小川洋子のレビュー一覧
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帝国劇場を思い出しながら読んだ。
フィクションだけど、この作品の中に書かれている人物や椅子が実在していたら…と想像しながら読むととても楽しかった。
初めて帝劇に行ったのは子供の頃母に連れられて『レ・ミゼラブル』を観に行った時。最後に帝劇に行ったのも母と『レ・ミゼラブル』を観に行った時。
私にとって帝劇は母と行く場所で、『レ・ミゼラブル』を観に行く場所だったんだなぁと改めて思った。
でももっと他の作品を観たかったし、もっともっと通いたかった…
新しい劇場はどんな感じになるのだろう。
ステンドグラスの裏に住んでる少年がまた住める場所があるといいな。 -
Posted by ブクログ
人質たちが暇つぶしに、何か一つ思い出を文に書き出して朗読し合おうとする。今必要なのは、じっと考えることと耳を澄ませることだ。これを読んで、
小川洋子さんが「物語の役割」で、辛い現実を乗り切るための手段として物語がある、と語られていたのを思い出した。
杖 子供の頃足を怪我した太った下っぱ工員さんに、のこぎりで切った枝を渡して助けてあげた。十数年後、交通事故で意識を失っていたわたしの頭の中に、工員さんがバーナーと立派なお面を持って現れて、足を治してくれた。目覚めたら、切断寸前だったらしい足は、どうにか持ち堪えてくれていた。バーナーとお面は、世界を壊すのではなく創り出すものだったと気付いた。
や -
Posted by ブクログ
舞台が好きで裏方を志すものです。小川さんが舞台を色々見ていらっしゃるというのは、エッセイなどを読んで知っていましたが、これほどまでに、我々が劇場に惹かれ、そこから感じる煌めき、ときめきを拾って文章化してくださるとは。内容はフィクションで具体的な他人の物語だけど、そこに介在する感情だったり、見える景色があまりにも自分の身に覚えがある。自分の今まで見てきた作品や、さまざまな劇場での思い出、大事な感情を言語化してくれてありがとう。普段表舞台で見える人の活躍だけでなく、劇場に関わる色んな人にもスポットを当ててくださってありがとう。人生ことあるごとに読み返したい、大事な1冊になりました。
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Posted by ブクログ
博士が隣にいて数学を教えてくれている。
そんな風に感じさせるくらい博士は親しみを感じ、数学を愛し、その魅力を伝えてくれていると感じた。
特に素数について、私は高校生の時は割り切れないことに違和感をもちあまり好きではなかった。しかし、この小説を通して見ると素数の魅力が感じとれ、この素数の次の素数は何だろうと考えてしまうくらい数字が楽しく感じた。
主人公の息子、ルートと博士の間にはお互いに特別な信頼関係を築いている。博士はルートを一人の守るべきものと考え、記憶能力に支障があってもルートは博士のことを一人間として敬意を払う姿には胸を打つものがある。この信頼のもとのやり取りが終始変わらず流れており読ん -
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ネタバレ静かに、穏やかに、琴線に響く物語だった。
「私」とルートと博士との間に流れる時間と情景が読書中の私自身を癒してくれました。
ルートをおんぶしての帰り道の場面で、
幼いころ、お祭りの夜店で大はしゃぎしすぎて疲れて眠くなった私をおんぶしてくれた亡き父を思い出した。
父におんぶされた記憶は後にも先にもあの時だけ。嬉しくて、ずっとこのままでいたくて起きていたけど寝たふりをしていた私。
あったかくて大きな父の背中。
博士が父と重なって泣いてしまった。
博士が走らせる鉛筆の音、ルートがチラシの裏を使おうとめくる音、夕飯の支度の音、かすかに流れるラジオの音声、優しく長く差し込む夕陽。幸せってこういう事な -
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すごい。すごすぎる。こんなに美しい文章に出会ったことはないんじゃないかな。
途中から、完全に作者の虜になってしまった。
理不尽に消滅していく世界、受け入れる主人公と拒むR氏。
受け入れちゃいけない、と頭では分かっていても、心が追いつかない。
主人公の心がゆっくり消滅していくのと同時に、読んでいる私も理不尽を受け入れているように感じた。
消滅の前に書き上げたタイプライターの小説。途中までは分からない事もあったけれど、最後が見事だった。消滅してゆく著者が、消滅を受け入れる小説を書き残したこと、悲しかったな。
おじいさん……。優しくて大好き。 -
Posted by ブクログ
小川洋子さんの記憶の消滅に関する小説。
『博士の愛した数式』でも80分しか記憶を持たない数学者がおり、今回の小説と「記憶」というテーマで共通するところがある。
儚く自然と涙がこぼれるような物語。
モノが人々の記憶から消滅していくということは、モノに宿る人々の想いさえも無くしてしまうことなのかもしれないと感じた。
私自身も数々の記憶を忘れてしまっているのだろう。
ただ、今回小説を読んだことで、その時の想いや感情などできる限り日記に留めておきたいと感じた。
それが記憶、その時の感情・情景を思い出すことに繋がると思うから。
解説で、記憶しているがゆえに、迫害され、粛清される。そこで、ユダヤ人差 -
Posted by ブクログ
毎日、夕方の5時になると町役場からの放送で「家路」が流れる。
あまりにも自然に溶け込んだ歌声のため、人々は熱心に聴きいる事もなく、1日の区切りとして耳にしているだけで、誰が歌っているのかなどの関心を抱く者は誰もいなかった。
この地域に、ちょっと変わった人々が暮らす集団が存在していた。
彼らは極端な内気の性格のため、言葉を交わす人との関わりを避け、沈黙を優先した生活を営んでいた。
その地域に、おばあさんと孫娘リリカの二人が雑用係として加わることになる。
おばあさんはリリカを育てるために、この変わった人々が暮らす地域に職を得て、外部の人々との接触を担当する雑用係として働くことになる。
リリカの