小川洋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
酒井駒子さんの装画が素敵すぎて衝動買い。写真と実物は異なります。奥付の日付が今年の1月だったので、どうやら新装版になったようだ。
冷たい気配が漂う短編集。
あまりにも美しいものが、時に近寄りがたい雰囲気を纏っているのと同じような感覚だろうか。
ページを捲るたびに、行間に漂っている「死」の気配がぽろぽろと零れ落ちてくる。
淡々として端正な描写の奥で、「ああ、でも最後には、きっと恐ろしい裏切りが待っているに違いない」という予感に息が詰まる。
なんだかもう、「恐ろしいものを見てしまった」、という読後感だ。
短編集だけどちびちび拾い読みをしないで、ぜひ全篇をとおして読んでほしい一冊。
このただなら -
Posted by ブクログ
ネタバレ・無駄な行動が生物学的な強さであり、異性の評価を受ける。発展して美的評価に。独立して芸術に。
・言語の歌起源説。
・歌から言葉へは「一瞬」。
・ミラーニューロン。
・天才は刺激の過剰さ。子孫は残せないが芸術を残す。
・赤ん坊が泣くのは人間が天敵から身を護れるから。
・母と子供の言葉のコールアンドレスポンスによる、相互カテゴリー化仮説。
・言葉は情動を動かせない道具として進化した。
・フェルミのパラドックス……エイリアンが来ないのはなぜか……言語をもってしまうと文明は滅びるから。
・「つながる」こと自体の快感が独り歩きして、空疎なメールなどの言葉。
・統合失調症患者の「死にたい」……言い換えてい -
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Posted by ブクログ
『博士の愛した数式』の小川洋子さんと、脳科学者の岡ノ谷教授の対談本(文庫)
言葉の起源についての説や考察を、岡ノ谷教授の研究や近接領域の話題で盛り上げる。
唐突に繰り出される作家小川洋子さんのアイデアが、岡ノ谷教授を触発する様子が読み取れて面白かった。
やはり、言葉の探求は興味深い。
本書では、岡ノ谷教授の言葉の発生には”歌"が起源になっているという内容が、なんとも興味深かった。
言葉ってなんだろう?歌ってなんだろう?と想いを廻らせながら読んだ。
本書はもともと2011年4月に発刊されたもの。
対談は、東北の震災前に行われていて、震災後に発刊となった。
今回の文庫版の出版に当 -
Posted by ブクログ
ああ、これは恐ろしく美しい。とても美しい、という意味でもあるし、恐ろしくて美しいという意味でもある。
日常と異界と間にあるはずの境界がふと揺らいでなくなってしまい、頭では「逃げなくては」とわかっているのに目も足も動かない。美しさに釘付け。
『博士の愛した数式』ではなく『薬指の標本』の方の、ファンタジーホラーな小川洋子。しかも円熟味を増して怖さに色気艶渋みが加わり、ある日ふと友人から「お前、最近痩せた?」と聞かれたら真っ先に「この本の精に取り憑かれたから」と思うくらい楽しんだ。
売れない中年独身女性作家が日々狼狽しこっそり人混みに紛れて誰にも気づかれないように何かしてくるだけの話しなのに。
見て -
Posted by ブクログ
この本を楽しむのに、見ただけで頭が痛くなるような化学式や、小難しい物理法則といった知識の類は必要ありません。
主役はあくまで、科学の根底にある美と、その神秘を日夜追い続けている科学者達の生き様であるからです。
また彼等を描き出す小川洋子の清潔な文章からは、科学への強い憧れと静かな感動が溢れんばかりに感じられます。
宇宙、鉱物、粘菌、遺伝子――テーマによってマクロとミクロを自由自在に行き来しつつも、常に肌に近い言葉でもって表し読者に伝える表現力は、さすがという他ありません。
小説家の感性から科学の現場を捉えている本書は、タイトル通り科学という学問への案内書となるだけでなく、私達が生きるこの世