あらすじ
その島では多くのものが徐々に消滅していき、一緒に人々の心も衰弱していった。
鳥、香水、ラムネ、左足。記憶狩りによって、静かに消滅が進んでいく島で、わたしは小説家として言葉を紡いでいた。少しずつ空洞が増え、心が薄くなっていくことを意識しながらも、消滅を阻止する方法もなく、新しい日常に慣れていく日々。しかしある日、「小説」までもが消滅してしまった。
有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。
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Posted by ブクログ
小川洋子の作品はあまり読んだことがなかったが、本屋で装丁とあらすじに惹かれて購入。
最高傑作。読むことをお勧めしたい。
舞台はとある島(架空の島だが、描写的にかなり日本的だと思った)。この島では、鳥、香水、春(季節)、左足など記憶が少しずつ消滅していく(記憶の消滅というのが少しややこしく、概念自体が消失するわけではなく、それ自体を思い出せなくなり、またそれを見たとしても、それに関する思い出を想起したり、使用用途・目的、どのような物だったかを具体的に把握することができなくなるし、興味も湧かなくなるというのが近いかな、、、ちなみになぜ記憶が消滅するのかは描かれない。それは超常現象・災害にも近い、不可避の現象として島民に受け入れられている)。そして島民の中には記憶が消滅しない者がおり、彼らを秘密警察が取り締まっている(秘密警察は記憶が消滅した物を物理的に完全に抹消しようとも努めている)。小説家である主人公のわたしは、ある日担当編集者のR氏が記憶が消えない者の1人であることを知って、彼を自宅の一室に匿うことになる。これ以後はネタバレになるので控えます(まあ純文学だから結末まで書いてしまってもいいんだけど一応)
全体を通して非常に静謐で、島に永遠の冬が訪れてからはなんとも言えないほど重く灰色な、でもどこかほんのり温かみのある印象をうける特異な文章(小川洋子の文体の特徴なのかなぁ?)。
この本では、主人公が書いた「小説」が随所に挟まれる。この「小説」は現実の島の状況を予見させるものである。加えて「小説」内の男女2人の関係性が、わたしのR氏に対する屈折した感情を投影したものであるとも読めて、この物語に奥行きをもたらしている。
読み方としては色々な解釈があると思うが、ただのファンタジーでないことだけは確かである。R氏を匿う(それも自室の隠し部屋に)こと、秘密警察の存在、春が消えて島はずっと冬であること、私が小説家であることから、否応なくナチスによるユダヤ人迫害、そして「アンネの日記」が思い出される。記憶の消失・秘密警察による取り締まりを徐々に日常の当たり前として受け入れていく多数の島民が、弾圧される者たちの状況を際立たせる。何も考えずにマジョリティ・支配者側に迎合することへの警鐘とも取れる。「記憶」はいつだって体制側にとって不都合である。一つの記憶で全てがひっくり返ることもある。だから体制側は「記憶」を恐れ、「記憶」の弾圧を続けようとする。小説が島から消えた時、島民は広場で本を焼くのだがその際に“書物を焼く人間は、やがて人間を焼くようになる”というハイネの有名な一節が引用される(ハイネの本も現実にナチスによって広場で焼かれているのである)。
わたしの母(記憶が消えない人だった!)は彫刻の中に「島で人々の記憶から消失した物」を隠した。タイトルの「密やかな結晶」は、わたしが再発見したときにそれらを形容する表現として用いられる。記憶の弾圧を受けても奪いきれない、人間の心の奥底にある誰にも見られることのない大切で美しい物のメタファーとして機能している。小説を広場で焼く場面、ある女性が秘密警察に連行されながら(彼女も記憶が消えない者なのだが)「物語の記憶は、誰にも消せないわ」と叫ぶ。作者の矜持を感じさせる一節である。何をされようとも「物語」があれば世界に対峙して、想像力をもってして希望と一緒に生きていくことができる。「物語」が人間の砦であり最後まで人間を救い続けるものである、と僕自身は思っている。この小説が僕自身の「密やかな結晶」を形成する一部になるに違いない、と思える一冊だった。
少し「記憶の消失」の定義がわかりにくいのが難点だがそんなことはどうでもいいと思えるぐらいの傑作。読んでみてね!
