【感想・ネタバレ】蛇を踏むのレビュー

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数珠屋に勤める女性の、店主たちとの何気ない日々が描かれている。だが、私たちの世界とはちょっとだけ違う。この物語の世界では、蛇が人になるのだ。そして、そのことを誰も不思議がらない。読んでいて、とても不思議な気持ちになった。

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2024年01月18日

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ネタバレ

⚫︎受け取ったメッセージ
「影」としての心との出会い

⚫︎あらすじ(本概要より転載)
ミドリ公園に行く途中の藪で、蛇を踏んでしまった。
蛇は柔らかく、踏んでも踏んでもきりがない感じだった。「踏まれたので仕方ありません」人間のかたちが現れ、人間の声がして、蛇は女になった。
部屋に戻ると、50歳くらいの見知らぬ女が座っている。「おかえり」と当たり前の声でいい、料理を作って待っていた。「あなた何ですか」という問いには、「あなたのお母さんよ」と言う……。
母性の眠りに魅かれつつも抵抗する、若い女性の自立と孤独を描いた、第115回芥川賞受賞作「蛇を踏む」。


⚫︎感想
ユングの「影」を想起した。積極的に生きてこなかった自分=影が蛇として表現されていると考えてみた。影としての心との出会い。蛇を踏んでしまった。その蛇が家に居着いて人間になったり蛇に戻ったりする。巻きつかれたり、職場までやってきたり、蛇の世界に誘われるが、拒んだり、心地よかったり、ザワザワしたり。影としての心が動き出して、蛇となっている…と捉えると、ヒワ子が違和感なく蛇を受け入れることも理解できる。無意識の自分なのだから。受け入れたり、争ったりするのは、自我と影だからであると考えられるのではないか。また、蛇が「あなたのお母さんよ」とヒワ子に言っていることも、ユングのグレートマザーを想起させる。

河合隼雄氏は昔話や神話の中に無意識の世界の広がりを研究された方だが、川上弘美さんの「蛇を踏む」は、「影」としての心との出会いを昔話風に物語ってくれているのではないかと思った。

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2023年12月16日

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蛇になっていきそうになる様がまさにそうなんだろうなあと思った。あり得ないことをあり得るように書くのがやはり川上弘美は上手。ため息と百合の枯れる匂いがするような「うそばなし」にどっぷり引き込まれていきました。川上弘美は他の作品もものすごくいいので、これが読みづらかった方には「古道具中野商店」なんかが読みやすいし、これが良かった方には「神様」なんかもお勧めです。

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2022年04月15日

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通常のあやかしものには主人公と異類をつなぐ何かがある たとえば大祖父は天狗だった みたいな。
だけど川上さんのにはそれはない。蛇を踏んだのが始まりとはいえ、扉を開けるほどのきっかけでない
きりがない感じ、がたとえ物語が終わろうともゆるく続いていく

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2020年10月10日

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気持ちが悪いけど、気持ちがいい。
うそだけど、ほんとうでもある。

みて見ぬふりをする、ぬるさに居心地の悪さも良さも感じてしまう、どこか他人事ではいられない。意志なんてものは脆弱である。もっともっとと甘い蜜が欲しくなるのと同じで。

物語に引き込まれてしまいそうで怖いのに、文章と溶け合って漂う感覚が心地良くていつまでもこうしていたくなる。危ない危ない、戻れなくなるところだった。

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2019年10月20日

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全く異世界のお話しのようでもあり、現実世界のお話しでもあるような、これが川上弘美ワールドなのか?
最初に「竜宮」を読んだので、同じ世界観として読んだ。
文章はとても読みやすい。想像するのが楽しい。
この感じだと「センセイの鞄」はどんな雰囲気になるのか。

