小川洋子のレビュー一覧
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本の中で特に印象的だったのが、藤沢周平さんの『海鳴り』について語られた、平松洋子さんのこの一文です。
「自分が相手に対して無垢であれば、相手も鏡のように何かを返してくる」
大人の恋愛や男性の哀愁を描いた物語の奥にある、人と人が向き合うときの誠実さや「無垢さ」をすくい取ったこの言葉に、ハッとさせられました。
他にも、西原理恵子さんの『パーマネント野ばら』をはじめ、『いやいやえん』や『アンネの日記』など、普段の自分なら通り過ぎていたかもしれない本がたくさん紹介されています。今まで小説を中心に読んできた私ですが、この本をきっかけに全く違う「新しい読書のセカイ」が開けていく感覚にワクワクしました。
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人質たちの“人生の思い出”を朗読していく形で、まとめられた短編集。それぞれの人生の何気ない瞬間が綴られ、そしてそれが全て不慮の死へと向かっている運命を読者だけに知らされながら読むという、非常に練られた設定で展開していきます。それぞれの物語の中の、ほんのちょっとのきっかけで涙腺が緩んでしまうような感じでした。
小川さんの作品は、心の奥底にある、言葉になっていない感情の部分を的確にツボ押する施術を受けているような印象的を受けます。「あぁ、そこそこ、くぅ〜、痛いけど、心地よい」といった感じです。人生のコリがほぐれそうです。
とりあえず、10冊ほど積読したので、全ての作品に触れてみたいと思います。 -
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とある場所で人質となってしまい、偶然その場に居合わせた人たちとの不安で退屈な監禁生活の中で、粛々と開かれた朗読会で語られた物語。特に目立ったところもなく、平凡な、どちらかというと地味な生活を送ってきた人々のお話。派手なところがなく、日常のワンシーンが静かに語られていて心地よい。実際にこのような朗読会があったら、ターニングポイントや不思議な体験、1番嬉しかったこと、悲しかったことなど、ドギツく色を加えたものを話してしまう気がする。それをせずに語れるのは、ただ黙ってどんな内容にも静かに耳を傾けてくれる優しい人たちの中にいるという安心感がなければならない。現実では、そのような人たちや環境にいられる事は稀だ。(あなたがそれをもっているなら、とてもラッキーなことだと思う。)
だから私は人と会話をするよりも、本を読む方が落ち着いていられるし、好きなのかもしれないと気がつく。 -
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ネタバレコミュニケーションについてや、ケアについてを考えさせられる。それから、愛ってなんだろう、と考えさせられる。
他者と関わるとはそもそも何をすることなのかを、静かな形で書いた小説だと思う。
相手が自分には完全には分からない形のまま存在することを許し、それでも注意を向け続けること。
他者との関わりは、本来そこから始まるはずなのに、会話や共感、社会的役割、利益を求められることがある。そしていつからか、要求が発生し、ケアと支配が境界不明瞭に立ち現れる。
「ことり」は「愛の話」ではあるとしても、愛が孤独を救う話ではない。愛するからこそ相手へ声を届けようとし、愛するからこそ届いたと信じたくなり、そして最後には、その応答も自分が作ったものだったのではないかと知る。愛は孤独を埋めるものではなく、埋められない距離を最もはっきり測ってしまうものかもしれない。
小父さんは、傷ついた小鳥を保護した。小父さんは、小鳥に歌を教えて一緒に歌った。解放しようと思いながら、解放の時期は訪れなかった。小父さんの死によって小鳥は解放されて、空に戻り、習得した求愛の歌を、本来向けるべき相手に向けることができるだろう。
小父さんのそれは愛だったのか、私はまだわからずにいる。 -
