【感想・ネタバレ】そこに工場があるかぎりのレビュー

あらすじ

作家小川洋子氏による、おとなの工場見学エッセイ。あのベストセラー『科学の扉をノックする』の工場版ともいえる本です。精密な穴開け加工を行う工場、お菓子の製造過程を見せる施設、競技用ボートを手作業で作り上げる造船所、多人数用ベビーカーや介護用品を自社一貫生産する企業、ガラス管の加工を手掛ける工房、そして鉛筆の製造における工夫と精神を紹介。幼いころから変わらぬ小川さんの好奇心と工場愛がじわじわ心にしみて、今、日本のものづくりに携わる人々と、繊細で正確な数々の製品のこと、あなたもきっと、とても愛おしく思うようになるでしょう!

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

小川洋子と工場という組み合わせは、あまりにギャップがあるだろう。
小川洋子の作品は、静けさのイメージが強くて、まるで水中に深く潜っていくような、徐々に周りの音が聞こえなくなって、少し不可思議で、あやういバランスを保つ世界にどっぷり浸かるような読書、と思っていた。
対して工場はというと、少し騒々しくて、大規模にきっちりと整えられた、不可思議とは縁のない、すべて合理性に則った場所、という気がしてしまう。

その両者がこんなにすっきりとマッチするものなのか、というよりも、自分の認識が浅かったというか。

取り上げられている工場は、大規模なところもあるけれども、どちらかというとかなり小規模にやっているところが多くて、もちろん正確に品質の高いものを作り出しているところばかりだけれども、職人に頼るところも多く、無機質に機械がすべてを作り出すだけではない、どこか曖昧さを持つような印象も受ける。

それぞれの工場の紹介文は、小川洋子っぽさ全開で、かといってそのワールドにズルズルと引きずり込まれていくというよりは、今の世界をその表現で少し柔らかくしてくれるような書き方で、なんだか楽しい気持ちになった。

金属に穴をあける加工をする工場を紹介するなかで、穴の重要性を語るにあたって
「「王様の耳はロバの耳」という少年の声を受け止めるのも、死者を埋葬するのも、やはり穴である。」
って、そんな例え方、なかなかほかではない。

私はあまり製造や工場に縁がなく、日々使うものがどうやってここまできたか、あまり気にせずに生きてしまうのだけれど、その背景にどんな想いがあるのか、そこに想像を膨らませるのも随分楽しそうなんて思ってしまう。

それぞれの工場の皆さんが、真摯に向き合っている様子も見れて、これまで知らなかった世界を覗けるのも楽しい。

0
2025年06月29日

「エッセイ・紀行」ランキング