Posted by ブクログ
個人的に、小川洋子先生を読むならこの本を読んでくれ、と言いたくなる作品。
世界観がしっかりと描かれており、すぐに没入することが出来る。大人向けのおとぎ話のようで、ひっそりと静かに、それでいて美しい文章に惚れ惚れしてしまう。
世の中のあるものが消滅していく人と、消滅していかない人。それぞれの想いがきちんと描写されていて、胸が苦しくなる。苦しくなるのにどこか心地よい読後感がたまらない。
Posted by ブクログ
すごい。すごすぎる。こんなに美しい文章に出会ったことはないんじゃないかな。
途中から、完全に作者の虜になってしまった。
理不尽に消滅していく世界、受け入れる主人公と拒むR氏。
受け入れちゃいけない、と頭では分かっていても、心が追いつかない。
主人公の心がゆっくり消滅していくのと同時に、読んでいる私も理不尽を受け入れているように感じた。
消滅の前に書き上げたタイプライターの小説。途中までは分からない事もあったけれど、最後が見事だった。消滅してゆく著者が、消滅を受け入れる小説を書き残したこと、悲しかったな。
おじいさん……。優しくて大好き。
Posted by ブクログ
美しくも悲しくて怖い話であり、明らかに設定は虚構なのに「今ほんとにリアルに起きてること」でもある。なくなっていく現実に鈍感になっていくのも怖いけど、最後までなくなっていく現実に抗えないラスト1人になるのも怖いな。
川上弘美さんと同じくで昔からあれこれ読んできた作家さんだけれど、小川洋子さんの話の多くには救われない人やネガティブな現実から脱するのを【諦めた人】がよく出てくる気がする(私の印象)。元気なときに読んで悲しみと美しさに浸るのは珠玉の幸せだけど、元気がないときに読むとけっこうキツい。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの記憶の消滅に関する小説。
『博士の愛した数式』でも80分しか記憶を持たない数学者がおり、今回の小説と「記憶」というテーマで共通するところがある。
儚く自然と涙がこぼれるような物語。
モノが人々の記憶から消滅していくということは、モノに宿る人々の想いさえも無くしてしまうことなのかもしれないと感じた。
私自身も数々の記憶を忘れてしまっているのだろう。
ただ、今回小説を読んだことで、その時の想いや感情などできる限り日記に留めておきたいと感じた。
それが記憶、その時の感情・情景を思い出すことに繋がると思うから。
解説で、記憶しているがゆえに、迫害され、粛清される。そこで、ユダヤ人差別やホロコーストの影を見てしまうという記述があった。
私自身、その歴史について深く知らない部分があるので勉強しよう。
個人的にこの小説には宇多田ヒカルの曲がとても合うなと感じた。
Posted by ブクログ
人間は失っていく生き物だと日々感じていた頃に手にとった。
育児をしている自分。自分と向き合う時間がない中で、必死に子供の命を守ろうとしている自分。日々ささやかな幸せを噛み締めながらも、自分の描く自分がガタガタと崩れていく感覚があった。
情景描写がものすごく緻密で、こんなにも情景描写に優れた作品は初めてだった。
消滅の物語だが、消滅しないものについて考えている自分がいた。
最近喉元が詰まる感覚があった。産後だからか、頭の回転も遅くて、うまく言葉がでてこないことも多かったからだ。でもこの物語を読んで、身体が消滅しても残るものはあると知って、自分の中の蜜やかな結晶はなんだろう、と思えるようになった。
表面的なガタはやはり産後できていると感じるが、確かなものは自分の中にあって、崩れていないのだと信じたいと思った。
なんとも読後感は不思議な物語だが、また読みたい。
Posted by ブクログ
「わたし」が暮らしている島では、ある日突然に物事が消滅する現象が起こっていた。
玩具、貴金属、本などの物的な物だけではなく、言葉、記憶、そして人体までもが消滅の可能性がある社会なのだ。
