あらすじ
遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた――紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして……。人生のささやかな一場面が鮮やかに甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための物語。今はもういない人たちの声、誰の中にもある「物語」をそっとすくい上げて、しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。
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Posted by ブクログ
やっぱり小川洋子作品にはハズレがない。夢の中にいるような、原風景を見ているような、生きているけどすぐ側には常に死があるような。この本の中で特に好きだったのは「やまびこビスケット」「B談話室」「槍投げの青年」「花束」かなー。解説で紹介されている小川さんの言葉「物語として残しておきたいと願うような何かを誰でも一つくらいは持っている」「それらを見つけ、言葉ですくいあげてゆくときのわくわくする気持ちが好き」。自分には出来ない言語化をしてもらってる感じ。
Posted by ブクログ
戦争やテロ、災害などでたくさんの人が亡くなる悲しい出来事が起きたとき、私たちはつい、その出来事の大きさを「量」で測ろうとしてしまう。十万人が亡くなった、数百万人が被害にあった――そんな数字のインパクトで、悲劇の大きさを捉えようとしてしまう。
『人質の朗読会』は、冒頭で「テロによって人質に取られていた8名は全員亡くなった」と告げられるところから始まる。彼らの死後に発見された、朗読会の様子を収めた記録テープがラジオで放送されることになり……という導入で、読者は最初から「登場人物のいく末」を知らされたまま、物語を読み進めていくことになる。
そこで強く感じるのは、「彼らは確かに生きていた」という、当たり前だけれど揺るぎない事実だ。そして、「彼らにもそれぞれ豊かな人生があった」ということでもある。8名の朗読には、それぞれの人生、それぞれの感情、それぞれのきっかけが刻まれていて、なぜこのツアーに参加したのかという理由も一人ひとり違っている。その記録を、死後になって私たちが耳にするという体験は、「この人たちが生きていたことを忘れないでほしい」という願いを、静かに突きつけられているようでもあった。
もし自分が死ぬとしたら、自分と関わってきた人たちに願いたいのは、「僕の声を忘れないでほしい。僕の声をどこかで覚えていてほしい」ということだ。なぜなら、人の記憶はその人の声と密接につながっていて、声を通じて、その人の表情や仕草、言葉の選び方やものの考え方まで、丸ごと立ち上がってくるからだ。だからこそ、人質たちが「声」で自分の人生を記録したことには、とても大きな意味があるように思う。同時に、最後の朗読が解放戦線側の兵士によるものだという事実も重い。彼もまた生きていて、彼にもまた一つの人生がある。
ほんの少しのボタンの掛け違えで、人は「テロリスト」と「人質」という関係に分かれてしまうことがある。けれど、元をたどれば皆、同じように生まれ、育ち、家族がいて、日々の暮らしと人生を持つ人間だ。
そのことを思うと、胸がぎゅっと締め付けられるような苦しさがある一方で、彼らの声をしっかり耳と胸に焼き付け、「彼らが生きていたことを決して忘れない」と心に決めること自体が、彼らの存在をこの世界につなぎとめる、ひとつの供養になるのかもしれない。
そんなことを思いながら、この物語を読み進めていった。
Posted by ブクログ
何かの比喩かな?と思った「人質の朗読会」というタイトル、そのまま「人質の朗読会」の話でした。
