川上弘美のレビュー一覧
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性別や年齢に関係なく、個人として尊重している感じがとても好き。センセイもツキコもマイペースなのがいい。センセイは先に歩いていっちゃうし、ツキコも先に帰っちゃうし。そもそも約束もせずに居酒屋で会って手酌で呑む自由さがいい。相手に尽くしたり合わせたりしないところが最高に心地よい。
私はおそらく月子の性格と似ているので、行動に一々共感するし、先生の優しさやふてぶてしさにも共感するし、どちらにも似ているのかもしれない。
小島くんは真面目だし優しくていい人だと思うけど、マッチングアプリで出会って安全に仲を進めたい教科書男って感じなので、深みを感じないというか、ほのかな下心が気持ち悪くさえある。不器用なだけの人かもしれんが。
結構理想の恋愛小説。 -
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装丁だけでなく本文にも祖父江さんの楽しい仕掛けが込められている川上さんの東京日記シリーズ。
帯に「けっこうホントの日記です。」と書かれてあるように、5分の4はホントのカワカミさんの日記のような短編の卵たち?少しの脚色がどこなのか…なんてどうでもよく、粛々と内に外に伸び縮みする川上さんの毎日から生まれる言葉が愛らしい。
ある春の日に、花茣蓙を手に入れたという友達に誘われて公園に花見へと出掛け、桜と柳の美しい公園でお弁当やお酒を開ける長閑な一日。沢山の花びらが舞い散る中、交代で花茣蓙を担ぎ合いながら駅まで歩く帰り道。もう過ぎゆこうとしている春の幸福な後ろ姿を見送るようで心が静かに和らいだ。
もうひとつのお気に入りは、作家になった川上さんに届いた同級生からの手紙。作文は自分のほうが上手かったから本当に川上さんの本が売っていると思わなかったという友人。でもある日ふと本屋さんで川上さんの本に出会いびっくりして購入したことが書かれてあり、レジ横にあった「おさいふに入れておくとお金がたまる」という飴色の小さな「銭亀」が同封されていた。
早速おさいふに入れてみると銭亀と一円や五円が当たる音がして、同級生の顔を浮かべながらしばらく揺らしていたという。とても優しい音が聞こえてきそうで、読んでいるこちらの頬も緩んでくる。同級生や子供の頃の友だち、幼馴染はいつまでたっても心の特別な場所に住んでいて、思い出すたびに明るい気持ちをくれる。
みんな元気で幸せだといいなと願いながら、私の脳内でも沢山の人が銭亀とぶつかっては弾けるように笑った。ささやかで、とても大事で、嬉しいこと。私も卵一個分の小さなお祝いを大切にしていこう。 -
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ネタバレ少し変わっていつつも平穏な家族の成り行きを時代を行きつ戻りつしながら流麗な文章で描く。家族それぞれの個性がきっちり描かれており読みやすい。主人公、都の目線で徐々に明かされる家族の秘密も興味深く、数々の伏線が回収されていく。家族とは、恋愛感情とは、死とはを考えながら読み進める。母親の死、地下鉄サリン事件の死、日航機墜落の死をきっかけに人は揺れ、秘めていた欲望を実行するのは自分の死も意識するからなのか、本能なのか。
都と弟の陵との心地よく歯がゆい関係性を興味深く読んだ。恋愛感情は同居する時間と反比例して低下していく不思議は全ての人において当てはまることではないのかも。 -
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ネタバレ普通の日本の風景のように始まった物語だが、進むにつれてどこかおかしい。違和感がどんどん増えていく。
ほとんど絶滅している人類の、最後の生き残りたちが生きる様子を、詩的な文章で描いていて、本当にこんな未来になるかもしれないと思わせる力がある。
世界観がはっきりしていて、最後の方でそれを説明しすぎてしまうところがやや難点か。雰囲気から読み取れるぐらいにしておいた方が、詩的な文章とのバランスがよかったかもしれないと思った。
ともあれ、想像力はすばらしく、読者の頭の中にも想像の世界をくっきりと立ち上げることができるすばらしい文章だった。これは映像では決してできない、文学だけが持つ力だと思う。 -
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「女はたいがい、可愛いか、怖いか、無関心か、過剰かだ。」
「恋をすると、誰でもちょっぴりずつ不幸になるよ」
「好きなら、しょうがないわね もうちょっと、じたばた、したら」
不思議な話が多いけどそれをあれこれ言語化するのは野暮な気がしてきてしまう。このふわっとした感じが川上弘美さんの作品の味だと思う。っぽいことは書こうと思えば書けそうだが、「ぽさ」しかない。唯一無二だと思う。やわらかそうでふにゃふにゃしてて実態があるのかどうかもわからないのに、芯を感じる。優しく撫でられたようなのにちくちくする。
恋愛小説というよりも限りなく恋に近い物語が多い。どことなく居心地が悪いのにずっとこの話の中にいたいと願わずにはいられない。肌は触れているのに心の奥まではさわれないようなさみしさが身に纏う。 -
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「ルツ」という女性が様々な平行世界で、どんな選択をしてどういう生き方をしているかを、それぞれ描いているという物語。
誰しもが「あの時こうしていたら」と、生きていく中で思ったことがあると思うけど、それが物語の中で行われていて、すごく満足感のある話だった。
最終的にはそれぞれが、幸せというものを発見して噛み締めていた。
中には、「それで本当に幸せって言えるの?」と思えるような結末もあったけど、それぞれ自分が選択した人生だから、っていうのが答えなのかな?
