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内気な人々が集まって暮らすその土地は、“アカシアの野辺”と名付けられていた。たったひとりの家族であるおばあさんが働いているあいだ、幼いリリカは野辺の老介護人に預けられて育った。野辺の人々は沈黙を愛し、十本の指を駆使した指言葉でつつましく会話した。リリカもまた、言葉を話す前に指言葉を覚えた。たった一つの舌よりも、二つの目と十本の指の方がずっと多くのことを語れるのだ。
やがてリリカは歌うことを覚える。野辺の重要な行事である“羊の毛刈り”で初めて披露された彼女の歌は、どこまでも素直で、これみよがしでなく、いつ始まったかもわからないくらいにもかかわらず、なぜか、鼓膜に深く染み込む生気をたたえていた。この不思議な歌声が、リリカの人生を動かし始める。歌声の力が、さまざまな人と引き合わせ、野辺の外へ連れ出し、そして恋にも巡り合わせる。果たして、リリカの歌はどこへと向かっていくのか?
名手の卓越した筆は、沈黙と歌声を互いに抱き留め合わせる。叙情あふるる静かな傑作。
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Posted by ブクログ
毎日、夕方の5時になると町役場からの放送で「家路」が流れる。
あまりにも自然に溶け込んだ歌声のため、人々は熱心に聴きいる事もなく、1日の区切りとして耳にしているだけで、誰が歌っているのかなどの関心を抱く者は誰もいなかった。
この地域に、ちょっと変わった人々が暮らす集団が存在していた。
彼らは極端な内気の性格のため、言葉を交わす人との関わりを避け、沈黙を優先した生活を営んでいた。
その地域に、おばあさんと孫娘リリカの二人が雑用係として加わることになる。
おばあさんはリリカを育てるために、この変わった人々が暮らす地域に職を得て、外部の人々との接触を担当する雑用係として働くことになる。
リリカの成長とともに、物語は小川さん独特の不思議な世界を醸し出す。
一人の少年が「アカシアの野辺」周辺で行方不明になり、大捜索にもかかわらず見つけ出すことはできなかった。
おばあさんは少年を孤独にさせないようにと、廃材などを使って人形を数多く作り、森の池の湖畔に立て飾った。
そしてリリカは湖畔で行方不明の少年や森の動植物たちに向かって歌い続けるのだった。
人と接することの少ないリリカも、成長した証として恋に巡り合うが、リリカは恋というそのものを理解していない。
純真な青年はリリカの生い立ちを理解して、踏み入った行動は慎む心優しい人だった。
二人は人が殆ど立ち入ることのない「アカシアの野辺」の森を散策しながら会話をし、僅かながらも外界の世界をリリカは知ることになるのだが、やはり生きる世界は沈黙の「アカシアの野辺」だと強く認識する。
そして孤独感を自ら意識することもなく、高貴とも云えるリリカの人生が綴られていた。
Posted by ブクログ
舞台は、静かというよりほぼ無音なのに、大切な音や声だけは伝わってくる。
わかりやすい事件や出来事が起こるわけじゃないのに
独特の胸騒ぎがする。けれども決して不快な胸騒ぎではないので不思議。
静かにゆっくり何かが動いていて、最後にごとっ!と音を立てて結末に行く感じ。
りりこの人生の大きな出来事だけを文章で羅列してみると、悲しい、切ない、可哀想、となるかもしれないが、その最後には、この人らしい終幕というか、
落ち着くところに落ち着いた、というような印象。
りりこの人生は可哀想なのか?
母親は長い髪の毛で自殺、祖母と生きてきて
その祖母も亡くなってしまって、
1人で暮らしていたが、独りぼっちだったのか。
けして賑やかではないが、賑やかや、派手さが、
幸せや豊かさとは違うのではないか。
その景色の一瞬だけを切り取ると、
りりこの人生は、寂しい人生と言われてしまうかもしれないけど、
その歌声と共に生きて、
最終的にはその歌声を求めて1人の人が訪ねてくる。
そして訪ねてきた時に、本人はそこにいなくても、
本人について伝えてくれ、一緒に想いを馳せてくれ、りりこが大切にしてきた仕事の仕方を守ってくれる人がいる。
それはすごく
やさしい人生を送ったというか、
豊かだったきがする。
人の人生は
いろんな面があるし
長さや派手さだけでない。
自分以外の何かに対して
可哀想だとか切ないとか感じることは大切だし、
他者に対して想いを巡らせることも大切で、それ自体はとても優しいことだけど、
想像の域を超えて、決めつけるのは違うなと
自分の暮らしに置き換えてみても思える作品だった。
物語を通して、静かでしーんとしていて、
水がぽちゃん、と落ちる自然の音や
衣服が擦れる音、だけで
声は少ないけど、
だからこそ
りりこの歌声が聞こえてくるような
綺麗な物語だった。
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