【感想・ネタバレ】最果てアーケードのレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年04月19日

小川洋子はいつ読んでも小川洋子を感じられて安心する
会いに行った先で幸せに過ごしていることを願います

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Posted by ブクログ 2023年06月03日

生と死の間にある小さな物語たちが、小川洋子さんにしか描けない優しく穏やかで静謐な、しかしときに冷たく曖昧な描写で淡々と紡がれていきます。
途中途中で感じられる違和感も、最終章で納得が行く形となりますが、まだまだ私が未熟なこともあって全てを理解しきれてはいないような気がします。とはいえ、全てを語らない...続きを読むのも小川洋子さんワールドという感じがして、なんとも魅力的でした。
きっと遠くない未来にまた何度も読み返すであろう特別な一冊に出逢えました。

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Posted by ブクログ 2023年02月25日

良かったです。
小川洋子さんの作品で今まで読んだ中では「ことり」が1番好きですが、同じ位大切にしたい本になりました。
いつも独特な世界観で中々感想を書くのが難しいのですが、この作品は読みやすく主人公の気持ちに触れ合えるような気持ちになれました。
変わらず不思議な世界です。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年11月29日

「この世界では、し、ではじまる物事が一番多いの。し、が世界の多くの部分を背負ってるの。」という台詞で、死を連想して不思議な気持ちになった。生という漢字はたくさんの読み方があるが、死は1つしか読み方がないという話は有名だ。
どの短編にも切なさがあり、それらも日常として、アーケードに吸収されていく。特に...続きを読む父を、よりにもよって約束していた映画館で、火事で失ってしまうのは辛すぎる。ラストは不思議な終わり方だった。父の元に行くといいながら、雄ライオンのノブの暗闇に入っていく。その頃、人さらいの時計も止まっている。父と、アーケード、それらの思い出から一歩踏み出す。

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Posted by ブクログ 2022年09月15日

「紙店シスター」と「人さらいの時計」が好きだった
こんな商店街があったら行きたい、というよりは
この商店街の中の人になりたいと思った

登場人物は皆、一様に優しくて温かいのに、何故か物語全体は少し薄暗くて冷たい印象があって不思議な本だった。

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Posted by ブクログ 2021年11月15日

1人1人奇妙ながら物語があって小川さんらしい温もりとミステリアスで骨董品のほこりのような落ち着く本だった。べべとお嬢さんとお父さん、そしてアーケードの人たちが愛おしい。

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Posted by ブクログ 2021年08月08日

アーケードを中心とした短編小説。
時系列がバラバラで1遍1遍は不思議な世界観だが、最後まで読んだ時にこの本の仕掛けがわかるちょっと切ないお話です。

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Posted by ブクログ 2021年07月08日

とにかく頭に映像が思い浮かぶ。読んだ人と一緒に同じような映像を想像してるのか絵に描いて突き合わせたりしたい。

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Posted by ブクログ 2021年06月15日

1日に客が一人も来ないようなマニアックな店が並ぶ、古い商店街。その商店街の大家をしている父と、老犬べべと暮らす主人公は、商店街で買われた商品を客の家まで届ける仕事をしている。古着から取ったレースばかりを扱っているレース屋に訪れた老女は、家で誰にも着られない舞台衣装を作っているという…。

同一主人公...続きを読むで同じ商店街を舞台にした、アンソロジータイプの小説である。商売にならないような、古いレース、誰かの手紙、ドアの取っ手、勲章といったものを売る、不思議な登場人物と接するところに生じる、割と軽めのストーリーがちょうどよい盛り上がりを見せる。

百科事典を売りに来た紳士に、その百科事典を最初から読みたがる少女、そして一言一句を丁寧に写す紳士など、純文学らしく、どういう商売で生活しているのかわからない人達が現れ、ゆったりとした人間関係を描く。

時々極端に言葉をいじくり回す、小川洋子らしい表現も素晴らしく、それでいてイベントや人間関係が深くなりすぎないため、読書の初心者が『博士』の次あたりに読むのも悪くないだろう。

後半までも、独特のテンションをキープしたままでストーリーは進むが、べべの老化にしたがって、進みはゆっくりと鈍化していく。読み終えるのがもったいないと思っていたのが、作者の策にハマったようにスローダウンしていくのが興味深い。

