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遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた――紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして……。人生のささやかな一場面が鮮やかに甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための物語。今はもういない人たちの声、誰の中にもある「物語」をそっとすくい上げて、しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。
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Posted by ブクログ
やっぱり小川洋子作品にはハズレがない。夢の中にいるような、原風景を見ているような、生きているけどすぐ側には常に死があるような。この本の中で特に好きだったのは「やまびこビスケット」「B談話室」「槍投げの青年」「花束」かなー。解説で紹介されている小川さんの言葉「物語として残しておきたいと願うような何かを...続きを読む誰でも一つくらいは持っている」「それらを見つけ、言葉ですくいあげてゆくときのわくわくする気持ちが好き」。自分には出来ない言語化をしてもらってる感じ。
人質たちが暇つぶしに、何か一つ思い出を文に書き出して朗読し合おうとする。今必要なのは、じっと考えることと耳を澄ませることだ。これを読んで、 小川洋子さんが「物語の役割」で、辛い現実を乗り切るための手段として物語がある、と語られていたのを思い出した。 杖 子供の頃足を怪我した太った下っぱ工員さんに、...続きを読むのこぎりで切った枝を渡して助けてあげた。十数年後、交通事故で意識を失っていたわたしの頭の中に、工員さんがバーナーと立派なお面を持って現れて、足を治してくれた。目覚めたら、切断寸前だったらしい足は、どうにか持ち堪えてくれていた。バーナーとお面は、世界を壊すのではなく創り出すものだったと気付いた。 やまびこビスケット 味より型の種類が重要なビスケット。嫌われ者の大家さんにとって、家賃は決して横取りされてはならない獲物であり、整理整頓は理屈抜きの生存本能であった。工場でたまに貰える不良品を、大家さんと食べるようになった私。厄介者扱いされる不良品は、大家さんと私の仲間だ。大家さんが亡くなった部屋の丸テーブルには『整理整頓』のアルファベットのビスケットが綺麗に並んでいた。私はそれを布に入れ、お守りとして大事にした。 B談話室 そこでは様々な集会が開かれる。どんな種類の会にも僕はすんなり入り込める才能があるようだ。不思議なことに必ず片隅に空いた席があるのだ。ここでの色んな経験が、僕が作家になったきっかけだった。世界中のひっそりとした場所にB談話室はある。ささやかな繋がりを持つ者たちが、真に笑ったり泣いたり感嘆したりできる場所。 冬眠中のヤマネ 僕は子供の頃、いろんな事柄について「分かる」と感じる場面が多かった。受験に受かることも、茶店の店主が死ぬ日も。でも「分かる」と思っていたことは全部、外から発信されたものばかり。老人を背負って石段を登っているとき、二人はつなぎ目なく一つにつながり合っている、と感じた。生涯で初めて、本当に何かを「分かった」瞬間だった。片目の濁った老人が静かに泣きながら、片目しかない冬眠中のヤマネをくれた。それを僕はずっと側において過ごした。自分の身体の一部のように。 コンソメスープ名人 僕は八歳で、留守番中。隣の家の娘さんが、母(車椅子で庭にじっと動かずに居るから、ミイラになろうとしているんだと僕は信じている)にコンソメスープを作らなければならないから台所を貸して欲しい、とやってきた。どんよりした雰囲気は、台所に立った瞬間、一変した。テキパキと働き、眼差しは真剣だった。温度計を刺すという使命を与えられた僕は誇らしい気持ちで、これを飲んでミイラになれるなら幸福なことだと思った。娘の母は三日後に亡くなったそうだ。 槍投げの青年 槍を投擲する、ただそれだけの練習だった。眼前で繰り広げられているのは、肉体を使う運動であると同時に、孤独な思索でもあった。何かに打ち込んでいるとき、真に自分との対話ができるんだろうと思う。描写が細かくて、槍と青年の一体感を表現しているのが印象的だった。 亡くなった夫の代わりに、頭の片隅に住み着いた青年が心の支えになってくれた。素敵な終わり方だった。 死んだおばあさん 「死んだおばあさんに似ている」。子や孫の世話に一生を尽くした祖母の、うつむき祈りを捧げる顔。偏屈なおばあさんが晩年、妄想の中でヴァイオリンを弾く顔。実にさまざまな、自分と似ているらしいおばあさんが登場する。「でも私自身は子供を持つことができず、死んだおばあさんには永遠になれないのです。」終わり方が衝撃だった。世にも奇妙な物語のような雰囲気だった。 花束 バイトの最終日、唯一の僕の担当であった葬儀典礼会館の課長さんに立派な花束を貰った。