米澤穂信のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
謎解きのカタルシスより、人間の思考や距離感の描き方が面白かった。
堀川と松倉は「知ってしまった以上は見届ける」という責任感を持ちながらも、特定の誰かに過度に肩入れはしない。
自分のモットーは貫くけれど、他人の人生まで背負おうとはしない。
その距離感が好きだった。
作中では重い出来事も扱われるけれど、過酷な被害描写はない。
それでも何があったのかは十分伝わってくる。
単なる「刺激を避けた優しさ」ではなくて、この作品が本来描きたいもののバランスを保つための節度でもある気がした。
真相が明らかになっても誰かの状況が劇的に良くなるわけではなく、非人道的な手段では結局何も解決しないことも描かれている。
でもそれを教訓として押しつけてこない。
誰も完全には救われないし、きれいに解決もしない。
それでも人間を単純な善悪に押し込めない。
その視線そのものが、この作品のいちばん誠実な部分だと思う。
改めて、米澤穂信作品の、人を簡単に断定しないフラットな視線が好きだと思った。 -
Posted by ブクログ
お目当ては米澤穂信さん!
また、『火のないところに煙は』が面白かった芦沢央さんも期待大でした。
他の御三方はお初でしたが……まあ、さもありなんですねぇ(^^;
さて、はじめましての方丈貴恵さん「メゾン・イニシェの怪」は、白衣の専門官が主人公かと思いきや、「エレベーターで異界に行く方法」を試すオカルトマニアも出てきて、何だか面白かったです。笑
そして先日『可燃物』を読んだばかりの私にとって、穂信先生の「お見通し」はなんとも嬉しい一編。
「葛さん、カフェオレと菓子パンだけじゃ体壊しますよ!」と感想に書きましたが、なんと本作では雰囲気のいい小料理屋(その名も〈りん常〉!)で、信頼する同僚と過ごす一幕が見られます。
たった30ページと収録作品の中で最も短いのですが、安定のクオリティでした。
芦沢央さんの「コールバック」はなんというか、バズ動画に影響されやすく想像力の足りない子どもたちにぜひ読ませたいと感じましたね……。
よくあるいじめ話かと思いきや、そこから繋がっていく真相の切なさ、胸の苦しさ。
面白いと評してよい内容ではないのですが、読ませる筆力を感じました。芦沢央さん、他の作品も読んでみたいですね。
まあただ、収録作品から感じるのは、泥臭いおじさんの警察小説は最近の流行りじゃないんだろうなぁ、と……。
警察官も当然スマホを駆使し、SNSアカウントも特定するし、流行りのVTuberも出てくる。
警察小説はほとんど通ってきませんでしたが、私はやはり旧来のイメージ通りの、地味な聞き込みや煙モクモクな昭和の警察官の方がすきだなぁと感じた次第です。特殊能力のあるタイプでなく、ただただ地味〜な。
文春文庫からは他にも警察小説アンソロジーが出ているようなので、もう少しいろいろ「お試し」してみたいですね(^^) -
Posted by ブクログ
ネタバレ密室のないクローズドサークル作品。3.1
ミステリーものの華は事件と解決が派手であるほどいい。しかし派手さが足りないと感じた。
殺人が起きるまでが冗長で、暗鬼館の特性が密室にもならなければ死に様の衝撃の弱さにワクワクが特に感じられなかった。
どうやって人死が起きた?と、手が止まることはなく、淡々と読めてしまった。
作中で言われている通り暗鬼館は欠陥が多い。主人公がゲームマスターの意向に沿わないように動くのはいいが、結城が犯人に仕立て上げられ監獄に入れられるところはなかなか納得いかなかった。せめて、完全論破されて入って欲しかった。
関水が人を殺してまで10億を欲した強い動機が知りたかった。
計算で10億を突き止め、足りる足りないの話は物語の転としての加速が感じられて読み応えがあった。
岩井が真木をピンポイントに頸椎?に誤射して殺してしまったのにも、薄暗い、たまたましゃがんだ、との言い分は、もうちょっと話の核心に触れるものであって欲しかった。それぞれが誰かの知り合いとの誘導も、話の道筋につなげて欲しい。
すわなについても、自分自身ゲームマスター的立ち位置をやるための後学で参加したのであれば、物語の各所にすわなの不気味さ不穏さを散りばめて欲しかった。
西野の自殺やガードの銃殺もギミックは面白いが、そうなんだ、としか思えなかった。
あえて中途半端を演出して続編への誘導を促しているのか。
あまり読後感があまり得られなかった。 -
