【感想・ネタバレ】そこに工場があるかぎりのレビュー

あらすじ

作家小川洋子氏による、おとなの工場見学エッセイ。あのベストセラー『科学の扉をノックする』の工場版ともいえる本です。精密な穴開け加工を行う工場、お菓子の製造過程を見せる施設、競技用ボートを手作業で作り上げる造船所、多人数用ベビーカーや介護用品を自社一貫生産する企業、ガラス管の加工を手掛ける工房、そして鉛筆の製造における工夫と精神を紹介。幼いころから変わらぬ小川さんの好奇心と工場愛がじわじわ心にしみて、今、日本のものづくりに携わる人々と、繊細で正確な数々の製品のこと、あなたもきっと、とても愛おしく思うようになるでしょう!

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Posted by ブクログ

すごく面白くて1時間半ほどで一気読み。見学する工場に基準はなく、とにかく著者の気になる工場に行ったそう。

出てくる工場は、
·エストロラボ(細穴屋)
·グリコピア神戸
·桑野造船(ボート)
·五十畑工業(サンポカー)
·山口硝子製作所(ガスクロマトグラフィーの部品)
·北星鉛筆

時々出てくる著者の妄想劇が面白くてクスッとする。作家さんってやはり想像力が豊かなのだろうか。

また、工場見学のレポは細やかで温かな視点で書かれており、これまた笑ったり、なるほどと唸ったりと読んでいてとても楽しかった。

同著者の『科学の扉をノックする』も読んでみたくなった。

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2025年09月14日

Posted by ブクログ

ものを作ることは人間にしかできないこと。
それは人間に想像力があることとイコール。

穴を開ける、お菓子、乳母車、ボート、ガラス、鉛筆。
派手ではないけれど、なくてはならないものを作る人々。
それを見て、文章を書く小川さんの視点がよい。
小川さんの工場のチョイスもいいし、大変楽しい工場についての本でした

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2025年06月16日

Posted by ブクログ

ふと気づくと、金属に穴があきはじめている。そもそもの目的がこれなのだから、驚く必要もないのに、なぜかとても不思議な現象を目にしている気分になる。一点の窪みが少しずつ、慌てず慎重に、奥へ奥へと潜り込んでゆく。電極と金属は一定の距離を保ち、決して触れ合わない。電極の回転も、穴の形成も、想像よりずっとゆっくりしたスピードで行われる。金属はまるでそれが自らの意思であるかのように、穴を受け入れている。この密やかな営みを、火花が祝福している。(第1章 株式会社エストロラボ〈細穴屋〉より)

凡ゆる仕事には、たとえ文化勲章受賞者ではなくとも、匠の技が隠れている。と、私は思う。
例えば、封筒詰めの単純作業であっても、横幅に合わせてセロテープを切るために、カンとしか言いようのない切り方をする達人たちがいる。しかも、多くの作業員はその域に達している。長すぎたら不恰好、短すぎたら用を足さないどころか、失礼に当たる。測ってもないのに常に横幅ぴったりにセロテープを切ることができるのは何故なのか。

芥川賞作家の工場見学記である。
普通の工場作業員の矜持や匠の技を見事に描いてきた作家に、例えば直木賞作家の高村薫がいる。「マークスの山」や「照柿」など、空気を吸うように作業をする傍ら、愚かな罪を犯してしまう男たち描いていた。それら、ノンフィクションのような硬質の文体に対して、小川洋子さんの文体は、幽玄の世界に呼び込むような軟質の文章だ。たとえノンフィクション作品になっても、彼女の文章は小説なのである。

「細穴の奥は深い」
女性のみの工場。細穴を作ることのみに特化した工場。

「お菓子と秘密。その魅惑的な世界」
洋子さんが子供の頃魅惑された岡山駅前のお菓子工場は「梶谷のシガーフライ」工場かなと思ってかなり調べたが、どうも違うようだ。何のお菓子作っていたんだろ。洋子さんが見学したのは神戸のグリコ。「グリコのおまけ」ではないらしい。正式な呼び名は「グリコのおもちゃ」。
‥‥私は「おまけ」と聞く度に、幼少時自宅の建て前で、まき残った「グリコのおまけ」を全部開いて、生涯一度のみ、母から涙ながらに叱られたことを思い出す。

「丘の上でボートを作る」
今は縄文時代丸木舟のようにくり抜くんじゃなくて、スポーツ工学を駆使して手作りされているらしい。琵琶湖近くにあるけど、完成品は琵琶湖に浮かべない。

