あらすじ
耳縮小手術専用メス、シロイワバイソンの毛皮、切り取られた乳首……「私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ」――老婆に雇われ村を訪れた若い博物館技師が死者たちの形見を盗み集める。形見たちが語る物語とは? 村で頻発する殺人事件の犯人は? 記憶の奥深くに語りかける忘れられない物語。
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Posted by ブクログ
ある村の大きなお屋敷に住む、ちょっと気難しい風変わりな老婆に雇われた、若い博物館技師の物語です。
屋敷には老婆と一緒に暮らしている少女と、離れには庭師と、その妻である家政婦が住んでいます。
故郷を離れ、この村にたった一人で訪れた技師は、亡くなった村人たちの形見を集め、それらを展示、保存する博物館を作ってほしいと老婆に頼まれます。
閉鎖的な世界で起こる奇妙な出来事が、小川洋子さんの手にかかると、なぜこんなにも美しく魅力的になるのだろう。
名前のない登場人物たち。次々に起こる殺人事件の犯人は? 博物館技師の行く末は?
謎が深まり、非現実的な世界にどんどん引き込まれていきます。
“人々から忘れられた世界の縁にひっそりと建っている” 沈黙博物館というタイトルがとてもいいです。
物語の終わりには、悲しい現実を知るとともに、こんな隔離された場所にいることが居心地が良いとさえ思ってしまいます。
Posted by ブクログ
スリルのある小説です。見事に感情がぶつかり合い、不思議なパズルを完成させます。主人公が戸惑い、躓いたりして沈黙と戦います。謎めいた小説の好きな方におすすめです。何か返事があるかもしれません。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの静謐で美しい文章が、話の内容と組み合わさり、静かな不気味さとあたたかさを持った作品でした。博物館に集められていくモチーフはどれも少しぞっとするようなもので、それでもだんだんと収蔵物が増えるにつれて、博物館になっていく。沈黙の伝道師たちも印象的。こんな世界があればいいのにと思う。
Posted by ブクログ
すごくしんとした気持ちになりました。
爆弾事件と殺人事件のくだりは忘れていたので、こんなにミステリな作品だったっけ…と思いましたが好きです。
沈黙の伝道師も好き。わたしもかれらにひっそりと語りたいです。
遺品を展示する沈黙博物館、訪れてみたいです。
わたしなら一体何を展示されるのだろう…。
解説が、気になる堀江敏幸さんだったのも良かったです。この村はすでに命の無い人が住む場所、という視点は無かったので興味深く読みました。次に読むときは、このことを心に置いて読もうと思います。
Posted by ブクログ
久しぶりに胸を打つ話を読んだ。老婆の描き方が素晴らしく、魅力的だった。自分だったら形見は何になるのだろう、と想像するのも楽しめるというか。言葉にならない思いがたくさん溢れてきた作品です。読み終わった時、この本に出会えてよかったと思った。
Posted by ブクログ
象徴に満ち溢れている。
沈黙。形見。博物館。冬。
身寄りのないことが、逃げ場のないことが分かった主人公。高齢の老婆。バイソン。
解説でホロコーストとの関連に触れているが、その文脈で行くと多くのことがなにかにあてはまる。
そして、圧倒的で静謐な世界観。
特に沈黙の伝道師の存在が不可思議で考えさせられた。
死の象徴か。冷たくも温かくもない。常に意識すれば寄り添っているもの。あちらから語ってくることはない。
Posted by ブクログ
幻想的な長編小説。「博士の愛した数式」以来、小川洋子の長編はあまり読んでこなかったのだけれど、すごく良かった。
博物館技師の「僕」が訪れた幻想的な村。そこで「僕」は形見を陳列する「沈黙博物館」を作ることになる。形見を収集してきた「老婆」と、その娘だという「少女」、屋敷に代々仕えている「庭師」と「家政婦」とともに…。
相変わらず身体の表現、触感の鋭さが際立つ。老婆の皺とそこにたまる垢、昔一部を切除された歪な耳。少女のまつ毛や指先。体のパーツ一つ一つを慈しむように丁寧に表現する。
