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風の吹くまま和史に連れられ、なぜか奈良で鹿にえさをやっているあたし(「ラジオの夏」)。こたつを囲みおだをあげ、お正月が終わってからお正月ごっこをしているヒマな秋菜と恒美とバンちゃん(「ざらざら」)。恋はそんな場所にもお構いなしに現れて、それぞれに軽く無茶をさせたりして、やがて消えていく。おかしくも愛おしい恋する時間の豊かさを、柔らかに綴る23の物語のきらめき。
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読みやすい
どのお話も短くてすぐ読める。あ~そういう結末かぁ、なお話もあれば、えこの後どうなったの?!と気になるお話まで盛りだくさん。どこででも起こりそうな話をテーマにしてて面白かった。
#ほのぼの
Posted by ブクログ
なにげない、さりげない日常の中で、とりわけ大声を上げて叫ぶほどでもないけれど、やり過ごすこともできない.....そんな「ざらざらな気持ち」を集めた短編集です
一編一編が味わい深くて、余韻に浸りながら編ごとに何度も読み返した。タイトル通り、後味が「ざらざら」とした短編集。けれど不快感のざらざらではなくて、ふとした瞬間に訳もなく泣きたくなるような、後悔に似た気持ちが残る感じ。 この本を読んでいるあいだ、かつて愛したひととの幸福の日々を思い出していた。洗濯機の...続きを読む使い方がわからないわたしに、洗剤と柔軟剤を入れる場所を教えてくれたこと。彼の実家で食べた、キンキンに冷やしたイチゴに白砂糖と練乳をかけたものが美味しくて、今でも春になると自分で作って食べること。当時はマイナーだった、彼の好きなアーティストがテレビに出ていると、つい教えてあげたくなること。愛だったものは消えてなくなったのではなく、ひっそりと習慣のなかで息づいているのだと気がついた。
読んだのは2度目。 もう全然内容は覚えていなかったんだけど、とてもとても今の心にぐっとくる。 大好きな本になった。 いてもいられない状態なんてそんなに長く続かないから大丈夫。 みたいなことが書いてあって、本当にその通りだなと思う。 早くこのざわざわした気持ちが去ればいいのにと思う時、この言葉を呪文...続きを読むのように唱えてします。
好き、恋、愛、いろいろあるなかで、楽しくて桃色なことばかりじゃなくて、それこそ心が「ざらざら」することは少なからずあって。 失恋とか今までの関係が変わっていってしまうやるせなさの中にいるときに、しっとりと読んだら、ざらざらした気持ちが少しは落ち着きそうな、そんな本。
はしばみ色ってどんな色だろうって調べたし、やっぱり胸ばっかり見られたら嫌かなぁ、とも考えた。 高い波はこない。でもずっと、気持ちよく揺蕩っていられる。 そんな川上さんの本が、好きです。
この小さなお話たちの漂わせる空気がとても好きです。 ふわふわと、しんみりと、恋したり恋を失ったり、それでも生活したり。あんなに愛したのに、今では少しも心を動かされない相手、わたしにも居るなぁと、わたしもしんみりしました。 まるで、誰かの話を隣で聞いているようです。 おかまの修三ちゃんがやっぱりとても...続きを読む好きで、わたしもこんな友だちに出会いたいです。 綺麗な青に卵の、かわいい表紙も好きです。
こちらが少し元気のないときにじんわりあたためてくれるミルクティーのような味わい。苦いような甘いような…。 また他の作品も読もうと思った。
読みやすい恋愛小説だなぁ。 最初の感想はこうでした。 でも、段々とその中にあるものが、じわりじわりと染み込んできました。 恋愛小説のなかには『え?こんな風になる??こんな事しちゃうのかぁ』と思うような、人物の心理描写がありました。ある人にとっては、それに共感ししっくりくるのだと思いますが、私にとっ...続きを読むては恐怖でしかないような。 この小説も、最初はそんな印象でした。 でも、じわりじわりと染み込んでくると、その中にあるものがとても分かるのです。 恋愛って、やるせないし愛おしいし。苦しいし楽しいし。そうだよねぇ、と。
