小川洋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
数冊読んだことがあって、基本的には好きな小説家の手による書評集。とはいえ、最初から書評という形を取られていたものではなく、ラジオで話したものの字起こしってことだから、ちょっとニュアンスが異なる。ラジオで流れるってことは、読書家ってよりはもう少し一般寄りの相手が対象となる訳で、それもあってか、選ばれている作品も有名どころが占めることになっている。ブックガイド好きで、それらをよく読む目からすれば、既知・既読作品の割合が高い。かといって、刺激のない退屈な読み物となっていないのは、本書のリーダビリティの高さによるところも大きい。ラジオで話している内容だけに、伝わりにくい言葉は含まれないし、時間制限のある中で魅力を伝えなければいけない分、直達的な表現も多くなっている。回りくどい書評をあまり好まない自分としては、かなり高感度の高い書評集でした。敢えて言うなら、新たな発見は少なかったけど。
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Posted by ブクログ
時間を忘れて一気に読破したくなるサスペンスフルな小説もいいけど、
不思議でシュールでユーモラスな1つの短編の世界に
1日の終わりにじっくりと浸るのも読書の醍醐味だ。
本書はまさに寝る前に1話ずつ
ゆっくりと読んで欲しい短編集。
たちまち非日常にさらってゆく魔力と甘美な陶酔。
残り香のように漂う異国情緒。
小川作品に顕著な、
物語の中、息を潜めた死の匂いとうっすらとした狂気。
どの話も様々な動物たちをモチーフに、
そこにしか居場所のない
小さな場所に生きている人を描いている。
スーパーマーケットで試食品のデモンストレーションガールをする女性は
狭いモノレール沿線から抜け出せない自分の心情を、
フランスの凱旋門賞に向かうディープインパクトの帯同馬ピカレスクコートに重ねて彼の無事を祈る
『帯同馬』、
交流のあった異国に住む翻訳家の死を機に
彼の息子とその恋人に会いに行く小説家の「私」。
ビーバーの小枝を登場人物に見立てて翻訳作業にかかるシーンが詩情に溢れ心に残った
『ビーバーの小枝』、
ドールハウスを作ることに没頭する引きこもりの妹と
それを支え手助けする兄と祖父。
まるでラッセ・ハルストレム監督の「ギルバート・グレイプ」や
クレイグ・ギレスピー監督の「ラースと、その彼女」、
若きジョニー・デップとメアリー・スチュアート・マスターソンの「妹の恋人」などを彷彿とさせる
微笑ましく暖かな世界観がかなりツボだった
『愛犬ベネディクト』、
何かしらの理由で旅ができない人のため、身代わりとなる品をガラス瓶に入れ、依頼主に成り代わって指定のルートを巡る仕事をしている女性。
幼くして亡くなった弟への美しい思い出を胸に旅をする彼女がどこか哀しい
『竜の子幼稚園』
などが特に印象的だった。
それにしても小川洋子の物語る腕力、恐るべし!
試食品を食べに毎日スーパーマーケットに現れる嘘つきな小母さんや
仕事の帰り道にアイスクリームを買って食べることを唯一の楽しみにしている売店のおばさんの孤独に胸を打たれ、
「ハモニカ兎」で野球というスポーツを初めて見た人たちの反応に笑い、
落丁本だけを扱う「落丁図書室」に心ときめき、
自分の誕生日と同じ日付の賞味期限が記された食品を宝箱にコレクションする男の子にシンパシーを感じ、
寄生虫に侵された蝸牛が床中を這い回るシーンのホラー的展開に戦慄を覚え、
旅ができない依頼人の身代わりをガラス壜に詰め、各地を旅する仕事には
果てしない浪漫を感じて、
しばし僕自身、この物語の奇妙な登場人物たちと
一緒に旅をした気分に浸ってしまった。
そして、なんと巧みな想像力なのだろう!
ページをめくるたびに
異国の御伽噺を読んでいるかのような錯覚に陥ること必至の極上の心地良さ。
メールや電話なんか無視してベッドに潜り込み、
1日の終わりに本書を慈しむようにめくる幸せは
何ものにも代え難い至福の時を約束してくれる。 -
Posted by ブクログ
年老いた翻訳家と少女の倒錯愛の物語
冒頭の娼婦と翻訳家が揉めるシーンの
ホテルの娘がマリ
乱れた姿で逃げるように部屋から這い出て口汚く罵る娼婦に「黙れ、売女」と明瞭な言葉で圧した翻訳家に心が惹かれたマリ
二人は再開するが彼はあの時の威圧はなく貧相で力なく弱々しかった
彼女に送ってきた手紙の
翻訳家の文字は異常なまでに乱れがなく
綴る言葉は知的で美しくとても紳士的
これから何度も書かれる手紙のシーンは大好きでした
しかし、彼の島ではあの時の高圧的で異常な支配者だった
ここまでのシーンに振り回される心地良さ
ギャップの描き方が見事でマリが快楽へ没入していく様は圧巻
醜く老いた翻訳家に瑞々しい肉体の若い自分が蹂躙される屈辱
二人しか存在しない世界で自分でも想像できない痴態をさらす心細さ羞恥の極み
肉体的苦痛
全てが快楽へと繋がりマリを恍惚へと導く
翻訳家の滑らかな動作
乱れのない美しい緊縛
突如暴発する暴力
自分だけを圧倒的に支配する
ここにマゾヒズムの快楽の極みがあると思いました
誰もが何か別の事を考え気を散らしてしまう
でも、あの密閉した空間では翻訳家はマリしか見ない考えない触れない
翻訳家の全が自分だけに注がれる
ある意味で最上級の愛情表現かもしれない
卑屈で凶暴、インテリジェンスで老いている翻訳家と少女の組み合わせしか成り立たない愛でした
そしてあの終わりが二人の世界を誰にも触れないところに閉じ込めたと思う
愛の形、快楽とは、と想像できないところから投げかけられたボールをうっかりキャッチし嵌ってしまったそんな素晴らしい物語でした