【感想・ネタバレ】センセイの鞄のレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年12月16日

「今年いっぱいはまだ三十七」の主人公の「わたし」と、「歳は三十と少し離れている(すなわち60代後半ということ)」「センセイ」の恋物語。センセイはわたしの高校時代の国語の教師であり、卒業から20年近く経ってから、偶然、再会したのだ。
恋愛のテンポは驚くほどゆったりしている。「センセイと再会してから、二...続きを読む年。センセイ言うところの"正式なおつきあい"を始めてからは、三年。それだけの時間を共に過ごした」とある。この物語は、主に、わたしがセンセイと再会してから、「正式なおつきあい」を始めるまでの二年間の出来事が綴られている。特に劇的な出来事があって、2人がつき合うようになるわけではない。物語の初めから、わたしはセンセイに、センセイはわたしに好意を抱いているのは明らかだ。そして、何度も居酒屋でお酒を一緒に呑み、市(いち)やキノコ狩やパチンコや旅行に一緒に行ったりし、センセイが「石野先生」と仲良くすることに嫉妬し自分は「小島孝」と良い雰囲気になったりしても、決定的なことは何も起こらない。かなりじれったい展開が、「再会してから、二年」続くわけである。
わたしの方は、「わたしが近づこうと思っても、センセイは近づかせてくれない、空気の壁があるみたいだ。いっけん柔らかでつかみどころがないのに、圧縮されると何ものをもはねかえしてしまう、空気の壁」を感じている。そしてセンセイの方は、「ワタクシはいったいあと、どのくらい生きられるでしょうか」と考えたり、「長年、ご婦人と実際にはいたしませんでしたので」「ワタクシは、ちょっと不安」を感じていたりして、一歩を踏み出せない。そして、わたしも、先生がそのような不安を抱えて一歩を踏み出せないことを分かっている。誠にじれったい展開だ。
しかし、月が満ちるように、二人は結ばれる。再会してから二年が経過した後で、そして、お互いに好意を持っていることを分かっていながら、ついにセンセイは「ワタクシと、恋愛を前提としたおつきあいをして、いただけますでしょうか」と告白する。わたしは、ずっと「すっかりセンセイと恋愛をしている気持ちに」既になっているのに、と思いながら、「センセイにかじりつ」く。
この後の二人の様子の描写が好きだ。
「闇がわたしたちをとりまき、わたしたちはぼわぼわと話しつづける。からすも鳩も、巣へ帰っていったらしい。センセイの乾いてあたたかな腕に包まれて、わたしは、笑いたいような泣きたいような気持ちだった。けれど笑いもせず泣きもしなかった。わたしはただひっそりと、センセイの腕の中におさまっていた。
センセイの鼓動が、上着越しにかすかに伝わってくる。闇の中で、わたしたちは、静かに座りつづけていた。」
このような瞬間のために人生があるのだと思わせてくれるような美しい場面だ。

そして、この小説には、静かに、しかし胸を揺さぶるような場面がもう一つある。小説の最後の場面だ。「正式なおつきあい」を始めてから三年で、センセイは亡くなる。そして、センセイの息子さんから形見として、センセイの鞄をわたしはもらう。「センセイが書き残しておいてくれた」のだ。この鞄は、センセイがわたしと再会してから、センセイと共に、色々な場面に登場し、色々な場所に一緒に出掛けたものである。わたしはセンセイと過ごした日々を時々思い返す。
「そんな夜には、センセイの鞄を開けて、中を覗いてみる。鞄の中には、からっぽの、何もない空間が、広がっている。ただ儚々とした空間ばかりが、広がっているのである」と小説は結ばれている。「儚々」という言葉は、初めて見かけた。「ぼうぼう」と読むらしい。「儚」は、「はかない」という言葉なので、意味は分かる。
センセイのことを思い出してみるが、それは、「からっぽ」で「はかない」ということ。「わたし」の淋しさは、如何ばかりかと思う。

