あらすじ
あ、また時間に捕まえられる、と思った。
捕まえられるままに、しておいた。
小説家のわたし、離婚と手術を経たアン、そして作詞家のカズ。
カリフォルニアのアパートメンツで子ども時代を過ごした友人たちは、
半世紀ほどの後、東京で再会した。
積み重なった時間、経験、恋の思い出。
それぞれの人生が、あらたに交わり、移ろっていく。
じわり、たゆたうように心に届く大人の愛の物語。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
会話が心地いい。
軽やかさ、言葉選び、ユーモア、
短くてテンポのいい台詞、
それでいて深みがあるところ。
登場人物は60代なのに、
読んでいると無意識のうちに
30代くらいで脳内再生される。
言葉にならない気持ちの描写がすごいと思った。
煮詰める感じじゃなくて、
自然な感覚を取り出して
そのまま文章のかたちにしたみたいな。
主人公の回想をそっと覗かせてもらうような
気持ちで読みました。
何度でも読みたくなる作品。
穏やかな空気感に包まれる読書体験でした。
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プールの底の灰色になったステーキ、極北の灰色になった渾然一体のスープ、翡翠の蝉、それが順繰りに浮かんでは消える読後感。六十代になった時、もちろんもう一度読みたいし、それまでも繰り返し読み返したくなる。
三回読み終わって、今、溺レるを読み返したくなっている。なめらかで熱くて甘苦しくて、も。
そう思うと、何だか泣きそうになった。
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途中まで川上弘美さんが自分の経験を語っているのかと思って読んでいたが、途中で主人公の名前が出てきて違うということがわかった。
最初の章に出てくるアメリカでの子供のころの経験話が最後までつながっていて、しかもそれが大昔の思い出であるにもかかわらず、登場人物たちはいろいろなことを覚えている。
今は全員60代で、その登場人達の中で恋愛っぽい話ことも出てきて面白い。
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とても、おしゃれ〜な気分になる。欧米人の会話ってウィットが効いてて、嫌味なく本気で喋っていいよな、とら思っているけど、そこを少し日本人的ないテイストで流してる感じ。口に出さなかったことも含めて、表現がおしゃれ。
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心地よくて自分の色々なこれからの未来みたいなもの、過去の色々な思いを重ねながら読んでいた。
きっと、こういうものなんだろうな、そういうふうに年を重ねて行きたいな。と。
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切ない。はっきりしない。ゴールが見えない。もやもや。
そんな雰囲気がかえって心地よい小説。
早朝の霧がかった、しんと静かな湿った道路を歩く時のあの気持ち。心の真ん中にぽっかりとあく孤独の穴。これを生涯抱えて生きることに呆然とする一方で、どこか満たされているようにも感じる不思議。
Reading through the entire book what we got at the very last was just “魂が「するっと近くに寄った気がした」”。What sort of purity is that.
でも何よりも心強い一言。老いてなお誰かとそんな関係性を、何よりその感性を持てるのだろうかと、私は考えさせられたのでした。
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とくに文章がうまいと感じることもなく、とくに話に落ちがあるわけでもない。しかし、短いエピソードの連続のなかで、それらがある種の達観に到達した大人同士の現実的な関係を感じさせる。登場人物の数がどんどん増えてそれらが本筋に有機的に絡んでいるのかさえよくわからなくなる。その果てに、恋愛小説、つまりはっきりと小説化された恋愛ではまったくなく、しかし、99%の水と1%恋愛とで構成されたような、始まりも終わりもないような恋愛を描いていく。これは恋愛小説批判としての実存的恋愛論なのだろうか。
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近すぎず離れすぎずの付き合いが出来る友人、知人がいるっていいな。数十年ぶりでも、共通項があれば会っていなかった時間も埋められるのかもしれない。
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エッセイ風の小説で、読者はこんな生活はなんだかオシャレだなと思わせる仕掛けがあちこちにある。
しかしこの程度のことでも現実には起きない。
あっ、だから小説なのだ。
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歳を重ねるといろいろなものが見えるようになって心は成長し、身体は衰えていくと思っていた時期がある。どうやらそんなものではないと今は感じている。
大きな事件があるわけではなくて、エッセイのような本。60を超えた幼馴染が近づいたり離れたりしながらコロナ禍を生きている。歳を重ねたからこそのものの捉え方は決してスマートなわけではない。でも相変わらずいろんなことを考えながら人は生きるのだなとしみじみ思う。
静かで、暖かくて、どこか切ない物語だった。
「どうしようもなく誰かと一緒にいたい、という相手を自分が求めないことがさみしいのだった。」
「他者の思考に自分がのみこまれてゆく心地よさと抵抗感と恐ろしさの中に、ゆっくりと溺れていった。」
「カズのことをわたしは好きなのかしらん、と自分に訊ねてみる。自分の中で、その問いが小さく響く。がらんどうの部屋の中で、覚束なく団扇太鼓を鳴らしているような音で。答えはなく、ただぺなぺなした太鼓の音が、てん、てん、と鳴っているばかりだった。けれど、その覚束ない太鼓の音が、悪くはないなと思った。」
