小川洋子のレビュー一覧

  • 余白の愛

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    静かな空気感と清潔感がずっと漂ったお話。
    耳を病んだ主人公の記憶と現実をめぐって物語は進んでいきます。

    どこか、何かが狂っているけれども淡々としている。登場人物たちもそれらには気に留めることはない。

    穏やかな愛がとても心地よかったです。

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    2020年05月16日
  • 小箱

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    『今初めて、自分の顔がこんなふうだったと知ったかのような気分を味わう。園児たちの鏡に、私の姿が上手い具合にちょうど収まっている』

    小川洋子は「喪失」ということに拘っている作家だと思う。何かが決定的に失われてしまった世界を描いていると言ってもよい。そして、いつもその失われたものは、直接的には描かれない。読者に訴えかけられるものは喪失を味わった人の気持ちだけ。そのことを覚えていようとする者たちの決心だけだ。

    それともう一つ、小川洋子は「子供」という存在にも強い思い入れがあるように思う。小川洋子の描く子供は大抵思慮深く大人びている。「博士の愛した数式」でも「猫を抱いて象と泳ぐ」でも「琥珀のまたた

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    2020年04月26日
  • 心と響き合う読書案内

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    小川先生の書評には、登場人物や作者に対する親しみを感じます。なんというか、本の読み方から純文学というものにどう向き合うかまでを教えてもらったような読後感でした。
    僕にとっては通学や仕事の合間という自分だけの世界で、本好きのおばあさんのお話を語り聞かせてもらうひととき。そんな感覚を味わって楽しんでいました。
    特に、小川先生のアンネ・フランクに対する感覚はとても素敵です。読書って、ふらっと外に出て、友人がいないか気にしながら歩く散歩のようだと思わせてくれます。
    この気持ちをいつでも思い出すために、手元に置いてある大好きな一冊です。

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    2020年04月26日
  • ボタンちゃん

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    ネタバレ

    小川洋子さんをチェックしているので買いました。ボタンを擬人化するのはわかるけど、ボタンホールを擬人化するのは目からウロコです!
    幼児のブラウスから転がり落ちたボタンちゃんは、部屋の中を探検して、持ち主の小さな女の子が使い古した、スタイやぬいぐるみと出会う。みんな女の子に忘れられてかわいそうだけど、でも、自分たちがいたから、彼女は大きく可愛く成長したのよ、と、ボタンちゃんに教わる。
    子供向けというよりは、お母さん向けの絵本かな。私は好きです。

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    2020年04月12日
  • やさしい訴え

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    人はそれぞれに収まる居場所がある。新田さんと薫さんはチェンバロという共通の世界の中で幸せを共有する2人でありその世界に瑠璃子が入ることはできない。不倫で分かれた旦那と不倫相手にもそんな世界があったのだろう。奪われた側は呆気なく感じるが、奪う側に立つとなかなか共通の世界に入り込むということはできない瑠璃子の気持ちが鮮明に描かれている。居場所がない孤独は自分自身しか知り得ないものだと思う。そんななかで生きるリアルさが鮮明に映し出される作品だった。
    小川洋子の作品は3作目だが情景や感情が非常に丁寧かつ繊細に描かれていた。

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    2020年04月09日
  • 博士の愛した数式

    匿名

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     作者は数学の美しさに対して、心をひかれていて、それを博士を通して表現しています。
     博士と家政婦とその子供との交流はとても暖かいものを感じます。
     博士は長時間記憶を保つことができません。それは、異形なものであり、そのような不具者を描くところに作者の真骨頂があります。
     この作品では不具者を描いてもグロテスクにはならず、それが一般受けしたのだと思います。

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    2020年02月25日
  • 人質の朗読会

    匿名

    ネタバレ 購入済み

     人質になった日本人たちが極限状態の中で自らのエピソードを語っていく物語です。

     とても平易な語り口調で綴られる物語は彼らがもう亡くなっていることもあり、セピア色の写真を見るようです。

     小川洋子の作品の中でも、その完成度の高さからもっとも好きなものの一つです。

     小川洋子の特徴のひとつのグロテスクさがあまり前面に出ず、叙情的な部分が際立った作品であると思います。

     私は特に「槍投げの青年」が好きです。陸上競技特有のストイックさや、力強さや、繰り返しのルーティーンからの高揚感などが、その文章の中で鮮やかに蘇ります。

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    2019年12月13日
  • 不時着する流星たち

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    面白かったです。文庫で再読しました。
    何度読んでも、このモチーフでこの物語を描くのか…と驚いてしまいます。
    カタツムリのお話がパトリシア・ハイスミスだったり、肉詰めピーマンのや文鳥のお話は最後の方にモチーフが少し出てきたり。小川さんの視点、不思議で惹かれます。
    単行本の時には恐らく読み飛ばしていた、肉詰めピーマンのお話の息子さんが読んでる絵本、気になる…と思っていたら、エドワード・ゴーリーの「むしのほん」でした。こちらも読みたい。
    こちらのお話たちもとてもひそやかでした。

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    2019年12月12日
  • 余白の愛

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    素晴らしかったです。
    本書はフォロアーさんからのおすすめだったのですが。
    はい。大好きです。もう、大満足でした。

    小川洋子さんの本はまだ4冊目ですが、もう大ファンになってしまいました。

    この儚げな描写。全てがごくごく薄い鶯色のベールに包まれたような静寂。一人称の「わたし」で綴られる出来事のかずかず。


    耳を病み、夫の不義を知って夫との別れを決意した「わたし」。そんな「わたし」の前に現れた速記者Y。Yの紡ぎ出す暗号の様な速記字とその独特の指に惹かれた「わたし」は…。