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2024年01月19日

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捉えどころが分からない世界観なのですが、読んでて自分でどう解釈するのか、考えさせられた作品でした。著者のあとがきに描いてあった「うそばなし」。自分の書く小説のことひそかにそう呼んでいることも少しユニークで、とても、著者の
明るさが伝わってきました。「蛇を踏む」は、主人公が公園で蛇を踏んでしまい、家に謎の女が現れてしまい、その謎の女は、主人公の死んだ母だとう言うのだが、主人公の母は生きている。
蛇が化けて現れてしまったのか、そう考えるなか
二人の奇妙な生活が始まった。
芥川賞を受賞した著者の代表作です。
どこか民俗文学を思わせる、不思議なお話がとても、心地よかったです。

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2023年09月25日

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大学の授業で指示されて購入し、読みました。川上弘美さんの小説を読むのは初めてでしたが、始まりの一文から惹きつけられた特別な1冊。「蛇を踏む」の小説内に出てくるごはんのシーンがたまらなく好き。等身大に生活感があって、出てくる料理は派手でもおしゃれでもないんだけど、実家のような安心感があってたまらない。タイトルにも入っているように「蛇」が大切なので、作中の蛇状のものを探してみるとおもしろいです。

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2023年07月05日

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三作の短編。
「蛇を踏んでしまった。」
「最近よく消える。」
「夜が少しばかり食い込んでいるのだった。」
冒頭から『⁉️』と鷲掴みにされる。
そして淡々と不可思議なことを語られ、粛々と物語が進んでいく。
ファンタジーというには謎展開すぎて、お伽話のような感覚。

話の中に教示や諫言を見つけられなかったが、著者の独特の物語は想像の斜め上どころではなく、四方八方どこに連れて行かれるかわからない楽しみを得ることができた。
物語を読むというより、摩訶不思議な世界をただ浸る体験ができた。

物語を読むというよりも、摩訶不思議な世界を楽しむという感じ。

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2023年06月16日

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愛してやまない川上弘美の世界。
このかたが生み出す世界は現実や意味(理性)の世界と自由に結びついたり解けたり、誰も知らない結び付き方を表したり、あらゆる境界をぼかしながら私たちを驚かせる。それは日本古来の妖怪譚のような、幻想文学のような、不条理文学のような趣きを持ちつつ現代に現れた作者独自の世界である。

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2023年03月12日

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【2022年56冊目】
作者いわく「うそばなし」が詰まった三篇。タイトルの「蛇を踏む」は終始さっぱり意味がわからなくて、最後まで狐につままれたような心情で読み切りました。

「消える」も不思議な話ではありましたが、雰囲気的にはこちらの方が好みでした。

「惜夜記」はさらに短いうそばなしが細切れに詰まっており、独特の世界観で広げられる話を楽しんで拝読しました。表現の幅があるだけではここまで書ききれない、「うそばなし」の引き出しが豊富な作者だからこその、話の数々でした。

時間を置いてまた読みます。

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2022年09月14日

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「蛇を踏む」「消える」「惜夜記」の三作品。
どれも非常に独特な作品でした。
どのように読むのがいいのかしばらく分からないままだったのですが、「あ、これ変な時間に寝た時に見る夢みたいだな」と思ってからはその感覚にスイッチすることで、なんとなくこの世界に溶け込めたような気がしました。

不気味さも奇妙さもありながらどこかしら生命の神秘的な面も感じられて、無秩序のようでいてどこか傾倒していってしまいそうな世界観。

作者の方は相当不思議な方なのかなと思っていたら、あとがきでは平易な言葉で「うそばなし」のことを書いてあり拍子抜けしてしまいました。
どこまでも掴みどころない作品でした。
しばらく心にモヤモヤ残りそう。

