【感想・ネタバレ】ぼくの死体をよろしくたのむ(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

うしろ姿が美しい男に恋をし、銀色のダンベルをもらう。掌大の小さな人を救うため、銀座で猫と死闘。きれいな魂の匂いをかぎ、夜には天罰を科す儀式に勤しむ。精神年齢の外見で暮らし、一晩中ワルツを踊っては、味の安定しないお茶を飲む。きっちり半分まで食べ進めて交換する駅弁、日曜日のお昼のそうめん。恋でも恋じゃなくても、大切な誰かを思う熱情がそっと心に染み渡る、18編の物語。※本書の解説は紙の本にのみ収録されています。電子書籍版には収録がございませんのでご注意ください。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

ちょっぴり生きづらい人たちのお話。生きやすく生きられるならとっくにそうしてるんだけど、今の生きづらい生活もちょっぴり愛おしい。窮屈なのがかえって心地いい。そんな人たちのお話。

「ずっと雨が降っていたような気がしたけど」「銀座 午後二時 歌舞伎座あたり」「儀式」「二百十日」「土曜日には映画を見に」がとくに好き。サブカルチャーとはこういう作品だと僕は思う。孤独を孤独のままに受け止めてくれるもの。いつも僕はそういうけど多分この本みたいなことなんだと思う。どれもマジックみたいなお話だった。どのへんがマジックか、実はあんまりピンときてないんだけど、「マジック」って言葉が頭のなかに浮かんでる。だからマジックみたいなお話。

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2025年05月03日

Posted by ブクログ

川上弘美の作品は、高校の現国の授業以来、「神様」以来だ。神様も、不思議ですべてを語らない感じが好きだったのだが、この作品も多くを語らない不思議な世界観が好きだ。短編集ということもありすんなりと読めてしまった。特に天罰を下す人間(?)の話と3人の女性が旅館で2人の男性に出会う話が良いと思った。また彼女の作品を読みたいと思えた。

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2025年04月04日

Posted by ブクログ

川上さんの短編は好みです。何冊か読んだので、少しずらしたような部分を、これこれ、と楽しみながら読み進めたり。
解説にある 脳内のワイルドな部分をより味わえる が共感です。

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2025年02月16日

Posted by ブクログ

中年期に差し掛かる人々の恋愛模様をメインとする短編集。最後の「廊下」が特に秀逸。
何もかも失う展開に、終盤はただ「消えないで…消えないで!」と悶えてしまった。
年始からじんわりさせられたな。

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2025年01月12日

Posted by ブクログ

短編集。
やはり川上さんの作品好き。
普通に生きる人々。でも、ちょっとだけずれている。でも別に、斜に構えてるわけでもない。主人行も含め、(私にとっては)小気味よい、登場人物たち。
あっという間に読み終えた。
一番好きな話は、土曜日には映画を見に、かな。

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2024年11月10日

Posted by ブクログ

優しい暖かさに包まれたいならこの一冊。初めての川上弘美作品。完全に惚れた。
感想を無理に言葉にしなくてもいいのかな、と思えたのが感想。笑 全ての物語が完全には理解できなくて、だけど愛おしくて。
初めてこんな文章を書ける小説家になれたらいいなという(今まで小説家になりたいなんて思ったことはない)想いを抱いてびっくり。私、こういう表現が好きなんだ。27歳になってもまだまだ自分の知らない部分は多い。
特に好きだったのは、以下。
大聖堂、ずっと雨が降っていたような気がしたけれど、ぼくの死体をよろしくたのむ、いいラクダを得る、無人島から

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2024年09月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

短文だけど、とっておきの一文が来る感じ。小説と詩の間みたいな文章だった。展開もロマンチックで、一話は短いものの、満足度が凄い。後味が残るから、すぐ次に行かずに、暫く余韻を感じていたいと思えた。

お気に入りの話は二百十日、土曜日には映画を見に。

p200
弱いってことは、とても強いことなんだな。

p216
好物じゃないネタの回転寿司のお皿が流れ去る、みたいな感じだな

p238
あのころ、わたしは小西さんと知りあったばかりで、小西さんとセックスしたり共に生活したりするさまを、ほんのぽっちりも想像できなかった。小西さんはでぶで汗かきでオタクで全然魅力的ではなかった。
でもわたしは、小西さんのことをなぜだか「いいな」と思ったのだ。今まできちんと考えてみたことはなかったけれど、たしかにそうだったのだ。