岩岡ヒサエの漫画(なりひらばし等)みたいだなあと思ったら、漫画化もされてるのか。しかし、ちょっとイメージと違った。

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Posted by ブクログ 2024年04月21日

とあるアーケードを軸にした短編集。それぞれの話が絡み合って短編集全体として一つの作品となっている。何かをテーマにした短編集は小川洋子さんのよくあるパターンだが、それぞれの話が関連し合うというのは意外と珍しいかも。こういう個別の話はそれぞれで完結するものの全体として大きな話が流れてる、というのは連続も...続きを読むののTVドラマとかでよくある手法と思うが、1話ずつの長さがちょっと読むのにちょうどいい分量なのもあり、TVドラマを見ているような趣もある。

内容は小川洋子さん特有の現代のファンタジー。レースの切れ端、使われた絵葉書、義眼など、何だか美しくて儚い雰囲気がいい。特に以前読んだ『猫を抱いて象と泳ぐ』の空気感と似たイメージ、好きな人には堪らないと思う。また最後のエピソードもとても素敵。全体の儚さをまとめ上げるような役割で、これがこの作品全体の読後感を決定付けていると思う。

意味だけではなく、文章そのものが生み出す空気感を堪能できる小川洋子さん好きなら必ず満足のいく作品だと思います。

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Posted by ブクログ 2024年02月17日

特殊で個性的な店が集まる世界で一番小さなアーケード。
配達係の女の子の視点でアーケードの出来事が語られる。
お客さんも個性的で面白く引き込まれる。
微笑ましさと物哀しさが同居した著者ならではの世界を堪能する。

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Posted by ブクログ 2024年01月06日

アーケード街大家の父親を亡くしたわたしが、お店を訪れるお客様と織り成す小さな物語。
どこかもの悲しい雰囲気のなかに灯る小さな光、お店それぞれの味わいがありました。

小川洋子さんの作品に漂う雰囲気は本当に独特。
穏やかで静謐な世界観。

レース屋、義眼屋、ドアノブ店、勲章店など、
「一体こんなもの、...続きを読む誰が買うの?」
という品を扱う店ばかりが集まってるアーケード。
買いに来る人は少ないけど必要とする人がいて、そんな人のためにお店がある。

お気に入りは、
*衣装係さん
*百貨辞典少女
*紙店シスター

小川さんの作品は、個人的にやっぱり静かな環境でゆったり落ち着いて読みたい。
小川さんの文章表現がとても好き。
やっぱり良いなぁ。

アーケードの突き当たりの中庭で愛犬ベベと過ごす時間が愛おしい。
店主だけじゃなく、配達屋さんの思いも胸に響くものがありました。
小川ワールド堪能しました。

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Posted by ブクログ 2023年12月21日

『寡黙な死骸 みだらな弔い』以来に読む小川さんの短編集。
レース、使用済みのはがき、勲章、義眼等一見役に立たなそうな品物を扱う店が連なるアーケードと、そこに住む住人達と買い物客のエピソードを一つずつ丁寧に拾い上げた連作は寂しく、ときに静かな狂気を孕んで紡がれている。
どのお話も死や別れを絡むせいか、...続きを読む全体的な雰囲気が物悲しい。しかし、この連作の語り部である「私」はアーケードの大家の娘としてそこまで悲観的ではない。アーケードの配達係としてアルバイトをする彼女と、彼女の助手である犬のベベがかわいらしいエッセンスを仄暗い小説に加えている。
個人的なお気に入りは最初の「衣装係さん」と「遺髪レース」だった。

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Posted by ブクログ 2023年05月16日

【好きなだけ窪みに身を沈めていられるよう、ただ黙って放っておいた】

「一体こんなもの、誰が買うの?」という品を扱う店ばかりが集まった小さなアーケードの話。
「私」も店主たちも登場人物がみな大切なものがあり、繊細だけれど芯が通っているため、発言の一つ一つにハッと思わされる。
短編集のようだが話に繋が...続きを読むりはあって、ただ時系列がバラバラ。しかし不思議と違和感がない。
作中に「それを必要としているお客さんが来るまで、わたしたちはいつまでも待った。」という一節があるが、もしかするとこの話の一つ一つが読者が必要とするタイミングで読まれるようになっているのではないだろうか。

