小川洋子のレビュー一覧
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ふと気づくと、金属に穴があきはじめている。そもそもの目的がこれなのだから、驚く必要もないのに、なぜかとても不思議な現象を目にしている気分になる。一点の窪みが少しずつ、慌てず慎重に、奥へ奥へと潜り込んでゆく。電極と金属は一定の距離を保ち、決して触れ合わない。電極の回転も、穴の形成も、想像よりずっとゆっくりしたスピードで行われる。金属はまるでそれが自らの意思であるかのように、穴を受け入れている。この密やかな営みを、火花が祝福している。(第1章 株式会社エストロラボ〈細穴屋〉より)
凡ゆる仕事には、たとえ文化勲章受賞者ではなくとも、匠の技が隠れている。と、私は思う。
例えば、封筒詰めの単純作業であ -
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物語の中心にあるのは大きな事件ではなく、淡々とした暮らしの日々である。庭に現れる鳥の動きや、その鳥がどのような感情を持っているように見えるのかといった観察が繰り返され、静かな世界観が積み重なっていく。鳥は、一見すると小さくて守られる存在のように見えるが、渡り鳥の描写が示すように、遠くへ飛び続ける強さや目的を持った生き物としても描かれる。作品の中で常に“小鳥”と書かれているにもかかわらず、実際には主体性をもって迷わず進む存在として浮かび上がる点が印象深い。この“弱さと強さの同居”は、兄の生き方とも静かに共鳴している。
兄弟の関係は、「依存」「相互関係」「相互不干渉」のどれにも読める曖昧さを持っ -
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ネタバレリトル・アリョーヒンには、チェスがあってよかった。
彼にとってチェスは、単なるゲームではなく、人生そのものだった。勝ち負けが存在するのはもちろんだけれど、彼が本当に大切にしていたのは、どんな「棋譜」が生まれるかということ、そしてそれを通じて誰かと交わされる「会話」だったのだと思う。
チェスは人生のように、対峙する相手や盤を挟む場所によって、まったく違う表情を見せる。汚い手を使ってでも勝ちを急ぐ者もいれば、報酬のために勝ち方にはこだわらない者もいる。そこには、その人がどんな人生を生きてきたかが、そのまま染み出している。
象徴的なのが、マスターがアリョーヒンを叱る場面だ。橋のたもとで賭けチェ -
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ネタバレ『密やかな結晶』の世界では、社会から一つひとつ、何かが静かに消滅していく。その中で「密やかな結晶」とは何なのだろうか、と読みながらずっと考えていた。
小川洋子作品を通底するテーマに、「記憶の継承」「存在が滅びても、その記憶は残り続ける」というものがある。本作もまた、その系譜の上にある物語だと感じた。
この世界におけるささやかな救いは、消滅に囚われた人々の中で、なおも消えたものたちの記憶を抱き続ける編集者の存在だ。
彼は、すべてが消滅したあとの世界で、「わたし」が書き残した小説=物語の記憶をその身に宿したまま、歩き出していく。物語はその場面で終わるが、彼の中に残ったそれらの記憶は、なおも続い -
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素晴らしかった。大切に、大切に読み進めた小川さんのエッセイ集。エッセイ集と言っていいのかわからなくなるほど、短めの深い思いで唯一無二。いろいろなところで書かれたエッセイを章に分けて載せている。1、2章あたりのエッセイがたまらなかった。日常や、家族の幸せが美しく切なく心に響くエッセイがたくさんあった。亡き両親との思い出。よその子や赤ちゃんとふと、些細なきっかけで顔見知りでないその子たちと触れる中で思い出す、自分の子供との思い出。想像するということ、読書ということとは何か。と思えば、少し抜けた感じのクスッと笑えるエッセイもあり…ということで絶妙なバランス。小説も美しく、エッセイも美しく、すごい、小