その人質は全員亡くなったことが明かされ、複雑な気持ちで読み始めることになります。
人質となってから時間も過ぎ、少し周りを見る余裕ができる頃。囚われの身である8人もだんだん打ち解けてきたのかな。
殺伐とした状況の中で、せめて穏やかな時間を過ごすためにできる事。
未来がどうなるわからない今、絶対に確かな過去の記憶を思い出し、したため、語る事。そしてそれに耳を傾ける事。
それで自分を、お互いを支えていたのかな。生きるための朗読会であることは間違いなく、だから切ない。
他人からしたらなんて事ない出来事だろうけど、強烈に覚えてる事あるなぁ。
各々のエピソードの後には『職業・年齢・性別・旅の目的』の記載があるのですが、ここがまた。この1行でさらに印象が深くなります。
しっかし発想がすごい…よく思いつくなぁ。
Posted by ブクログ
ひとまとまりのお話だけれど、短編集のような構成。一人ひとりの静かなコアな地味な物語が、心に染み入ります。小川洋子さんの世界観は人であることでしか味わえない心理描写をいつも描いてくれて、それがたまらなく大好きです
Posted by ブクログ
個人的にかなり好きな話です。
人質たちはみんな悲惨な最後を約束されていますが、その人達がぽつりぽつりと語るのはふとした日常。きっと人の心や物語と呼ばれる物は尊い日常から生まれて、その日々を元に生きてきたのだなと思いました。小川洋子さんの語る「物語」というのはこういうものなのだなと思いました
Posted by ブクログ
異国を旅行中、ゲリラの人質になってしまったツアーの参加者達の朗読会。
他人からみたらどうでもいいような出来事が、本人にとっては忘れられない大切な思い出であり、今まで生きてきた軸であったりする。
話の最後にその人の職業と、どういった理由でツアーに参加したのかが書かれていた。朗読した出来事からツアーに参加するまでどんな風にその人が生きてきたのかが想像できるようだ。
命の補償はない過酷な状況の中であるからこそ更に美しく輝くお話だった
Posted by ブクログ
海外旅行先で襲撃を受け、人質となった8人。8人は亡くなってしまったが、後に犯人グループの動きを探るため、録音された盗聴テープが公開された。人質たちが自ら考えた話を朗読している様子が録音されたテープである。
1話毎の終わりに、誰が朗読したのかが記載されている。淡々と書かれているのが、その人たちが亡くなっているんだということを強調しているように感じた。
小川洋子さんの本を初めて読んだが、とても読みやすかった。ほかの本も気になるものがあったら読んでみたい。
表紙の「小鹿」は彫刻家の土屋仁応(つちや よしまさ)さんが造られたそう。
調べてみたらほかの作品も素敵だった。
Posted by ブクログ
本を読んでいて良くあるのが「この一文に救われた」などの特定の一部分を取り上げて、それが印象に残ること。
でも小川洋子さんの本の場合、作品の中の一部分というよりも、その作品単位でお守りのようになるので不思議だ。胸が温かくなり、絵筆を水につけた時に一気に色が広がるように、そして水につけることで絵筆に絵の具がついていたことにようやく気づくような、そんな心の存在を強く感じた。
とても抽象的な感想になってしまった。
作品全体が好きなのはもちろんだけれど、この中でも印象的な文章はp158の槍投げの話で
「こうして合わせた両手から次々と水がこぼれ落ちてゆくように皆が遠ざかってゆくのを、私はただ黙って見送るばかりだった。自分の掌に視線を落とせば、そこにはもうささやかな空洞があるばかりで、こぼれ落ちるべき何ものも残ってはいなかった。」
というもの。
手を合わせることと登場人物の境遇からどうしたら、こんな表現を思い浮かべられるのか。
ただ自分以外の自分と近い距離にいた人がみんな死んでいくという状況を寂しさとはまた異なる視点から書いているように思えて、とても好きな部分です。