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2024年06月29日

Posted by ブクログ

川上弘美さんのお話は とっても不思議でどこか共感できるそんな感じがします

自分のできる事の60%くらいで 生きてていいんだなぁと思ったりしました

「いいラクダを得る」「二百十日」がよかったです

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2024年06月01日

Posted by ブクログ

なんてことない日常の中に紛れるはずの無い違和感が当たり前のように存在していて、読んでいて脳がバグったしとても不思議な気持ちになった。 こんな話の内容、ジャンル?に出会ったことがなかったため非常に新鮮な気持ちになった。

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2024年05月25日

Posted by ブクログ

なんか、全部よかった!!
深緑色の缶に死体を集める話、駅弁をちょうど半分まで食べて交換する2人組の話、恋情とは別の愛の話、不思議な美術館の廊下、ふわふわとした雲みたいな掴みどころのない、だけど心にすっぽりはまる短編集だった。
私も日曜のお昼は決まってそうめんを食べるようにしてみたい。

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2024年01月16日

Posted by ブクログ

タイトルと表紙のインパクトにつられて買った。

最初はなんだかふわっとして不思議な世界観が今までには読んだことのない感じで、好きなタイプの本じゃないかもと思った。でも読んでるうちに、これは理解するとか共感するとかではなく、雰囲気を楽しむ、身構えずに私もふわっと読むと楽しめることに気づいた。
「逆行サークル」の話は年齢が近いこともあり、どちらかというと共感だったかも。

印象的な言葉が多く、おもしろい設定なんだけど全体的にきれいなお話が詰まっている。

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2025年06月04日

Posted by ブクログ

大聖堂
不動産屋 1匹だけ動物飼うという設定
面白い なかなかない
1号室のカーブァーさん じつはキレイな人

ずっと雨が降っていたような気がしたけれど
普通でない、変わった、その人しかないもの
女性ってひかれる?
同じものを2つ買う主人公
好きな男の人のスペアもほしいという
世界に二人といない珍しい男になりたいというのに惹かれた
光月と出会って、スペアのことを考えることやめた

二人でお茶を
トーコさんはっきり発言していて、自分の素直な気持ちそのまま言えてる。純粋、うらやましいとも思ってしまった。
なんだかんだ、トーコさんとミワさんがニコイチで息が合ってるのかな

銀座 午後2時 歌舞伎座あたり
ロマンチックなのか…小さな人を助ける姿とか、猫のアジトとか、屋上行って、おれから離れないようにとか守ってる姿…魅了されるものか…

なくしたものは
鳴海と成田と、渚、犬の小太郎、それぞれなくしたものあり、虚しさを感じたりするけど、だからこそまだ先があり、キラキラしているものもある、希望がある

儀式
人間の姿した、神様…?

バタフライエフェクト
二人ともパートナーのこと触れてる、相手を探してるかのような感じ 
結局二人は会わなかったんだ
出会いはいつあるのか分からない、蝶で見て通り過ぎてしまったと一瞬の出来事。不思議なストーリー

210日
るかの姿をしてまで、主人公の女性と会いたかったんだなあと。
姿を変えられる魔法使えるのいいなと。

お金は大切
和田さんという不思議な存在
ダンスを習い始めてるのも和田さんの影響

にくい二人
よく二人食べるなと、食べるとこしか書いてないからか。
よく会う人って、いたりする
3人そろって、楽しそうと思った

逆行サークル
ハブられることで、よりそのサークルの仲が深まってくだろうな、自分もあったら入ってみたいと思った
会えなくなったら、寂しいだろうな

土曜日には映画を見に
小西さんでいいの?結婚と読んでるこっちも思ってしまったけど、なんか二人だけの空間を大事にしてるというか、幸せなのかなって思った。

スミレ
結婚しようという気持ちあったのに、精神年齢が増し、時がたってそんな気持ちなくなってった。気持ちというのは時たつにつれ、変わっていく。
村松さんはほんと大人と思った

親のことを、名前で呼んで、家族をやめた
家族解散がそんなことあるみたいな
甘えちゃいけないんじゃなくて、当然と考えるのが、甘えなの 印象的
最後、好きっていう言葉に、安心感めちゃめちゃあったんだろうな

廊下
飛夫、忘れそうになってる自分が悲しくて泣いてたんだろなと。

不思議なエピソードの数々
ファンタジー

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2025年03月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