美しい物語と美しい描写・言葉遣いがされている、しかし、儚い小説だ。

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Posted by ブクログ 2023年07月22日

描写が綺麗で美しいからこそ、切なさが際立つ。
自分の高校時代の雰囲気を思い出して泣いてしまった。

センセイとは、どれだけ近づいても見えない距離がある。
だからこそ、センセイという存在なんだろうけどやっぱり寂しいし苦しいな。
主人公のように、センセイとお酒を飲みたい。
こんな私でも20歳まで生きてい...続きを読むいんだ、生きててよかったとかつての自分に証明したいの。

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Posted by ブクログ 2023年07月05日

「大人は、人を困惑させる言葉を口にしてはいけない。次の朝に笑ってあいさつしあえなくなるような言葉を、平気で口に出してはいけない。」
自分自身が思い出になる前に、鞄が空っぽになる前に、どれくらいの出会いがあるだろうか。

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Posted by ブクログ 2023年04月09日

めっちゃ良かったです。良すぎて、下手な感想が書きにくい…。
よく思うのが、恋愛が成就する、というのは、どういうことなのか、ということ。30も歳の離れたセンセイと、30代後半のツキコの場合、恋愛が成就するってどういう状態なのかな?って考えてしまったんですが、やっぱり、いくつになっても恋愛はいいものだし...続きを読む、自分の年齢も相手の年齢もそんなこと、どうでも良いことなのでしょう。

と、月並みなことしか、書けないですが、とても良かったです。

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Posted by ブクログ 2022年01月08日

ツキコの方に年の近い私。
読めば読むほどツキコとセンセイの日々をずっと読み続けていたくなる。
自分がお酒を飲まないので、飲み屋でつまみをつつきながら、とっくりをかたむけてみたい、と思った。
センセイははじめからずっと、ツキコの傍にいるようだ。

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Posted by ブクログ 2021年02月26日

アラフォーOLが高校時代の先生と飲み屋で再会し、着きすぎず、離れすぎず、穏やかで静かな交流が始まる。主人公ツキコとセンセイのやりとりが微笑ましい。ツキコを通して見える情景から寂しさ、孤独感がしみじみと感じられるゆえに、センセイの存在のぬくもりがこちらにも伝わってくる。こんな形の愛もあるんだなぁ…。切...続きを読むなくてとても暖かかった。

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Posted by ブクログ 2021年01月24日

初めての川上弘美との出会いは中学生くらいだったな。川上弘美の本二つしか読んだことないけど、つい最近まで川上未映子と混同してたけど、川上弘美さん好きです。小川洋子と並んでた好きな女性作家さんですね。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年12月16日

年齢のせいにしないで、ツキコさんとちゃんと恋愛してくれて良かった。
好きか嫌いかには、好きか嫌いかで答えてほしいから。
毎晩少しずつ読むのが楽しみだった。
最後は号泣した。
それだけ、もだもだしながら、私もセンセイとの思い出を積み上げているような気になっていたのだと思う。

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Posted by ブクログ 2016年10月14日

よかったあ。月子さんとセンセイの関係が少しづつ近づいていくのが、まどろっこしいんですが。年齢を重ねた男女が、躊躇しながらも自分の気持ちに正直になっていく姿が、いいですねえ。

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Posted by ブクログ 2014年04月27日

この手のヤツは苦手なのだが
読んでみたら非常に面白かった
主人公のキャラ立てが上手い
時折、挟む別の男の話が
作品を引き締める
4.5点

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Posted by ブクログ 2014年04月12日

落ち着いた恋愛小説
感情の高ぶりが大仰に表現されるものより、
川上さんのような淡々とした、それでいて温かみのある表現が好きだ。

36ページの
「可愛いと、つい夢中になる」
は、読後、センセイの性格だとか、思いだとかが詰まったものだと感じた。

後半の I ♡ N Y が最高すぎる。

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Posted by ブクログ 2015年02月09日

心が暖かくなる、でもちょっと切ない気持ちになるとても良いお話でした。
センセイとツキコさんのあいだに流れる空気とか、物腰の柔らかさ。行きつけのお店の美味しそうなお料理の数々。全てがほんわかと和ませてくれます。
読み終わったあと、ついセンセイ口調になってしまう自分がおりました。
ワタクシはこの話が大好...続きを読むきでございますよ。