村の伝統や仕来り、不思議な涙祭りや、沈黙の伝道師、卵細工、森や屋敷の様子も、目の前に浮かんできそうなほど繊細。
そして、博物館技師がいかに博物館を愛してきたか、老婆がいかに形見に思いを注いでいたか、その奥深さ。
長さを感じさせない、読みやすく儚い小説でした。
途中で、ホラー?サスペンス?な雰囲気になりつつ、グレーエンド、というよりはセピア色の落ち着いた幻想的なエンディングでした。
彼は沈黙博物館に取り込まれてしまったのでしょうか…。
今後博物館に行ったときの受け取り方が変わりそうです。
Posted by ブクログ
終始登場人物の名前が出ていないのにも関わらず、そのことに読み終わるまで気がつかないほど自然で美しい文体で描かれています。庭師と主人公との穏やかな交流と、その下に潜む秘密が徐々に明らかになっていくのをどきどきしながら読みました。
Posted by ブクログ
『猫を抱いて象と泳ぐ』を思い出しながら読んでました。
チェスの世界と博物館の世界という違いはあれ、どこか似通った幻想的な雰囲気があります。そもそもどこの国の話なのかも判然としませんし。
登場人物はそれなりに(と言うか結構活発に)動き回りますし、会話も豊富なのですが、どこか絵画的な静止状態と静けさを感じてしまいます。何処から醸し出されるものなのか判りませんが、小川さん独自の静謐感です。最後は少々荒っぽい感じがありましたが。。。
続けて読む気はないけれど、これからも折に触れ小川さんの作品を読んで行こうと思います。
Posted by ブクログ
博物館技師は、田舎に新しい博物館を建てる依頼を受ける。依頼主の老婆は、犯罪ギリギリの方法で手に入れてきた、亡くなった村人たちの形見を展示する博物館を建てようとしていた。
いいな、私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ。それがなければ、せっかくの生きた歳月の積み重ねが根底から崩れてしまうような、死の完結を永遠に阻止してしまうような何かなのだ。(p49)
老婆の言っていることは、恐ろしくもあるように思う。彼女は、亡くなった人々の形見を保存することで、「死の完結を永遠に阻止」しようとしているのである。
なぜ、彼女はそんなことをするのだろうか?
「沈黙博物館」と名付けられたその博物館の展示物には、簡潔に持ち主の氏名と、死亡年月日、死因、そして、その持ち主と形見に纏わる物語がつけられる。
この物語において「沈黙」は、特別な意味を持つ。村にいる「沈黙の伝道師」と呼ばれる修行者たちがおり、彼らは「完全なる沈黙の中で死ぬのを理想」としており、村の一番北側にある修道院で共同生活を送っているという。
「じゃあ、言葉で教えを説いて回るわけじゃないんだね」
「もちろん。ただああして、じっとしているだけ。でもこちらから話し掛けるのはタブーじゃないのよ。むしろ、大事な秘密を伝道師に語ると、絶対にばれないっていう迷信を信じている人は大勢いるわ。ほら、見て、あの人」(p36)
この村における「沈黙」は、あらゆる秘密が二度と他の人々に知られないようにする力がある。「沈黙博物館」は、「死者の記憶を封印する形見の数々(p63)」とともに老婆の語った物語を受け入れることで、この世界からその物語を絶対にばれないように「収集・保存・調査(p55)」することが大切なのだと老婆は語る。
少女が言うには、それまで形見は盗まれたのにもかかわらず、「盗難届けが出されたこともなければ、警察が調べに来たこともない(p159〜160)」。まるで、自分たちの形見の選択があまりに的確であるがゆえに、残された人々が、本人と一緒に天国へ行ってしまったのだと納得してしまうかのように。
「だとすると、僕たちの企みは成功していることになる」
「ええ、そう。でも本当は、天国になんて行かないのよね。その反対なの。永久にこの世界に留まるために、博物館へ保管されるんだもの」(p161)
しかし、博物館技師が、老婆から引き継いだ形見収集は、殺害された女性の遺体から乳首が切り取られるという連続殺人事件と結び付けられて、警察に目をつけられてしまう。
彼は、殺人の真犯人によって切り取られた乳首こそ、本当の形見だったと代わりに盗んできた品に達成感を得られない。そういう意味で、彼の収集は失敗に終わり、未熟だった。