寂しくてあたたかい不思議な短編集だった。
誰を好きになってもいいし、歳の離れた友人がいてもいいし、自分の気持ちを大事にしていいんだよと気付かされるような、自由な感覚を取り戻させてくれる作品が多かった。
特に印象に残ったのは6作品。二百十日、ルル秋桜、ぼくの死体をよろしくたのむ、土曜日には映画を見に、スミレ、廊下。どれも劇的な展開や強い感情や、そういった派手なものは書かれていないのだけれど、悲しくて優しくて胸がざわざわして惹きつけられる。
作者の書く、ミステリアスで余裕のある魅力的な女性が大好き。

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2025年01月15日

Posted by ブクログ

短編集。何話かダンベルおじさん(ブルーシートおじさんでもいいけどなんだか長いしイメージ違う)で繋がりを感じてうれしかった。
人の心の奥深い部分に触れてるみたいな感覚だった。

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2024年12月24日

Posted by ブクログ

短編なので1つ読み終わる度に何度も読み直しました
日々生活していく中でのザワザワを引き取って助けてくれるような感覚になります
人間関係だったり、時間の流れだったり、日々なんとなく通り過ぎてる感情にきづいたり
読み返す度心の中がじわっと暖かくなります
たぶんこれからも何度も読み返すとおもいます

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2024年11月17日

Posted by ブクログ

非現実だと気づいた瞬間スッとその世界に入り込んでしまう

着地点が想像できずふわふわと読み進められて心地良かったです

一編が短いのに登場人物がどういう人なのか分かりやすく書かれているから読みやすくて楽しめた

川上弘美先生の本は初めて読みました、一見ミステリーのようなタイトルなのにゆるいかわいい表紙でどんな本なのだろうと買ってみたのですが見事にハマりました。
他の本も読みます。

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2024年06月29日

Posted by ブクログ

丁寧に作られたパフェを食べているようだった。
おやこんな展開、おやこんな設定、おやこんな描写…と新鮮な驚きが続き、驚きつつもどれも心地よい驚きだった。

「風が吹いて、何かの匂いをはこんできた。それはきっと、失われたたくさんのものの、きれいなきれいな匂いだ。」
娘を胸に抱いたときの温かさや重み、娘のつむじの優しい香りは、いつかわたしがそれを思い出せなくなっても、風に吹かれて心地よいと感じたときに、風と一緒に運ばれているのだろう。

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2024年05月25日

Posted by ブクログ

18の短編集から成る本作。

どの物語もユニークで不思議で完璧。

特に良かったのは、"いいラクダを得る"。
アラビア語を履修している5人組が創設した、流行と逆のことをする逆行サークルを巡るお話。
若いラクダという意味の名前のバクル先生。ラクダのこぶという意味のバクル先生の母親のヒンド。バクル先生の双子の娘は、アラワとリム。山のヤギと白いカモシカという意味。
偶蹄目がキーになっていてなんだかおもしろい。


"スミレ"も良かった。
技術が向上し、特定の施設の中では精神年齢が見た目年齢に反映されるようになった世界。(設定にすこしナオコーラさん味がある)
実年齢53歳・精神年齢が18歳の主人公は、実年齢14歳33歳の松村さんと恋愛をしている。この精神年齢はずっと一定ではなく突然一気に年を取ってしまうことがある。もちろんそれに伴い、見た目の年齢も年を取る。
年齢による隔たり。切ない。


ラストの"廊下"もいい。
主人公の前から突然いなくなった飛夫。結婚と出産を経た十年後、美術館の廊下であのころと変わらない飛夫の姿を見かける。
こちらもじんわり切なく愛しい物語。


こうしてみると後半の話ばかりなので、前半は単に忘れてしまっているだけかもしれない。
また読み返したい一冊です。

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2024年04月06日

Posted by ブクログ

不思議な読み心地の本でした
後半につれて好きな話が多かったです
『ルル秋桜』『土曜日には映画を見に』『無人島から』『廊下』が特に好きでした
日常から少しずれた人たちがたくさん出てきて、熱烈な愛ではないけど、誰かを思う大切な気持ちがたくさん描かれている柔らかな短編集です

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2024年03月17日

Posted by ブクログ

18篇から成る色々な「思慕」のお話。恋なのか愛なのか、そういうものとはまた違う相手への感情ってありますね。簡単に名前の付けられない思い。様々なシチュエーションで、何気ない生活の狭間からだったり、ちょっと不気味だったり、異次元に踏み込んでたりと、豊富な世界観で贅沢に楽しめる作品でした。