あなたは、短編が好きですか?それとも、長編が好きですか? 小説にはさまざまなジャンルがあります。恋愛もの、青春もの、そして学園もの。横文字でいけば、ミステリー、ファンタジー、そしてホラー。さらには、京都が舞台、お仕事小説、そしてタイムトラベル…切り分け方次第で一つの作品であってもさまざまな分類の仕...続きを読む方ができると思います。例えば京都が舞台と言っても、青春ものに振った瀧羽麻子さん「左京区七夕通東入ル」、恋愛&SFに振った七月隆文さん「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」では、読み味が全く異なりますし、それぞれに好き嫌いも出てくると思います。内容の分類だけで好みの作品を見つけるのもなかなか難しいものです。 一方で、その作品の分量から分類することもできるでしょう。文庫本500ページで一つの作品というボリューム感のある長編、同じ分量の中に複数の作品が収録されている中編、そしてさらに短い短編など同じ小説といってもその長さによって楽しみ方は変わってくるように思います。また、長編、中編、そして短編と作家さんによってどの分量の作品に力量や魅力を感じるかということもあると思います。そして、読者の側にもそんな分類の好き好きは当然にあるでしょう。作品の世界に浸りたい!そんな気分の時には長大な長編が似合うでしょうし、時間がない中にサクッと気軽な読書を楽しみたいなら短編に手を伸ばしもします。選択の幅があるということはとても幸せなことだと改めて思います。 さて、そんな風に分量で小説を分類する時にもう一つの区分けが存在します。”掌編”と呼ばれるものの存在です。読み始めたと思ってページをめくったら結末だったという極端に短い作品含め、ごく短い内容の中に物語を見る”掌編”。ここにそんな”掌編の名手”と呼ばれる川上弘美さんの掌編集があります。文庫本にして、わずか221ページの中に23もの”掌編”がさまざまな物語世界を見せてくれるこの作品。表題作の〈ざらざら〉含め、そんなところから章題をつけるの!と感心してしまうこの作品。そしてそれは、短く綴られる物語の中に、どこか愛おしさと切なさを感じさせてくれる物語です。 『風の吹くまま、奈良にでもいってみようか』と和史(かずふみ)に言われ、『なんで奈良なわけ』と訊くと『なんとなく』と返され『どうしてこんな男とあたしは三年間も縁を切らずにやってきたんだろう』と思うのは主人公の陽子。『夏の奈良は、いいよ、きっと』と言うと『いそいそと旅支度を』始めた和史を見て、『夏の奈良、という言葉にちょっと嬉しくなっ』た陽子も『旅支度を始め』ました。場面は変わり、『鹿くさい…おまけに、なんなんだ、この暑さは』と『眉をしかめながら』言う和史に『奈良に来ようと決めたのはあんたでしょ』と言おうとするも『我慢した』陽子。そんな二人は『午後早くに近鉄奈良駅に着』くと『ガイドブックに載っていた蕎麦屋をめざし』、『三十分以上もさがしまわって』『路地の奥の奥にようやくめざす蕎麦屋』をみつけるも『今月いっぱい夏休み』と張り出されていました。やむなく『蕎麦屋のかわりに入ろうとした釜めし屋』ですが、『並びはじめてから十五分くらいたったところで、和史はとうとう音を上げはじめ』ます。『鹿って、鹿くさくてやだよ、まったく』と言う和史に『鹿なんだもん、鹿くさくてもしょうがないよ』と答える陽子を睨むと、『ボストンバッグからポータブルラジオを取り出し、ぱちんとスイッチを入れ』た和史。『現在太平洋高気圧が張り出しています。今日はこの夏いちばんの暑さ…』と『アナウンサーの声が突然明瞭に響』き、『一緒に並んでいる人たち』に一斉に『顔を向け』られ、スイッチを切った和史。陽子は『いたたまれなくて赤面し』ます。そして、ようやく順番が回ってきました。