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Posted by ブクログ 2024年03月16日

お酒が出る本を探して出会いました。

年齢差がある恋の話ですが、酒好きとしてはその出会い、その空気感に憧れます。
後半少しだけ違和感を感じる部分はありましたが、お酒を飲みながら読み終えたこと嬉しく思います。

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Posted by ブクログ 2023年08月04日

ずっと読みたい!と思ってた本、やっと読めた…
全体的な雰囲気、文章の感じはとても好き。
森のような文章、読んでいてとても落ち着く。
正直、自分が主人公と同じ年齢で、20個以上歳が離れた初老の男性と恋愛できるか…ってなるとかなり想像がつかなくて、あまりそこは共感できなかった。でもツキコさんとセンセイの...続きを読む間にあった静謐で淡い時間の流れは、かけがえのないものだったんだろうな、ということはすごくわかった。自分が主人公と同じ年齢になった時、どう読めるか、もう一回読んでみたい。

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Posted by ブクログ 2021年11月27日

あなたは、高校時代の先生の名前を覚えているでしょうか?

人間は群れで生きる生き物であり、日々誰かしら新しい人と出会い、その名前を記憶していくことを繰り返していきます。そんなことはないと思われるかもしれませんが、あなたは無意識のうちにテレビのニュース報道や、ネットのSNSを通じて日々新しい人たちと出...続きを読む会っているはずです。一方で私たちの記憶容量には限界があります。関係しなくなった人の名前は自然と忘れていくものです。それは、かつて恩師として私たちにいろいろな知識を授けてくれた学校の先生も同じことです。担任はまだしも、ましてや特定科目の先生の名前まで記憶し続けるのは容易ではありません。しかし、世の中は広いようで狭いものです。そんなかつての恩師と居酒屋で偶然にも再開する、そういう可能性だってゼロではありません。あっ!あれは!という瞬間、『必ず黒板拭きを持ちながら板書した。「春は曙。やうやう」などとチョークで書き、五分もたたないうちにすぐさまぬぐってしまう』というあの日の授業の光景が蘇る瞬間。しかし一方で『名前が出てこなかった』と、光景は思い出してもそんな先生の名前がどうしても思い出せない…そんなもどかしい思いに駆られる瞬間もあるかもしれません。

この作品は、元教師と生徒が二十年の時を経て街の居酒屋で偶然にも再開する物語。『名前がわからないのをごまかすために「センセイ」』と呼んだことをきっかけに『「先生」でもなく、「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」だ』と、元教師のことを『センセイ』と呼ぶ女性の物語。そして、それは『歳は三十と少し離れている』という男と女の恋の物語です。