「手の体温を伝える」
洋子さんと同じで、町で見かける度に幸せになれる「車輪付きの大きな箱」。1、2歳の子どもたちが数人乗せられて、みんなお揃いの帽子を被って、思い思いの表情で運ばれてゆく箱。あれは向島の五十畑工業が発明したらしい。〈サンポカー〉というらしい。

「瞬間の想像力」
山口硝子製作所。5000年前、アラビアの商人が焚き火をしている時、積み荷のソーダをかまどに使ったところ、溶けて砂が混じり、ガラスらしいものが出来た。それ以降、人類はガラス容器を作ってきた。そして此処では複雑極まる理化学用のガラス器具を作ってきた。

「身を削り奉仕する」
北星鉛筆株式会社。洋子さんには今でもペンだこならぬ鉛筆タコがあるらしい。現代の我々に、それを持っている人は少なくなっているだろう。PCタコ指先にタコがある人っているのだろうか?鉛筆の芯の黒鉛に鉛は入っていない。炭素の塊である。鉛色なので、そう名づけられたらしい。書き味と強度には油が必要で、これが手が汚れる原因。木も一回茹でて中の細胞を壊して削り易くさせている。精度は伝統工芸レベル。外国鉛筆が粗製なのは、日本の下町工場のレベルが違うかららしい。

2016年の取材開始から21年に単行本、25年に文庫本になるまで9年の月日が経っている。10年そこらでは色褪せない世界が、そこにあった。

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2025年12月17日

Posted by ブクログ

有名作家の仕事インタビューということで、気になった。ビジネス書とは違い、経営や業務の特徴を学ぶというのではなく、読み手に魅力を感じてもらえるよう、作家らしい喩えは斬新だった。

町工場の魅力というか、一見普通に見える仕事を掘り下げるというよりも、見方を変える話の展開は気づきが多かったと思う。

読み物としてだけでなく、仕事に対する啓発本としても読める。

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2025年10月26日

Posted by ブクログ

穴、菓子、ボート、乳母車、ガラス加工、鉛筆。身近なものを作っている工場を小川洋子さんらしくレポート
彼女の筆にかかれば、どんな機会も職人さんも工場も美しく厳粛さまで感じる
鉛筆作る過程の描写はピカイチ!

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2025年10月04日

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毎日の仕事を、目の前の仕事を誠実にこなす。
小川洋子さんが見学し、工場や働いている人、製品を見て聞いて感じたことを小川洋子さんらしい言葉での表現されており、とてもよかった。おもしろそうと思った工場をみつけ、現地に足を運び、見学し、お話しし、推敲を重ねて文章にしているのを感じられた。

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2025年09月23日

Posted by ブクログ

面白かった!文章がさすがの美しさ。単なる工場見学の「ルポ」ではなく、作家として色々なところに想像力を巡らせ、作家ならではの感性と表現力で表現をする「作家の作品」に他ならないと感じた。

同じ場所を見学したとしても、このような表現にはならないだろう。工場で見つけた驚きや感動の共有により、日常目にするものや使うものを再認識できるという面白さももちろんあるが、この作家ならではの視点と表現力で表現し切った作品を読む楽しみもあり、通常のルポとは一線を画す「作品」であったと感じた。

もっと小川洋子氏の作品を読みたくなった。

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2025年09月06日

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工場経験がありますが、こんな素敵な表現で日々の業務を表現される方がいるんだと驚きました。見方を変えれば確かにと思いました

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2025年07月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

小川洋子と工場という組み合わせは、あまりにギャップがあるだろう。
小川洋子の作品は、静けさのイメージが強くて、まるで水中に深く潜っていくような、徐々に周りの音が聞こえなくなって、少し不可思議で、あやういバランスを保つ世界にどっぷり浸かるような読書、と思っていた。
対して工場はというと、少し騒々しくて、大規模にきっちりと整えられた、不可思議とは縁のない、すべて合理性に則った場所、という気がしてしまう。

その両者がこんなにすっきりとマッチするものなのか、というよりも、自分の認識が浅かったというか。

取り上げられている工場は、大規模なところもあるけれども、どちらかというとかなり小規模にやっているところが多くて、もちろん正確に品質の高いものを作り出しているところばかりだけれども、職人に頼るところも多く、無機質に機械がすべてを作り出すだけではない、どこか曖昧さを持つような印象も受ける。

それぞれの工場の紹介文は、小川洋子っぽさ全開で、かといってそのワールドにズルズルと引きずり込まれていくというよりは、今の世界をその表現で少し柔らかくしてくれるような書き方で、なんだか楽しい気持ちになった。