「わたし」は父親を早く亡くし、母親と二人で暮らしていたのだが、母親は消滅現象が起こっても記憶を消失しない能力があったために秘密警察に連行されてしまう。
それ以降、「わたし」は小説を書いて一人で暮らしている。
「わたし」には二人の大切な人がいる。
一人は「わたし」の両親のもとで色々と働いてくれていたお爺さんで、常に「わたし」の側に立って助けてくれていた。
もう一人の大切な人は編集者のR氏で、「わたし」の小説を常にサポートしてくれている。
R氏は「わたし」の母親同様に、記憶を消失しない能力を擁していたため、秘密警察に連行されてしまう可能性があった。
そこで「わたし」はお爺さんと相談して、「わたし」の自宅に秘密の部屋を作り、そこにR氏を匿うことにした。
それ以来、R氏は狭い隠し部屋が人生の全ての時間を過ごす場所となる。
この物語を読み進むにつれ、私はアンネ・フランクの境遇を思い浮かべた。
自分の意思とは裏腹に、社会が見えない何者かによって左右される人生だ。
読みながら、自分が抱いている理想の社会と現実とのギャップを考えざるを得なかった。
そんな考えに至ったのは、今回の不和雷同とも云える衆議院選挙後だったことも影響したのだろう。
記憶に関しても、幼少の頃の出来事を鮮明に覚えているにもかかわらず、ついさっきの事を安易に記憶から削除してしまうことも多いことから、脳の中身は自分の意思とは異なり、もっと有機的な働きがあるのではとも思う。
自分の意思、想い出は、意識して結晶の如く大切にしまっておかなくてはならないものだと、小川洋子さんの『 密やかな結晶 』で教えてもらった気がする。
Posted by ブクログ
恥ずかしながら、これまで小川洋子さんの作品を読んだことがなかった。
そして本作『密やかな結晶』が、25年も前に刊行された作品だということにも驚かされた。
これほど時代を超えて読み継がれている理由は、読み終えた今ならよくわかる。
物語の舞台となる島では、ある日を境に、人々の記憶から「もの」や「概念」が、ひとつずつ消えていく。
島の人々は戸惑いながらも、その消滅を受け入れ、忘れるべきものとして手放していく。
そこには秘密警察の存在があり、記憶を失わない者は連行されてしまうという恐怖が、常に影を落としている。
この構図は、読みながら何度も、
ナチス・ドイツ下で迫害を受けたユダヤ人の歴史を思い起こさせた。
暴力や強制だけでなく、
「従うことが安全だ」と思わされる空気そのものが、人を無抵抗にしていく怖さが描かれているように感じた。
読み進めている最中、正直に言えば、
意味がうまく掴めない場面も多かった。
なぜこの描写が必要なのか、なぜこんなにも静かに物語が進むのか、戸惑いながらページをめくっていた。
しかし、読み終えたあと、それまで点だった出来事や感情が、静かにつながっていく感覚があった。
理解は読書中ではなく、読後にゆっくり訪れる。
この作品は、そういう読み方を要求してくる物語なのだと思う。
この物語が突きつけてくる恐怖は、記憶が奪われることそのものではない。
奪われているのに、それを「仕方のないこと」として受け入れてしまう人間の姿にある。
大切なものは、ある日突然奪われるのではなく、静かに、穏やかに、もっともらしい理由とともに消えていく。
そして気づいたときには、失ったことに対する感覚そのものを失っている。
コロナ禍を経て、私たちは自由や日常、当たり前だと思っていたものを、驚くほど無抵抗に手放してきたのではないだろうか。
そのことに対して、強い違和感を抱かない自分自身の姿と、この物語の世界が重なって見えた。
それでも、物語の中には、静かに、しかし確かに抵抗し続ける人たちがいる。
声高に主張するわけでもなく、
劇的な勝利が描かれるわけでもない。
ただ「大切なものを大切だと思い続ける」ことを、やめない人がいる。
その結末が救いなのかどうかは、正直、わからない。読後に残るのは、希望よりも切なさに近い感情だった。
けれど、読み終えた今、この物語は過去の寓話ではなく、今も続いている現実の写し絵なのだと思わずにはいられない。
