小川洋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
意外とスルメ本だった
寝る前に気が向いたら1話2話読もうかなという風にちょろちょろ読んでたけどなかなかちょうど良かった(短編が10話入ってる作品です)
短編を結構書いてる作家さんだと「またお決まりのこのパターンね」みたいな手癖がどうしても出てくる。例えば本作に入ってる「ケーキのかけら」は「いつもかれらはどこかに」に入ってる「帯同馬」と似たテイストだ。このふたつの作品は特別好きな手癖なのでもっと味がしなくなるまでこすってほしいと内心思ってたりする(一方で他作品はちょっとパンチが弱かった気がして内容あんまり覚えてないのは内緒だよ)。
「ケーキのかけら」と「帯同馬」のどちらの話も、ものすごく見栄を張りすぎていて心も服装や周りの物までも虚構でかためたアクの強い老婆に気が弱めな主人公が付き合ってやる話だ。どう見ても老婆の暮らしぶりがハリボテ過ぎてそれが可哀想で笑えてくるけど、こういう老婆あまりにも身近にいませんか。人生のいついかなる時もなんとなく周りに存在していた気がするな。だからなんか他人事には思えないなと思う。
あとこれは万人受けするだろうなと思ったのは「森の奥で燃えるもの」ですね。SF……と呼んでいいんだろうか、身体から謎の器官を摘出されて収容施設にぶち込まれる話。
この短編集の中でなにか一作他人に勧めるならこれかな。この短編の著者が小川洋子じゃなかったらその著者の作品漁ってたなというくらい良い。これは珍しく何かしら(謎の器官)に答えがある作品だなと思う。 -
Posted by ブクログ
細かい描写を読み進めていると、いつのまにか物語のなかに入り込んでいる感覚。そして、思わぬ方向に連れていかれている。『盗作』もまさにそんな感じだった。
『失踪者達の王国』の伯母さん、『キリコさんの失敗』のキリコさん、『エーデルワイス』の弟、それぞれが大切にしているものや事柄と、それに対する思いを、私はちゃんと感じとれたか、と思ってしまった。
『涙腺水晶結石症』は、一番好きだった。ひどい雨のなか、ベビーカーと40キロのラブラドールのアポロを連れ、歩く。孤独を感じながらも、大切なものを守りたい思いに後押しされ、頑張る気持ち、そして訪れる絶望、希望。小さな白い結晶がそれらの全てをもたらした。アポロが元気になって、本当によかった。
読後感がもやっとするときもあるが、小川さんが小説のなかで意図するものを感じ取れる読者になりたいな、と思う。
他『時計工場』『蘇生』 -
Posted by ブクログ
昔、立花隆の「サル学の現在」を読んで、人類の先祖がチンパンジーのように残忍ではなく、ゴリラのように穏やかな性格だったら我々はもっと平和な歴史を刻んだだろうなと思っていた。どうやら、僕の考え違いだったようだ。山際先生は集団間の暴力の理由を言葉、死者の利用、共感性としている。ユヴァル・ノア・ハラリ「サンオピエンス全史」言う処の認知革命が原因なんだな。
山際先生の近親相姦のタブーの起原説に納得した。育てる経験が性的な関心を抑制する。そのインセスト・タブーがあるからこそ娘を他の家に差し出すことができる。また、類人猿のメスは親元を離れて繁殖するとある。
ここでレヴィ・ストロースの云う「女の交換」が発生する。構造主義者は女の交換ありきで考えているけれど、親と子供が過ごす時間、またメスが独立して作る関係性があってのことだと思う。
橋本治「源氏供養」のことも思い出す。紫の上にとって光源氏は父親のような保護者だったはず。とんでもない裏切りだよね。
メスにとっての前のオスの子供を今のオスが殺す子殺しは立花隆の本で知っていた。ゴリラにも見られるという。人間の目から残酷だと考えるのは不遜かもしれない。メスは何故子供を殺したオスを受け入れるのかという見方もそういう風にゴリラは認識しているか判らないともある。しかし、知能の高いゴリラがそう認識しないなんてあるんだろうか。
最後は山際先生と小川さんの屋久島探索。小川さんが森の中を歩くようという作家感が語られる。変なサル、人類はどんどん変なことになっちゃっているなあ。
そんなことを考えさせられる読書だったと思う。 -
Posted by ブクログ
河合さんの本を読むのは2冊目ですが、このおじさん好きだわ。大人が失った、子どものときに持っている力に着目されているところとか、深くお聞きしてみたい。それとか、相手の存在を受けとめる力も見習いたい。
この方のそういう人間力の根っこに、文学とか人文学的な関心とか経験が大いにあるんだなと実感する。まさに、生きることは、自分の物語をつくること であると、自分に対しても他人に対しても思いながら人と関わっておられるのだなと思った。
「博士の愛した数式」は映画で観たのみですが、そういう河合さん的な、子どもの力に着目するような読み方をしたら面白そうだと思った。 -
Posted by ブクログ
