小川洋子のレビュー一覧

  • 猫を抱いて象と泳ぐ

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    小川洋子が「静謐」というとき、辺りは本当に静かになるのだ。それこそ深海のように。読み終わって、衝撃のあまり本を落としてしまった小説はこれが初めてだった。初めての純文学としておすすめできると思う。チェスの師匠に俺も会いたい。

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    2026年10月26日
  • 劇場という名の星座

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    「芝居の幕が降りたあとも 拍手の波が引いても
    ここには残っている ときめきの欠片が」 -劇団四季 ゴーストアンドレディより-

    名古屋四季劇場がその10年の歴史に幕を下ろす時、それを取り上げていたニュース番組のアナウンサーが、「劇場に直接足を運ぶということは、キャストと観客とスタッフ,そこに集まった人が一体となる経験と不可分。場所というのはそれだけで大きな意味を持つ。」と話していて思わず頷いてしまったことがあった。
    劇場に集まる人間が舞台作品に馳せる思いや観劇の思い出は、それらを上演する劇場にときめきの欠片として残っていて、星座のように光輝いている。それを拾い集めて物語にしてくれているような そんな作品。読んでいると、劇場への愛と好きな物に囲まれているときの心が温かさを思い出させてくれる。

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    2026年10月26日
  • 博士の愛した数式

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    eとπとiと1
    一見バラバラの記号だけど、それが式となり調和し、静けさをもたらす。最後のシーンこそ、博士の愛した数式だったんだろうな。

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    2026年10月25日
  • ミーナの行進

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    ネタバレ

    なんと言おうか。『魔の山』というよりは『秘密の花園』『ハイジ』。不幸な少女がある場所に退避して、成長、回復していく物語。そこは、死、浮気、病気などが描かれつつつも、お金持ちのほのぼのとした世界に見える。しかし、遠景としてホロコースト、テロルを挿入してみせるところが小川洋子作品に通じるところだと思う。谷崎潤一郎賞にふさわしい筆力を感じた。

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    2026年10月25日
  • 博士の愛した数式

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    ネタバレ

    数字の世界の美しさ、世界の広がりを、愛情に満ちた文字で表した圧巻の物語だと感じました。
    解説文(藤原正彦氏)も含めて、至上の作品です。

    主人公の息子・ルートに向ける博士の限りない愛情に、この親子はどれだけ救われたのでしょうか……わずか十歳の少年が、博士に返そうとする真摯な愛にも、心打たれます。
    ほんとうに賢い子ですが、その優しさと我慢強さゆえに、博士のように無償の愛を注いでくれる大人がいてくれなかったら、もしかしたら違った未来を辿ったかもしれないという危うさも感じられました。
    主人公が博士に対して寄せる信頼にもすこしの危うさがあり、しかし、そのことは直接的には明示されません。
    序盤の文章に息子が登場しないことも、またひどく危ういです。
    だからといって、息子への愛情や心配がないわけではなく、寧ろその逆だということに気付かされるのは、そこそこ読み進めてからだったのですが……
    書かれないことへの想像を、ごく自然に誘われていくような読み心地でした。

    そうして考えていくと、書かれないことというのは虚数のようだなとも思います。
    まさに博士の言っていた、「とても遠慮深い数字だからね、目につく所に姿を現さないけれど、ちゃんと我々の心の中にあって、その小さな両手で世界を支えているのだ」という言葉がしっくりきます。

    実は、学生時代にもこの作品を読もうとしたことがあったのですが、そのときは読み進めることができませんでした。
    今は、若いシングルマザーとして生きる主人公の困難が、そのほんのかけらでも想像することができるようになったからか、ページを繰る手が止まりませんでした。
    つくづく、ある作品を読むのに最適な時期、あるいは読むことに困難の生じる期間というものがあるなぁと感じます。
    今、出会うことができてよかったと、心から思える作品でした。

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    2026年10月24日
  • そこに工場があるかぎり

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    工場を文学的視点から見たものを言葉としている。
    それぞれの終わりごとにYouTubeでその工場の生産動画を見ていると、綺麗に言語として落とし込んでいるのが分かる。
    個人的に最後の鉛筆の工場をみて、改めて鉛筆を使ってみたいと思った。

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    2026年10月23日
  • 偶然の祝福

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    小川洋子さんの本のなかで特に好きな作品で、大事にしたい本。キリコさんの失敗は最高に一番好きでした。すぐに次の章にいきたくなくて敢えて置いて、余韻に浸った。

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    2026年10月23日
  • 博士の愛した数式

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    数字が苦手なので初めはとっつきにくいなと思いましたが、博士の境遇を思うと彼が培って来た知識を彼なりの方法でコミュニケーションや生活に生かしていると気づき読み進めるにつれて数字や公式が主人公と同じく愛のあるものに感じました。主人公や息子の博士への愛も感じられ、心温まるお話でした。

