的な状況で、昔付き合っていた男との事を思い返す
自分が愛している人と結婚したが、相手は自分を愛さなかった
昔の男は自分を愛してくれたが、自分は相手を愛せなかった
・冬の終り/柚木麻子
友情とも憐憫ともつかない同僚への感情の行方は?
友達になりたいという程ではないけど、もっと交流をしたい
そんな女性同士の微妙な距離感
わかり合いたいという気持ちなんだろうか?
ドラマ好きな柚木麻子さんらしく、この曲が主題歌だったドラマ「その時、ハートは盗まれた」が話題として出てくる
ってか、これが放送された当時って柚木さん小学生だった頃なのによく覚えてるなぁ
カセットテープというガジェットも何とも昭和感がありますよね
・春よ、来い/川上弘美
一度だけかなえられる能力をもつ人々が願ったもの
正しくは一度だけ他の人のために願いを叶えることができる家系(と思いこんでいる?)人たち
両親を事故で亡くし、祖父と叔母と一緒に暮らす中学生女子
3人の視点が入れ替わりながら、最後は一つに収束していく
やはり、ユーミンのライブと言えば苗場ですよねー
少女視点の話もいいけど、母親が何を願ったのかを知る場面もなかなかいい
多分、そんな能力はないんじゃないのかなー と思うんだけどね
酒井順子さんの解説も、これで一作のような雰囲気を感じる -
Posted by ブクログ
裏表紙を見ると『よるべない恋の十二景』らしく、それらに、たよりとするところが無いのかどうか、私には分からないが、川上さんの数々のこと細かい描写に、胸を突かれるような愛おしさが湧いてくる事は確かである。
それは、最初の「いまだ覚めず」だけでも枚挙に暇がなく、タマヨさんが、十二年前の写真を捨てずに取ってある事や(しかも、壁一面に貼ってある中のどこにあるか、瞬時に分かった)、「仕事ばっかりしてる」「わたしも」の『わたしも』や、『あなたと手つなぐの、すきだった』や、「なにしてあそぶ」と、少しお化粧をして少しよそいきになったりと、言葉だけだと何ということも無いように思われるが、物語に於ける、これらの言葉の端々には、人を好きだという特別感のある思いが密かに、しかし、確かに息づいているのが、私には感じられるような気がして、読んでいて切なくなる。
また、「冬一日(ふゆひとひ)」に於いて、『百五十年生きることにした』は、それほど心には響かず、寧ろ、『私の声が、少しだけ、真剣にすぎた』から、『「そんなこと、ない」。こんどはできるだけ真剣にならないように気をつけながら、私は答えた』への私の想いや、『玄関の狭い土間に並んで靴をはき』にグッとくるものがあり、台詞もそうなのだが、それに続く、なんてことのない描写に感情移入させられるのは、きっと、そこでも言葉にならない台詞が読み手それぞれに感じられるからだと思い、こうした、その人の見えない大切なものを思い起こさせてくれる、川上さんの文章には、一言では説明できないような感情が、じんわりと込み上げてくる。
そして、「春の虫」と「冷たいのがすき」、それぞれに共通していたのは、好意的な部分だけではないところも受け入れているところで、前者は、『羨ましさのなかには、羨ましさだけではない余分ないくつかの気分も混じっていて、それは少々居心地の悪いものだった』に、後者は、『いじらしく、また、うとましく、感じるかぎり、僕は章子から離れられないのだと思う。いじらしい、だけならば、こんなに続かなかっただろう』にある、その複雑な気持ちは、自分だけに開いてくれている様々な一面に人間らしさがあることに、自分自身と似通った安心感を感じられたからではないかと思う。