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2024年02月17日

Posted by ブクログ

何の前触れもなく、急に不思議な路地裏に迷い込むような感覚の短編集。

表題作はタイトルからは想像がつかないような、心が温まる縁のお話だった。
表題作に限らず、どのお話も家族や友人、果ては見知らぬ人への親愛がじんわり染み込んでいるようで、柔らかな心持ちになれた。

精神年齢の見た目で生活する話は、実際にこの制度があったらこんなことで悩みそう、などとあれこれ空想してしまう程パンチのある設定だった。

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2025年08月16日

Posted by ブクログ

不思議な本だった。すごく感動するとか、心打たれるとか、そういうのは一切なくて、なんだろう‥めちゃくちゃシュールな本だった。短編集なんだけど、現実的な内容と現実離れした内容があって、今回の話はどっちだ?って戸惑いながら読んだ。個人的には「土曜日には映画を見に」が1番好き。

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2025年06月24日

Posted by ブクログ

味わったことのない読後感。
現実と狂った世界を行き来してるような不思議な気持ちになった。
続きが気になるとかではないけど「もうちょっと読んでみたいかも」という気持ちが最後まで続いた。

人々の会話の中の抜け感や、『間』が心地よい。
それぞれの生死観で、それぞれの人の愛し方がある。
『この感覚っておかしいのかな?』というような個々にしか発生し得ないような気持ちを丸ごと受け止めてくれる作品です。

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2025年02月16日

Posted by ブクログ

あなたは、こんな依頼を受けたとしたらどうするでしょうか?

 「ぼくの死体をよろしくたのむ」

いやいや、これはまずいでしょう。『ぼくの死体』というからには、目の前の人がこれから死にゆくことを意味します。どう考えてもやばい、やばすぎる!止めなきゃ!一刻も早く!そうあなたが行動すべき場面なはずです。

もちろん必ずしもこれから死を選ぶ人を前にした緊迫感のある場面とは限らないのかもしれません。病気療養中にある方から遺言のようにお願いを受けている場合かもしれません。しかし、どのような場面であっても『死体』を『よろしく』とたのまれることには動揺も走ります。

さてここに、「ぼくの死体をよろしくたのむ」という、言われた側が動揺を隠せない言葉を書名に冠した作品があります。短編を得意とされる川上弘美さんの18もの作品が詰まったこの作品。ものものしい書名に思わず手が伸びるこの作品。そしてそれは、さまざまな短編が同居する川上弘美さんの不思議世界を楽しめる短編集です。

『うしろ姿に胸がときめいたのは、生まれてはじめてのことだった』と、『半袖からのびた腕は、ほどよく日焼けし』、『三頭筋と二頭筋がきれいなバランスで上腕をかたちづくっている』という、『その人』のことを意識するのは主人公の鈴音(すずね)、35歳。『右のてのひらに』『小さな銀色のものを握っている』と気づいた鈴音は『そっと近づい』て、それが『ダンベル』であることを確認します。そして、『近づけば近づくほど、その人の筋肉が美しく張っていること』にも気づきます。『これまでのわたしの人生、筋肉なんていうものには、これっぱかしの関心も持ったことがなかったのに』と自問する鈴音は、『恋だ』と『直感し』ます。
場面は変わり、『次にその人を見たのは、公園だった』という鈴音は、『すべり台をはさんだ反対側』で『その人』が『腕立てふせ』をしているのを見つけます。『はっ、はっ、はっ』と『規則正しく、そして荒く、いつまでも続』く『息の音』。しかし、『砂場の子供がこぜりあいをして声をあげ、ほんのわずかな間気を取られているうちに、その人は姿を消し』てしまいます。『わたしは、恋をしたことがほとんどない』という鈴音は、『どうやって』『「つきあう」行為が始まるのか、実のところ』よくわからないという中にいます。『わたしは、一回も誰かに「告白」したこともないし、されたこともないのだ。いつも始まりは、なんとなく、だ』と思う鈴音は、『「つきあった」男の人は、三人いる』も『どれも、恋ではなかった』と『その人に会う』ことによって知りました。そして、『その人のすまいを、見つけた』鈴音。『そこは、公園のすぐ裏側にある神社の、小さな林の中』でした。『きれいに並べられたいくつかの箱と、青いビニールシートが、その人のすまいをかたちづくっていま』す。『静かにビニールシートの屋根の下に寝そべり、息をし』、『目を閉じ、あおむけになっていた』という『その人』。それを見て、『あれは、死体のポーズだ』と思う鈴音は、『ヨガの教室で、わたしがいちばん好きなポーズ』だと思います。そして、『寝そべっていると、立っている時よりもさらに、その人の体のうつくしさは際立』つと思う鈴音は、『ふらふらと』『その人の方へと歩いてい』きます。『青いビニールシートのすぐ端に』立ち『その人の髪は短かった。白いものが少し混じっている。ひげはたくわえておらず、眉はふとい』と思う鈴音は、『その人と、目があ』いました。『澄んだ、目だった』と思う鈴音に、『その人』は七生(ななお)と名乗ります。『七番目の子供だから』と、『口少ななその人にしては珍しく、自分から名前の由来を教えてくれ』ます。そして、『その人とは、このごろはいつも公園で会う』ようになったという鈴音は、『銀色のダンベルを一つ、もら』います。『欲しそうにしてるから』と言う『その人』。『その人の持っているものならば、わたしは何でも欲しかった。そして、その人が欲するものならば、何でもあげたかった』と思う鈴音。そして、『その人への恋は、完全な恋だった』という鈴音と七生のそれからが描かれていきます…という最初の短編〈鍵〉。大切な誰かのことを思う主人公が登場するこの作品のオープニングを鮮やかに見せる好編でした。

