川上弘美のレビュー一覧
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ネタバレ2011年発刊の10年前の本。10年前から脱力系をやっているのだ。
『インフルエンザの注射に行く。この医院には中村先生の日と原田先生の日があるのだけれど、そしてぜんそくの薬をもらうために毎月一回、三年以上は通っているのだけれど、いまだに中村先生と原田先生のちがいが判らない。
もしかしたら、同一人物がその日の気分によって名前を変えているのだけかもしれないと疑う。』
『大発見をする。ごきぶりは、モーツァルトをかけると、出てくる。マーヴィン・ゲイをかけると、ひっこむ。』
『歯医者さんから帰ってきたこどもが、
「今日ね、先生に『うちの母は、まだ少しずつ成長してるんです』って教えたんだ。」と報告 -
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本当によかった
日が差し光り輝くものへの愛おしさ
自分が子供になったり大人になったり頑なになったり薄くなったり、母に対して痛みをくわえてしまっていることとか、でもそれは自分でもどうしようもないことだったり 形の定まらなさ
どうしても満たされなくて何かを求め続けていて 本当に相手を愛しているのには間違いないのだけれど 相手ではなく結局自分を見ているのだけだということとか
最初から最後まで何かドラマ展開があるわけではなくただ淡々と移りゆく日常とか心情とか関係性とか細かく掬い取られてゆく
今目の前にあるもの 感じられることが本当のことでそれを確かめながら生きていくしかない それは一見不安定で不 -
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錚々たる方々の訳した古典文学!
竹取物語がモリミーの手にかかると、翁や貴公子たちの下心がスケスケで困惑するかぐや姫が目に浮かんでしまう。
和歌の訳がまたニヤニヤ。
むかし男ありけり、の伊勢物語はこんなに長いお話だったのかと驚いた。恋愛だけでなく友情や仕えた親王とのやり取りが印象的だった。
男としか出てこないので、これが業平のことなのか、時期はいつなのかとモヤモヤもするけれど、一遍の凝縮ぶりに愕然とする。
堤中納言物語はいろんなテイストの話が襲いかかってきて気が抜けない。
和歌の訳が絶妙!
有名な虫めづる姫君の女房たちの嫌らしさときたら、普通に和歌を訳しただけでは伝わってこないかも。
土佐日記、 -
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とりとめもなく奇妙で不思議な人や事柄がたくさん出てきて、頭が混乱しそうになった。といっても最後は「いとしい」に辿り着くだろうと読みすすめる。
最初はお伽話のようなおかしな笑いの場面もあるが、だんだんこわい話になってゆく。毎晩現れ、目の前でいとなみをするアキラとマキさんのユーレイ。一回につき2万円で関係を持つチダさんとミドリ子。玄関に猫を置いてゆくストーカー。兄妹の愛。愛する男性が膜におおわれ休眠してしまう話とか。なぜこうもいくつもでてくるのだろう。ストーリーの筋は、と考えたところ読み込めない。これは雰囲気を堪能しようと思った。やはり文章にひきつけられる。
泣けたのは、ユリエがオトヒコさんを、「 -
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ネタバレ目次
・物語が、始まる
・トカゲ
・婆
・墓を探す
どれもこれもそこはかとなく哀しいような恐ろしいような、ちょっとエロティックでもしかするとユーモラスな作品ばかり。
だけど一番好きなのは、やっぱり表題作だなあ。
男の雛型を拾い、同居していくうちに…っていう話なんだけど。
男の雛型ってのがまずよくわからない。
”大きさ1メートルほど、顔や手や足や性器などの器官はすべて揃っている。声も出す。本が読め、簡単な文章が書け、サッカーのルールは知らないがボールを蹴ることはできる、というくらいの運動能力がある。子供の背丈だが、顔つきは子供ではない。かといって、大人でもない。どちらともつかぬ、雛型らしい -
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ネタバレ同じ人間のあるかもしれないいくつかの違う人生。生まれてからの長いパラレルな道のりを同時に描く作者の野心作だなと思います。
読み始めは登場人物が主人公の名前の文字が違うだけで、みんな同じ名前なので入り込めないほど混乱する。でも読み進めていくうちに、それぞれの世界の中でそれぞれのキャラが立って行って混乱は収まっていきます。
大きな事件が起こるわけでもない(それぞれの人にとっては人生は大きな事件ですが)けど、少しの選択、少しの変化で誰でもに違う人生があるんだという、それが美しい文体で書かれて悪くない読後感でした。
つくづく思うのは、つらい、幸せ、悲しい、愉しい、虚しい、色々な場面はあれどつまら