そこかしこで、独特な、素敵な表現に出会える。そして、本の題名も章の題名もまた、気持ちのどこかに触れられる感じがする。
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コロナの現状など時代背景そのまま、日記風の書き口で語られる内容は、アメリカで過ごした子供の頃の思い出から、今に続く友だち付き合い、親への複雑な想いなどまさしく日記のようにあちらに飛びこちらに帰る。作詞家となったカズとの程よい距離感の友情など、これもひとつの愛の形だと感じた。 なかなか心地よい読後感。
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各章のタイトルの付け方が何となくの会話の中からひっぱってきている感があって、肩の力が抜けていて素敵だなと思いました。
カズのラインの文面、あさとのやりとりが好き。
大人らしいお店に行って大人らしく飲み食いする描写もあるけれど飲み物を買ってベンチで喋るみたいなこともしていて良かった。
このアプリで初めて感想を投稿したら、うっかりコメントのところに入ってしまってて、評価と感想に入れないとな、入れたいなと思いながらそのままになっており。。
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中年を過ぎつつある中で、これまでの自分を振り返ってみる。
今だから分かること、これまでの時間の積み重ねが教えてくれること。今、自分の感じていること。
歳を重ねていくと、自分の人生を振り返ってみたくなる時がやって来るのだろうか。
若い頃よりもずっと死に近い場所にいることで、思うことがあるのだろうか。
エッセイではないけれど、川上弘美にもそういう時が訪れたのだろう。
何もないことの積み重ねが人生であり、何もないことは、何もないことではない、のでもある。まるで禅問答のように。
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短編小説のようでいて、だんだんエッセイに近くなる、最後までとりとめのない印象だったが、独特の心地よい空気のようなものを感じながら読んだ。
小説家の朝見と、アン、カズ、銀坂など、近しい人たちとの日常が流れていく。特にカズとの恋愛のような友情のような、付かず離れずの距離感が心地よい。60代、まだ元気だし、無理しない範囲で仕事もするし、なんとか一人で生活できるうちは、これはある意味理想なのかもしれない。
川上弘美さん、最近の作品はとにかく自由だなあ。もう文壇の大御所というか、野心みたいなものはとっくになくて、気の向くままにのびのび書いてるのかなあ、と感じた。
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なんか不思議な物語、その2
掴みどころがなくて、60歳でこんなに恋愛の話するのかーってことにも実感が湧かなくて、フワフワしてるのに最後まで読めちゃうのが不思議。
脈絡ないし大きな出来事があるわけでもないのに味わえるって凄い
2024.12.24
210
Posted by ブクログ
これってもしかしてエッセイ?と何度も思った。主人公・朝見のイメージがあまりにも川上さんぽいので。
小説家の朝見、"飛んだ"ことが3回もあるアン、作詞家のカズ。幼馴染みが四十年ぶりに再会。
3人とも六十代とは思えない程若い。3人で呑みに行っても噛み合わないようで、でも3人とも大人だからかとてもフラットにラフに付き合える。彼らの距離感がとても良かった。
それに3人とも離婚を経験しているせいか、恋愛に対してどこか冷めている感じが良かった。それは年齢のせいだけではないと思う。
私も六十代になった時、こんな感じで幼馴染みと再会してラフな距離感で付き合える友達がほしいと思った。
「カズの魂と自分の魂が、するっと近くに寄った気がした。近く、といったって、たいした近さというわけでもないことはわかっていたけれど、もう、それだけでいい気がした」
これは恋なのか。単なる友人関係とも違う。ファジーな関係が心地よかった。
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登場人物たちが思っていたより上の世代だった。
60代は自分にとって未知なので、みんな達観しているようなイメージを持ってしまいがちだけど、
小さいことで悩んだり、それを友達に聞いてもらいたかったりするんだよなと当たり前のことを思ったし、改めて友達は大事と思った。また60代の自分でも読んでみたい。
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予想以上に「大人」の物語だったが、今まで出会った物語の中で一番リアルな「大人」像だったし、こんな風に歳をとれたらいいのになと思った。
しかし難しい言葉がたくさん出てきた。主人公が小説家だからかな?
Posted by ブクログ
幼少期を海外で共に過ごした人たちが、時を経て再開し、またゆるりと時間を重ねていく。
日記のようなおはなし。
川上さんの小説は、高校の時に読んで以来20年近く振りだと思う。
あの時現文の授業の課題図書になっていて読んだのだけど、当時もあまり得意ではなかったけど、やっぱり今も得意ではなかった…
Posted by ブクログ
大人の恋ってどんなものかと思って読んでみたが、ふわりとした読後感がよかった。興味を持っても干渉し過ぎない、積み重ねられたゆるい関係。往年の文学要素も多いので、そっちも読んでみようかと思いました。
Posted by ブクログ
独特な表現や言い回しにだんだん慣れていくとともに世界観に入り込んでいく感覚が面白かった。
年齢によって変わることと変わらないこと。自分の年齢が上がっていっても、感覚としては若い頃とさほど変わらないなと感じていたが、きっと60代になってもやはり同じように感じ、考えているんだろうなと思った。
Posted by ブクログ
会話の一つ一つと人物設定が細かいのでエッセイかと思ったくらい。コロナ禍での出来事も日を追って書いてあって誰かの日記を覗き見している気分になった。