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2022年05月15日

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読者開始日:2021年12月25日
読書終了日:2021年12月28日
所感
【蛇を踏む】
不思議な作品だった。
ニシ子、願信寺坊主、サナダ、家に蛇が住み着いた3名の日々は、それ以前まで不満、もしくは退屈を抱えていたのだろうか。
そうすると見えてくる蛇の正体。
「カリギュラ効果」だと思う。
ダメだと言われる、怖いと思うほど、やってみたい、見てみたいと思う裏腹な心。
どんな人にでも経験があると思う。
坊主はよくわからないが、サナダは退屈な毎日、ニシ子は満たされない心を抱えていて、蛇を自ら作り出したと言ってもいい。
存在を無くしたい、極端になりたい、蕩けたい、堕落したい。
でも心の底では堕ちたくない。
そのループに陥ることで、暇を潰そうとしたのではないか。
ニシ子の衰弱は、暇潰しに喰われたため。蛇に喰われかけたため。
蛇=暇?
【消える】
本当に訳がわからないが引き込まれる。
コミュニティごとに風習の違いがあり、さらにそのコミュニティに属する家族ごとにも風習の違いがある。
風習が強ければ強いほど馴染むことは難しい。
相手の風習に馴染み、親しんだ風習を無くしていくことはアイデンティティの喪失につながる。
結果として病む。
主人公の家族も、そのコミュニティもかなり独特。
ヒロ子さんの縮小もとんでも無くリアル。
消える兄弟もとんでも無くリアル。
リアルじゃないのに逆にリアルに感じる。
面白い。
【惜夜記】
夢の羅列。
本当に訳の分からない夢から、意味のありそうなものまで様々。
夢日記は人を現実に戻らなくさせる力を持つというが、作品の傾向を見ると頷ける気もする。

【蛇を踏む】
求められているような気がしてきて、求められないことを与えてしまうことが多かった
おまえのよつや甲斐性のない男ではわたしに卵を産ませられない
好きが裏返って嫌いになってまた裏返って
鵜呑み
固かった皮膚の表面がゆるりと流れ出した時に蛇と化す
人間の女のように感情づくで依怙地になるのではない。からだが元々意固地にできている
【消える】
月下氷人
兄の睦言には婚約時代のような力がなく
【惜夜記】
声が聞こえるのでは無く、声の中にいるよう
紳士たちはにこやかにきびしく眺めている
果報者
愛しむ
面妖である
いるようでいない、いないようでいるなどという馬鹿馬鹿しい状態をどうやって持ちこたえることができようか?量子力学を深く恨みながら
違うわよ だって月はまた新月になるもの

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2021年12月28日

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書き出しのするりにやられて、
異世界をするりと受け入れてしまう。

いやだ、ダメだと知りながら、蛇を受け入れていくのは理解し難いのに、仕方ないかも。自分もそうかも。
そんなふうにこの人の妄想たる世界に
引き込まれる。

そんな話でできあがっていた。

とくに好きだったのは
「消える」

松井啓子さん
「うしろでなにか」
という詩を思い出す。
うしろでなにか、おちるでしょ。

って、そんな具合に蛇を踏んだり、消えたりする、
川上弘美さんの世界。

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2021年01月31日

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怪奇な話なのに、妙にするりと頭に入ってきた。

ぞくぞくする状況で、変に落ち着きが感じられる文章。面白かった。

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2020年09月05日

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 川上さんの才能がほとばしってます。微妙な感触の読後感と一緒に、僕のなかに「川上弘美」が君臨することになった作品です。20年たちましたが、初読の感触がいまだによみがえります。スゴイね。

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2019年11月05日

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なるほどです。夢の中にいるかのような。最後が『惜夜記』で、夜の話というか、夢の中にいるような感じが漂っていたのでよりそのイメージが強いのかもしれません。

ちっちゃいときに思ってた小説ってこんなんだったな、と思い出します。なんか脈絡がなくて、ストーリーがなくて、とつぜん意味不明なふわふわした世界が始まっていつの間にやら終わっている。あとたまに読めない漢字とか知らない単語とか、名詞が出でくる。本を読んでいて調べるという経験そのものが、なんか懐かしかった。

意味のわからない話って子どもの頃は好きじゃなくて、今でもエンタメとか、輪郭がはっきりした小説の方が読みやすいなあと思うけど、たまにこの世界に戻ってくるのもいいなあと思う。

特に、川上弘美はユーモアというか、なんかわからないけどこうなっちゃうのよね、なんかわからないけど。みたいなのが、とらえどころのないところが面白くて、読んでてつい笑っちゃう。

