小川洋子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
この作品の読書感想文を書くには、私の文章力はとても足りない。
それくらい圧倒されるのです。
小川洋子さんの紡ぐ言葉たちは小川さんが作り出す物語同様、優しくて繊細で儚い。
一文字も逃したくない洗練された文章。
この物語の世界はとても寒くて淋しくて不安で切ないけれど、そんな状況下で蝋燭の火をぽっと灯したような、懐かしい温かさがある。
それは登場人物たちの優しさや気遣いであったり、私自身の思い出を思い起こさせてくれる力があったりするからなのかな。
ハッピーエンドではないしどうしたって哀しくなってしまうけど、その温もりを感じたくて、何度でも読んでしまう。
-
Posted by ブクログ
ネタバレとても静かな最後になって、この作品にふさわしい終わり方をしたなと思う
まだ悲しさと静けさが漂っているかのような不思議な感覚が無くならない
結局ルーキーがなぜ自殺したのか、履歴書に嘘を書いたのか、関わった全ての人に異なった情報を与え続けたのか、答えは分からなかった。
ただ目の前に彼が息をして言葉を操って確かに存在していたことだけが事実、死んでしまった人の事で新しくわかることなんてそうそうないし真実は分からないことの具現化みたいな小説だったな
今現実に起こっていること、目に見えているもの、それだけがリアルでそれだけが思い出になる
死んでしまって過ぎた過去の中で生きていた人間はもう「記憶」の中に -
Posted by ブクログ
イチロー選手が打球をつかみとり、ふりかえり、すぐさまホームに向かって投げる。見方のミットに吸い込まれていく。その肩をとおし、人々は記憶に刻まれた太古の肉体の美と再会する。と、いうふうに表現する小川洋子さんの文章がすごくいい。
他には、ミュージカル俳優の声、棋士の中指、ゴリラの背中、バレリーナの爪先、卓球選手の視線、フィギュアスケーターの首、ハダカデバネズミの皮膚、力士のふくらはぎ、シロナガスクジラの骨、文楽人形遣いの腕、ボート選手の太もも、ハードル選手の足の裏、レース編みをする人の指先、カタツムリの殼、赤ん坊の握りこぶし。
改めて考えてみると共感することばかり。一瞬のからだの美しさをとらえ -
Posted by ブクログ
琥珀の現在も過去を織り交ぜて描かれるストーリー構成。
琥珀たち子ども三兄弟目線で話が進むので、おかしなこと(犯罪)が起こっていることに当人たちは気づかない。それが当たり前かのように起こる。
ただ読者の私はこれが犯罪であることがわかるのでなんかやばい…とずっと違和感を覚える。
母親の思考が結局ずっと謎だった。いくら末娘にトラウマを抱えていても監禁をするのはよくわからない。
でもだからこそずっと不気味で、穏やかな時間が流れているはずなのに緊張感が走っていてとても面白かった。
一番ママに従順だったオパールが最後ママに批判的なことを琥珀に言うのはきっと外の世界の住民であるジョーから色々話を聞いた -
Posted by ブクログ
『博士の愛した数式』に関連したエッセイが最初に10本も続く。
「数の不思議」の世界をもう一度感じることができた。
次のテーマは「書く」ということへの想いやこだわり、ワープロや机といった書くために必要な物の話題などが語られる。
そしてごく自然に「書く」行為を問い直すためのアンネ・フランクの足跡をたどる旅の話に繋がる。
小川洋子さんのアンネ・フランクへの想いが伝わってきた。
後半はこんな暮らしをして来たんだよ、という雑多な日常の出来事の思い出話になる。
犬(ラブラドールの子犬のラブちゃん)と野球(阪神タイガース)が重要な生活の一部になっている様子が微笑ましい。
「犬のしっぽを撫でながら」と -
Posted by ブクログ
小川洋子と河合隼雄のキャッチボールが見事だ。河合隼雄のダジャレやわかりやすい例えが実に効果的だ。聞くことを専門にしている河合隼雄の手法が、ツッコミを入れて楽しんでいる。小川洋子は『博士の愛した数式』を読んで、なんとステキな文章と体温のある物語を書くのだろうと感心した。それ以降、あまり注目していなかったが、最近の小川洋子の言っていることが興味深いので、読み始めた。
「生きるとは自分の物語を作ること」という言葉がいい。
小説家は、いろいろと妄想を働かせることが仕事。河合隼雄は、「小説家と私の仕事で一番違うのは、現実の危険性を伴う。作品の中なら父親を殺すこともできるが、現実に患者さんが殺すと大変です