死者があの世で着替えるためのスーツを買いに来る人だった。僕は昔、腹違いの妹が大事にしていた人形をこっそり持ち出し、社宅の階段の踊り場から投げ落としたことがある。その後、同じ場所で投身自殺が起き怖くなった。帰り道の交差点にお供えされた枯れた花に気づき、綺麗に掃除して貰った花束を生けた。そして課長さん、妹の人形、ここで亡くなった誰か、身を投げた主婦に祈りを捧げた。 ハキリアリ ハキリアリの行進を「一つ一つの切れ端は皆形が違うのに、見事に統制が取れて、切れ目のない一続きになっている。ジャングルを静かに流れる、緑の小川だ。」と言った例えが素敵だと思った。 緑の小川は、苦心する素振りも見せず流れてゆく。自分が背負うべき供物を、定められた一点へと運ぶ。 そのようにして人質は自分たちの物語を朗読した。 物語が一つ語り終わるたびに、そうだ、この人たちはもう居ないんだと、寂しい気持ちになった。話の終わりに今の職業が出てくるのも、楽しみにしながら読んでいた。
普段、腕や首や血が飛び散ったり井戸から貞子が出たりするものばかり読んでいるので、文字通り心が洗われた気持ちになった。 たまには心をお洗濯しないとだめですね…。 ささいな日常を(もちろん練りに練られた内容なのだけども)繊細で丁寧で厳選された言葉で綴られると、こんなにも濃密な世界になるんですね。 どの...続きを読む話も素敵なだったのですが、個人的には「B談話室」と「コンソメスープ」が好きでした。 この物語を語った人々がどうなったかは、冒頭で語られているので、だから余計に最後のエピソードの「この朗読会が終わらなければいいのに」という一文が胸に応えました。 読み終わってため息です。余韻引きずるわー。
監禁されたことによる人質の方たちの朗読会。人は誰しも語りたくなるような思い出を持っている。事件や事故大きいことではないかもしれない。けれども、自分にとって大きいことは物語のように話は進んでいく。 素晴らしい小説です。
何かの比喩かな?と思った「人質の朗読会」というタイトル、そのまま「人質の朗読会」の話でした。 その人質は全員亡くなったことが明かされ、複雑な気持ちで読み始めることになります。 人質となってから時間も過ぎ、少し周りを見る余裕ができる頃。囚われの身である8人もだんだん打ち解けてきたのかな。 殺伐とし...続きを読むた状況の中で、せめて穏やかな時間を過ごすためにできる事。 未来がどうなるわからない今、絶対に確かな過去の記憶を思い出し、したため、語る事。そしてそれに耳を傾ける事。 それで自分を、お互いを支えていたのかな。生きるための朗読会であることは間違いなく、だから切ない。 他人からしたらなんて事ない出来事だろうけど、強烈に覚えてる事あるなぁ。 各々のエピソードの後には『職業・年齢・性別・旅の目的』の記載があるのですが、ここがまた。この1行でさらに印象が深くなります。 しっかし発想がすごい…よく思いつくなぁ。
ひとまとまりのお話だけれど、短編集のような構成。一人ひとりの静かなコアな地味な物語が、心に染み入ります。小川洋子さんの世界観は人であることでしか味わえない心理描写をいつも描いてくれて、それがたまらなく大好きです
個人的にかなり好きな話です。 人質たちはみんな悲惨な最後を約束されていますが、その人達がぽつりぽつりと語るのはふとした日常。きっと人の心や物語と呼ばれる物は尊い日常から生まれて、その日々を元に生きてきたのだなと思いました。小川洋子さんの語る「物語」というのはこういうものなのだなと思いました
人質として、いつ処刑されるか分からない状態の中で、自分の人生の一部を文章にして朗読し合う話です。 緊迫した状況下で、ほのぼのした話、切ない話、楽しい話が発表します。 牢獄の中で生きる糧を見つける人質の心情を上手く掴んでいて、その発想が面白かったです。
こんなにも生と死、いつも通りの生活の有り難みを感じられる小説はあまり読んだことはありません。 極限のなか感謝、後悔、恐怖、様々な感情を押し殺して朗読会を行います。 8人の人質は偶然その場に居合わせただけで、皆それぞれの生活があり、家族や友人がいる。年齢や性別も違っているお話がとても身近に感じられ...続きを読むます。9人目の、通訳の政府軍兵士が語った「彼らは祈りにも似た行為であった」の一文には涙が出そうになりました。 悲しいけど、素敵な短編小説です。
ずっと心の中にあり、人に話す程ではない、落ちもない話だけど忘れられなくて、思い出すたび、鮮やかさを増す記憶。私にもそんな話があるだろうか。 語り手一人一人の、その人となりが、息遣いが、ひとつひとつの話に感じられる。 お気に入りは、『死んだおばあさん』。
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人質の朗読会
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小川洋子
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