こういう、小説の世界に閉じこめられて出てこれない人もいるんだろうなあと思う。うその世界、と川上さんは言ってるけど、うそじゃない世界を書く必要はないものね、真実味があるかどうかは置いておいて、みんな心地よいうそをもとめて本を開くから。

『蛇を踏む』は、世界観が蛇のようにひんやりとして、気持ちよかったなあ。あやかしの方が、主人公のなかで存在感が強く感じられるのがいい。川上さんの物語ってそういうところがあるのかもしれない。うその方が、リアリティーがある。本人も書いてるように、うその方にリアルを感じてしまう人なんだと思う。

『消える』家族の話。なんとも日本人らしいテーマで、陰湿で、闇をきれいにとられているなあと思う。でも嫌味がない。素直に書いているのが読みやすい。教訓もない。ただ物語がある。簡単なようでいて、ただ物語であることの、その、難しさよ、と思う。

『惜夜記』書いたように、夜の話。眠いんだけど、夢にとらわれるのも惜しい、というような。夢に惑わされて、思うように足が進まない、またあの世界に来てしまったと思いながらその理不尽さ不条理さ不自由さに、蹂躙されるような快さ。
いちばん好きだったのは『もぐら』。たまらない。たまらないなあ。笑った。

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2019年08月20日

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変な短編小説3編を所収。(笑)個人的には「消える」が面白かった。3編とも寓意に富んだ作品でその意は少し難解だが、状況変化がぽんぽんあるのと面白い文体なので、読むだけなら読みやすい。(笑)まあ、不条理小説ですね。
「惜夜記」は心の冒険譚で少し理解は難しいが、状況に比して優しい言葉に包まれており、ほのぼの感がある。「蛇を踏む」と「消える」は家庭内心情を面白おかしく童話化していて、不条理さにもかかわらず、なんとなく余韻が残る作品である。

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2020年07月12日

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 描かれる世界の流れにひたすら身を任せて面白がることが、この本を楽しむ方法としてベストであるような気がする。突飛な展開に出くわすたびに驚いて考え込んでいては物語の中で遊べない。理不尽でも意味が分からなくてもそういうものだと、丸ごと受け容れよう。
 明らかに変なことが起きているのに、当たり前のように平然と変だからつかみどころがない。秩序を超えた自由がある。

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2022年11月20日

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3つの短編集。
なんだろう、、
蛇、一寸法師、モモ(時間泥棒)?
小さいころ読んだ童話や怖い話に近いからか、妙に頭の中でイメージしやすい。
暗くてどろっとした感じ。
『世にも奇妙な物語』を思い出した。

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2024年05月18日

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これ芥川賞受賞作なんですね?…不思議な話でした。『蛇を踏む』も次の『消える』も話の形がつかめなず、『惜夜記』に至ってはかたちなどないのでは?と思うほどのドロドロ感でした。川上先生の作品は初読ですが既に何冊か積んでいるので、またチャレンジしよ。

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2024年02月25日

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次回の読書会課題図書。
川上弘美さんの作品は、センセイの鞄に次ぐ2作目。

センセイの鞄も少し不思議な要素があったけど、たぶんこの作品の方がより川上節が強いのだろう。
表題、「蛇を踏む」を読んだ後はなんとも妙ちくりんな気分になったし、
「消える」の途中からは、こういう小説はあまり好きではないと思った
最後の「惜夜記」19篇はわりと最初から読むのが苦痛だと感じてしまっていたけど、作者のあとがきを読んだら少し感想が変わった。