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Posted by ブクログ 2023年02月03日

全体を通して、静かなお話
ひっそりと、静かに、でも確実に、光の中に存在しているアーケードが浮かんでくる。
綺麗なだけでなく、少しの狂気なんかも含まれている。
結局「私」はどんな人物で、何歳で、生きているのか死んでいるのか、生きているなら何をして生活しているのか、そんなことがほとんど分からなかった。
...続きを読むどこか非現実的なで、偽物のようなアーケードだけど、本当にあったら行ってみたくなった。

親しい人、大切なものを失くすことへの向き合い方のひとつのヒントを教えてくれるような気がしました。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年10月02日

小川洋子さんらしいこざっぱりした悲しみ?哀愁?ただよう短編集です
どこかにある小さな小さなアーケードを舞台に主人公の『私』と様々な人のやりとりが描かれてます

私が遺髪レース屋さんに頼んだのはアーケードの過去から飛び出していく自分とのお別れの為だったのかな…と思いました

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年09月22日

優しさの中に喪失感、死の香りが漂っています。ここで売られているものは必要がなさそうだけれど、誰かにとっては大切なものばかり。自分だけの大切なものが誰かの手によって届くって素敵だな。「私」はこのアーケイドの商店街の人にお父さんの姿を見ているような気がします。そして人生そのものなのかもしれない。

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Posted by ブクログ 2022年08月24日

小さなアーケードで、
人々が少しずつ、それぞれの人生を重ねながら
今を生きている。

アーケードに暮らす登場人物それぞれについての部分は短編でも、小川さんの情景表現があれば、ずっと昔から知っているような、自分も何かしらの当事者のような、関わりがあるような、、
そんな不思議な気持ちになれます。

(衣...続きを読む装係さん)描かれているのは今の衣装係さんについてなのに、衣装係さんが歩んできた長い長い歴史に、ふと触れてしまった、たしかに生きていたんだと実感する感覚を味わえました。

ここに記されているのは、誰かの人生のほんの少しの期間でしかないはずなのに、それぞれの歩みや暮らし、それぞれの時代の姿や感情がすごく凝縮されていてとても贅沢な気持ちになります。

こんなにもリアルに想像できた上で
どこか現実味のない、幻想的な空間を作り出せるのは何故なのか。

日本なのか海外なのか、時代はいつなのか、
小川さんの作品はそれらがわからない。
わからないのにまるでこの目で見たような気がする。本当に不思議です。

現実から一旦離れてもう一つの世界に没入したい時にぴったりです。

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Posted by ブクログ 2022年01月05日

酒井駒子さんの表紙のイメージもあって
じっとりしたフランス映画を見ているような一冊だった
しっとりじゃなくてじっとり
最果てのアーケードは…三途の川みたいな?
生と死の境目の…誰が生きていて誰が死んでいるのか??な不思議な話

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年09月08日

ひっそり、という言葉がとても似合う。

生きている者と亡くなった者の境界がふわっと溶けていくような、不思議な空気が漂う連作短編集。一遍一遍を読み終わるごとに、ふと寂しさが迫ってくる。いつの間にか「私」がどんどん透き通っていく。

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Posted by ブクログ 2021年07月21日

世界で一番小さなアーケードにやってくる人たちを描いた連作短編。
収録されている「百科事典少女」のタイトルに惹かれて購入。でも読んでみたら良かったけどちょっと思ってたのと違った。
エピソード的には「輪っか屋」の話が一番好みかな。

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Posted by ブクログ 2021年06月01日

不思議なお話。
すごく読みやすくて、世界観に引き込まれていった。
こんなお店があったらぜひ行ってみたいなー

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Posted by ブクログ 2021年01月18日

『アーケード』、それは”建物間を覆う屋根状の構造物”のこと。そして、そんな『アーケード』に覆われた商店街は全国各地に今も点在しています。そんな『アーケード』を想像する時、あなたはそこにどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?様々なお店に、様々な品物が並べられ、その横にはお客さんを迎え入れるお店...続きを読むの人が笑顔で立っている、そしてそんなお店にそれぞれの目的を持って訪れる人たちがいる。そこには、笑顔に溢れる人々の声が今にも聞こえてきそうな、そんなイメージが思い浮かびます。その一方で昨今ニュース報道されるように、様々な理由で寂れてしまい、シャッター街と化してしまった『アーケード』が存在するのも現実です。この世に永遠に存在するものなどないことを考えると、これはやむを得ないことなのかもしれません。

