小川洋子のレビュー一覧
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ある村の大きなお屋敷に住む、ちょっと気難しい風変わりな老婆に雇われた、若い博物館技師の物語です。
屋敷には老婆と一緒に暮らしている少女と、離れには庭師と、その妻である家政婦が住んでいます。
故郷を離れ、この村にたった一人で訪れた技師は、亡くなった村人たちの形見を集め、それらを展示、保存する博物館を作ってほしいと老婆に頼まれます。
閉鎖的な世界で起こる奇妙な出来事が、小川洋子さんの手にかかると、なぜこんなにも美しく魅力的になるのだろう。
名前のない登場人物たち。次々に起こる殺人事件の犯人は? 博物館技師の行く末は?
謎が深まり、非現実的な世界にどんどん引き込まれていきます。
“人々から忘れられた世界の縁にひっそりと建っている” 沈黙博物館というタイトルがとてもいいです。
物語の終わりには、悲しい現実を知るとともに、こんな隔離された場所にいることが居心地が良いとさえ思ってしまいます。 -
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終始、肉体も心もともに、グロテスクで、生々しくて、不穏で、でも静謐で、美しくて。
筋肉、指先、感情。
何かの始まりさえ、生々しい感情のさざなみに溶け込ませてしまう。
なんだかんだ優しく、時に残酷に、主人公たちの、何かが欠如してしまって、死を、喪失を、心にぽっかり空いた穴を埋めていく。
あとがきまで、これら四つの短編と同じくらい生々しくて不穏ででも最後には光がさして。
静謐が身体を、読者である私の身体を貫いて、一塊が胸の中に残り、一塊は風になって消えていくような。そんな読後感でした。
なんだろう、この満足感は。それでいて、もっと小川さんの小説に浸っていたいと抱きしめたくなる感情は。
表題作の「完璧な病室」と最後の「ダイヴィング・プール」に既視感があった。なんだか語っていることは似ているようで似てないようで、既視感があると言いつつラストの描写は相反していて。
何年かあけてまた読み返したくなる。
新装版が出るほど愛されるのが納得だ。 -
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デビュー作の「揚羽蝶が壊れる時」を含む、初期の四作品を収録。
「揚羽蝶が壊れる時」の中で、「正常と異常、真実と幻想の境界線なんてあやふやで、誰にも決定できないもの」という文章に、小川作品の原点を見たような気がします。
ものすごく優しい視点で描かれた、グロテスクさと美しさの混じり合った独特な世界を堪能することができました。
四編とも死や喪失感を思わせるような作品なのですが、表題作の「完璧な病室」が特に良かったです。
21歳で亡くなった弟の記憶、安らかな病室、張り詰めた空気。
「完璧」という言葉がとてつもなく哀しく聞こえます。
銀杏の黄色から雪の白へと移ろいゆく季節の中で、息もつけないくらいに静かな美しい世界に身をゆだねることができました。
あとがきもとても素晴らしかったです。 -
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調香師の卵であった恋人の弘之が、“記憶の泉”と名付けられた香水を残して突然亡くなる。
一緒に暮らしていたフリーライターの涼子は、どうしても彼の自殺の理由が知りたくて、幻影を追い求めるように彼の過去を辿っていく。
淡々として美しく、上品な雰囲気で、外国の映画を観ているようだった。
スケート、数学、物事を分類する能力など、静かな物語の中に隠された彼の秘密を知るたびにどきどきしてしまう。
プラハでの不思議な体験はまるでファンタジーのようで、街の風景が頭の中で映像のように映し出され、いつまでも浸っていたくなった。
優しいため息をついてしまいたくなるような、みごとな結末だった。 -
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どこにでもあるふと立ち止まることのない人たちの瞼の裏にしかないような強烈な景色が、日常や普遍的な平凡さとミルフィーユみたいに重なって、なんともいえない感動を覚える。
「リンデンバウム通りの双子」は静けさで溢れていて、強い言葉も表現もないのに、まぶたの裏に焼きつきそうな衝撃と強さがあった。
著書を翻訳してくれている人であるにせよ、それだけだった人。でもその双子には、瞼を閉じるたびにきっと浮かぶ苦しみや地獄があって、平坦で本当はきっと1日1日が長い日々があって、戻らない幼い日々があって。
美味しいスープの香り、病院に差し込むあたたかい日、可愛い妹とのいたずら、父が大事にした顕微鏡。。。
まばたきするたびに、美しい風景が、悍ましい風景が、人からしたら大したことのない風景が、カメラのシャッターのように見え隠れする。
人生は一回しかなく、その日、その一瞬を、一本の道のように生きてるはずなのに、その人は1人しかいなくて、誰でもどこにでもいるはずなのに、その中には、そのまぶたの中に、さまざまな景色が、時間が、風景が重なって時は進み、苦しさと優しさと、暴力とあたたかさが、荒廃と永遠が、ぱちりぱちり、と層を重ねていて。
そういうミルフィーユの時の中で、複雑な時空の中で、私たちは生きている。
あの人もこの人も、わたしも、大したことがなくて、つまらないものに見えるけれど、本当はもつと複雑でやさしくて物語と心のミルフィーユがあって。
その人たちの生き方にも日々にも誰にも文句も手出しもできる筋合いなんてなくて。
どうして小川洋子さんは、どんな物語にもとりあげられないような片隅にいる人をこんなふうにそっと掬って、なぞることができるんだろう。
そこに愛が感じられるのはどうしてなんだろう。
どうしたら、こんなことができるんだろう?