そうか、うそばなしか。

他人の妄想が文字になった作品、
誰かが見た脈絡もない夢の話が活字になっている感じなのか。
そこに作者の意図する正しい意味や比喩を感じ取ろうとして、だけど物語は一向に収斂せず拡散して終わるので、読んでいてしんどく感じたんだな。
つづく解説を読んだら、さらに理解は深まった。
どちらかと言えば合理的で、分類がしっかりしていて、収まるところに収まるような物語が好きだ。
でもたまにはこんなふうに、物語がふわふわと心許く拡散していってどこにも収束しない、その不安定な読後感というのもおもしろいのかもしれない。
と、いうかそういうのを楽しめる感覚も養いたい。
いずれにせよ、どれも抽象度が高い作品なので、作者の意図する正しい意味や比喩をキャッチすることが大事なのではなくて、今の自分に引っかかるフレーズやエピソードを自分の中で反映して味わえばいいんだなと思った。
なるほど、これは癖になる。
再読しよう。

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2023年02月11日

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人が蛇に姿を変えたり、生き物がドロリと溶けたり、小さくなって消えてしまったり。文体はさらりとしてるのに、不気味さを感じるお話の連続。こういう小説を読み慣れていないので、感想の書き方がわからない…。読んでる間、川上ワールドに入り込み、現実世界を忘れさせてくれる感じ。

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2022年10月06日

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ネタバレ

蛇を踏む

著者:川上弘美
初出:1996年文学界三月号
1996年度上半期(第115回)芥川賞受賞作

本棚からあるものを探していると古い文藝春秋が出て来た。最近、あちこちで目にする、というよりすっかり大御所、重鎮になった川上弘美の芥川賞受賞作発表号だった。タイトルを見ても記憶にない。他にめぼしい記事もないので、きっと受賞作が読みたくて買ったに違いないのだろうが・・・読んでみても、全く記憶が甦らなかった。買ったはいいが、読み忘れて四半世紀以上たっていたのかも。

あの川上弘美先生は〝新人時代〟にこういう小説を書いていたのだ。といって、最近の小説もほとんど読んだことないけど。

主人公の若い女性は、女学校で理科の教師を4年し、辞めてしばらくして数珠店に入って働いていた。60歳過ぎの女性ニシ子が数珠を作り、8歳若い夫のコスガが配達などをし、主人公は店番をする。関東では一番と言われるニシ子の数珠づくり。彼女は元々京都の老舗数珠屋の奥さんで、そこで働いていたコスガと駆け落ちして今に至っている。

主人公がある朝、出勤途中の公園で蛇を踏んだ。「踏まれたらおしまいですね」と言った蛇は溶けて形を失い、やがて50歳ぐらいの女性になって歩き去った。その日、主人公が帰宅すると一人暮らしの部屋にその女性がいた。食事とビールが用意されている。誰だと聞くと、あなたの母親だと言う。母親は実家で健在。しかし、母親だとしか言わないし、主人公の幼少期のことも知っている。食事が済み、話が済むと天井に上がっていって蛇になって寝る。

そんな繰り返しの中、その蛇女性から「あなたも蛇の世界に来ない」と誘われる。意味不明だし、断り続けるが、彼女との生活は思ったほど苦痛ではないことも実感する。ある日、ニシ子も蛇と暮らしていることが分かる。その蛇はまもなく死ぬらしく、ニシ子は落胆。そして、調子が悪くなって店に姿を見せなくなる。コスガにきくと病気だという。

コスガとたまに納品に行くお寺で、住職から実は蛇と結婚をしていると聞かされる。いつも蕎麦を持って来てくれる女性だった。そして、その日、彼女は蛇っぽくなり、近づいてくる。主人公も、そして今は伏せっているニシ子も蛇と暮らしていることを知っている。

主人公は男とセックスをする時、目がつぶれないという。そして、事が進んで及びそうになると、相手の男が蛇になるという。

死ぬかもしれないと覚悟していたニシ子が戻ってきた。主人公は、同居する蛇女性から蛇の世界へと激しく勧誘される。耳の穴から体の中に入り込まれたり、液状になって体を侵されたり。思わずこのまま蛇の世界へ行こうかとも。少し心が揺らぐ。