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    2026年10月23日
  • ことり

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    ネタバレ

    小川洋子さんを読むのは初めてでしたが、人柄が滲み出ていて、人間や生き物への愛情を感じました。
    心が痛む場面もありますが、全体を通して優しい雰囲気がながれています。

    生きづらさを抱える兄弟が寄り添って慎ましく生きる姿が切なく、羨ましくもあり…
    この、兄弟の独特な『旅行の方法』が印象的でした。

    小説初心者の私にも読みやすい文体で、情景がありありと目に浮かんでくるようで、とにかく描写力が凄いです。

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    2026年10月18日
  • 猫を抱いて象と泳ぐ

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    良すぎて死んだ。今のところ小川洋子作品のなかでいちばんすき。とても素敵で涙が出た。チェスのことなんてなにもわからないけど、チェスのことをこんなにも美しく文章で表現できる人は他にいないよ。切なさとやさしさが半分ずつのような、なんとも言えないきもちになった。タイトルも、なんていうか、もうこれしかないっていうタイトルでため息が出る。みんな、最初から最後までずっとリトルアリョーヒンと一緒にいたな。ほんとうにめっちゃ良かったな。いい本読んだなあ。

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    2026年10月18日
  • 博士の愛した数式

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    小川洋子先生なのに最後まで暖かいじゃないですか?!笑
    小川洋子先生といえば、内容は結構残酷なのに澄んだ文章で美しいと思っていたのに。
    猫を抱いて、密やかな結晶と、えぐいなー、でも綺麗だなー、と思っていたら、博士は最後まで暖かかった。とはいえ、ハッピーエンドではないのですが。でも、暖かかった。決してバッドエンドではなかった。
    猫を抱いても密やかな結晶も不思議と決してバッドエンドというわけじゃないんですが。それでも、博士は明確に暖かかった。
    でも、これはこれで好きでした。小川洋子先生、素晴らしい。
    猫を抱いてが一番好きですが。

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    2026年10月17日
  • 人質の朗読会

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    とある国。反政府ゲリラの襲撃により、人質となったツアー参加者七名と添乗員の計八名による朗読会の記録。そして、それを聞いていた特殊部隊員が語る物語。

    『ささいなことなのだけれども、ずっと胸の片隅に引っかかって消えない記憶というものがある──。』

    遺族に語り手のことを聞いても挙げられることのないような些細な出来事も、人生でほんの一瞬だけ交わった人たちも、彼らにとっては大きな支えになっていた。彼ら自身にしか語ることのできない物語だったと思う。
    彼ら同様、彼らの語った物語の中に現れる人々にも語られるべき物語があるのだろうと感じた。
    本を閉じた後、自分だったら何を語るだろうかと考えさせられた。

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    2026年10月17日
  • 孤独をのぞき込む 秘密の読書会

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    孤独を見つめる言葉の襞の宝庫

    小川洋子さんが小説書きとして洗練してきた感性で投げかけ、東畑開人先生が心理学で培った複眼的な視点で応答するやりとりの中にとても孤独についての襞が見つかる素晴らしい対談だった。良い悪いの二元論的なものではなく、少しずつ少しずつ別の言葉、手触り、繋げ方で孤独を触っていく。その中で交わされる言葉が、例えるなら指間水かきのような、ずっと泳いでいてやっとできるちょっとカッパみたいにのびる手のひれみたいに、小説家、心理士を通してお二方が泳ぎ続けてきた長い時間が故に掬い出された言葉のようで、何度も頷き、発見があった。

    鏡リュウジ先生との『昼間のスターゲイザー』でも思ったけど、東畑先生は対話だとより活き活きしているというか、紡ぎ出された言葉、再記述的なちからがより対談者に共鳴するように凄く広がるような印象を受けた。もっと色んな方との対話本を読みたいな。

    とにかく素晴らしい対談でした。

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    2026年10月18日
  • 密やかな結晶 新装版