しかし、ここに時代の変化に関係なく、『「一体こんなもの、誰が買うの?」という品を扱う店ばかり』が集まった『アーケード』があります。多くの人々は『そこにアーケードの入口があることさえ気づかず通り過ぎてゆく』というその『アーケード』。この作品は、そんな『アーケード』で生まれ育った『私』と『アーケード』の日常が静かに描かれていく物語です。

『そこは世界で一番小さなアーケードだった。そもそもアーケードと名付けていいのかどうか、迷うほどであった』という『一様に古び』たその場所。『アーケードというより、誰にも気づかれないまま、何かの拍子にできた世界の窪み、と表現した方がいいのかもしれない』というまさにその場所で生まれた『私』。そんな『私が十六歳の時、町の半分が焼ける大火事があり』、『大家だった』父は『近所の映画館』で死んでしまったという苦い記憶。しかし『なぜかアーケードだけは屋根のガラスが割れただけで焼け残った』こともあって『ずっと変わらずそこに暮らしている』という『私』。『突き当たりに中庭があ』り、『飼い犬のベベと一緒に』、『中庭で長い時間を過ごす』という『私』。『お客さんの数はそう多くな』く、『大通りを行き交う人々のほとんどは』、『入口があることさえ気づかず通り過ぎてゆく』というそのアーケードでは、『「一体こんなもの、誰が買うの?」という品を扱う店ばかりが集まっている』こともあって来訪者が少なくても『仕方がなかろうと、店主たちは潔く自覚してい』ます。そんな『ある日、何の前ぶれもなく、誰かがアーチ形の入口に』現れ、『一軒の店の前で立ち止ま』りました。『ねえ、ちょっと。あの棚の一束、見せてもらえる?』とレース屋の店主に頼むその女性は『もう常連になって久しい老女』でした。『老女は昔、映画館の隣にあった劇場で長く衣装係をしていた女性だった』ことで、今も『皆彼女のことを衣装係さんと呼』びます。そんな衣装係さんは、麻紐で十字に縛ってあるその束を見て『他のお客に売ろうとして、私の目の届かないところへ隠したんじゃないだろうね』と『一人で愉快そうに笑』います。『いいえ。そんな…とんでもありません』と慌てて否定するのは『アーケードの中でも最も無口で、気の弱い店主』。『ここまで歩いてきた甲斐があった。これ、全部いただくわ』という衣装係さん。『かなりの量がございますから、ご希望の場所まで配達させていただきましょう。ここのアーケードにはちゃんと、配達専用の者がおります』と説明する店主に微笑む衣装係さん。そして『見事に晴れ渡った』翌日。『生地やボタンやリボンやもちろんレースが詰め込まれた荷物を抱え、衣装係さんの自宅へ向った。べべも一緒だった』というのは配達のアルバイトをしている『私』でした。『表札の隣には「舞台衣装研究所」の看板が掛けてあった』というその家に上がることになった『私』。そして…という物語。『アーケード』で暮らす『私』と『アーケード』を訪れる人々の日常が描かれていきます。

