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Posted by ブクログ
この物語は「小さい時の思い出から」と、エッセイ『遠慮深いうたた寝』に書いてあった。
だから、このアーケードでの出来事を語る「私」とは小川洋子さんだ。
小川洋子さんは、岡山市中区森下町で生まれ育ち、11歳に祇園町に引っ越している。
岡山市のどのアーケードの思い出なのだろうと思っていたが、パリのパサージュをイメージしていたそうだ。
日常の「とるにたらないものもの」への想いを綴った、江國香織さんの作品を思い出したが雰囲気は違った。
「最果てアーケード」は、だれがそんなものを必要とするの?という品物を扱っている商店の人々の物語だった。
『ブラフマンの埋葬』でもそうだったが、本書も人の名前が出てこない。
舞台となるお店が違う10篇の物語でできているので、"店主さん"と呼べばどの店の店主さんか分かるのだ。
人物が多人数登場する小説が苦手な私にとってはありがたい。
名前で呼ばれるのは飼い犬の べべ だけだ。
登場人物は、
物語を語る「私」。私の「父」。
レース屋の店主、かつて衣装係だった老女。
百科事典のセールスマン、同級生のRちゃん。
義眼屋の店主、(店主の)婚約者さん、兎夫人。
輪っか屋(ドーナツ屋)さん、元体操選手。
紙店の店主(レース屋の姉)、雑用係のおじいさん。
ドアノブ専門店の店主"ノブさん"。
未亡人の勲章店の店主。
遺髪レース編み師。
軟膏屋さん。
大学の助手。
どんな商品を扱っているお店かは、登場人物の呼び方でわかると思うが、
こんな(商売になりそうもない)お店が連なっているアーケードなどあり得ない風景だ。
だが、昔はアーケードの中のどこかに、似たような雰囲気のお店が紛れ込んでいた記憶がうっすらとある。
その品物が必要で探し求めてくるお客さんと店主さんのこだわりや想いが伝わってきます。
さり気ない動作や心情の描写がうまい小川洋子節が堪能できる物語だと思います。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの世界観を存分に堪能できる作品です。静かで寂しげな空気感をまといながら、単なる暗さや哀しさとは異質の、凛とした厳かさや美しさを感じさせる物語でした。どこまでも優しく、ただただ余韻に浸れます。
小さなアーケードの商店街が舞台で、10編それぞれに商店の店主と客のエピソードが描かれる連作短編集です。1話ごと話は完結しますが、商店が連なるように少しずつ重なる構成です。
各商店、扱っている物、店主、訪れる客など、失われた命や過去の断片が紡がれ、全てアーケードに収束されていきます。アーケードの大家(父)の娘が語り部となり、生と死が交錯する世界が、思い出の痕跡を辿るように描かれます。
「最果て」は、華やかさや賑わいとは真逆で、行き止まりを象徴する場所なのでしょう。生と死、現実と幻想の境目が曖昧な場所は、死の気配がありながらも敬いと優しさにあふれ、最後は父も愛犬も語り部さえも取り込んでいくのだと解釈しました。
小川洋子さんが創り出す世界は、まるで深い森のように静寂さと神秘さを連想させながら、ときおり優しく差し込む木漏れ日など、森の豊かさを実感させてくれます。小川さんが描く物語に引き込まれる理由は、この辺にあるのだなと改めて思いました。
Posted by ブクログ
10篇の短編が交錯しながら物語を構成していて、摩訶不思議かつ時系列も不明確ながら、ノスタルジックな光景が思い浮かぶ。
舞台は『最果てアーケード』と名付けられた、昔ながらの寂れた雰囲気の小さなアーケードだ。
ある日アーケード近くの映画館が火元になった大火事に見舞われ、周辺は類焼したのだが、この古めかしいアーケードだけは何故か延焼を免れ、以前の姿のままで店は営業を続けることができた。
商店街の大家を父に持つ少女がこの小説の主人公だ。
父親は大火災の際に焼死し、幼い少女と若い愛犬べべが残されたのだが、各店主たちは少女とべべには温かく接してくれていた。
少女と相棒のべべは、店で購入した商品をお客様のところに配達するアルバイトをしながらアーケードの人達と共に生きている。
各商店が扱う商品は特異なものばかりで、義眼屋、レース屋、ドアなどのノブ、紙屋、勲章店、シンプルなドーナツ屋など、普通の人にとっては日常必要としないものが多い。
特に胸を打った物語は、最後の「フォークダンス発表会」だった。
成長した少女、年老いた相棒のべべ、少女の父親、そして人の良い各店主たちが繰り広げる場面に何故か涙ぐんでしまった。
がしかし、決して悲しい涙ではなく、何故かノスタルジックな想いに駆られた温かい涙なのだ。
この体験が小川洋子さんの物語が誘う世界なのだろう。
本当に不思議な世界を醸す作家さんだ。
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