『正式には松本春綱先生であるが、センセイ、とわたしは呼ぶ』、『カタカナで「センセイ」だ』というのは、主人公の大町ツキコ。『高校で国語を教わった』ものの『担任ではなかった』こともあって『さほど印象には残っていなかった』という『センセイ』と、『数年前に駅前の一杯飲み屋で隣あわせて以来、ちょくちょく往来する』関係になったツキコ。『キミは女のくせに一人でこういう店に来るんですね』と『センセイ』と言葉を交わすツキコは『キミは今年三十八になるんでしたね』、『今年いっぱいはまだ三十七です』とやりとりするも『センセイ』の名前を思い出すことができません。結局、『名前がわからないのをごまかすために「センセイ」と呼びかけ』て『以来センセイはセンセイになった』という結果論。そんな『センセイ』と『肴の好みだけでない、人との間のとりかたも、似ている』と感じるツキコは、『歳は三十と少し離れているが、同じ歳の友人よりもいっそのこと近く』『センセイ』を感じ出します。そんな『センセイ』の家にも行ったことがあるというツキコ。『夫人は亡くなったと聞いていた』ため、最初こそ『少し身構えた』ツキコですが、やがて『センセイの家で最後の一杯をしめくくる』ようになります。そんな『センセイ』とは『約束をするわけでもない、たまたま居合わせるだけ』という関係のため『数週間顔を見ないこともあるし、毎晩のように会うこともある』という間柄。そんな中、しばらくの間『センセイと、口をきいていない』という状況が発生します。『いつもの居酒屋で、ちょくちょく顔はあわせるのだが、口を、きかない』、『わたしも知らんぷりだし、センセイも知らんぷり』という二人。『そもそもの始まりは、ラジオ』だったというそのきっかけ。『贔屓の球団は、どちらですか』という『センセイ』は、『ワタクシは、むろん巨人です』と熱意がこもった口ぶり。ラジオの『中継は巨人阪神戦だった』というその場で『贔屓の球団はないが、じつはわたしは巨人嫌い』と『アンチ巨人』なもののはっきり言えないツキコ。そんなツキコは『巨人がお嫌いですか』と訊く『センセイ』に、『だいきらいですね』と返すと『日本人なのに、巨人が嫌いとは』と答える『センセイ』。『ツキコさん、勝ちましたね』と巨人が勝ったその試合のあと、『不穏な空気が、センセイとわたしの間にたちこめていた』という状況を経て口をきかなくなった二人。そんな状況を『居酒屋でセンセイに会って知らんぷりをしあうのは、帯と本がばらばらに置かれているようで、おさまりが悪い』と感じ出したツキコは、ある時『無闇矢鱈とセンセイに会いたくな』ります。そして、いつもの居酒屋で湯豆腐を注文する『センセイ』を見て、同じく『湯豆腐』を頼むツキコ。そんなツキコは『センセイ、これ』とあるものを贈ります。それをきっかけに『センセイとわたしの、いつものやりとり』が復活した二人。そんな二人の静かな日常が淡々と描かれていきます。

2001年に刊行されたこの作品。高校時代に国語を教わった教師と居酒屋で偶然に再開したことをきっかけに二人の間に静かに、穏やかに、そして緩やかに愛情が育まれていく様が美しい日本語表現と情景描写を背景に極めて淡々と描かれていきます。当初その雰囲気感から60年代、70年代を描いている作品なのかと思いましたが『消費税入れて、千円ちょうど』、『長嶋の采配は、いいですね』という表現から1990年代以降、さらには『わたしは携帯電話をバッグから出し』というダメ押しの表現から1990年代後半という、作品刊行当時のリアルな作品であることがわかりました。

