川上弘美のレビュー一覧
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日常にそっと紛れ込んだ異類と人間の日々を描く連作短編集。表題作「神様」はくまに誘われて散歩に行くという牧歌的や語り口ながら、人間よりも人間らしいくまの振る舞いで、端的に人と熊の差異を浮かび上がらせているのが非常に上手い。それでいながら近所への挨拶をかかさない昔気質な部分であったり、のんびりしていながらも理知的な言葉回しが面白く、それだけでくまがとても愛おしく思えてくる。切り口は完全にファンタジーであるのだが、何の理屈も理由もなく、喋るくまというファンタジーを受け入れるか否かが、そのまま排外主義への問いかけへと繋がっているのが素晴らしい。
熊を見る主人公以外の「まなざし」はやはり異物に対する視 -
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絶滅寸前になった人類が母の監視の元、いくつかの共同体に分かれて過ごす日々を切り取った終末SFの連作短編集。冒頭から語り口調が素晴らしく、その文体だけで斜陽となって滅びに向かう人類の愚かさへの絶望と絶え間ない悠久の孤独を感じてしまう。
一つ一つの短編はどれも緩い繋がりとなっており、世界観を共有しながらも読み味が少しずつ違うのが面白い。特に目立った事件や大きな出来事が起きるというわけではないのだが、その背景に挟まる断片的な情報の不穏さが素晴らしく、設定面は若干フワフワした部分がありながらも、クローンや人工知能といった設定は惜しみなく使っており、そこから察するディストピアな世界観がたまらなく美しい -
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センセイとツキコのほっこり歳の差恋愛物語り。
センセイ70歳くらい、ツキコさん37歳。
恋愛小説でした。
2001年6月初版。
川上弘美40ちょい頃の作品。
行きつけの居酒屋で良く合うようになった2人。
奥手な2人のたわいも無いエピソードがポツポツと語られていく。
特に事件もない。
ほんと、ポツポツと。
ツキコの変化、センセイの変化。
少しずつ、進んだり、引いたり…
なかなか進まない感じ…
恋愛小説です。
終わり方も、さり気なく、寂しくもあり、スンと、ホロリと…
何もないようで
なにか、ステキなお話でした。
調べてみると、どうやら
37回谷崎潤一郎賞受賞作。
ベストセラーにもなってい -
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人類は急激に減りつつあった。そして地球上の誰も人類の衰退を止める術を持っていない… 現存の人間ではもうだめだと考えた人間が 人間を進化させ違う人類をつくりだす計画をたてた。
今 私たちがいるこの世界は『運命』という章で〝わたし〟が語っているどのフェーズにあるのだろうかと考えた。
もう既に私の体内に何かが常駐しているのだろうか…
もう人類が地球生態系の最上位者ではなくなるのも時間の問題なんだろうか…
この先人類はどれだけ同じ事を繰り返していくのだろうか…
読み始めてからしばらくして 始めの『形見』だけ毛色が違うなぁと思ったが その理由は最後まで読んでからわかる。 解説にもあっ -
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「滅びゆく世界を慈しみ深く描いた未来の神話」と文庫の帯にはあって、いい得て妙だと思いました。
語り手を変えながら物語が続くのですが、私は途中、このディストピア物語が一体どこまで続くのか、不安になりました。それでも巧みな書きぶりで、どんどん読み進むことができ、最後2つの物語で、全体の枠組みを開示してくれます。
とはいえ、明るいものではありません。「あなたたち、いつかこの世界にいたあなたたち人間よ。どうかあなたたちが、みずからを救うことができますように。」このレマの祈りは、この小説を読む私たちに向けられたものでしょう。
そしてそれでも今の人類は滅んでいく。「エリのつくった町のことを、レマはま -
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海苔とか、わかめとか、飯蛸、馬刀、そらまめ、豆飯、鯖、濁酒、きのこ狩り、切干、河豚、おでん、七草……なんだか食べものについて話しているページが来るたびに妙にうきうきしてしまってなんだか悔しい(笑)
薄暑を「きらきらしい季節」と表すあたりに小説家としてのすごみを感じつつも、食べものの話がしきりに挟まれていて(「濁酒」を読んで、こんなていねいな食生活がしたい!と強くおもった)、「ああ、この人も同じ人間なのね」となじみを感じた。「歌留多」の節は首がとれんほどに頷いた!
こうも感性を枯らさずに人間は生きられるのか、と思うと、少しばかりこの先にも希望がもてる。自分は意外にも、夏が好きらしい。夏生まれ -
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読んでいるうちに、自分が今いる世界を信じられなくなってきてしまった。わたしが今いるのは、何回目の世界で、誰によって創られたもので、わたしを見守る上位的存在はいるのか…。影響されやすい性格なのでそんなことを考えてしまう。
破滅の道をたどるというのに人はなぜ、人を憎み、争い、それでも愛すのか。人間というものを考えるときに根本となるものをテーマにしてると思う。読みながら、こんなに人間の営みを俯瞰して見ることができて、このディストピアのシステムを構想し、お話の中で機能させることができた川上弘美はなんて頭がいいのだろうと何度も唸った。そりゃブッカー賞候補にも上がるなあ。
人間は愚かな存在だけど、それでも -
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今までの記憶が全然なく、名前も性別も年齢も分からないまま、突然この世に現れた某は、担当医の蔵利彦氏の元でアイデンティティーの確立のため治療を始める。
女子高生、男子高生、高校の事務員…次々と別の誰かに変化して演じ分けていき、ついには病院を脱走してしまい、外の世界で自分と同じような存在の仲間に出会うことになります。
何とも小難しい設定なのに、登場人物たち(人間ではないのだけれど)それぞれが飄々としていて面白い。
日本のみならず世界を飛び回り、病院でお世話になった蔵医師や水沢看護師はどんどん年老いてゆくのに、某のような「誰でもない者」たちは100年ほど生きていたり、時間軸が人間とはずいぶんずれて