それが解決するのは、犯人が共に博物館を作ってきた庭師だったことがわかったことによる。博物館が完成の直前、運び入れた展示品のいくつかが、試験管に入れられた乳首に入れ替えられていたのである。
その真実に恐れを抱き、一度は村を出ようと駅へ向かう技師だったが、少女によって連れ戻されることになる。そして、彼は、庭師が殺人の真犯人だった真実を永遠の秘密にするために、警察ではなく、沈黙の伝道師に語るのである。
こうして、彼は、老婆の仕事を引き継ぎ、今度は自分の収集した形見の物語を語りだすことになる。
何でもなかった人たちの、何でもなかったはずのものを形見とし、物語とすることで、何者かにする博物館。「沈黙博物館」というのは、そういう場所だと思った。それが、誰にとって幸福なことなのかはわからない。しかし、博物館というのは、老婆が「永遠を義務づけられた、気の毒な存在」というように、はじめからそういう場所だったのではないかとも思う。
形見というもの展示物とすることで、博物館のやっていることが一体何であるのか。それを立ち止まって考えさせる物語なのだと思った。
Posted by ブクログ
雪がしんしんと降り積もると世界が沈黙したみたいに感じるよなあと思った。
「小川洋子氏の作品は音がないのだ」なんていう評価を読んだことがあるけれど、この作品では沈黙が静けさが静寂が何度もこんこんと表現されていて、ざわついて苦しい私の現実から目を背けるのにぴったりだった。「音がない」という評価については、そんなことないよと思う。小川洋子作品の特徴である"静謐さ"を「音がない」と表現するのはちょっと省略しすぎだと思う。
兄さんに手紙が届かないという部分で、「ああ、この人は生きているお兄さんとは違う沈黙の、死の世界に行ってしまったんだ」と気づいた。小川洋子さんの本では、「届かない手紙、届けない手紙」が時たま出てくるね。博物館技師である主人公がアンネフランクと顕微鏡を形見として所蔵したところも、母と兄の形見というよりは、2人と別の世界へ来てしまった自分の形見だと感じた。ここの部分は巻末の解説で構造的に意見が加えられていて、感じることはできたけど自分では言語化できなかったから、読んで「ああ」と思った。
連続殺人事件の推理小説でもあるし、読み応えがあったな。それに、女の人が主人公でない小川洋子作品は久しぶりに?読んだ気がする。他はなんだろう、猫を抱いて像と泳ぐかな?いや、そんなことないや、ことりも男の人だったけか。
とにかく小川洋子さんの作品が大好きだから、まだ読んでいないこの作品があることが嬉しかったし、読んだ後もうれしい。
私は死ぬことは怖くないのだけれど、この作品のように、もし、シロイワバイソンの亡骸に雪のふりつもる、転べば手のひらが真っ赤に染まる、沈黙博物館という切実な役割のある世界に閉じ込められてしまうのかと思うと、死ぬのは恐ろしいと思う。
Posted by ブクログ
亡くなった人の形見を展示する博物館をつくることを依頼された、博物館技師の物語。形見を見れば、持ち主の人生が語れる老婆と、その養女、そして庭師と一緒に進める博物館づくり。なぜか形見は盗み集めるという作業で、後半事件性も帯びてしまうが、全体として村上春樹の作品で感じるような、不思議な別世界観がある。
作中に出てくる「アンネの日記」や、沈黙の伝道師、少女の頬にある星形の傷など、物語のベースにはホロコーストがあるのではと思わせる要素も多いが、そう限定せずに読んでも、現生とは次元の違う場所を描いているのではという考えは拭えず、物語の最後までその謎を追う面白さもあった。
Posted by ブクログ
ある村に博物館を建築するため、博物館技師が呼ばれた。
博物館で展示するのは死んだ村人たちの形見。
小川洋子さん独特の世界観。
静かに時は流れるが、なんとなく不穏な空気が漂います。
そこは音は聞こえるのに音がない世界。
震えました。
Posted by ブクログ
タイトル通り静かな話でした。でも、爆破事件や殺人事件が起きたりして、後半はドキドキしました。舞台になっている場所はどこなんでしょう?カナダ?北欧?勝手に想像してました。「沈黙の伝道師」寒がりでおしゃべりな私には、絶対なれそうもありません。
Posted by ブクログ
この物語は日本?外国?この世界?死後の世界?