そんなこの作品の魅力は幾つもありますが、ここでは”飲食”と”用を足す表現”について取り上げたいと思います。

そもそものツキコと『センセイ』の出会いは居酒屋でした。『まぐろ納豆。蓮根のきんぴら。塩らっきょう』と頼むツキコの声に重なるように『塩らっきょ。きんぴら蓮根。まぐろ納豆』と頼んだ『センセイ』。『趣味の似たひとだと眺めると、向こうも眺めてきた』というそのきっかけは、なんとも庶民っぽさに溢れていて、読書のハードルを一気に下げてくれます。また、『代金はセンセイが払った。次に同じ店で会って飲んだときには、わたしが勘定をした』と最初の二回こそ奢りあったものの『三回目からは、勘定書もそれぞれ、払うのもそれぞれになった』と気楽な付き合いを長く続けようと二人の呼吸が合っていく様が自然に描かれます。『肴の好みだけでない、人との間のとりかたも、似ているのにちがいない』とツキコが感じるのは、恐らく『センセイ』も同じなのだと思います。三十近い歳の差を超えて二人の男女が気持ちを寄せていくのにとても自然な演出に”飲食”の場面が効果的に役割を果たしていきます。一方でこの場面と対になるのが、かつての同級生、小島との関係でした。『センセイ』と語らう場である居酒屋と対照的に『ビルの地下にあるこぢんまりとしたバー』が二人が通う場となります。オーダーは小島が『チーズ入りのオムレツ。チシャのサラダ。牡蠣のくんせい』と終え、ワインで乾杯します。そして、『知らぬ間に勘定を済ませてしま』う小島と、確かに小島は小島で女性を大切に思う気持ちをさりげなく表しますが、一方でそんな場を『この場所に自分がいるべきではないような気がする』とツキコは感じます。普通に考えれば、三十も歳の離れた男女の関係よりも同級生との関係の方が当然に自然です。この作品ではその歳の差の違和感を、逆に同い年の小島を登場させることによって、恋は年齢だけではないという感覚、大切なのはお互いが一緒に違和感なくいられること、ということを読者に自然に意識させていきます。この辺りの構成の上手さが光る作品でもある、そう思いました。

次に、作品を読んでいて強烈な違和感を感じる”用を足す表現”についてです。この作品は言ってみれば恋愛小説です。情景描写も美しいですし、純愛の雰囲気感にもたまらないものがあります。そこにいきなり、『わたしは手洗いに行き、勢いよく用を足した』、『手洗いに行き、座ったまま小さな窓から外を眺めた』、そして『用を足す。膀胱が落ちつけば、大仰な気分もしぼむかと思った』と、幾度も”用を足す”場面がリアルに登場します。私が読んできた小説では、小川糸さん「さようなら、私」で同様に女性主人公が、こちらはモンゴルの大平原ですが、”用を足す”場面が繰り返し登場しました。小説でこのような場面を使うこと自体稀だと思いますが、”飲食”が日常であるなら、”用を足す”のも日常なはずです。主人公の感情の変化は、こういった日常の当たり前の行動の中にこそ現れるものだと思います。何気ない無意識の行動が故にそこに気持ちの変化が見えやすいとも思います。”用を足す”という行為を当たり前のように描いていく川上さん、こちらも上手さをとても感じました。

そして、この作品は何と言っても『歳は三十と少し離れている』という元教師と生徒の間柄であった二人が二十年の時を経て再開し、大人の、極めて大人の恋愛物語が描かれるところがある意味で衝撃的です。あなたは、高校時代の時に担任でもなかった先生のことを覚えているでしょうか?しかも生徒だった当時にすでに五十近い男性教師のことなど覚えているでしょうか?私は教職に就いたことはありませんので、先生の側から生徒がどのように見えているのかは分かりません。この作品の『センセイ』は、『よくも一生徒の名なぞ覚えているものだ』とツキコが感心する通り、彼女のことを覚えていました。『キミは女のくせに一人でこういう店に来るんですね』という会話から進む二人の関係。”年の差婚”という言葉はあれども幾ら偶然の再開のきっかけがあっても普通にはこの年齢差ではその先に関係が進むのは流石にありえないとも思えてしまいます。そんな二人は『日本人なのに、巨人が嫌いとは』と野球のことで揉めたと思えば、『センセイ、山登り、よくなさるんですか』と、キノコ狩りに出かけたり、ついには『ツキコさん、次の土曜日曜と、島にいきませんか』と一泊の旅行に出かけたりと関係を次第に深めていく様が描かれていきます。このことだけだと普通の恋愛物語にも感じられますが、そこで交わされる言葉は、『芭蕉も知らないんですか、キミは』『芭蕉ですよ。教えたでしょう、昔』とか、『ツキコさん、多生の縁て、どういう意味か、ご存じですか』といった『センセイ』の国語の教師の側面が顔を出したり、『ツキコさん、あなた理科の授業もきちんと聞いていなかったんですね』と、まるで教師と生徒そのものの会話が登場したりと元教師と生徒との関係性がどこまでも引きずられていきます。ただ、ツキコも今や四十を前にした大人です。『センセイ』にそう言われても『そんなもの教わりませんでしたよ、授業では』とそんな『センセイ』の攻撃を打ち返していきます。この作品では、この『センセイ』とツキコの活き活きとした会話が何よりもの魅力ですが、教師と生徒の立ち位置はどこまでも変わりません。しかし、年の差こそ離れていても二人とも大人の男と女でもあります。お互いの感情が近づけば近づくほどにお互いの存在を意識する感情が生まれていきます。『ツキコさん、ワタクシはいったいあと、どのくらい生きられるでしょう』と訊く『センセイ』。長寿社会の現代にあって七十歳という年齢は決して死が迫り来ることを意識する年齢ではないと思います。しかし、それは自分の人生がその年齢の基準にあるからです。恋愛感情を抱く相手が三十代であるとしたら、その意識はどうしてもその差に向いてしまわざるを得ません。自分に秘めた思いがあるのであれば、それをなんとか形にしたいと思うのは自然な感情の現れでしょう。淡々と描かれていた静かな大人の恋愛物語が、スピードを上げ、かつ、ほのかな高ぶりを見せていく物語後半、そして…と結末に至る物語は、年の差を超えてお互いを慈しみあった一人の男と一人の女の姿をそこに見るものでした。