そんなことを感じました。
小川洋子さん、大好きだなぁ。
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小川洋子さんの小説を読むのは、「薬指の標本」「猫を抱いて象と泳ぐ」「妊娠カレンダー」に引き続き、四作目です。
見栄えのするスイーツを食べたことがあるでしょうか。全く違った要素を組み合わせてみたり、バーナーで表面を焙ってキャラメリゼしてみたり。中には、綿菓子を盛った上にソースをかけて溶かすようなものも、世の中にはあるそうです。
本作『琥珀のまたたき』では、そんな全く違った側面を組み合わせた、“一味違う物語”が楽しめます。シリアスとファンタジー、ポップとダーク、光と影が織りなす、「美しくてキラキラしているのに、ちょっと油断をしたら怪我をするオモチャ」のような味わい。
夫と別れたママ。彼女は元夫の残した別荘地に子どもたち3人を連れて引っ越します。お話の時系列としては、ここが始まり。
3人の子供たちはそこで新しい名を与えられて、それぞれ、オパール、琥珀、瑪瑙の名を図鑑から選び取ります。元の名を忘れ、外に漏れない小さな声で生活することを強いられるきょうだいたち。それは、母からの言いつけであり、今は亡き末の四女の命を奪った「魔犬」の呪いから逃れるためでした。
ファンタジックに紡がれるきょうだいたちの穏やかな日常ですが、裏旋律として流れているのは薄暗い母親の思惑です。これだけ書いてもネタバレに含まないとしてレビューしているのは、本作の魅力が筋書きに留まらず、小川さんのキラキラ味溢れる文体や筆致に拡大しているからと言えます。あっとおどろく仕掛けはないけれど、魅せる文章と感じる雰囲気で楽しむ系統の物語です。
母は何故、きょうだいを匿うことになったのか?
琥珀の左目は一体なんだったのか?
オパールはその後、どうしているのか?
などなど、明らかにされていないことが多いのも本作の特徴ですが、これは殺人事件でもなければ、七不思議でもないので、あとはご想像にお任せします……ということなのかなと思いました。
解説を除いて323頁なのですが、その内容の濃密なことといったら。チョコレートケーキをチョココーティングしたよりも甘く、喉を通る時には軽い抵抗を感じるほどです。
小川洋子ワールドがお好きな方は是非。
ある意味、「一見さんお断り」な世界観がここには詰まっていると感じました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ小川洋子さんの文章がとにかく美しいと感じます。
独特の世界観のため、読み手も想像力が必要ですが、文章の海を漂うような心地よさがあります。
著者の作品は「博士の愛した数式」をかなり前に読んで、これが2冊目ですが、素晴らしい作家さんと再認識しました。
チェスってこんなにも深く、その人の生き様までも表現するゲームなのだと初めて知りました。
(もしかして将棋や囲碁もそうなの?)
通勤時間にいつも読書をするのですが、
最初から美しい文章に引き込まれて、
これは満員電車などではなく
家で猫を撫でながら読みたい
と思いました。
しかし、少年がリトルアリョーヒンとして深海クラブでチェスをさすようになってから、満員電車の片隅でぎゅーっとなりながらコッソリ読んでいると
人形の中の少年と同化しているような気持ちにもなるのでした(笑)
電車が正方形であれば完璧だったのですけど。
また、デパートの屋上から降りられなくなったゾウのインディラの話は
映画「マイライフアズアドッグ」の
人工衛星に乗せられたライカ犬の話を思い出しました。
とても好きな映画です。
が、内容はこちらの本の方がずーっと濃く深く美しく心に食い込んできました。 -
Posted by ブクログ
「約束された移動」「ダイアナとバーバラ」「元迷子係の黒目」「寄生」「黒子羊はどこへ」「巨人の接待」“移動する”物語、六篇。
ここに収められている作品に登場する老人たちの、穏やかな立ち居振る舞い、言葉づかい、仕事ぶり、そして、熱帯魚、子羊、小鳥、子供たちとのふれあい、そのどれもすべてが美しい。
それらは、人目につかず、ひっそりとした佇まいなのだけれど、普通と違ってどこかずれてしまっている、その哀しさがまた美しいと思える。
一旦この物語に足を踏み入れてしまうと、読み終わるのがもったいないとさえ思ってしまう。
濃密で不思議な魅力のある、独特な世界。