小川洋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
まとまった小川洋子さんのエッセイを読むのは初めてでした。素晴らしい小説世界の創作秘話や素顔がうかがい知れ、小川さんの日常にそっと触れられた感があって興味深かったです。
小川さんの描く世界観が腑に落ちたり、語りかけられ考え思わず納得したりと、気にも留めない自分の日常を、新たな視点で見直すきっかけにもなりました。各編の内容がいかに深いことか! 「言葉を捨て去る」「答えのない問い」の前段などは、惚れ惚れします。
2012年から続く「神戸新聞」の連載、他に約10年間のエッセイから厳選された作品の数々…。日々の出来事、思い出、創作、野球やミュージカルなど、物語の裏側が描かれます。
ミュージカルの推しなどで、高揚感のある話もありますが、現実世界から想像が膨らみ、非現実の間を行き来するような雰囲気の話も随所にあります。そしてやっぱり静謐で温かく美しい文体です。
おそらく小川さん自身が、元気で楽しいときに陥る視野の狭さを自覚し、律しながら他者を思いやる姿勢が伝わってきます。小川さんがある種の哀しみを抱えていることで、想像力を働かせているのかもしれません。本とつきあいながら、優雅に歳を重ねるのも悪くない、と思わせてくれる一冊でした。
※本文庫版も単行本版同様、上出惠悟氏が焼いた陶板画(九谷焼)を名久井直子氏が装幀した美表紙で、第55回造本装幀コンクール「日本書籍出版協会理事長賞」を受賞しています。 -
Posted by ブクログ
補聴器といえば、聞こえづらい外の音を伝えてくれるものだ。
だが、小川洋子さんの魔法がかけられると、耳の奥で鳴っている、かすかな音楽を聴き取るための道具に思えてくる。
そして、泣きたくなるような悲しみや苦しみに満ちた秘密が、思わずこぼれ落ちてしまわないように、そっと封印するための御守りのようにも感じられないだろうか。
補聴器の移動販売員だったお父さんは言う。
”閉じ込められ、誰からも見捨てられ、忘れ去られたものを救い出すのと、閉じこもっていたいものに、それが求める小さな空洞を与えてやるのは、私にとって同じことです。”
お父さんの骨壺の中から、かつて耳に棲んでいたものたちが四つの欠片として取り出されたとき、彼らはお父さんの胸に仕舞われていた心の声を、娘である私に話しだす。収められた四つのエピソードは、耳に棲んでいたカルテットが語る幻想譚だ。
それは過去の記憶のようでもあり、また少し違うものでもあるだろう。
救い出したものたちが秘めていた物語。
そして消え失せてしまわないように、お父さんが自分の心と耳の小部屋を差し出して、匿ってきた物語たちなのだから。
夕暮れの砂場で、写真に写った涙の粒をトレースして譜面を作る縦笛演奏家は、鉱山の選鉱場から漏れる光を辿って作った架空の星座を五線紙へ音符に置き換えていた少年と、時を超えて響きあっている。
高齢者住宅を定期的に訪問する、年老いた補聴器のセールスマンさんと介護施設の助手である女子大生は、時や外界から隔絶された水面の世界で、耳をぴったりと重ね合わせて一つになる。
土に埋もれた小鳥のブローチを掘り起こすことで、世間の理解など決して求めない孤独で行き場のない魂への悼みが、静かに解放される。
すべてが、束の間だけ開いた時空のあわいに、滑り込んでしまったかのような物語たち。
補聴器の入った鞄を下げて、町から町へと旅するように巡っていたお父さんは、もう一つクッキーの空缶を鞄にひそませて持ち歩いていた。
クッキー缶とガラクタのような中身たちは、お父さんの死と共に消えてしまった。
独り遺された娘は、父の耳に棲んでいたカルテットを、自身の子供の頃の思い出が詰まった、のど飴の缶に納める。
娘の手で静かに振られた缶が奏でる音は、父の鞄から漏れていたカラカラという音と同じだ。
亡くなった者の声を思い出せずとも、懐かしい音が親と子をつないでくれる。そのイメージが美しい。 -
Posted by ブクログ
初小川洋子さん。奇妙でユーモラスな人たちのお話がどれも面白かった。夢の中の世界みたい。短編集は時間かかるものが多いけどこの作品は数時間で一気読みした。
「曲芸と野球」
スポーツの話は中々入り込めないから心配したけど、僕と曲芸師の不思議な絆が面白くて引き込まれた。最後の方でなんだか怪しくなってきて。最後は幻覚なのか…?
「教授宅の留守番」
まず舞台設定が面白い。部屋の中にどんどんお祝いの花が届いて埋もれてその中でお腹いっぱい食べ物を食べまくる。
「イービーのかなわぬ望み」
このお話とても好き。人間椅子を思い出す雰囲気。イービーが上手に半分にした小さなデザートを食べさせてくれる。私の淡い恋心みたいなものにきゅんとする。
「お探しの物件」
世にも奇妙な物語みたいな雰囲気で面白い。中でも好きなのは、「酷い先端恐怖症の女の人のために作られたのに肝心の本人は一歩も新居に踏み入れられず亡くなった丸い家」と「あらゆる動物の中で最も長寿なゾウガメのリリアン邸」がお気に入り。
「涙売り」
涙で楽器の音色をよくする女性が関節カスタネットのために痛みの涙を流す愛の狂気的物語…。自分の足の指を切っていくの怖すぎる…笑
「パラソルチョコレート」
このお話も好き。子どもの私の裏側にいるおじいちゃん。パラソルチョコレートで繋がった表と裏の二人。よくわからないのに温かい。
「ラ・ヴェール嬢」
村田沙耶香さんみたいな奇妙さと桜庭一樹さんみたいな性愛の描写って印象。小川さんこういうのもかくんだ。
「銀山の狩猟小屋」
あまり刺さらなかった。
「再試合」
二度目の野球のお話。小川さんが野球好きなのかな?