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ネタバレ「栞と嘘の季節」というタイトルどおり、毒である「トリカブト」が仕込まれた「切り札」とも称される「栞」と、その「栞」にまつわる登場人物達の数々の「嘘」から成り立つ物語
前作、「本と鍵の季節」の続編である。図書委員を務める堀川次郎と松倉歌門は、図書室に返却された『薔薇の名前』の下巻から、トリカブトの花をラミネートした栞を発見する。
その栞を巡って、美少女・瀬野麗や図書委員長の東谷らを巻き込みながら、「栞の配り手は誰か。」という謎を追うことになる。
本作の特徴は、タイトルにもなっている「嘘」にある。
この物語の登場人物は、とにかく何かを隠している。積極的に嘘をついている訳ではないが、「知っていることを話さない。」、「都合の悪いことを伏せる。」というタイプの嘘をつく。
例えば、堀川は、『薔薇の名前』を返却した人物が図書委員長の東谷であることを知っている。しかし、「図書委員は利用者が何を借りたかを明かしてはいけない」という信念から、その事実を隠している。
松倉もまた、栞を見つける以前に、同じ栞を見たことがあったことを伏せている。
瀬野に至っては、物語の核心に関わる重大な事実をいくつも隠している。
登場人物のほぼ全員が、いわば、「信頼できない語り手」のような存在であり、真実を語らない。そして、それぞれの嘘によって物語が少しずつ歪められていく。このコンセプトは、米澤穂信らしく、非常に面白いが、十分に活かされているかというと、やや疑問も残る。堀川が東谷のことを知っていたという展開や、松倉とメリーさんの関係など、もっと劇的に明かすことで、サプライズにつなげることができそうな要素は多い。
「登場人物全員が何かを隠している。」という構図であれば、もっとトリッキーで、複雑な物語にもできたはず。そうした期待があっただけに、真相が明らかになったときの驚きはやや控えめだった。
終盤で明らかになる「栞の配り手」の正体も、伏線自体はきちんと張られているものの、登場人物が少ないこともあって、そこまで意外性は感じなかった。
奈々美という最後まで姿を見せない人物がミスディレクションとして機能しているものの、もう少し物語に関わっていれば、作品全体に深みが増したようにも思う。
一方で、話運びや構成の巧さはさすが米澤穂信。栞の持ち主探しから始まり、教師への毒物混入事件、瀬野と奈々美の過去へと自然に読者を導いていく手腕は見事。そもそも、栞が単なる毒物ではなく、瀬野と奈々美にとっては「切り札」であり、「抵抗」の象徴であった。その抵抗の象徴を、「私ならもっとうまくやれる。」と考えた奈々美の妹である及美が配り出す。しかし、その浅はかな考えから、奈々美の安定した生活が崩れないように、瀬野が懸命に動いていたという真相は印象的である。
読んでいる間は面白かったが、終盤の展開がややあっさりしており、もうひとひねりあるかと思ったら、そのまま終わるという展開。真相もおおむね想定の範囲内だった。登場人物の多くが嘘をついているという魅力的な設定だっただけに、もう一段階大きなサプライズが欲しかったところ。 -
Posted by ブクログ
小市民シリーズの四季をめぐる本筋としては、ここで一区切りがついたことになる。
単作としてまず、純粋に面白かった。大きな謎があり、それを解いていく小説として読ませる力がある。ただ、謎そのものがものすごく複雑だとか、派手な仕掛けで驚かせるというより、むしろ比較的シンプルな謎の中に、過去の積み重ねや人物の変化をどれだけ折り込めるか、というところがすごく巧い作品だったと思う。
少し内容に触れるが、
特に印象に残ったのは、「小市民」や「互恵関係」という言葉の扱いだった。シリーズを通して、小鳩くんと小佐内さんはその言葉によって自分たちを説明してきたし、同時にその言葉に縛られてもきた。自分たちはこういう人間で、こういう関係なのだ、という枠組みが、二人の距離感を支えていた。けれど本作では、その言葉がほとんど前面に出てこない。たぶんそれは、秋の時点で二人がもうその言葉が指し示すものとは別のところにいた、ということなのだと思う。それを象徴するような言葉も終盤で出てくる。
このシリーズは全体的に、ミステリとしてよりも、関係性が少しずつ変化していくことの面白さで読ませる作品だったと思う。感情的な場面でも、文章自体はかなり抑制されている。最後の最後までそうなのだが、だからこそ、最後の章の美しさが際立っていた。淡々と積み重ねてきたものが、そこで一気にパッケージにされる感じがあった。
このシリーズが期間限定の物語だからこそ、虚構から生じた「青春」であっても、読み手はそこに本物の「青春」を受け取れる。