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作家小川洋子氏による、おとなの工場見学エッセイ。あのベストセラー『科学の扉をノックする』の工場版ともいえる本です。精密な穴開け加工を行う工場、お菓子の製造過程を見せる施設、競技用ボートを手作業で作り上げる造船所、多人数用ベビーカーや介護用品を自社一貫生産する企業、ガラス管の加工を手掛ける工房、そして鉛筆の製造における工夫と精神を紹介。幼いころから変わらぬ小川さんの好奇心と工場愛がじわじわ心にしみて、今、日本のものづくりに携わる人々と、繊細で正確な数々の製品のこと、あなたもきっと、とても愛おしく思うようになるでしょう!
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Posted by ブクログ
すごく面白くて1時間半ほどで一気読み。見学する工場に基準はなく、とにかく著者の気になる工場に行ったそう。
出てくる工場は、
·エストロラボ(細穴屋)
·グリコピア神戸
·桑野造船(ボート)
·五十畑工業(サンポカー)
·山口硝子製作所(ガスクロマトグラフィーの部品)
·北星鉛筆
時々出てくる著者の妄想劇が面白くてクスッとする。作家さんってやはり想像力が豊かなのだろうか。
また、工場見学のレポは細やかで温かな視点で書かれており、これまた笑ったり、なるほどと唸ったりと読んでいてとても楽しかった。
同著者の『科学の扉をノックする』も読んでみたくなった。
Posted by ブクログ
ふと気づくと、金属に穴があきはじめている。そもそもの目的がこれなのだから、驚く必要もないのに、なぜかとても不思議な現象を目にしている気分になる。一点の窪みが少しずつ、慌てず慎重に、奥へ奥へと潜り込んでゆく。電極と金属は一定の距離を保ち、決して触れ合わない。電極の回転も、穴の形成も、想像よりずっとゆっくりしたスピードで行われる。金属はまるでそれが自らの意思であるかのように、穴を受け入れている。この密やかな営みを、火花が祝福している。(第1章 株式会社エストロラボ〈細穴屋〉より)
凡ゆる仕事には、たとえ文化勲章受賞者ではなくとも、匠の技が隠れている。と、私は思う。
例えば、封筒詰めの単純作業であっても、横幅に合わせてセロテープを切るために、カンとしか言いようのない切り方をする達人たちがいる。しかも、多くの作業員はその域に達している。長すぎたら不恰好、短すぎたら用を足さないどころか、失礼に当たる。測ってもないのに常に横幅ぴったりにセロテープを切ることができるのは何故なのか。
芥川賞作家の工場見学記である。
普通の工場作業員の矜持や匠の技を見事に描いてきた作家に、例えば直木賞作家の高村薫がいる。「マークスの山」や「照柿」など、空気を吸うように作業をする傍ら、愚かな罪を犯してしまう男たち描いていた。それら、ノンフィクションのような硬質の文体に対して、小川洋子さんの文体は、幽玄の世界に呼び込むような軟質の文章だ。たとえノンフィクション作品になっても、彼女の文章は小説なのである。
「細穴の奥は深い」
女性のみの工場。細穴を作ることのみに特化した工場。
「お菓子と秘密。その魅惑的な世界」
洋子さんが子供の頃魅惑された岡山駅前のお菓子工場は「梶谷のシガーフライ」工場かなと思ってかなり調べたが、どうも違うようだ。何のお菓子作っていたんだろ。洋子さんが見学したのは神戸のグリコ。「グリコのおまけ」ではないらしい。正式な呼び名は「グリコのおもちゃ」。
‥‥私は「おまけ」と聞く度に、幼少時自宅の建て前で、まき残った「グリコのおまけ」を全部開いて、生涯一度のみ、母から涙ながらに叱られたことを思い出す。
「丘の上でボートを作る」
今は縄文時代丸木舟のようにくり抜くんじゃなくて、スポーツ工学を駆使して手作りされているらしい。琵琶湖近くにあるけど、完成品は琵琶湖に浮かべない。
「手の体温を伝える」
洋子さんと同じで、町で見かける度に幸せになれる「車輪付きの大きな箱」。1、2歳の子どもたちが数人乗せられて、みんなお揃いの帽子を被って、思い思いの表情で運ばれてゆく箱。あれは向島の五十畑工業が発明したらしい。〈サンポカー〉というらしい。
「瞬間の想像力」
山口硝子製作所。5000年前、アラビアの商人が焚き火をしている時、積み荷のソーダをかまどに使ったところ、溶けて砂が混じり、ガラスらしいものが出来た。それ以降、人類はガラス容器を作ってきた。そして此処では複雑極まる理化学用のガラス器具を作ってきた。
「身を削り奉仕する」
北星鉛筆株式会社。洋子さんには今でもペンだこならぬ鉛筆タコがあるらしい。現代の我々に、それを持っている人は少なくなっているだろう。PCタコ指先にタコがある人っているのだろうか?鉛筆の芯の黒鉛に鉛は入っていない。炭素の塊である。鉛色なので、そう名づけられたらしい。書き味と強度には油が必要で、これが手が汚れる原因。木も一回茹でて中の細胞を壊して削り易くさせている。精度は伝統工芸レベル。外国鉛筆が粗製なのは、日本の下町工場のレベルが違うかららしい。
2016年の取材開始から21年に単行本、25年に文庫本になるまで9年の月日が経っている。10年そこらでは色褪せない世界が、そこにあった。
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