小川洋子のレビュー一覧
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作品はいくつか読んだことのある小川洋子さんですが、
小川さんのエッセイは始めて読みました。
小川さんの作品に流れる静かな哀しさや寂しさの源流はここにあるのか、と思わせるものもあれば、
かなり熱心な阪神ファンとのことで、野球にまつわるあれこれまで様々なところで書かれたエッセイを一冊にまとめたもの作品のようです。
『博士の愛した数式』にまつわるエッセイはとても興味深かったです。数字と人間の対比。美しく永遠に続く数字と弱くて物語なくしては生きていけない有限の人間の生。
日常のお話では、資料となる雑誌や書物の整理に関するお話に共感。(私も人よりは「増殖する乱雑さ」に対する耐性はあると自負しています -
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やさしくて、ほんのり体温が残っている喪失感。
最初は外から「私」を通してアーケードを覗かせてもらっている感覚だったのが、最後はアーケードの中にぽつんと取り残されたような気持ち。
徐々に「私」の輪郭がぼやけていく。
「私」はいつからいるのか、いないのか、アーケードの輪郭だってどこまではっきりしたものなのか。
素直に読み取れるようなものではない気がした。
生よりも死や無に近いところの商品を扱う店々。
アーケードの外がこちらで、ドアノブの向こうがあちら。ならばアーケードは時間がよどむ境界線か。
迷い込んだ名前も知らないアーケード、作者にゆかりのある地でとおった商店街、半年だけ過ごしたあの国の蚤 -
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ネタバレ
不思議な雰囲気の話が続く。
特に気に入ったのは
「銀色のかぎ針」と「ガイド」
特にガイドの題名屋のおじいさん。
名もない出来事や思い出に名前をつけることで、そのことをより鮮明に覚えることができる。
楽しかったり切なかったり辛かったことも、知らない間に通り過ぎて過去になってしまうから。
覚えたいことには名前をつけると、綺麗に思い出の引き出しにしまっておけて、取り出したい時に取り出して浸ることができるんだろうなぁ。
ただの日常でもそれは振り返れば幸せな思い出なのかもしれない。わたしも日常から、幸せを見つけてたくさん覚えていたいな。 おじいさんと少年のやりとりにとても心が温かくなった。 -
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ネタバレこの小説は夜寝る前によく読んでいて、穏やかでありながら、それでいて読み進めたいと思える面白さは十分で、寝る前に読むのがぴったりだなあと思っていた。しかし話が進むにつれ、島から何かが消えるにつれ、静かな焦燥感に駆られ、それはどんどん大きくなっていき、気づけば読み切っていた。
解説で、ナチスや、アンネの日記との関連について書いてあり、なるほどと思った。
こんなふうに日々何かを失いながら生活したことはないけれど、もしそんなことがあったらこんな感じなのかな。誰か1人がみんなを助けるために立ち上がったり、大騒ぎしたりすることは実際はなくて、それぞれがそれぞれで小さく何かを抱えながら、少しずつ何かをなくし -
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不思議で、不気味で、美しい短編集。
一見グロテスクに思える描写でも美しく見せてしまうところがさすが。
以下備忘録
「指紋のついた羽」
舞台で見た妖精ラ・シルフィードに手紙を送る少女。
「ユニコーンを握らせる」
昔女優だった伯母と過ごした日々。
「鍾乳洞の恋」
歯の詰め物の間から白い生き物が生まれる。
「ダブルフォルトの予言」
劇場に住んでいる女性の話。
「花柄さん」
役者のサインを集め続ける花柄さんの話。
「装飾用の役者」
お金持ちの家で装飾用の役者として働く。
「いけにえを運ぶ犬」
移動書店の車を引く犬と少年の話。
「無限ヤモリ」
子供を望む女性と無限ヤモリ。 -
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心の中のものを一つずつ失くしていく話
その島では鳥、バラの花、写真、
消滅が少しずつ進む
止めることはできず、島の人たちは受け入れていく
消滅すると記憶からも消え、心の空洞が増えていく
秘密警察が記憶狩りをし、記憶を持ち続ける人を連行していく
記憶を持ち続けるR氏をかくまう小説を書くわたし、やがて小説も消え、体も心も消滅していく
物が消え記憶さえもなくせばそれに順応していってしまう
やがて実体のある体の消滅にまで危機が及んでるのに疑問もなく受け入れてしまうのが怖い
希望という記憶を持つであろうR氏、希望がなんなのかさえわからないわたし、ふたりの道が二手に分かれることになるのが悲しい
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小学生の頃にチェスクラブに入っていたこともあり、とても楽しく読めた。チェスは好きだけど、そこまで奥深いものとは思っていなかったので、小川洋子さんの筆致によって「こんなに可能性のある世界なんだ」と新鮮な発見をした。久しぶりにまたチェスをやってみたいと思った。
駒の中では特にルークが好き!最初は地味に思えるけど終盤になると一気に強さを発揮するところが魅力的。ビショップは使い方が少し難しいからこそ憧れもある。ナイトも独特で面白い駒だけどこの作品ではあまり目立たなかったなぁ。
小川洋子さんらしい独特な世界観とゆったりとした文体で、最初はページがすらすら進むタイプの本ではなかった。それでも「慌てるな -
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リリカはお祖母さんと一緒に暮らしている。この山の中腹に広がるE-5地区に。母親はリリカを置いて自死してしまったので、祖母が引き取って育てている。このE-5地区に隣接した場所は「内気な人の会」と称する人たちが買い取って暮らしていた。その会は「アカシアの野辺」と自称するようになった。その人たちはほとんどしゃべらず、小さな手話で答えるぐらいだった。リリカの祖母はその会で雑用を受けていた。会で作られたビスケットなどの菓子や野菜などを販売所で売ったり、会の人に頼まれて町の人たちとのやり取りをすることで収入を得ていた。リリカも大きくなると祖母の手伝いをするようになり、「アカシヤの野辺」の流儀である、沈黙を
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ネタバレあらゆる種類の芸術家が集う〈創作者の家〉。その管理人である〈僕〉と、肉球と水かきを持つ謎の小動物〈ブラフマン〉との、ひと夏の邂逅そして別れを描く。南仏を思わせる架空の村を舞台に、物語は〈僕〉の抑制のきいた一人称で、水彩画で描かれた大人の絵日記のように淡々と静かに進んでゆく。
正体不明ながらも愛くるしいブラフマンと、〈僕〉の心の交流が物語の主成分となっている。しかし、これを心温まるハートフルストーリーと呼ぶのは少し違うように思われる。物語の始めから終わりまで繰り返し現れるのは、取り繕いようのない死の気配だからだ。古代墓地、石棺、埋葬人、碑文彫刻師、身寄りなく死んだ老人の所有していた家族写真、そ