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    この島に起きる「消滅」という現象は、喪失ではなく、奪われていくということなんだけど、人々はそれを受け入れている。
    抵抗はできない。勇気がないからではなく、抗いようがない圧倒的な力によるものだから。地震のように突然襲ってくるものとして「消滅」はやってくる。
    R氏や母親のような人はたまたまそういう体質だっただけで、他の人より高い思考力を持っているとか何か強い信念があるからなどではない。
    独裁者による迫害に似てるけど、消滅そのものはそれとも少し違うかもしれない。必ず訪れる死に近いのかもしれない。
    だけど奪われ失われても、どこかに何かわずかでも残るものはあるはず。かすかな記憶のように。主人公が残した物語の様に。それが「密やかな結晶」なんだな。
    それにしてもまあ本当に小川洋子さんの文章の美しさよ…。架空世界の深さよ…。
    久しぶりに読んで、やっぱり好きだ〜〜〜てなった。
    ストーリーに緊張感もあり、場面の描写にみずみずしさもあり。
    一体どういう生活してたら「夏に採れた玉ねぎの皮が、こんなふうにきれいな飴色で、蝶の羽みたいに薄く乾燥する年は、雪が降るんです」なんてセリフを、さりげなく登場人物に言わせられるのか。
    キャラクターもR氏も別に男前的な描写は全然ないのに、仕草だけで色気があるんだよな…それでいてしつこくない…(?)
    おじいさんはもう何もかも最高で、好きにならずにはいられない…
    あと小川洋子さんの小説に出てくる小物類はいつも良い。食べ物も良い。野鳥観測所でおやつに食べさせてもらうのがビスケットとココアとか、知り合いの農家に分けてもらったカラス麦でクッキー焼くとか、差し入れにロールパンを焼いて持っていくとか。ほんとにサラッと出てくるだけなのにそういうので世界に奥行きが出る。
    てか細かいことだけど、おやつに食べる「りんごのケーキ」のときはひらがなで、「頭に林檎を載せた子熊のアップリケ」のときは漢字、特技として出す時は「リンゴケーキ」とカタカナで書いてるあたりも、表記揺れじゃなくてあえての使い分けなんだよなー。丁寧だよなー。

    かなり容赦のない結末を迎える物語だけど、だからこそ、この「島」での営みは愛おしくなるのようなものでなくてはならない。
    荒廃したディストピアではなく、普通の人々がささやかな楽しみや幸福を見つけながら暮らしている世界だからこそ、失われることの意味が迫ってくる。

    いややっぱりすごいわ、小川洋子さん…

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    2026年10月15日
  • 密やかな結晶 新装版

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    小川洋子先生、素晴らしいですね。
    救いのない残酷な話といえばそうなんですけど、なぜか綺麗なんですよね。澄んでいる。
    物語を大袈裟にしたり、大事件にしたりせず、淡々といろんなものが消滅していく島を描写する。
    猫を抱いて象と泳ぐ、みたいな分かりやすさ、感動はないんですけどね。淡々と。ただ、淡々と。美しいんですね。猫象の方が、分かりやすいし、感動しやすい。その点、密やかな結晶は、良い作品なんだけど、何が良かった?と聞かれると非常に説明しづらい。ドラマがあるかというと微妙だし、スリリングかと言われるとそうでもない。作中小説もいまいち意味が掴みにくい。でも、淡々と世界が深まっていく。素晴らしい小説だと思いました。

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    2026年10月12日
  • 博士の愛した数式

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    ネタバレ

    美しい、活字で触れるべき物語
    親子の愛、数字への愛、√への無償の愛

    思い返せば、野球選手以外の誰の名前も出てこず、博士、家政婦、息子の肩書きだけであることも物語の洗練さを引き立てている

    語り手である家政婦の人柄(人間味や大胆さ、好奇心や受容の深さ)もあり読んでいて心地よい

    藤原さんの解説までが愛おしく感じる素敵な作品でした

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    2026年10月12日
  • 最果てアーケード

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    小川洋子さんの文章は透明だ。そして切なく暖かい。
    世界で一番小さなアーケードにあるいくつかのお店に関わるお話の数々。
    短編集なのだけれど一つひとつが珠玉なのだ。
    どれも好きだが特に好きなのは「百科事典少女」と「紙店シスター」だ。
    いずれも少女が出てくるのだが、けなげで意地らしくて、哀しみと切なさと愛が一篇の中にあるのですよ。

    ああ、この自分の語彙力のなさ、文章力のなさ・・
    どうぞ、このレビューを読まれた方、お手に取ってみてください。
    秋に読むにはまたピッタリ!

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    2026年10月11日
  • 博士の愛した数式

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    ・ラストのフレーズに驚かされた
    ・数字の偉大さや人々をつなぎ合わせる力を感じる
    ・登場人物の魅力(博士、家政婦とその息子)
    ・設定の面白さ(80分しか記憶がもたない数学の博士)

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    2026年10月10日
  • 博士の愛した数式

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    この世の全ては「数字」で表す事ができる。
    それと同じように
    この世の全ては「文字」で表す事ができる。
    と僕は思っています。

    このようなお話の設定と
    とても優しい人達の物語を
    創り出すことができる小川洋子さんは
    「文字」で「数字」の面白さと凄さを伝える
    博士だと思いました。

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    2026年10月08日
  • ことり

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    静かで美しいけれど、どこか胸が締めつけられる物語だった。人との関わりが少ない兄弟の暮らしを通して、「誰かを想うこと」の温かさと切なさが伝わってくる。

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    2026年10月07日