『五目釜めしに鰻釜めしね』と注文する和史に『あたし、そうめんでいいよ』と言うも『せっかく釜めし屋に来たのに…信義にもとる』と和史に否定されてしまった陽子。『なんなのよ、信義って、何に対する信義よ…まったく、わけのわからない男だ』と思う陽子は『むっつりと黙りこ』みます。しばらくして『釜めし』が到着すると和史は『五目釜めしと鰻釜めし両方の釜のふたを開け、それぞれのしゃもじでていねいにそれぞれの茶碗によそ』うと、陽子に渡してくれました。『うまいでしょ』、『うまい、けどさ』、『釜飯にして、よかったでしょ』、『よかった、けどさ』と会話する二人は、和史が笑うと、それにつられて陽子も笑います。『まだちょっといまいましい気分だったけれど、釜めしは確かにおいしかった』という陽子。そんな和史と陽子のどこか微笑ましい奈良への旅が淡々と描かれていきます…という最初の短編〈ラジオの夏〉。恋人二人のなんとも言えないひと夏の一瞬を絶妙に切り取った好編でした。 “短編小説よりもさらに短い作品を指す”という”掌編小説”。そんな”掌編”がなんと23編も収録されたこの作品。文庫本で221ページしかないことから一編あたりのページ数も単純平均で10ページもありません。読み始めて作品世界を理解して、その世界にどんどん入っていこうと思ったら終わっていた…”掌編小説”はとっつきやすい一方で深く作品世界に入り込めないもどかしさと背中合わせの読書が前提となるものでもあります。まあ、クラシック音楽と言ってもマーラーの長大な交響曲を聴くのと、シューベルトの歌曲を聴くのではその楽しみ方は当然異なりますし、それは何にでも言えることだと思います。しかし、長ければ、逆に短ければ感動が深いというものでもないと思いますので、これはある意味で小説のカテゴリーの違いとも言えます。一方で避けているわけでもないのですが、私はあまり”掌編”を読む機会なく今日に至っており、今までに私が読んだ”掌編小説”と言えば、31もの”掌編”が盛り込まれた、山本史緒さん「ファースト・プライオリティー」くらいしか思い浮かびません。ということで、久々の”掌編小説”の読書となりましたが、川上さんの小気味良い作風もあって、サクッ、サクッとした読み味の中にどこか余韻を残す好印象な読書の時間を楽しむことができました。 ということで、レビューとなりますが、”掌編”の場合、下手に内容を書きすぎると、完全にネタバレになってしまうというなかなかレビューの難しい作品でもあります。どうにか頑張って私の気に入った三編をご紹介しましょう。 ・〈ハッカ〉: 『子供のころはいつも床屋さんで髪を切っていた』というのは主人公の『私』。『おばさんの手でおかっぱにしてもら』い、帰りに『ニッキ味の飴』をもらった『私』。大人になった『私』は、『久しぶりに、床屋さんに行こう』と思い立ちます。そして、朝、テレビをつけると平打ちパスタのお店が紹介されているのを見て、『きしめんが好きだった』原田のことを思い出します。『三年間つきあっ』て『去年別れた』原田は『散髪が好き』でした。そんな原田の『剃りたての』うなじを思い出す『私』…。 ・〈トリスを飲んで〉: 『やっぱり日本人なら、トリスを飲んでハワイへ行こう、だよな』と『着陸の態勢にはいった』機内で『むっつりした顔のまま』そう言った父を見る主人公の鈴子。『鈴子も三十だから』と『母がつけた一応の「理由」』で親子三人で出かけたハワイ・マウイ島への家族旅。『二年に一度は女友達たちと一緒に海外にでかけていた』母に対して『本当に行きたい』のかと聞く鈴子に『父はただ「ああ」と答えるばかり』でした。『母にくらべて、はなはだしく口数が少ない』父が楽しめているのか気になる鈴子…。 ・〈オルゴール〉: 『関東北部の小さな町に暮らす小説家を』訪ねてきたのは、担当編集者の『私』。しかし『二時間以上も電車に揺られて来た』にも関わらず、飼い猫が『急病になったという電話で』あっけなく終わった打合せ。