    読むにつれ、『現実』と『過去』と『妄想』と『想像』が少しずつ区別できなくなっていく浮遊感。

    どこかでこの感触は感じたこ

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    2019年11月11日
  • 世にも美しい数学入門

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    三角形の内角の和は180度。
    平べったい三角形もとんがった三角形も…。
    そしてそれは100万年前も100万年後も変わらない。こんな真理はない。
    →「三角形の内角の和が180度だという美しさを
    どれだけ情熱的に語ってくれたかで、小学生の数学への興味は変わる」
    →本当にその通りだ。
    この本を読み終わったら数学は確実に好きになる。

    今後、友愛数や完全数を
    ユーモアを交えて日常会話に溶け込ませたい。

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    2019年10月19日
  • 世にも美しい数学入門

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    ネタバレ

    再読であることをインドの天才数学者ラマヌジャンの話で気づいた。よっぽどこの人の人生が可哀想だと思ったからだろう。

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    2019年10月05日
  • 原稿零枚日記

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    小川洋子が、数々の体験を日記という形で表現する不思議な雰囲気の小説。

    宇宙線研究所の見学の後、F市の旅館の近くで不思議な苔料理を食べる。盆栽祭を見に行って、チャボを見る。近所の運動会に紛れ込み、父兄でもないのに観戦する。現代アートの祭典を見に行き、バスの集合時間に集まれなかったメンバーがひとりひとり消えていく…。

    てっきり本気の日記でエッセイだと思いこんで読み始めたが(相変わらずあらすじは読まずに読み始めるのである)、旅館に向かうタクシーの辺りで気がついた。これは偽日記だ。そもそも「宇宙線研究所」って何だ?

    小川洋子らしく、妙な生物のディテイルなどが細かく書かれているが、ドウケツエビなど

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    2019年09月26日
  • 沈黙博物館

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    ネタバレ

    小川洋子さんの静謐で美しい文章が、話の内容と組み合わさり、静かな不気味さとあたたかさを持った作品でした。博物館に集められていくモチーフはどれも少しぞっとするようなもので、それでもだんだんと収蔵物が増えるにつれて、博物館になっていく。沈黙の伝道師たちも印象的。こんな世界があればいいのにと思う。

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    2019年07月21日
  • やさしい訴え

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    静かな別荘地でチェンバロ作家と離婚寸前で別荘に家でしてきた女性の静かな交流を描く、あまり起伏もオチもないストーリーだけど、この作者らしい、静かな心落ち着く雰囲気がある。

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    2019年07月10日
  • ボタンちゃん

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    ボタンちゃんは、アンナちゃんのたいせつなブラウスのいちばん上。
    ある日、なかよしのボタンホールちゃんとはなれて、たびに出ることになって・・・・。
    ++++++++++++++
    食べ物の話ではないのですが、絵がとても素敵で、思わず購入しました。
    少し大きくなって、自分で読めるようになった子どもたちに、読んでほしい。

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    2019年05月05日
  • やさしい訴え

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    こんなにも徹頭徹尾「苦手かもこの人」と思う主人公がかつていたかしら。
    という感想を主人公の女性・瑠璃子にもった。

    とにかく視野が狭くて、自分のことしか考えていないのだ。
    好きな人とセックスに持ち込むことをねらい、持ち込めたら
    それを恋敵にチラつかせてマウンティングする。
    形成が不利になってきたら飼い犬を殺すと脅す。

    結構な感じにリアルにいやな女性なのである。
    小川洋子さんの文章力、すごい。
    ぐいぐい読んでしまった。

    きれいに振られるところが素敵な小説だと思った。
    人を書くって、きっとこういうことなんだろうなあ

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    2019年04月09日
  • 心と響き合う読書案内

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    数冊読んだことがあって、基本的には好きな小説家の手による書評集。とはいえ、最初から書評という形を取られていたものではなく、ラジオで話したものの字起こしってことだから、ちょっとニュアンスが異なる。ラジオで流れるってことは、読書家ってよりはもう少し一般寄りの相手が対象となる訳で、それもあってか、選ばれている作品も有名どころが占めることになっている。ブックガイド好きで、それらをよく読む目からすれば、既知・既読作品の割合が高い。かといって、刺激のない退屈な読み物となっていないのは、本書のリーダビリティの高さによるところも大きい。ラジオで話している内容だけに、伝わりにくい言葉は含まれないし、時間制限のあ

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    2019年01月21日
  • 夜明けの縁をさ迷う人々

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    多感な時期に読んで一番心に染みたのが小川洋子の作品だった。
    優しいのに残酷、綺麗なのに歪んでいて、何処か切なくて美しい。
    ずっとこの世界に浸り続けていたかった。

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    2019年01月09日
  • まぶた

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    一見、日常的な風景なのに、いつのまにか非現実な世界に入っていることに気づいた。
    小川洋子さんが描く静謐な雰囲気は変わらず。

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    2019年01月03日
  • いつも彼らはどこかに

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    何度読んでも好きです。
    癒し系ではない動物の短編集ですが、仄暗い世界に癒されました。
    「帯同馬」と「ビーバーの小枝」が好きです。
    「帯同馬」で、ディープインパクトとピカレスクコートという固有名詞が出てくるのが小川作品では珍しい感じがしました。あ、でも数式の江夏もそうか…。帯同馬、という関係性も密やかで好きです。
    この作品は日本でしたが、他の作品は国がわからなかったです。
    江國香織さんの解説もとても素敵でした。

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    2018年12月12日