“恋でも恋じゃなくても、大切な誰かを思う熱情がそっと心に染み渡る、18篇の物語”と内容紹介にうたわれるこの作品。「ぼくの死体をよろしくたのむ」という物々しさ漂う書名にまず目を引かれるこの作品ですが、一方で魚が四匹描かれた表紙を見てなんだか意味不明感も漂うとにかく不思議な作品です。そんな作品は、内容紹介にある通り18もの短編が収録されています。文庫本304ページに18編ですから一編あたりの分量は16ページ程度にすぎません。実際油断して読んでいると突き放すような唐突な幕切れに焦ってしまうような作品もあります。ただ、これはどんな短編集にでも言えることですが、”当たり外れ”は間違いなくあります。誤解を解くように言い直すとすると、その人に合う合わないという作品は必ず出てくるというところでしょうか?残念ながら私にもよく分からずじまいという作品が複数ありました。

では、18の短編から私の印象に残った三つの短編をご紹介したいと思います。

 ・〈ずっと雨が降っていたような気がしたけれど〉: 『とろりとした、繊細なブラウスだった。店先で、そこだけにスポットライトが当たっているように見えた』というのは主人公の静香。『欲しい、と思った』静香ですが、『その日は、見るだけにしてお』きます。『迷えば迷うほど、手に入れた時の快楽は高まるんだよ』と『教えてくれたのは、慶太』だと思う静香は、『ください。はい、そのベージュの。いえ、一枚じゃなく、二枚。ええ。サイズも色も、同じのを』と買います。『同じものを、二つ。それがあたしのいつもの買い物のしかただ』という静香の部屋には『慶太だけが、ごくたまに』きます。『静香、まだそれ、続けてるの』、『そのマグも、二つあるの?』と訊く慶太…。

 ・〈銀座 午後二時 歌舞伎座あたり〉: 『どうしてわたしは今、こんなところにいるんだろう』と、『銀座のビルの、屋上で』『途方に暮れ』るのは主人公の寧子。『すぐ後ろには、男が一人いる』、『わたしは男の名前を知らない』という寧子は『わたしたちはこれから、一人の人間の命を救いにゆくのである』という今を思います。『そもそもの始まりは、男とぶつかったことだった』と振り返る寧子は、『男も、わたしも、互いに下を向いて』歩いていた中に、『体と体が、ぶつからんばかりにな』ります。しかし『ぶつかる瞬間に男が斜め前方へととっさに飛んだ』ことで最悪な事態は免れます。そんな時、寧子は『それ』を見つけます。『人間そっくり』という『それ』は『十五センチくらい』の『小さな人』でした…。

 ・〈バタフライ・エフェクト〉: 『二階堂梨沙』と『手帳の、九月一日の欄に』『書かれてい』るのを見て『これ、誰だ?』と『首をかしげる』のは『後藤光史』。『梨沙という名前の知り合いも、二階堂、という名字の知り合いも、一人として思いだせな』いのに『自身の手書き』があるのを見る光史。『同じころ』、『後藤光史』と『手帳の、九月一日のところに』『書かれている』のを見て、『みずからが書いた文字』にも関わらず、『その名には、さっぱり覚えがなかった』と『やはり首をかしげ』るのは『二階堂梨沙』。『九月一日は、三週間後の週明けの月曜日だ。会社に行き、家に帰るほかは、今のところ予定はない』と思う梨沙。なんの繋がりもない二人に訪れるまさかの瞬間が描かれていきます。