意味がわからなかったはずの物語が、あとから静かに深く染み込んでくる。
名作と呼ばれる理由は、その読後の余韻にあるのだと思う。
Posted by ブクログ
次々と何かが消失していく架空の島、という設定に小川先生の美しい文体が合わさってまさに大人ファンタジー。記憶を持った人々が秘密警察に迫害される様はアンネの日記のオマージュらしい。消失を描くことによりこの世に存在する物の美しさが際立つ画期的な小説。
Posted by ブクログ
絶対に文庫で読んでほしい。解説があったから救われた。
とても恐ろしい話だった。
ミステリーではなく、作者からの警告文である。
人に流され、世に流され、大切なことも手放してしまうならば、どんな結末が待っているだろうか、というファンタジーだ。
どんどん大切なものが失われていく物語の展開を、どう受け止めたらいいかわからない。
少し変わった話や世間を批判したような物語を読みたいときにすすめたい。
Posted by ブクログ
善意という名の支配。
薄気味悪い、不気味な、気持ち悪さが残る小説でした。
不穏な空気感に、途中、挫折しそうになりましたが、終盤にかけて小川洋子さんらしい展開があり、最後まで読めてよかったです。
主人公の「小説家の女性」と、その小説家が執筆する作中小説の「声を失ったタイピスト」が、リンクしましたね。
愛情、束縛、監禁、依存、支配がテーマでしょうか。
その後、R氏は、どこへ向かったのでしょう。
『夜と霧』を彷彿させてしまいます。
私も日々、いろいろなことを失いながら老いています。
消滅は、異常なことでしょうか。
そのうち、カレンダーを失う未来もあり得ると思うのです。
左足も失うし、声も失う自信しかありません。
今の記憶ですら、危ういと思っています。
ただ、R氏の言葉を引用すると、消えていった記憶のかけらくらいは、まだ心のどこかにある気がします。
「記憶はただ増えるだけじゃなくて、時間をかけながら移り変わってゆくからね。時には消えてゆくものだってある。でもそれは、君たちの身に降りかかってくる消滅とは、根本的に違う種類のものだけど」
「僕の記憶は根こそぎ引き抜かれるということはない。姿を消したように見えても、どこかに余韻が残っているんだ。小さな種のようなものだ。何かの拍子にそこへ雨が吹き込むと、また双葉が出てくる。それにたとえ記憶がなくなっても、心が何かをとどめている場合もある。震えや痛みや喜びや涙をね」
Posted by ブクログ
一つずつ何かが「消滅」するという不思議な島。ある時は鳥だったり、またある時は薔薇だったり。消滅するものが決まると、島の人たちは自らそれを処分しなければならないと同時に、記憶からも失ってしまう。中には記憶の消滅が起こらない特殊な人もいるのだが、そういった人たちは「秘密警察」に連行され、二度と戻って来ない。
現実には起こり得ないことなのに、消滅により徐々に悪くなる食糧事情、秘密警察の取り締まり、記憶を失わない知人の編集者R氏を匿う主人公といった設定は強烈に第二次世界大戦下を想起させる。
「モモ」のように失われたものを取り戻しに行くのかと思っていたら、小説家である主人公は小説が消滅しても、それを受け入れてしまう。ついに消滅は身体にも及び、主人公はそれに抗うことなく消えてしまうのだ。
主人公の視点で淡々と語られる物語は、静謐な美しさを湛えてはいるが、希望は感じられず喪失のかなしみや虚しさが残った。最後にただ一人、匿われていた部屋から人間が消滅した世界に出て行ったR氏の中に記憶として残ることが救いだろうか。
Posted by ブクログ
島からさまざまな物が消滅していく。物だけでなく記憶までもが。
消滅の度にパニックが起こるのかと読み進めたら、島の人たちにとっては当たり前のことだからか恐ろしいほど簡単に受容して自ら物を消そうと行動を起こしていて戸惑った。
きっとR氏も、消滅しない側の人間として同じ思いを抱いていたんじゃないかなって思う。
主人公とおじいさんのシーンはほっこりする場面も多く、心があたたまった。