十編の短編が連作短編の形式を取るこの作品。何と言っても『アーケード』の独特な世界観の描写が何よりもの魅力です。『入口はひっそりとして目立たず』、『通路は狭く』、『ほんの数十メートル先はもう行き止まり』という『世界で一番小さなアーケード』。小川さんはその小ささを読者に印象付けるために、さらに『人々のほとんどは、そこにアーケードの入口があることさえ気づかず通り過ぎ』てしまうとまで書きます。アーケードが小さければそこにあるお店が大きいはずがありません。『天井は低く、奥行きは限られ、ショーウインドーは箱庭ほどのスペースしかない』とまで書く小川さん。『箱庭ほどのスペース』で何を売るんだ?とも思いますが、それを『使用済みの絵葉書、義眼、徽章、発条、玩具の楽器、人形専用の帽子、ドアノブ、化石…』と例示していきます。何とも微妙感の漂うマニアックな品物ばかりですが、一方で『それを必要としているのが、たった一人だとしても、その一人がたどり着くまで品物たちは辛抱強く待ち続ける』と小川さんは書きます。そして、さらにこれらが『窪みにはまったまま身動きが取れなくなり、じっと息を殺しているような品物たちばかり』であると表現します。この『窪み』という表現は全編で合計二十箇所に登場しますが、この作品における一つのキーワードとなっています。それは、この『世界で一番小さなアーケード』を象徴的に指す場合もあれば、『Rちゃんの重みが窪みになって残っていた』と亡くなったRちゃんの存在を重ね合わせたり、または『窪みを満たしているのはあくまでも静けさだった』というようにノスタルジックに捉えられたりもしますが、共通して言えるのは、『窪み』というものが喪失感の象徴とされていることです。この『アーケード』で売られているものは一見需要が限られ、そんなもの誰が欲しがるんだというものばかりです。しかし、その一つひとつを見ていくとそこにはひとつの共通点があることに気づきます。例えば『義眼』ですが、それを必要とする人は普通には限られるはずです。しかも『兎』の『義眼』となればなおさらです。それを小川さんは『死んだものの声は全部、目に閉じ込められるのかもしれない』。だから『皆、義眼を買いに来る』というように『兎夫人』に語らせます。また、勲章店では『勲章を買い取ることは、そこに潜むさまざまな記憶も一緒に引き受けるということ』と書く小川さん。これらに共通するのは、何かを失った人々が、色々な思いの詰まったそれら品物を入手することで、自身の喪失感を埋めていく、一方でそれら品物からすれば、入手してくれた人の手により『窪みにはまったまま身動きが取れなくな』った状態から解放されることになる。そんな風にそこを訪れる人にも、そこにあることで身動きが取れなくなっている品物にとっても前に進んでいくための一つの場として機能しているのがこの作品の『アーケード』なのかもしれない。そんな風に思いました。

そして、この作品の主人公であり、最後まで名前が語られない『私』。そんな『私』は、『アーケード』で配達係のアルバイトをしています。『配達する品物が発する小さな音を耳と両手で感じるのが』好きという『私』。これを『生まれて初めての労働で得た、一番の収穫だった』とまで言い切る『私』。十六歳の時に映画館の火事で父親を亡くした『私』は、『アーケード』を離れることなく『アーケード』とともに生きてきました。そんな『アーケード』で売られる品物。上記したとおり、それらは色々な思いの詰まったものの象徴でもあります。そんな品物の側に立ってその気持ちを考えてみる時『自分を必要としてくれる人の元へたどり着けるのが待ち遠しくてならないという、品物たちの喜びの声』を聞く『私』はとても満たされた気持ちになります。『その声が自分の掌の中にあると思うだけで、誇らしい気持ちになれた』という『私』。それは『アーケード』の大家として『アーケード』を守ってきた亡き父の思いにも繋がるものなのだろうとも思います。この世に永遠に存在するものなどありません。それは物であっても命であっても同じことです。それ故に、人はどうしようもないほどの喪失感に苛まれる時があります。そんな時にその『窪み』を埋めたいと願うのは自然な感情の発露だと思います。そして、自らの心の『窪み』を埋めるために『アーケード』という『窪み』を訪れ、そこに嵌まり込んでいるものを拾い上げ、それによって自らの心の『窪み』を埋めていく。そして、そんな『窪み』を埋めるための品物を運ぶ仕事に喜びを見いだす主人公の『私』という図式。乱暴に扱うと壊れてしまいそうな、繊細な感情の世界の物語。『読者の中に物語が入っていった時、言葉の意味を言葉として受け取るのではなく、映像にしていただけると、文字で書かれていないことまで伝えられるのではないかと思います』と語る小川さん。優しく繊細に綴られる品物たちの姿を思い浮かべる時、そこには品物たちに宿る美しい記憶の数々を垣間見ることができたように感じました。

『「一体こんなもの、誰が買うの?」という品を扱う店ばかりが集まっている』という『アーケード』。そこには『いらっしゃいませ』という一言でお客さんをねぎらう人たちが営むお店がありました。『はるかな道のりの果て、ようやく求めるべき品に巡り合えた彼ら』、そして『窪み』の中で彼らの訪れをじっと待っていた品物たちとの出会いの先に、解放感に満たされた人々の笑顔がありました。