『センセイ、好き』、『ワタクシも、ツキコさんが好きです』という、『歳は三十と少し離れている』元教師と生徒が偶然の再開を機にお互いを意識し、お互いの存在を感じ、そしてお互いを愛しみあっていく様を描いたこの作品。それは、『わたしたちは、いつでも真面目だった』という二人が、お互いのことを大切にしながら、お互いのぬくもりを感じながら、そしてお互いの存在をなくてはならないものと意識していく中に紡がれていく愛のかたちを見るものでした。

何気ない日常の描写の連続に気持ちが入っていかない思いで始まった読書が、いつしかその世界観にすっかり夢中になっていたこの作品。気がついたらため息が漏れそうな余韻の中に結末を見る、全編に登場する印象的なそれでいて存在を主張しない「センセイの鞄」の絶妙な位置付けが作品を静かに彩るこの作品。独特な雰囲気感の中で静けさの中に灯る一本の蝋燭の炎を見るような、そんな作品でした。

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Posted by ブクログ 2019年03月05日

これ、名作じゃないか?
何で柄本明とキョンキョンなんかで映画化したんだ!!
誰が見てもミスキャストだろ!

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Posted by ブクログ 2017年03月29日

キャピキャピしたり情熱的な恋愛ではなく、2人の間にゆったりとした時間が流れていて、読んでいて気持ちよかった~^^
時々まどろっこしくも感じるけど、それすらも愛おしい時間なんでしょうね♪

国語教師なだけあって、センセイの言葉運びが美しい!
何度読んでも飽きない1冊(o^^o)

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Posted by ブクログ 2016年03月12日

2016/3/10

この本はやっぱりいいね。
ずいぶんと久しぶりの再読。
とてもいいね。

川上弘美はこれ以外はどうも合わないけれど、これだけはやっぱりいいね。

2020/2/15

どうしてこの本だけこんなに焼けているんだろう?
昭和初期の本かと見間違えるわ。

センセイのの
立ち居振る舞いや...続きを読む、潔さに惹かれる。
月子さん側から見たセンセイだけれど、センセイ側のお話が見えてくるのは、自分がもう少し大人になってからかなぁ。