なんとなくおじいさんも消滅しない側の人間で、でも完璧に消滅する側を演じることで主人公に寄り添っていたのではないかと感じた。
主人公が書いた小説では声が一番に失われたけど、島では一番最後まで声は消滅せずに残っていたんだな。
Posted by ブクログ
途中までは物語がただ進んでいるかのように読んでしまったけれどラスト100ページぐらいは消失がどんどん進んでいってその中で主人公が自分の心迄を失わせないように必死になっている姿を見て、今の自分と重ね合わせてしまった。
自分が空気の存在の様に孤独感を感じているが、座っていれば給金が得られるので会社に行っている、、ぐらい仕事に行きたくないのが現状。元凶は上司。多分権力が蔓延っているからだと思う。駒使い、人を経営資源としか見做さず、人の心が分からない、エンゲージを下げるだけの役職者。誰が何を考えて仕事しているのか、考えようともしない。嫌味しか言わなくなる性格悪いオジサン。
多分一般的に嫌われるタイプ、人は付いてこない。
心までは奪われない、頭の中だけはいつも自分のもの。
この小説の中の出来事を読んで、北朝鮮などの共産主義国家の影響を想像できた。
企業は人で出来ているのに人格否定の様に否定発言を吹き込まれる。
人は働けなくなるはず。意識がどんどんなくなる、自分の意見も思っても出せなくて、考える事もしなくなる。独裁政権。
会社は資本主義経済の中で回っているのに、
きっとそのやり方だとマイナスにしかならない。
ただ、目の上のたんこぶのために、
この小説の感想で愚痴を吐いてしまうほど
精神衛生が良くないというのは
とても悲しい事だと、今更思っている。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの小説には、静謐という言葉がよく似合うと思う。本作は静謐ながらハラハラするような展開もあり、不思議な世界に浸りながら飽きることなく読み進められた。作中の小説とともに、危ういバランスの上で成り立っていた世界が徐々に壊れていくのを見届け、同時に新しい世界が始まる予感のする読後感も良かった。
Posted by ブクログ
読みながら読んだ文字がポロポロと落ちていく感覚
まさしく物語の中どおりの消滅のような感じがして面白かった
主人公の名前も、おじいさんも、結局名前が出てるはずのR氏もはっきりとした名前が分からずにこの物語は進んでいってこうやって文章って書けるんだ…と圧倒された
天然石や鉱石を見ているような透明なでも角度を変えると見方が変わるようなそんな物語だった
Posted by ブクログ
全てを語らないラストに想像力が膨らまされた
集団的に何かを一つずつ失っていくという表現はファンタジーの中のものでフィクションではあるけど、
そう遠くない未来に、歳をとった自分がこの小説にあるように、一つずつ何かを忘れて認識できなくなる日が来るのかもしれないと思った
優しいおじいさんが大好きになった
Posted by ブクログ
文章が美しい
主人公が、書いている小説の男と同じ立場になってしまっていってるのでは…と思えて怖かった
R氏は、妻や子供のことは気にならなかったのだろうか。。
Posted by ブクログ
どんどん記憶を失っていき人々と失わない人びとの話。
静かで綺麗な物語だった。
とにかく、一文一文の言葉がとても綺麗。
そしてメッセージ性も強いと思った。
読んでよかったが、買おうとは思わない本。
Posted by ブクログ
消失が当たり前に起こる世界の中で、記憶を失くさない人と、唯一奪えなかったものの話。
秘密警察たちが奪えなかったものは、きっと「愛情」なのだと思った。
Posted by ブクログ
あたりまえのようにあった身の回りのものが一つ一つなくなっていく、儚く寂しいお話だったけど読後感はそんなに悪くないのはなんでだろう。
途中からアンネの日記を重ねながら読んでました(作家の原点となったアンネ・フランクの『アンネの日記』へのオマージュとのこと)
島から突然あるものが"消滅"するのだけど、それを処分することで忘れる者とR氏のように消滅することができない者(記憶がなくならない者)が交わり合えないところがどちらの立場も悲しくて切なかった。