シロイワバイソンも…
季節が変わる様子も見ているように感じた。
爆破事件や殺人事件の恐ろしい事件もおこるが
物語は優しい雰囲気のまま淡々と進む。
沈黙博物館の形見はメス、剪定ハサミ…
こんなものと思うがその人を語るにはとても重要なもの
私の形見として老婆は、僕は、なにを見つけて
くれるのだろう、聞いてみたい。
Posted by ブクログ
「博士の愛した数式」の小川洋子女史の小説。なんとも不思議な物語。人の形見を展示する沈黙博物館の作成依頼を受けた主人公。この博物館のある街がまた不思議。もしかして死者の街?
Posted by ブクログ
形見の博物館。
一つ一つの形見のお話しが読みたくなる。
この博物館に保護されれば
自分が生きた証は残されていくのかと思うと
自分の形見も仲間に入れてほしい気がしました。
Posted by ブクログ
なんだかぞっとしながらも、読み進めずにはいられない。
小川さんの著書はそういうものが多い。
「博士の愛した数式」が有名だが、こういうちょっと不気味な作風の方が好みではあるな。
有名でもなんでもない、全く普通の人物の形見を集め、博物館を作ろうとする話。
その博物館の沈黙を想像するだけで・・・
横隔膜、縮む。
Posted by ブクログ
なんとなく、題名に引かれて手にとってみた本。
彼女の作品を読むのはこれが初めて。
博物館技師という、これまた私のほとんど知ることのなかった職種が描かれていたのも面白かった。
小さな村を舞台に、その村で亡くなった人の形見を「収集」したものを博物館にするというちょっとミステリアスなお話。異彩な個性を放つ登場人物たちも魅力的。博物館をつくるという話自体が私にとって新鮮な発見がたくさんあった。全てのものは放っておくと風化してしまいなくなってしまう。収集して保存する。それが博物館の基本的な仕事なんだとあらためて思う。物が溢れかえっている世の中で、じゃあ何を保存するか。この本では、その人が確かに生きた、という証として、その人の「生」を最も体現しているものを形見として残す、という面白い発想がある。
さぁ、私が生きた証として何が形見として適当だろうか。
・・・、まだ何もないような。
Posted by ブクログ
読み始めた瞬間、二つの結末を想像した。あるいは二つは両立するかもしれないとも。
ひとつは、主人公の男がこの世界に取り込まれて抜け出られなくなること。
もうひとつは博物館は完成する前に瓦解すること。ひとつは外れ、ひとつは当たった。
殺人事件の話は夾雑物だと感じ、これがなければもう一ランク上の評価にしたかもしれない。
/博物館専門技師である「僕」は老婆の依頼に従って村の住人の形見を集めた博物館づくりに勤しむ。そのためには死者が出たときその者を象徴する形を盗み出さねばならない。
/中央広場で爆発事件が起こり少女は大怪我をする。左頬に星型の傷が残る。
/連続殺人事件。どうやら主人公は容疑者になっているようだ。真犯人は誰だ?
/博物館は完成するのか?
■簡単な単語集
【穴】役場の裏の塀に開いた穴。昔、納税者の識別をするために使った。耳がその穴にすっぽり入る間は納税の義務がない。そのため闇で耳縮小手術がなされることがあった。
【油絵の具】三十六色の油絵の具は売れないまま終わった女性画家の遺した執念のようなもの。
【依頼主】ソファーに付いた染みのような老女。《私が目指しているのは、お前ら若造が想像もできんくらい壮大な、この世のどこを探したって見当たらない、しかし絶対に必要な博物館なのじゃ。》p.14。時代がかった話し方をする老婆の存在はこの地の、この仕事のリアルさを減じさせここが彼岸ないしは異世界でもあるかのようにも感じさせる。
【依頼主の性格】少女によると《優しくもないし、親切でもないけど、邪悪でもない。彼女はいつも遠くを見ているの。》p.33。
【依頼主の要求】[1]物事をてきぱきと進める。[2]人がやらないことをやる。[3]絶対に途中やめしてははだめ。
【老い】《さすがに私も歳を取った。自分が老いると、世界までが老いたように感じるから不思議じゃ。》p.55