「最果てのアーケード」という書名から抱く寂しさの極限の感情が先行するこの作品。乱暴に扱うと壊れてしまいそうなその絶品の表現の数々。その中から浮かび上がる静かな死の世界の前に、優しく、柔らかく、そしてほんのりと温かく燃える炎の揺らぎを感じた、そんな小川さんらしさに包まれた作品でした。

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Posted by ブクログ 2020年12月02日

昔moonってRPGのゲームがあってそのゲームの街のなかの人たちはそれぞれに役割があって毎日毎日それをこなしながらも実は自分だけの物語を持っているっていうナラティブなRPGだったんだけどそれを思い出した。アーケードという箱庭の中でそれぞれの店主たちの役割とちょっとした物語。それは彼らにとっての日常で...続きを読む読んでいる僕らにとっても他愛のない出来事なのだけどだからこそ語られることのない出来事、それに触れられて生きている実感がした。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年12月31日

世界で一番小さなアーケードで生まれ育った女の子が主人公の連作短編集。

‪どんなに古びた物でも、どんなに小さな物でも、それらが辿ってきた記憶すべてに価値があると思えてきた。贈り物として人と人を繋ぐこともできる。ひとつの物を通して同じ景色を見ることだってできる。そして誰かにとっては大事な唯一の愛だった...続きを読むりするから。‬
‪優しく待っていてくれる居場所として、このアーケードのように存在し続けてほしい本です。‬

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面白かったです

2018年10月23日

一部ネタバレありです。
どこかに身を隠す様、ひっそりと存在していて、それでも誰かに必要とされる小さなアーケードを「私」の視点から描いた作品。
死を題材とした話が多いため暗い印象がありますが、どこか暖かく優しさを感じさせる不思議な世界観でした。

ラストシーンが特に印象深く「私」がどうなったの...続きを読むか考えさせられました。
自身の髪で「遺髪のレース」の制作を依頼したこと、図書館で、おそらく故意に電話番号を間違えたことなどから「私」は死に向かう準備をしていたのだと思います。

人さらいの時計が止まる描写では、「私」の時が止まったことを表しており、最後の二行で、それでも尚、生きている者の日常が変わらず続いていくことを示しているのだと解釈しております。

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Posted by ブクログ 2024年03月13日

【なぜだかわからんがずっと鞄に入れておきたい本】

なんだかわからない
特別感動したわけでもない
大好きな本になりました!てわけでもない。

可笑しさとかさみしさとか嬉しさとか
いろんなものがしっくりきて心が落ち着く。
現実とひと続きの中にアーケードがあって
でも絶対に存在しない感もある。

どんな...続きを読むに悲しくたって本はどっかへ行ったりしないから
そっと鞄の中身のレギュラーになったっていいじゃない。
いつだって自分が求めればそこにいてくれる安心感を本に求めたっていいじゃない。

読み終わって次の日とか次の次の日とか
すぐじゃないいつか
急にアーケードのことを思い出して泣きそう

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Posted by ブクログ 2022年12月27日

特に好きも嫌いもない作品
アーケードじゅうどこを見回しても死、死、死!
代謝と呼ぶのも憚られる死
なのになぜか適度に温かいのが不思議で不気味

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Posted by ブクログ 2022年10月01日

大事な手のひらに握りしめた、他の誰にも見せる必要のない、ひとかけらの結晶があって・・・

と、いう一文が同じく小川洋子さんの蜜やかな結晶にあり、テーマは同じと思った

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Posted by ブクログ 2021年07月17日

人との出会い、物との出合い。ほっこり、しんみり。近すぎず、遠すぎずの距離感。店の様子、全体像が思い描ける描写。店主とお客の会話、彼らの日常。あぁ、ここにはソーシャルディスタンスの言葉もマスク会食もないんだよなぁなんて思ったり。

私たちの日常はいつ戻るのだろうという現実に、ついこの間まであった日常に...続きを読むこの本の世界を少しだけ遠くに感じる。

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Posted by ブクログ 2020年07月12日

悲しみとあたたかさに包まれたお話。
どんなものも思いを大事にするって素敵。
世界観はいい、けど、これでは生活できなそうって現実的に思ってしまった。

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