Posted by ブクログ
お店の名前はこの本のB談話室からとったようだ。
「B談話室は町の片隅の、放っておいたら素通りされてしまう、ひっそりとした場所に隠れている。だから僕は、B談話室で行われている営みを間違いなくこの世に刻みつけるために、小説を書いている。」
第八夜の花束と第九夜のハキリアリが特に好きだった。
解説が俳優の佐藤隆太さんなのすごい。
小川洋子さんのあとがき「面白みのない生活の中にも、書かれるべきことが隠れています」「それらを見つけ、言葉ですくいあげてゆくときのわくわくする気持ちが、わたしはやはり好きです。」
Posted by ブクログ
特殊な状況下にありながら(あるからこそ)静かに語られていく何気ないけれど印象的な出来事たち。ものすごく特別、というわけではないかもしれないけれど、少し風変わりで、確実にその人の中に残り、ほのかに息づいてる物語たちが良い。
匿名
人質になった日本人たちが極限状態の中で自らのエピソードを語っていく物語です。
とても平易な語り口調で綴られる物語は彼らがもう亡くなっていることもあり、セピア色の写真を見るようです。
小川洋子の作品の中でも、その完成度の高さからもっとも好きなものの一つです。
小川洋子の特徴のひとつのグロテスクさがあまり前面に出ず、叙情的な部分が際立った作品であると思います。
私は特に「槍投げの青年」が好きです。陸上競技特有のストイックさや、力強さや、繰り返しのルーティーンからの高揚感などが、その文章の中で鮮やかに蘇ります。
Posted by ブクログ
地球の裏側のどこか知らない国、
8人の日本人の乗ったマイクロバスがバスごとゲリラにより拉致される。
世間には、一通りのゲリラの実態なども報道されるが、100日を超える膠着状態になり、世間からは少しづつ忘れ去られていく。
その危機の真っ只中の彼らは、生きて帰れるのか死ぬしかない中で、一人一人の朗読会が始まる。
短編小説みたいだ。
一人一人の物語を静かに、淡々とみんな聞いている。その話は子供の頃のことや若い時のこと、人が聞いても感動も何もないお話。
何なんだろうな。
何かしら、薄暗闇の中で静かに瞑想のような感じすら受ける。
心が透明になりそうだ。
私は「冬眠中のヤマネ」が好きだ。
いったいこんな時、私は何を朗読するんだろうか。
Posted by ブクログ
博士の愛した数式からの2作目。
人質たちが残した、一人ひとりの印象深い日記。
まるで短編集を読んでいるような贅沢な一冊でした。
全く異なる立場や目線など、色々な人の人生をちょっとずつ覗いているような気持ちになります。
ちょっと稀有な日々だけど、ほっこり。
タイトルの 人質 と 朗読会 のギャップが、湯豆腐をジャムで食べているような、、いや、そうはならない。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの作品を読むのはもしかしたら『博士の愛した数式』以来かも?!美しく隙のない、完璧だけど冷たさを感じさせない文章が読んでいて心地よく、ひとつひとつのお話もなんだか摩訶不思議で切なく、唯一無二の小川ワールドに惹かれました。素晴らしかった~!他の作品も読まなきゃ!!
Posted by ブクログ
8人の方の朗読会の話を聴かせてもらった。みんな日々の生活を粛々と送られている情景が目に浮かんだ。ただ一番印象に残ったのは、8人全ての人が犯人が仕掛けたダイナマイトで亡くなったという事である。それぞれの朗読を聴いた後、一人一人の人となりが分かった後なので何とも空虚で悲しい気持ちになった。
Posted by ブクログ
残酷すぎる、かつ絶対に変わらない結末が最初に提示されているのにも関わらず、明るさやコメディさも含まれる展開なのが複雑な気持ちになる‥!この朗読会が行われたことで被害者たちは報われたような気もする!