【形見】依頼主は村人たちの形見の品を収蔵する博物館を作ってくれと言った。依頼主が十一歳のときから集め始めた。誰かが死ぬたびになにか一品をもらった。《私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ。それがなければ、せっかくの生きた歳月の積み重ねが根底から崩れてしまうような、死の完結を永遠に阻止してしまうような何かなのだ。思い出などというおセンチな感情とは無関係。もちろん金銭的価値など論外じゃ。》p.49。《ここにある形見のほとんどは盗んだものである。盗品じゃ。》p.52。これからは主人公がその入手を引き継がなくてはならないと言った。《形見について語れるのは、それを収集した人間のみである。》p.313
【義眼】病院に入院していた、もと教会のオルガン奏者だったというおじいさんの形見。子どもに怖い話をしてそのときよく取り出して脅していた義眼を形見の品としてくすねた。
【聞く】《母がよく言ってるわ。未来が知りたかったら、耳の穴をふさげって。そうすれば、遠く未来にいる自分の内なる声を、聞くことができるの》p.125
【暦】依頼主が作成した暦にしたがってものごとは行われる。構想から完成まで二十三年。美しい文字で書かれイラスト入り。
【少年】修道院の少年。沈黙の伝道師同様シワイロバイソンの毛皮を着ている。出会った頃は会話できていたがいずれ自然に沈黙の行に入ることになるだろうという。
【卵細工】村唯一の名産品。
【沈黙の伝道師】一生ものを喋ってはいけない沈黙の行に入っている。住民には敬われているようだ。村の北の外れにある修道院で暮らしているらしいが行ったことがある人は少ない。《伝道師が求めているのは言葉の禁止じゃなく、あくまでも沈黙です。沈黙は自分の外側にあるのではなく、内側に存在すべきものなんです。》p.167。《手紙も日記も書けません。ただし、読むのは自由です。外から入ってくるものを拒絶はしないのですが、自分の中からは外へ出て行かないのです。》p.199。少年は出会った頃は話していたが時が満ちると自動的に行に入り喋らなくなるらしい。ところで修道院での暮らし方、行の方法など誰が教えてくれるのだろう。少年の話からすると、なんとなくわかるというものでもないようで誰かに教わってるふうではあるのだが。仮に文書化されたマニュアルがあったとしても最初に書いたその人は沈黙の行を失敗してるわけで…。行は実践していない、教え係みたいな人がいるのだろうか?
【兄さん】「僕」に顕微鏡の扱い方を教えてくれた。理科の先生になり保健体育の先生と結婚した。世界の成り立ちを知っているからか、ものを持つことに執着しない。本当にいるのかどうかは不明。
【庭師】依頼主の家の庭師。大工仕事もできる。夫婦ともにわりとつきあいやすい。《たいていの心配事は、頭で考えるよりずっとあっさり片付いちゃうもんさ》p.88。趣味でジャックナイフを作る。《いずれにしても、ものを作るってのは、人間に与えられた中で最も尊い営みだ。》p.138
【爆弾事件】少女の左頬に星型の傷を残した。いまだガラス片が入っている。《爆弾事件を恨んではならん。我々の身の上に起こることで、何一つ無駄なものはない。世界のすべてに理由があり、意味があり、そして価値があるのじゃ。形見の一つ一つがそうであるようにな》p.154
【博物館】博物館は常に拡大する宿命を持つ。《コレクションの展示されていない博物館にどんな魅力があるか、知ってる人はそう多くないだろう。》p.220。《私たちが知らないどこかに、この世から消えたコレクションを展示する博物館が存在しているのよ》p.328
【僕】博物館専門技師。旅行鞄の中身は《数枚の着替えと、使い慣れた筆記用具、髭剃りのセット、顕微鏡、そして二冊の本――一冊は『博物館学』、もう一冊は『アンネの日記』――それだけだった。》p.5
【保存】《物を保存しておくって、考えていたよりずっとややこしいことね》p.92
【娘】依頼主の娘。血はつながっていない。養女になったときすでに母は老女だった。《彼女は、まるで博物館がどこか遠い国にある秘密の楽園ででもあるかのように、うっとりとしていた。》p.34。《あなたの有能な助手になるためには、喪服の似合うことが第一条件ですものね。》p.69
【メス】「僕」が村に来て最初の死者は百九歳で村の長寿記録を塗り替え中だった外科医で、形見の品は彼が闇で耳縮小手術をしていたそのためのメスしかないと依頼主は言った。依頼主の耳を切ったメスでもある。