小説家を見送り『猫の話をしていたときの、いつくしみに満ちた』表情を思い出す『私』は、『誰かを好きになりたいな』と、『唐突に思』います。『鉄道で少し行けば、旅館がありますよ』と案内された『私』は『合宿所』のような『旅館』へと宿泊することになりますが…。 〈トリスを飲んで〉のような親子を扱った”掌編”もあるとは言え、他の大半の”掌編”は、現在進行形もしくは過去の恋愛を振り返る女性が主人公となる作品が集められています。なんとも言えない余韻を漂わせてくれるのがとても印象的です。もちろん上記した通り、この作品は”掌編”ばかりで、舞台背景を十全に理解する頃には結末に至っている、しかもその結末はハッキリしたオチというよりは、ふわっとまとめられているため起承転結のある物語を読みたいという方には向かないと思います。しかし、サラッ、サラッと流れていく中に、なんだか良いなあ、ふとそんな思いを抱くことができるのもこの作品の特徴です。 例えば上記で取り上げた〈オルゴール〉です。舞台設定は『関東北部の小さな町』、小説家と打ち合わせに訪れた編集者が打合せ後の時間にふと訪れるそんな街の様子、図らずも宿泊することになった『合宿所』のような『旅館』が描かれていきます。『部屋出しではなく、食堂でいっせいに食べる』夕食、そんな場は、『湖に面した大きな窓には紗のカーテンがかかっており、暮れかけてゆく景色をうすぼんやりと透かし見せていた』と描かれていきます。『鮎。白魚。ワカサギ。あさりご飯』と、湖で採れたものがふんだんに使ってある夕食。そんな場には『オルゴールのような音色のインストゥルメンタルが』、『棚に置かれたラジカセから流れていた』と印象深く描かれていきます。あっという間に終わる”掌編”には、だからといって何か大きなことが起こるでもなく淡々と結末を迎えます。『恋は、もうずいぶんしていなかった。たぶん、三年くらい』という主人公の『私』の胸に去来するもの、物語ではそんな心の内が語られることはありません。しかし、そこに描かれる情景が読者をなんだかとても切ない思いに駆り立てていく物語は、”掌編”でここまで雰囲気感が出せるものなのかと驚くばかりです。 そんな”掌編”のうち20編は川上さんが雑誌「クウネル」に創刊号から連載し続けたものでもあります。雑誌の特集自体でハワイを取り上げた際に掲載されたという〈トリスを飲んで〉では、親子三人の関係性が、短い”掌編”の中に鮮やかに浮かび上がります。『せっかくの親子三人水入らずなんだから』と『マウイ島のコンドミニアムの予約をてきぱきと手配』する中に実現したハワイの旅。そこには、旅慣れた母が見せる表情に対比して、『母にくらべて、はなはだしく口数が少ない』という父、この旅のためにパスポートを取ったという父のことを気にかける娘の鈴子の心の内が細やかに描かれていきます。父が楽しめているのだろうかと心配する中に『一瞬ほほえんだ』という瞬間を見る鈴子。そんな家族三人のハワイの旅が描かれていくこの”掌編”にもやはり読者の心を動かす何かを感じることができます。23の短編それぞれに、それぞれ短い物語の中に、ふと何かを感じさせるものがあるこの作品、”掌編の名手”とも言われる川上さんの魅力溢れる”掌編”の世界を存分に楽しませていただきました。 『剃りたての原田くんのうなじをさわってみるのが、わたしは好きだった。ひんやりとしたうなじ』。 23もの”掌編”が集められたこの作品では、ほんの些細なことにも関わらず、いいなあ、としみじみ感じる瞬間、そんな瞬間を思う主人公の姿が描かれていました。舞台も登場人物もさまざまな舞台の中に、サクッと物語を楽しませる川上さんの筆の力を感じさせるこの作品。気軽に読み進めていける分、もっとこの物語世界に浸っていたいという思いが逆に募るこの作品。 柔らかく穏やかに綴られていく物語の中に、居心地の良い時間を過ごさせていただいた、そんな作品でした。
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