Posted by ブクログ
『密やかな結晶』の世界では、社会から一つひとつ、何かが静かに消滅していく。その中で「密やかな結晶」とは何なのだろうか、と読みながらずっと考えていた。
小川洋子作品を通底するテーマに、「記憶の継承」「存在が滅びても、その記憶は残り続ける」というものがある。本作もまた、その系譜の上にある物語だと感じた。
この世界におけるささやかな救いは、消滅に囚われた人々の中で、なおも消えたものたちの記憶を抱き続ける編集者の存在だ。
彼は、すべてが消滅したあとの世界で、「わたし」が書き残した小説=物語の記憶をその身に宿したまま、歩き出していく。物語はその場面で終わるが、彼の中に残ったそれらの記憶は、なおも続いていく物語の余白を感じさせる。
外圧によって記録も歴史も存在も、すべてを葬り去ろうとしても、人々のなかに宿る記憶までは奪いきれない。
そして、物語が持つ力は、どんな消滅や忘却よりも強く、人の心の内側で生き残り続ける。本作はそのことを、ひどくおだやかな絶望と、かすかな希望のあいだで描き出しているように思う。
作中で「わたし」は文字を失い、物語を書くことができなくなってしまう。しかし、物語を読んで何かを感じる心までは失っていない。
物語とは、本来文字を超えたものなのかもしれない。思考のレベルをも超えて、人の心を直接動かしうるものなのだということを、この作品は証明している。
また、小川洋子は自身の「書くこと」の原点にアンネ・フランクの存在を挙げている。本書が書かれ、出版された時期と、小川がアンネの記憶を辿る旅に出ていた時期が重なっていることを思うと、その影響は本作のストーリーの奥深くにまで染み込んでいるのではないかと感じる。
ホロコーストは、物理的な人間の存在を徹底的に排除しようとした出来事だった。しかし、人々が確かに生きていたという証、そしてその記憶までは、完全に消し去ることはできない。
アンネの日記がそうであったように、記憶は物語というかたちで受け継がれ、遠く離れた時代と場所にいる私たちの心にまで届く。
『密やかな結晶』は、そのことを別の世界・別の出来事を通して語り直している作品のように思う。
たとえ世界がどれほど失われていっても、物語によって記憶はつながれていく。物語の力そのものが、希望のかたちなのだと、強く信じたくなる一冊だった。
Posted by ブクログ
心の中のものを一つずつ失くしていく話
その島では鳥、バラの花、写真⋯
消滅が少しずつ進む
とめることはできず、島の人たちは受け入れていく
消滅すると記憶からも消え、心の空洞が増えていく
秘密警察が記憶狩りをし、記憶を持ち続ける人を連行していく
記憶を持ち続けるR氏をかくまう
小説を書くわたし
やがて小説も消え、体も心も消滅していく
物が消え、記憶さえもなくせば、いずれそれに順応していってしまう
やがて実体のある体の消滅にまで危機が及んでるのに疑問もなく受け入れてしまうのが怖い
希望という記憶を持つであろうR氏、
希望がなんなのかさえわからないわたし、
ふたりの道が二手に分かれることになるのが悲しい
記憶というもので人は生きていける
物に愛着し、思い出したり愛でたり、人と交流して楽しかったり、と
だけど
人生は喜びだけでない
憂いや、痛みや、苦しみが心をかき乱す、そんなものでも心に留めて記憶しているほうがいい
暗闇を失くしてしまったら光がわからない
それがあるからこそ光や希望を目指して生きていけるんじゃないかと思った
消えてほしいと思ったものでも消滅して記憶がなくなるのは困ると思った
一つ消えればそれはやがて私の存在さえも薄らいでいくものになるから
この夏の、心の1ページに刻まれる物語だった
Posted by ブクログ
おそらく☆5以上の作品なのだろうと思う。
読んでいる最中も著者が何を言いたいのか、
「わたし」と「わたしが書いている小説」のつながり、
この作品が投げかけている「もの」とはなにか、