小説を書いた世界線の話、身近な人間を参考に物語を広げて書いているっていうのが面白そうすぎて私も書いてみたいな、と少し思った笑
でもそう簡単に上手くは行かないんだろうな!?
私が今この小説を読んで、物語を書いたとしたらどんな自分になってるのかな?こう想像してみると面白いなあ -
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ネタバレ前作『七夜物語』の主人公鳴海さよと仄田鷹彦の二人は、冒険のあとそれぞれの人生を送り、大人になった。
そしてさよの息子の絵(かい)と仄田君の娘(りら)は小学4年生、同じ学校のクラスメートである。
りらは、クラスの女子三人組にいじめられている。
父親の仄田くんもそうだったように、頭はいいのに空気を読まない、少し変わったところがあるからだ。
絵はりらがいじめられている事に気付いても、しばらくは何もしなかった。
どうしたらいいのかわからなかったし、そのことについて考えるのも気が重かったからだ。
ふたりが冒険に出るきっかけはそういうことだったのだけど、そこに至るまでの絵の日々、りらの思いなどが丁寧に、薄紙を重ねていくように少しずつ描写されるので、本人たちにも気付けないふたりの戸惑いやもどかしさが、かつて子どもだった大人にもじんわりと伝わってくる。
りらは、お父さんはりらのことをわかろうとする人だと思っている。お母さんはわかるより、安心したい人なのだと思っている。
だから、りらはいじめられていることをお母さんではなく、お父さんに話した。
そして、お父さんは「二人で冒険に行こう」と言った。
思った通り、二人はそこでグリクレルに会い、お父さんは子どもの姿になっていた。
なぜだか絵も子どもの姿に戻ったお母さんと合流することになって、りらと絵は「大切なもの」を探しに出かけることになる。
その中で、二人が気づいたこと。
”えらい気持ちになると、いろんなことが、見えなくなっちゃう”
”たしかに、自分がえらい、っていう少しいばった気持ちになると、こまかいことをかんさつするより、自分がすごい、っていうことをうれしがることがいそがしくて、それだけでいっぱいいっぱいになる”
つまり、自分の自尊心を守るために、他人を貶めたりいじめたりするのではないか、と。
それに対抗するための「大切なもの」とは。
冒険が終わった時、絵は、自分のまわりにいる人たちのことを大切だ、と気づくのだが、しかしそれはずいぶん安易な結末だな、とも思っている。
安易ではダメなのか?とグリクレルに聞いてみたら、いいとかダメとか決めるのも安易じゃないのか?と返ってきた。
深いね。
でもって、その後、絵は「大切なものはね、いっぱいあって、一つだけじゃないっていうことを、見つけた」
そうだね。
自分の中に「大切なもの」がたくさんあるとわかっていれば、相手にも「大切なもの」があると思えれば、人間関係が時にこじれても、自分を大切に思っていられるね。
そして、生きていれば「大切なもの」って変わっていくこともある。
ぬいぐるみが一緒じゃなくても眠れるようになったり、親友が替わったり、離婚したり。
自分の核になる「大切なもの」、自分を成長させる「大切なもの」。
最終章は、りらと絵のその後。
明日は、よく晴れたいい日でありますように。