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Posted by ブクログ 2015年07月19日

心臓を握られて無理に揺さぶられるような暴力的なときめきも嫌いじゃないけど、ツキコさんが言うように「あわあわと、そして色濃い」ときめきも素敵だ。
そしてお酒飲みたくなる。猛烈に。
『電化製品列伝(長嶋有)』で書かれていたとおり、連載という形式であったからこそ、センセイとツキコさんがゆっくりと関係を育て...続きを読むてゆく様をみることができたんだろうなあ。

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Posted by ブクログ 2015年01月10日

ふわあっと始まって、ふわあっと終わった感じ。子供の頃読んでいたら、きっと全然面白くなかったんだろうなぁと思いながら読んだ。こういうお話に魅力を感じられるような歳になったんだなぁとしみじみした。

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Posted by ブクログ 2014年11月30日

ずいぶん前、高校生のころに読んで、すてきな雰囲気の小説だとは思ったものの、心情的にはさっぱり理解できなかったこの小説。主人公の月子さんの年に近づいてきて、雑誌に紹介されていて久しぶりに読んでみようと思い立ち、読んでみたけれど、月子さんの冷静で見つめているような、それでいて揺れているような心情に同調で...続きを読むきて、以前とは違った気分で楽しめた。

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Posted by ブクログ 2014年11月06日

ツキコさん
センセイ

マンガ『娚の一生』を思わせる40代女性と70代男性の物語。やさしい言葉で二人の空気が伝わる。

料理がおいしそうな作品。

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Posted by ブクログ 2014年10月19日

良いな~センセイとツキコさんのこの関係。大人の恋ですね。愛ではなく、恋。四季折々の中で綴られていく二人の色濃く流れる月日。この二人の日常を通して、著者の豊かな感性に触れられる一冊。

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Posted by ブクログ 2014年07月28日

ツキコさん
センセイ

丁寧な言葉でかかれていて、
すっごく
すっごく甘かった心に心地よくてあったかくなった。

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Posted by ブクログ 2021年05月13日

なんの情報もなしに読みはじめ、まさかそんな展開になるとは思ってもいなかったので、にやにやとおかしくなった。
これは帯の情報すらも得ずに読みはじめたほうが絶対良い。

ゆるい川上弘美。
びしびしの鋭さがなく楽しく読めた。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年08月05日

私(ツキコ)が自分の思いをセンセイに打ち明けるところはキュンキュンしました。
センセイはもうご老体だし、ツキコは来年38になる独身だし、若者のような恋はできないとわかっているけど…
なんだか2人ともかわいらしい。
センセイが告白するところはキュン死にものです…!

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年11月22日

再会を果たした先生と生徒のお話でしたが、中々にツキコさんの心情の描写が少ないのでセンセイに告白した時、「え、好きやったんや!」となりました笑
歳を考えて、とか世間体を気にして、とかじゃない恋愛、穏やかに流れる川のような果てしない愛に包まれて幸せそうな2人がよかったです。最後センセイは死ぬんだろうなと...続きを読む思っていたので特段驚きはしませんでしたがセンセイの鞄の空っぽの空間だけが広がっていてツキコさんをこれからも包んでくれるのでは無いかなと思いました。
感情を出すのが苦手、というかなかなか出さないツキコさんが終盤ずっと好きだと言えていてツキコさんにとってセンセイは受け止めてくれる、公平な存在だったんだろうと思いました。

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Posted by ブクログ 2017年06月10日

おもわずあっちこっちで、「せ、センセイ〜〜!!」と眉が下がる思いだった。
なんとこんなきゅんとする物語。

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Posted by ブクログ 2014年09月16日

好きになるってやっぱりそうなるかー、、と。
でもそれは付属物。
素敵な思い出で生きていける気がした。

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Posted by ブクログ 2014年11月18日

年齢を気にせず、ありのままの互いが進むスピードを合せ、同じ方向に向かって歩みを続ける。正しく作者が想像する大人の恋愛という形がこれなのだろうと思った。一生幸せでいたいのなら、ありのままの自分で居ること。

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