お風呂にも入らず歯も磨かず、毎日カレーを食べて、レフトの彼を見続けるのが絶妙に気持ち悪い。百三歳のおじいさんの言おうとしてることが全部わかるようになるのが(笑)この女の人も前歯が一本しかなくなっておじいさんとお揃いなのが(笑)
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ネタバレ雪がしんしんと降り積もると世界が沈黙したみたいに感じるよなあと思った。
「小川洋子氏の作品は音がないのだ」なんていう評価を読んだことがあるけれど、この作品では沈黙が静けさが静寂が何度もこんこんと表現されていて、ざわついて苦しい私の現実から目を背けるのにぴったりだった。「音がない」という評価については、そんなことないよと思う。小川洋子作品の特徴である"静謐さ"を「音がない」と表現するのはちょっと省略しすぎだと思う。
兄さんに手紙が届かないという部分で、「ああ、この人は生きているお兄さんとは違う沈黙の、死の世界に行ってしまったんだ」と気づいた。小川洋子さんの本では、「届かない手紙、届けない手紙」が時たま出てくるね。博物館技師である主人公がアンネフランクと顕微鏡を形見として所蔵したところも、母と兄の形見というよりは、2人と別の世界へ来てしまった自分の形見だと感じた。ここの部分は巻末の解説で構造的に意見が加えられていて、感じることはできたけど自分では言語化できなかったから、読んで「ああ」と思った。
連続殺人事件の推理小説でもあるし、読み応えがあったな。それに、女の人が主人公でない小川洋子作品は久しぶりに?読んだ気がする。他はなんだろう、猫を抱いて像と泳ぐかな?いや、そんなことないや、ことりも男の人だったけか。
とにかく小川洋子さんの作品が大好きだから、まだ読んでいないこの作品があることが嬉しかったし、読んだ後もうれしい。
私は死ぬことは怖くないのだけれど、この作品のように、もし、シロイワバイソンの亡骸に雪のふりつもる、転べば手のひらが真っ赤に染まる、沈黙博物館という切実な役割のある世界に閉じ込められてしまうのかと思うと、死ぬのは恐ろしいと思う。 -
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VR作品と本書の両方を楽しむと彼の人生の全体像が見えてすっきりします。
VRの公式のあらすじだけでもぜひ読んで欲しい。
小川洋子らしさ全開の洗練された短編集だったと
思う。忘れられたもの、閉じ込められたものに
手を差し伸べたやさしい小説だった。
自分にとって大事なものをここ最近は書き続けていると本人もどこかで言っていたのがよく分かる。
「琥珀のまたたき」「密やかな結晶」あたりと似た何かを感じたが、それ以上に主人公が小川洋子そのものである気がして、読んでいて満たされていくのを感じた。
編によっては好みが分かれるのは理解できる。
「今日は小鳥の日」は、共感はできない世界の1エピソードという受け止め方でも良いと思う。
小川洋子が影響を受けてきたものを考えると、「閉じ込められること」「自由」「祈り」「慰め」…そんなことについて描いたのかなあと、私はなんとなく解釈している。
「選鉱場とラッパ」は複雑な精神の成長過程が描かれていたのだと思う。
言い表せられないむしゃくしゃした感情、悪と分かっていても手を伸ばしてしまう衝動、成長に伴う綺麗ではない部分が小川洋子によって掬い上げられたということだろう。
彼女は、現実では許されない事にも、小説の中では優しく手を伸ばしてあげることができるとどこかで語っていた。
かつて彼の悲しみに寄り添ったカルテットの音楽。その演奏を聴けなくっても、それは消失ではなく彼の中に潜んでいる。その証に彼の涙はカルテットの演奏の音符となり楽譜となる。
そのことが軸となり、各編を繋いでいる密やかなまとまりが心地よかった。
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Posted by ブクログ
ネタバレ10編の短編集
心がどうしようもない状態の時の私にとって特効薬、小川洋子さんの作品
溜めておいたもの(特効薬なのであえて積んでいる)を手に取りました。読み終わってもまだ落ち着かないけれどこれがなかったら私の心はどうしようもないままはず
解説にも書かれているとおり、狂気や死の物語なのに読めばその静謐さにどこか心落ち着いて惹かれるのは童話のように読めるからでしょうか、グリム童話も内容は残酷ですし…
刺繍する少女
こんな風に消えてなくなってしまいたいときもあるかな…
森の奥で燃えるもの
耳の中の奥が気になってしまうお話
ケーキのかけら
書かれた当時ならこんなアルバイト(物品整理)もあったかも。今はシステマチックになったけど情緒がなくなったなぁ
キリンの解剖
夜中の工場、入りたすぎる
トランジット
自分自身の体験を思い出しました。知らない人とずっとおしゃべりしたり(逃げ出せなかった)、上に行きたいのに上方向のエスカレータがなかったり…。 -
Posted by ブクログ
亡くなった人の形見を展示する博物館をつくることを依頼された、博物館技師の物語。形見を見れば、持ち主の人生が語れる老婆と、その養女、そして庭師と一緒に進める博物館づくり。なぜか形見は盗み集めるという作業で、後半事件性も帯びてしまうが、全体として村上春樹の作品で感じるような、不思議な別世界観がある。
作中に出てくる「アンネの日記」や、沈黙の伝道師、少女の頬にある星形の傷など、物語のベースにはホロコーストがあるのではと思わせる要素も多いが、そう限定せずに読んでも、現生とは次元の違う場所を描いているのではという考えは拭えず、物語の最後までその謎を追う面白さもあった。