小川洋子のレビュー一覧
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小川洋子さんの世界からただいま戻りました‥‥
どっぷりと世界観に浸りました。
おばあさんと二人暮らしのリリカ。
家の隣の広大な森を買い取り移り住んできたのは“内気な人の会”と称するグループ。宗教的施設でも、営利目的の会社でもなく、ただただ内気な人たちの集まり。やがて門には“アカシアの野辺”と書かれた看板が掲げられるようになる。
とにかく、“内気な人の会”とか“アカシアの野辺”とか、本を数ページ読んだだけで、小川洋子さんの世界へスーッと引き込まれて行きます。
“内気な人の会”の雑用係として働くことになったおばあさんと、その孫娘のリリカは唯一“アカシアの野辺”に入ることができる二人。
『魂を慰める -
Posted by ブクログ
ふと気づくと、金属に穴があきはじめている。そもそもの目的がこれなのだから、驚く必要もないのに、なぜかとても不思議な現象を目にしている気分になる。一点の窪みが少しずつ、慌てず慎重に、奥へ奥へと潜り込んでゆく。電極と金属は一定の距離を保ち、決して触れ合わない。電極の回転も、穴の形成も、想像よりずっとゆっくりしたスピードで行われる。金属はまるでそれが自らの意思であるかのように、穴を受け入れている。この密やかな営みを、火花が祝福している。(第1章 株式会社エストロラボ〈細穴屋〉より)
凡ゆる仕事には、たとえ文化勲章受賞者ではなくとも、匠の技が隠れている。と、私は思う。
例えば、封筒詰めの単純作業であ -
Posted by ブクログ
ネタバレリトル・アリョーヒンには、チェスがあってよかった。
彼にとってチェスは、単なるゲームではなく、人生そのものだった。勝ち負けが存在するのはもちろんだけれど、彼が本当に大切にしていたのは、どんな「棋譜」が生まれるかということ、そしてそれを通じて誰かと交わされる「会話」だったのだと思う。
チェスは人生のように、対峙する相手や盤を挟む場所によって、まったく違う表情を見せる。汚い手を使ってでも勝ちを急ぐ者もいれば、報酬のために勝ち方にはこだわらない者もいる。そこには、その人がどんな人生を生きてきたかが、そのまま染み出している。
象徴的なのが、マスターがアリョーヒンを叱る場面だ。橋のたもとで賭けチェ -
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ネタバレ『密やかな結晶』の世界では、社会から一つひとつ、何かが静かに消滅していく。その中で「密やかな結晶」とは何なのだろうか、と読みながらずっと考えていた。
小川洋子作品を通底するテーマに、「記憶の継承」「存在が滅びても、その記憶は残り続ける」というものがある。本作もまた、その系譜の上にある物語だと感じた。
この世界におけるささやかな救いは、消滅に囚われた人々の中で、なおも消えたものたちの記憶を抱き続ける編集者の存在だ。
彼は、すべてが消滅したあとの世界で、「わたし」が書き残した小説=物語の記憶をその身に宿したまま、歩き出していく。物語はその場面で終わるが、彼の中に残ったそれらの記憶は、なおも続い