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ネタバレ人々がひとつずつ記憶を失っていく架空の島の物語。あえて時代や土地、人種をぼかして、どんな人の記憶のはしにも引っかかる部分があるように描いているような気がする。恐らくその描き方によって、読む人に様々な受け取り方をゆるし、それぞれ違ったことを想起させる意図があると思うが、解説でもあったようにわたしもナチスによるホロコーストを思い浮かべた。無慈悲な為政者によって、当たり前の日常から奪われていき、そして自分自身の肉体、命、人としての尊厳を奪われていく。おじいさんは為政者により無惨にすべてを奪われる前に亡くなったが、それに対する「わたし」の思いは、つまりはそういうことだろう…R氏は、運良くホロコーストから生き延びた側のひとり。彼らもまた大切な存在を次々奪われていき、奪われた痛み、残された痛みを抱えながら、為政者が去った世界で生きていかなければならない。
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現在休館している帝国劇場への作者からの真摯なラブレターのような短編集でした。とても良かった。
劇場に勤めるスタッフたちや観客にスポットを当て、さまざまな角度から劇場と行われる演劇の素晴らしさとかけがえのなさを謳いあげる。劇場の中で完璧に完結するからこそ、現実のすべてを放り投げて没頭できるあの時間の本来の良さを、改めて感じることができました。
演劇は自分にとっても十年来の趣味ですが、昨今は色々と心の荒む事情を感じて足が遠のきがちだったのですが、あらためて演劇の本来持つ魅力を教えてもらった感覚がしました。
短編には実在はしない職業や幽霊なんかもするりと作品に登場しているのですが、それが作者の作品ならではのおかしみにもなっていて、その風味がまた堪らなく好きだなあと思えました。 -
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どの物語にも共通しているのが、年齢や立場が違う人たちが、ほんのいっときだけつながるところ。
「人と人とのつながり」と言ってしまうと、なんだか少し足りない。忘れてはいけない、というより、忘れたくない、人間がもともと持っている大切なもの。そういうものに気づかせてくれるところが、小川洋子さんの作品の魅力だと思う。
普段は意識せずにいる、人間のもっと深いところにあるものを、思い出させてくれる感じが好き。
そして今回は、小川洋子さんにしては珍しく官能的な作品も。
読み進めるうちに、「ん? え、そういうこと?」と気づいて、ちょっとびっくりした。こういう作品も書くんだ、と新鮮だった。 -
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舞台は、静かというよりほぼ無音なのに、大切な音や声だけは伝わってくる。
わかりやすい事件や出来事が起こるわけじゃないのに
独特の胸騒ぎがする。けれども決して不快な胸騒ぎではないので不思議。
静かにゆっくり何かが動いていて、最後にごとっ!と音を立てて結末に行く感じ。
りりこの人生の大きな出来事だけを文章で羅列してみると、悲しい、切ない、可哀想、となるかもしれないが、その最後には、この人らしい終幕というか、
落ち着くところに落ち着いた、というような印象。
りりこの人生は可哀想なのか?
母親は長い髪の毛で自殺、祖母と生きてきて
その祖母も亡くなってしまって、
1人で暮らしていたが、独りぼっちだったのか。
けして賑やかではないが、賑やかや、派手さが、
幸せや豊かさとは違うのではないか。
その景色の一瞬だけを切り取ると、
りりこの人生は、寂しい人生と言われてしまうかもしれないけど、
その歌声と共に生きて、
最終的にはその歌声を求めて1人の人が訪ねてくる。
そして訪ねてきた時に、本人はそこにいなくても、
本人について伝えてくれ、一緒に想いを馳せてくれ、りりこが大切にしてきた仕事の仕方を守ってくれる人がいる。
それはすごく
やさしい人生を送ったというか、
豊かだったきがする。
人の人生は
いろんな面があるし
長さや派手さだけでない。
自分以外の何かに対して
可哀想だとか切ないとか感じることは大切だし、
他者に対して想いを巡らせることも大切で、それ自体はとても優しいことだけど、
想像の域を超えて、決めつけるのは違うなと
自分の暮らしに置き換えてみても思える作品だった。
物語を通して、静かでしーんとしていて、
水がぽちゃん、と落ちる自然の音や
衣服が擦れる音、だけで
声は少ないけど、
だからこそ
りりこの歌声が聞こえてくるような
綺麗な物語だった。