Posted by ブクログ
心の奥に温かさと切なさがじんわりと広がったまま、静かに本を閉じた。
人それぞれ違う物語を持っていながらも、一人一人のエピソードに情熱と愛がこもっていて、真剣に耳を傾けてしまうような時間。自分だったらどんなことを語るんだろう、と考えてみたくなった。
「やまびこビスケット」「コンソメスープ名人」が特に好き。
Posted by ブクログ
衝撃的な文から始まる本書。いつの間にか人質達の朗読に耳を澄ます自分がいた。
日本語の滑らかで優しい音が静かに皆を包む。日常の中に潜む非日常の話。
『ハキリアリ』で終わった時、朗読会の意味が分かった気がした。
Posted by ブクログ
さすが小川洋子さん、と言う作品でした。
私は短編はあまり好まないのですが、この作品はそれぞれが短編だからこその良さがありました。
wowwowでドラマにもなってることを知りました。
見てみたいけど、せっかくの名作が上手く映像化されてるか不安でもあります。
Posted by ブクログ
私の好きな小川洋子は妖しく毒の要素強めの作品なのですが、こちらはさみしく儚げな方の小川洋子です。
どちらにしろ小川洋子さんの文章が大好きなのでいつか全て読み尽くしたいです。
Posted by ブクログ
最初はスローペースで読んでいたのだけど、だんだん気になっていって最後はとても集中して読み込んだ。
私が人に朗読するなら、自分のどんな思い出を語るだろう。
Posted by ブクログ
一万円選書の5冊目。
題名の通り、異国の地で誘拐された人質たちが語る朗読会。
その内容は自分自身の人生の1ページについて。
自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去だ。
それをそっと取り出し、掌で温め、言葉の舟にのせる。
それぞれの語った内容が短編として綴られていました。
どの話もどこか不思議で、特にオチがあるわけでもありません。
でも他の人からしたらなんでもないその思い出が、きっとその人の人生にとってなくてはならない瞬間だったのだと思います。
彼らの話はしっかり届いていましたね。
私にも届きました。
私が語りたい人生の1ページは何だろうって考えさせられました。
If you have an opportunity to talk about your life, what would you choose?
What is the meaning of the episode for you?
Posted by ブクログ
小川洋子さん、お初でした!
ワタシのこれまでの人生で、何気ないけど強烈な記憶として残っていることって、何かあっただろうか?と思いながら読み進める。
おばあさんの話とビスケットの話が好きだった。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの本を何冊か読んだことがあるから、拒絶感なく読めましたが、初だったら、困惑してました。
出だしで、人質の死を知った後にその人たちが捕えられている間に読んだ朗読会と聞いたら、今の心情を話すのかと思いますが、全く違いました。
それぞれの話が繋がっているわけでも、そこにオチや、伏線があるわけでもなく、ただその人の心に残っているエピソードだけでした。
でも読み終わると人が最後に話したい話って、こういう何でもなくわざわざ人に話すまでもないものかもしれないなぁと思いました。
Posted by ブクログ
はじめの一文から小川洋子ワールド全開だった。
"そのニュースは地球の裏側にある、一度聞いただけではとても発音できそうにない込み入った名前の村からもたらされた。"
8人の人質と、1人の特殊部隊通信班隊員によって語られた9つの物語。他人からするとなんてことのない、人生のほんの一部の光景。それが当人にとっては色褪せることのない特別な記憶だったりする。
「冬眠中のヤマネ」がよかった。
Posted by ブクログ
タイトルを忘れて読む、
人質にされた人たちの間で共有し合ったストーリーの記し。
ふつうの人たちの、ちょっと不思議な思い出話。
こんなふうに、みんなのひとりひとりの話なんて全部聞いてられるはずがないけれど、
聞いてて、読んでて飽きない、というか、
もっと知りたくなってしまう不思議。
人質になったから語られたのか、
とにかくこの世の中はたくさんの思い出たちでいっぱいなんだろうなー。
その多くは語られることはなく、伝えられることはなく…
だからこそ、わたしが聞き出してみたい、と思ったりするのかな。
もっと話して、っていいたくなるような、
そんなストーリーが、現実の身の回りにもたくさん眠っていることを思い起こさせる…。
Posted by ブクログ
いわた書店の一万円選書で選んでいただいた本。
他人にとっては取るに足らないことでも、本人にとっては印象深い特別なできごとが誰にでもひとつくらいあるのではないか。
未来ではなく、過去に目を向けるとき、自分は何を思い出すのだろう。
Posted by ブクログ
些細な出来事だけど、強く記憶に残っている出来事を人質達が語っていく。もし自分だったらどんな話をするだろう。
最後まで読んだあとに、もう一度冒頭の部分を読み直すとすごく切なくなった。