【野球場】村人は野球が好きなんだとか。いろんなチームが試合をする。そのときはお祭り騒ぎ。驚くほどレベルが高い。《男の子は誰だって、野球から人生を学ぶものでしょ?》p.82
【老婆】→依頼主
Posted by ブクログ
形見と沈黙を軸に進んでいく謎めいた物語です。登場人物の感情表現やスリリングな展開に引き込まれながらも、どのように物語が終着するのかが予想できず、先に先に読み進めてしまう変わった魅力のある本でした。
Posted by ブクログ
博物館技師として長閑な村を訪れた僕。
荷物は兄から譲り受けたお古の顕微鏡と
何度も読み返しているアンネの日記。
依頼主である老婆の面接を受けるのだが
そこは、形見の品々を展示する博物館だった・・・
後半に入ってから、物語の様相が変化してくる。
そういえば・・・
という空気は最初の頃から感じていた。
雰囲気に馴染んでスルーしておりました。
色んなところに違和感という形で存在してました。
最初の段階で僕が語っている博物館技師の仕事。
なるほど・・・沈黙を守る博物館・・
Posted by ブクログ
どこか遠い小さな村にある沈黙博物館。そこには人が生きた形見を展示してあるという。不思議な博物館の誕生にまつわる寓話である。私の愛する人が死んだとき、その形見が人知れずその博物館に展示してあったらうれしいだろうか、嫌だろうか。もし私が死んだとき、その形見が人知れず展示してあったら、私はそれを望むだろうか、それとも望まないだろうか。
Posted by ブクログ
何かでお勧めされてた本。
博物館というキーワードに惹かれて。
誰も駅に降りないような村で、博物館を作りたいという依頼主に会うためにやって来た博物館技師の僕。
未成熟な輝きを持つ少女と、どうみても親とは思えない位、年が離れた依頼主の老婆。
そこから沈黙の博物館と称した、老婆が集めた形見の展示の準備から、村で起こった死人の形見の収集(窃盗…)まで行うことになる。
読んでいくと、時々現れる不釣り合いなキーワードに意味があるのか考える。
持参した親の形見のアンネの日記、兄から譲られた顕微鏡、沈黙の行を行う沈黙の伝道師の存在。
人形劇やお祭りが娯楽の、へんぴな村っぽいのに、爆弾事件や猟奇的な殺人事件が起こったり、文化会館や観光用の土産屋があったり。
博物館を設立するお金の出所はおろか、老婆の出自や登場人物の名前すら出てこない。
老婆、少女、庭師、家政婦、そして技師さんこと僕。で構成されている。
一人称なのになんだかよそよそしさを感じるのはこのせいか。
ちょっと不穏だけど、幻想的で落ち着いた雰囲気で進む物語。何かを暗示しているようで、いまいち掴みきれない世界。
なぜ殺人犯の容疑者に疑われつつ、僕は逃げ出せなかったのか(洗脳?)
顕微鏡を形見としなければならない理由は?(社会との隔絶?)
誰も訪れない沈黙の博物館の運営は?
少女もまた老婆に見出だされた、博物館のための後継者なのか?
連続殺人の犯人以外、分かりやすいところがなくてもやもやと考えた。
最後の書評で、ホロコーストのくだりを読んだら、急に今までの話が繋がるようで、見方が変わる。
もう一回読もうかな。
Posted by ブクログ
「博士の愛した数式」を読み、小川洋子さんの他の作品を読みたい!と思い、作品のタイトルに惹かれ手にした一冊。
全体を通して、冬の静けさと薄灰色の重たい雪、というイメージ。
正直、読後感はすっきりしなかった。
(恐らく)自己表現のためにと、そんな勝手な理由で殺された挙句、形見として乳首飾られたくなんかないよ!って思ってしまったから仕方ない。
Posted by ブクログ
密やかな結晶を読んだときと同じ。
意味はわからないけど何か強く引き付けられて、意味はわからないのに息を詰めて一気に読んだ。
市川春子の漫画に少し似ている。
小川洋子の作品は国を感じさせないところがある。
落ちている髪の毛を不快に思うのは、そこに有機物から無機物への変容を見るから。
その人間が生きていたと言う証拠である物体(形見)は、髪の毛と同じく生前は有機物であり死後は無機物であった。その無機物に新たな役目、展示品としての役目を与えることで、有機物へと再転換させる。
形見とは、卵細工と同じなのかもしれないと思った。
修道院の中の描写が素晴らしく美しい。あのシーンだけでも、読んでよかったと思った。