3つの短編に漂う違和感に気づかれたかと思います。『十五センチくらい』の『小さな人』という記述に違和感満載な〈銀座…〉などは川上さんの不思議世界がそのまんまに現れていそうですが、『同じものを、二つ』揃えることを常とする主人公に隠された理由が語られると思われる〈ずっと…〉にも興味が募ります。そして、〈バタフライ…〉については、『バタフライ・エフェクト』という言葉をご存知の方はその効果を結末に見る短編に興味がわくと思います。ここに紹介できなかった他の短編もそれぞれに面白さの視点の異なる作品が収録されています。これらの短編は、元は雑誌「クウネル」に連載されていた作品を再録したもののようですが、そのことについて作者の川上弘美さんはこんなことをおっしゃられています。

 “最初の頃はよく、同じ号の「クウネル」の小特集から連想していました。ただ、途中からそれもやらなくなって、思いつくまま自由に書くようになりました”。

18の短編を読み終えて感じるのはまさにこの印象そのままです。川上さんが一切の制約を受けず思いつくままにその想像力を駆け巡らせた先に誕生した18の物語。ファンタジーっぽい作品から、ちょっと不思議な恋の物語、そして表題作でもある〈ぼくの死体をよろしくたのむ〉などなど、そこに展開するあまりにバラエティー豊かな内容には驚かざるを得ません。ただ、緊張感を呼ぶ書名から勝手に抱いた内容とは少し違っていたかな、そんな印象も受けることにはなりました。

 『ぼくの死体と
  晴美と
  さくらを
  よろしくたのむ』

表題作に登場する『紙片』に書かれた謎の記述の意味を思う作品をはじめ18もの短編が収録されたこの作品。川上弘美さんの短編世界の魅力を感じるこの作品。

あなたもきっと気にいる短編を見つけることができる、川上さんが綴る非常に幅の広い物語世界を味わうことのできる作品でした。

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2024年08月05日

Posted by ブクログ

川上弘美先生の本、『センセイの鞄』以来、二作目でのチャレンジ!
『センセイの鞄』も不思議な感覚で読みましたが、やはり独特の世界感を持つ作家さんなのかなぁ。決して、読みにくいわけではありません。でも、登場する人物は、私の周りにはいない変わり種の人物かも。
短編集で、皆、変わり種で楽しめました。

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2024年04月05日

Posted by ブクログ

帯にある解説の美村里江さんが書いてる通り、「日常と非日常を暖簾一枚の気軽さで行き来する」という表現がピッタリ。
ハッとするタイトルが印象的。18編の短編でよくわからない話や不思議な話が多いです。フワッと軽く読ませます。穏やかな文体で、激しさはなく、最後にそっと余白を残す感じ。
余韻が心地よいのですが、、、感想が難しいです。
バタフライエフェクト、二百十日、お金は大切、土曜日には映画を見に、あたりが好きです。
隙間時間に読むのにオススメです。

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2024年03月10日

Posted by ブクログ

よくわからないまま終わる話もあるけど、それでいいやと思えるような軽さ、日常感があった。最後の話「廊下」がとても良かった。淡々とした人生をたどるような話もあり、本を読んでいるのに、余韻はあまりなく、不思議な読書体験だった。

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2024年02月13日

Posted by ブクログ

⁡ちょっぴりミステリアスな登場人物達と、⁡
⁡どこかシュールでどこか温かい18の短編集。
ありそうでないようなお話しや⁡⁡
⁡SFチックなお話しもあってまるっと楽しく読めます。
⁡ひとつひとつ短く、とても読みやすいので
⁡寝る前読書にも、もってこいな作品だと思いました!⁡
どことなくアンニュイな雰囲気漂う1冊。

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2024年02月05日

Posted by ブクログ

昨晩読み終えた。個人的好きと「うーん?」の反復横跳びだった
全部ひっくるめての「好き」じゃないけど、局所的な「大好き」がたくさんって感じだった。特に後半にかけて
お気に入りは表題作と『二人でお茶を』

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2024年01月23日

Posted by ブクログ

「ぼくの死体をよろしく頼む」が良かった。

「土曜日は映画を見に」は、これまでだったら好きだったはずなのに気にいることができなくて悲しかった。

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2023年10月10日

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