選評を読むと、宮本輝と石原慎太郎の二人がこの作品の受賞に最後まで反対し、他の選考委員は評価している。石原慎太郎は、蛇が一体なんのメタファなのかさっぱり分からないと酷評し、こんな作品が選ばれる今日の文学界を嘆いている。しかし、この作品を読む限り、蛇がなんのメタファかなんて全く重要でない。それがテーマではなく、蛇を何に置き換えても人の生き様、そこでの薄弱さ、あるいは強さの表現に、感じ入ることができるそんな作品に思える。選考委員の一人、黒井千次は逆に「この種の小説にあっては、描かれる世界の意味や隠喩の形を探ることよりも、まず作品の中にするりとはいりこめるか否かが勝負」としている。まったく同感。

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2022年08月17日

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好きな感じの話。カフカのような?なんだけどなかなか読み進めなかった。
途中、何を読まされているのだろうかという気にもなって
短い話なのになかなか読み終わらなかった。
「蛇を踏む」「消える」「惜夜記(あたらよき)」の短編集。芥川賞受賞作。

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2022年02月11日

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惜夜記で挫折。難解というか、情景が頭に浮かばない。あとがきで作者さんが述べているように、これらはすべて「うそばなし」。何かの暗喩なんだろうなあと思いながら読むと、多分わけわからないと思うので、推奨通り「うその世界に遊びに来た」という気持ちで読むのが良いのかも。「蛇を踏む」は、シュールレアリズムな雰囲気で、ありえないんだけどありえそうな感じがして面白かった。登場人物に蛇が絡まなければ、普通の人たちだからかな?蛇を介することで、道に迷ってもう一つの現実っぽいけど現実じゃない世界に来たみたい。千と千尋みたいな?

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2021年08月19日

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10年ぶりくらいに再読。昔よりは手応えのある読み方ができた気がする。蛇は孤独な人間に取り入ろうとする宗教や共同体を表してるのかなあとぼんやり思いながら読みました。ニシ子さんが自分の蛇について打ち明けるシーンが怖くて夢に出てきそう。「惜夜記」は川上ワールド版の夢十夜なんだけど馴染みきれなくて途中からちょっと辛かった。

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2021年07月28日

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これだけ突拍子もない寓話的な物語を説得力を持って、読者に違和感を抱かせず描き切っていることに驚愕した

おそらく、違和感がない、という違和感こそがこの作品のキモだ。
世界との不和に悩む女性の姿が、蛇に乗せられてありありと描かれる

蛇は、現代人の孤独のメタファーとして僕は読んだ
結局、他者はどこまでも他者でそこに壁がある。その壁があるからこそ会話が成立するのだ。
一方、壁のない自分自身との対話はぬるま湯のように心地よく、泥沼化する。その先に何もないとわかりながら、自分自身に依存していってしまう。

踏むというのは、自己の発見に他ならない。それは偶然でありかつ、どこまでも主体的行為なのだ。
“踏まれてしまった以上仕方”ないのである
つまり、自分と向き合うこと自体は不可避だ

他者とのかかわりを断つ蛇の世界、その感じな誘い
それへの拒絶は、同時に違和感だらけの世界の受容である

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2020年11月10日

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終始一貫奇形の存在が出現し、ファンタジーのような小説だった。あとかぎに「うそばなし」であると表明しているように、けれど小説というものはフィクションであるから、それでも登場人物やストーリー、言葉の選び方がフィクションを超えた"何か"になっている。川上弘美は唯一無二の作家であると感じた。ストーリーの主人公も、不思議な世界に淡々と紛れ込んで、これが本物の世界だと錯覚される。

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2020年04月27日

Posted by ブクログ

芥川賞受賞の表題作、ほか二編を収録。

数珠屋で働く女性が踏んでしまった蛇が、中年の女に姿を変え部屋に住み着く…というとホラーのようだが、あらすじを記しても作品の良さは伝わらない。
現実と幻想とが入り交じり、湿り気を帯びながらもおかしさがにじみ出てくるような、つかみどころのない世界が淡々と描かれている。細部にこだわって深読みするのではなく、作家が編み出す「うそばなし」をそのまま受け止めて、ゆらゆらと漂いながら感覚で楽しむ作品だろう。

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2019年08月24日

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