金属に穴をあける加工をする工場を紹介するなかで、穴の重要性を語るにあたって
「「王様の耳はロバの耳」という少年の声を受け止めるのも、死者を埋葬するのも、やはり穴である。」
って、そんな例え方、なかなかほかではない。

私はあまり製造や工場に縁がなく、日々使うものがどうやってここまできたか、あまり気にせずに生きてしまうのだけれど、その背景にどんな想いがあるのか、そこに想像を膨らませるのも随分楽しそうなんて思ってしまう。

それぞれの工場の皆さんが、真摯に向き合っている様子も見れて、これまで知らなかった世界を覗けるのも楽しい。

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2025年06月29日

Posted by ブクログ

小川洋子のこのシリーズは肩の力が抜けていて、ほどほど学べて、ほどほど好奇心が満たされ、そして何故だかノスタルジックな気分になる。

もしかしたら工場なんて、人間を機械の一部として組み込み、飽くなき生産性の追求に骨身を削るような世界かも知れない。でも、そんな無機質な日常に「手の温もり」とか「職人の技」といった“人間性“を見い出すところに本書の温かみがある。

取材先は、金属加工、お菓子、ボート、乳母車、ガラス加工、鉛筆。派手さはなくても、地道にものづくりに取り組み、人間にとって変わらず必要なものを作り続けている工場ばかりと著者はいう。経済の原則を考えれば、工場が存続しているのは、世の中に必要だからという事で間違いはない。そしてそれらは社会的な分業により、とても地味なものだろう。

毎日毎日そこで単調な作業をしている人たちがいて、そこには社会的な意義が必ずある。それを再発掘すべく、それこそ素朴な視点で情感を与え、人間味を掬い上げる姿はポエトリーですらある。

ー 完成品を知らされない事実は、穴をあけるという仕事に対する尊敬の念をいっそう強くさせる。穴の持つ潔さがそのまま、仕事ぶりと重なり合っている。一つの三角柱、一つの四角柱、一枚の板を前に、その人の目は穴をあけるべき一点にのみ注がれている。「私がここに穴をあけない限り、飛行機は飛び立てないのだ」などと驕った気持ちに惑わされたり、「ああ、この部品が何万個も組み合わさってぴかぴかの自動車になるんだ」とうっとり自己陶酔に溺れたりもしない。頭の中にあるのは一筋の穴、ただそれだけだ。

自分が何を作っているかも知らされないディストピア。しかし、それに挫けるでもなく、直向きに極めようと、ただ目の前の作業を研ぎ澄ます。その静かな姿は、柔道や茶道に通じる“道”の精神に限りなく近いのかも知れない。そんな事を感じた。

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2025年11月14日

Posted by ブクログ

あの工場を見てみたい!
お菓子、ボート、鉛筆など、私たちが日常で見たり使ったりしているものは、一体どこで、どのように作られているのだろう。
”ものづくり”の愛しさが綴られる工場見学エッセイ。


小川洋子さんが身近なものを製作している工場に見学に行き、その経験を綴る工場見学エッセイ本です。
「なんて面白そうなんだろう」という基準だけで選ばれた工場は、お菓子や鉛筆、ガラス加工製品、サンポカー(子供をのせる車輪のついた箱みたいなやつ。街中で小さい子が保育士さんにのせられ運ばれている。かわいい)など様々。
工場見学というのは、小学校のとき以外はバスツアー旅行なんかでしか行ったことがないですし、バスツアーだともう買い物の前座みたいな扱いで情緒もなにもないですが、小川洋子さんの文章を通してみるととても繊細で、美しく、尊く見える。

驚いたのは、工場での製品の製作という複雑な工程、何が起こってどう作っているかという内容を、文章だけで分かりやすく伝えている事。
自分で書いたら絶対に訳が分からなくなるであろう細やかな作業工程を、現場を見てもいない一読者でもこんな機械でこんな風に作っているのかなあと想像させることが出来るのは、流石小川さんの文章力という感じです。
全く知らない業界でも、魅力が伝わる、興味がわく。素敵な本でした。

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2025年11月06日

Posted by ブクログ

普段は全く興味も関心もない仕事のことなのに専門職の人の話を聞くと感心するとともに、もっともっと知りたくなってくる。そんな欲求を満たしてくれる一冊。
自分が普段行っている作業も著者にインタビューされ、活字となったら、こんなに魅力的になるのだろうか?そのあたりのこともとても気になる。

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2025年08月03日

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