どれが何のメタファーであるかを考えながら読んだが
同著者の「ことり」よりも読み取ることが難しかった。
評価の☆3は自分の感性の無さによる評価である。
Posted by ブクログ
密かな結晶を読んで
まず結論から言うと正直私にはハマらなかった。なのでなぜハマらなかったのかを考察していきたいと思う。
これは私の悪い癖なのだが、ミステリーを読むことが多いので’伏線のようなもの’を探してしまうきらいがある。
特に伏線レーダーに引っかかった点は、左足が消滅しても普通に歩ける秘密警察(→秘密警察は消滅の影響を受けない側の人間という伏線では?)、遺伝子で記憶を失わない人間を判断できるという内容(→みんなで記憶を失わない方向に行くのか?母が記憶保持者だった主人公はなんらかして記憶を取り戻すのか?)、なぜR氏はR氏という呼び名なのか(名前消失したの?)など、、、
何が評価されているのかとレビューを読んだが、消失という概念を受け入れ、抵抗せずに諦めている主人公たちの恐ろしさを社会風刺として描いている点のようだった。
私は全くそうは思えなかった。
もし、誰かの命令で明日から何かしらの概念がなくなり、無理やり記憶から捨てろと言われているならこのレビューは理解できる。
でも今回の世界では自然現象的に消失が起きる。
記憶がなくならない側が何らかの抵抗をして記憶を保持し続けているならこのレビューの意味もわかるが、記憶なくならない特性は生まれ持ってのものという設定だった。
本当に抵抗すべきは記憶がなくなる側の人間ではなく、記憶を保持してる側の人間なのでは?
実は記憶を無くしてる側は何も失っていない。失ったことさえ思い出せないのだから。
記憶を保持してる側の人間だけ、同じ記憶を持つ人間を失い続けている。
この小説を読んで、私ならR氏を主人公にするなと思った。
R氏を主人公にするだけで、読者は簡単に感情移入できるだろう。なぜなら読者の性質はこの世界で言う記憶を保持する側だから。
逆に主人公を主人公にしてしまったばっかりになぜ抵抗しないのかというイライラさえ生まれる可能性がある。違う、主人公および小説の中の多数派は抵抗という概念がそもそもない側の人間なのだ。何も考えていないのではなくそもそも考える余白がない。抵抗する余白がない。
R氏の少数派での立場、記憶を保持する仲間が消えていく怖さ、抵抗できない権力、妻子がいるのにも関わらず自分に好意を向けてくる人間の家に住みつくあざとさ、記憶を無くしていく人々と記憶がなくならない自分への対比、そんな絶望と人間としての生々しさをR氏を主人公にすればもっと出せると思うのに。
主人公が主人公なせいで、日々なくなっていく記憶に対して諦めることしかできず、好きな男が記憶保持者だからプレッシャーに感じて無理矢理思い出そうとしてるくらいしか描写できてないのは勿体無い。
最後のオチとして、実は秘密警察は記憶保持者で、多数派がパニックに陥らないように記憶狩りをしていた。
すでに遺伝子的な観点から記憶がなくならない方法は見つかっているが、自分たちの過去に行った行為を正当化するために引っ込みがつかなくなってしまっていた。
最後にR氏が隠し部屋を出てそのことに気づき、R氏が抵抗していれば大して好きでもない主人公の家に閉じ込められることもなく、自分の子どもの誕生を見届けることができ、最愛の妻と子どもを救えたかもしれない
というエンドであれば、この本で評価されている点に初めて納得ができると思った。
外の世界を知らずに生きてきた人間は、内側の世界の常識しか語れないことに気づけない。外に出なよと言われても外という概念がないのだから出ていく場所がない。
外も内もわかっている人間が連れ出すしか方法はない。
そのことにもっとフォーカスしてくれればこの小説を好きになれていたと思う。
Posted by ブクログ
上質な文章、世界観を存分に味わった。国語の教科書とか試験に載ってそう。少し前なら退屈したかもだけど、歳を重ねた?今ならしみじみと堪能できた、という感じ。架空の世界のお話だけど、どこか現実世界と繋がる怖さもあって惹き込まれました。