小川洋子のレビュー一覧
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終始、肉体も心もともに、グロテスクで、生々しくて、不穏で、でも静謐で、美しくて。
筋肉、指先、感情。
何かの始まりさえ、生々しい感情のさざなみに溶け込ませてしまう。
なんだかんだ優しく、時に残酷に、主人公たちの、何かが欠如してしまって、死を、喪失を、心にぽっかり空いた穴を埋めていく。
あとがきまで、これら四つの短編と同じくらい生々しくて不穏ででも最後には光がさして。
静謐が身体を、読者である私の身体を貫いて、一塊が胸の中に残り、一塊は風になって消えていくような。そんな読後感でした。
なんだろう、この満足感は。それでいて、もっと小川さんの小説に浸っていたいと抱きしめたくなる感情は。
表題作の「完 -
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デビュー作の「揚羽蝶が壊れる時」を含む、初期の四作品を収録。
「揚羽蝶が壊れる時」の中で、「正常と異常、真実と幻想の境界線なんてあやふやで、誰にも決定できないもの」という文章に、小川作品の原点を見たような気がします。
ものすごく優しい視点で描かれた、グロテスクさと美しさの混じり合った独特な世界を堪能することができました。
四編とも死や喪失感を思わせるような作品なのですが、表題作の「完璧な病室」が特に良かったです。
21歳で亡くなった弟の記憶、安らかな病室、張り詰めた空気。
「完璧」という言葉がとてつもなく哀しく聞こえます。
銀杏の黄色から雪の白へと移ろいゆく季節の中で、息もつけないくらいに -
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調香師の卵であった恋人の弘之が、“記憶の泉”と名付けられた香水を残して突然亡くなる。
一緒に暮らしていたフリーライターの涼子は、どうしても彼の自殺の理由が知りたくて、幻影を追い求めるように彼の過去を辿っていく。
淡々として美しく、上品な雰囲気で、外国の映画を観ているようだった。
スケート、数学、物事を分類する能力など、静かな物語の中に隠された彼の秘密を知るたびにどきどきしてしまう。
プラハでの不思議な体験はまるでファンタジーのようで、街の風景が頭の中で映像のように映し出され、いつまでも浸っていたくなった。
優しいため息をついてしまいたくなるような、みごとな結末だった。 -
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どこにでもあるふと立ち止まることのない人たちの瞼の裏にしかないような強烈な景色が、日常や普遍的な平凡さとミルフィーユみたいに重なって、なんともいえない感動を覚える。
「リンデンバウム通りの双子」は静けさで溢れていて、強い言葉も表現もないのに、まぶたの裏に焼きつきそうな衝撃と強さがあった。
著書を翻訳してくれている人であるにせよ、それだけだった人。でもその双子には、瞼を閉じるたびにきっと浮かぶ苦しみや地獄があって、平坦で本当はきっと1日1日が長い日々があって、戻らない幼い日々があって。
美味しいスープの香り、病院に差し込むあたたかい日、可愛い妹とのいたずら、父が大事にした顕微鏡。。。
まばたきす -
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小川洋子さんの小説を読むのは、「薬指の標本」「猫を抱いて象と泳ぐ」「妊娠カレンダー」に引き続き、四作目です。
見栄えのするスイーツを食べたことがあるでしょうか。全く違った要素を組み合わせてみたり、バーナーで表面を焙ってキャラメリゼしてみたり。中には、綿菓子を盛った上にソースをかけて溶かすようなものも、世の中にはあるそうです。
本作『琥珀のまたたき』では、そんな全く違った側面を組み合わせた、“一味違う物語”が楽しめます。シリアスとファンタジー、ポップとダーク、光と影が織りなす、「美しくてキラキラしているのに、ちょっと油断をしたら怪我をするオモチャ」のような味わい。
夫と別れたママ。彼女 -
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「約束された移動」「ダイアナとバーバラ」「元迷子係の黒目」「寄生」「黒子羊はどこへ」「巨人の接待」“移動する”物語、六篇。
ここに収められている作品に登場する老人たちの、穏やかな立ち居振る舞い、言葉づかい、仕事ぶり、そして、熱帯魚、子羊、小鳥、子供たちとのふれあい、そのどれもすべてが美しい。
それらは、人目につかず、ひっそりとした佇まいなのだけれど、普通と違ってどこかずれてしまっている、その哀しさがまた美しいと思える。
一旦この物語に足を踏み入れてしまうと、読み終わるのがもったいないとさえ思ってしまう。
濃密で不思議な魅力のある、独特な世界。