それと、本書に度々登場する言葉として、『十年』があり、それは、十年ぶりに会いに行くであったり、十歳年上の男と別れたであったり、十年来の付き合いであったりと様々なシチュエーションではあるが、そこに見えるのは、人は単純ではないけれども、それとは別にある素直な単純さも魅力なのではないかということなのかもしれず、それは恋愛を経て、変わったところと変わらないところ、人間として成長できたなと感じたり、相変わらずだなと感じたり、新たな考え方を身に付けたと思ったら、それでも譲れないところはあると思ったり、十年経ってもどうしたらいいのか分からないと感じたり、おそらく、それらの思いのひとつひとつは、何年経とうが、その人の芯の部分として、もしかしたらブレずにあり続けるものなのかもしれないし、実は、そう見えるだけで、本当は物凄く大きな変化を遂げているのかもしれない、そんな変わるものと変わらないものを持ち続けて生きていく人間への愛しさと、それらを一人で抱えきれず共感を求めたいがばかりに、恋があるのではなんて思ってしまったが、あまりロマンチックではありませんね。
それでも、人を想うことの素晴らしさと、そのかけがえのなさを私に教えてくれた、「ばか」の言葉には、ロマンチックだけではない、個人的にそっと大切に包み込んでおきたいような真摯な想いに、私は心打たれたのである。
『男とのことがらは、藍生にとってあまりにうつくしいことがらなので、誰にも話すことはできない』
『女ともだちと愉しんだのと同じだけ、男のことを深く感じたのである』 -
Posted by ブクログ
ネタバレユーミンの曲を女性作家さん達がトリビュートし
創作された物語の短編集。
小池真理子「あの日にかえりたい」
まだ共同玄関や共同トイレが一般的だったころに
学生時代を過ごした主人公の郷愁の物語
既に老年に入った主人公が人生を振り返るような
切ない物語。短編の中に人生の流れがつまっていて
さすが小池真理子さんだなと思った。
桐野夏生「DESTINY」
村上春樹が愛読書の争いごとを好まない青年の物語
変わらぬルーティーンの中ではっと目についた
女学生に少し惑わされてしまうけれど、また
普段の日常に戻っていく。何も劇的なことは
ないのだけれどシニカルでとても良かった。
村上春樹とか山田風太郎とか主人公の愛読書が
渋いのが良かった。
江國香織「夕涼み」
THE、江國さん。
江國さん定番設定の仲良しの姉妹が出てくる。
主人公は姉の花、妹の結婚のお祝いに関東郊外から
都内の独身時代のいきつけの串揚げ屋さんに出てくる。
妹との会話の中で、重大な悩みではないけれど
少し心を重くする家族の悩みを反芻したり。
平和な姉妹のやり取りの中に差し込まれる花の
夫婦のやり取りの回顧がちょっとゾクっとした。
家族って平和とか安心の象徴と思われるけど
責任とか逃げられないとか閉ざされた重しも
含まれていてそういうことをとても上手に表現していて
幸せな気持ちとちょっと背筋が寒くなる気持ちが
両方感じられて読み物としてとても面白かった。
綿矢りさ「青春のリグレット」
柚木麻子「冬の終り」
この2編は軽く読んでしまったので特に感想はなく。
川上弘美「春よ、来い」
一番ページ数をとっていて短編の中に
永井カナコ38歳、上原多恵13歳、衣笠雄大29歳の
三人のことが交互に視点が変わって描かれている。
当初三人に接点はなく大人二人には秘密があって、
13歳の子供はいじめを受けている。
衣笠雄大のパートは少しユーモアがあってお父さんも
良い味だしていて、上原多恵ちゃんのパートは悲しいけど
どうにもできないむなしさ、子供の無力さが感じられ
でもそれでも頑張って毎日淡々と過ごしている
強さも感じられる。永井カナコさんのパートは
パートナーも含め皆優しさに満ちていて
とても良かった。最後ハッピーエンドってわけではない
けれど、焚火にあたるしっかりとした暖かさではなく、
白熱灯に手をかざした暖かさのようなふんわりじんわり
した余韻があって、少しだけ良い方向へ行きそうな
終わり方でとても良かった。
一旦全部読み終わってからもう二度も春よ来いだけ
読み直している。毎回じんわりと目が潤む、
そしてこれでいいんだよって自分のこと含め皆の人生を
納得できるような読後感。さすが川上さん。