とあるアーケードを軸にした短編集。それぞれの話が絡み合って短編集全体として一つの作品となっている。何かをテーマにした短編集は小川洋子さんのよくあるパターンだが、それぞれの話が関連し合うというのは意外と珍しいかも。こういう個別の話はそれぞれで完結するものの全体として大きな話が流れてる、というのは連続もののTVドラマとかでよくある手法と思うが、1話ずつの長さがちょっと読むのにちょうどいい分量なのもあり、TVドラマを見ているような趣もある。
内容は小川洋子さん特有の現代のファンタジー。レースの切れ端、使われた絵葉書、義眼など、何だか美しくて儚い雰囲気がいい。特に以前読んだ『猫を抱いて象と泳ぐ』の空気感と似たイメージ、好きな人には堪らないと思う。また最後のエピソードもとても素敵。全体の儚さをまとめ上げるような役割で、これがこの作品全体の読後感を決定付けていると思う。
意味だけではなく、文章そのものが生み出す空気感を堪能できる小川洋子さん好きなら必ず満足のいく作品だと思います。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ小川洋子さんによる動物がテーマの短編集。2013年発行ですからちょい前のものです。
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作りとしては短編集となっています。相変わらず不思議な物語を綴ります。
タイトルに動物が絡みますが、物語は時として重層的に進みます。
あらすじを書こうと思ったのですが、上記の重層性の関係で説明しきれんと思い、このようにバッサリやりました。
帯同馬・・・タイトルは『フランスの凱旋門賞で優勝が期待されるディープ・インパクト。慣れない土地への移動のストレスを緩和するためにピカレスクコートが帯同場として出国した。』という点より。主人公は(おそらく)大阪モノレール間のみ移動できる電車恐怖症の女性(職業;実演販売)。
ビーバーの小枝・・・主人公はとある作家。タイトルは、彼の翻訳を担当した外国人が翻訳の際にさすったという、ビーバーが表皮をキレイに食った小枝より。
ハモニカ兎・・・主人公は、とある村の朝食屋の主人の話。タイトルは、この男の村で開催されるオリンピック競技の開催までの日めくりのボードより。ここにかつてハモニカ兎という特産兎がいたという話から、この動物が日めくりボードになっている。
目隠しされた小鷺・・・主人公はとある私立美術館の受付係。タイトルは、ここに訪れるうらびれた修理屋で何をやってもダメそうな「アルルの女」が機敏に助けた動物から。
愛犬ベネディクト・・・主人公は若い男の子(大学生くらい?)。タイトルは彼の妹が可愛がる陶製の犬の名前より。
チーター準備中・・・主人公は動物園の受付で働く女。タイトルは、彼女の失ったhがチーターcheetahに含まれていており、また彼女が好きなのは展示の主人のいなくなった「展示中」の檻とその看板だったことから。共有されない「喪失」の悲しみが痛い作品。
断食蝸牛・・・主人公はとある断食施設に身を寄せている女性。タイトルは、彼女が足しげく訪れた近くの水車小屋、そこで買われている蝸牛と、彼女が入っていた施設の目的から。
竜の子幼稚園・・・主人公は身代わり旅行人のおんな。タイトルは、若くしてなくなった弟が通っていた幼稚園から。
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今回も、美しくも静謐に満ちた表現の花園にうっとりしたのですが、読中ひらめきました。小川氏の表現は、ナチュラル・メイク的表現だな、と。
通常描写というのは隠喩であれ直喩であれ、手を変え品を変え、時に複数の角度から物事を表すと思います(違うって!?)。
でも小川さんの表現はこんな厚化粧ではないのです。もっとシンプルで美しい。あ、でも薄化粧というわけではないのです。
そこにはきっと計算と試行があり、一番質の良い表現が意図をもって配置されているのだろう。そして表現は適切に間引かれ、ミステリアスな雰囲気をまとうのだろう。
ああ、これって、(薄化粧でなくて)ナチュラル・メイクじゃないのか、と。という一人合点でした笑
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表現が適度に間引かれているせいか、最初の「帯同馬」以外、舞台がどこであるか分かりません。
特に幻想度が強いのが、最後の「竜の子幼稚園」でしょうか。身代わり旅行人なんて聞いたことが有りません笑 でもあったら素敵だなあとも思いました。最後に死んだ弟と再会するかのような出会いも幻想度を高めていたと思います。
また、学校に通わなくなった妹がドールハウス世界に没入する「愛犬ベネディクト」もちょっとした狂気を感じます。妹の没入に祖父も陰に陽にサポートし始める点です。
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ということで二週間ぶりの小川氏の作品でした。
今回も美しい静謐感に満ちた表現を頂きました。決して起伏が激しい展開ではありませんが、このワードチョイスあってのこの展開だと思っています。
ことばを楽しみたい方にはお勧めできる作品です。