あらすじ
ある出版社の社長の遺言によって、あらゆる種類の創作活動に励む芸術家に仕事場を提供している〈創作者の家〉。その家の世話をする僕の元にブラフマンはやってきた――。サンスクリット語で「謎」を意味する名前を与えられた、愛すべき生き物と触れ合い、見守りつづけたひと夏の物語。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
犬でも猫でもない謎の生き物である「ブラフマン」がとても愛おしい。人物や場所の名前が「ブラフマン」以外に出てこないのも特徴で、その為か、現実感に乏しく幻想的な雰囲気がある。好きだけど悲しい。
「ブラフマンの埋葬」
この小説は、人にも場所にも名前がないおとぎ話だ。年代不詳、どこかの国の、山と海と川と沼に囲まれた村。
芸術家の桃源郷「創作者の家」で管理人を務める若者の僕は、森で親とはぐれた小動物を「ブラフマン」と名付けて飼い始める。
よそ者の男とつきあう雑貨屋の娘への僕の恋心。
ひと夏が過ぎ、季節風が死の気配を運んでくる。
この得も言われず愛らしい生き物がなんという動物なのか書かれていないが、そこが限りない夢想を誘って効果的だ。
読み手に具体像を思い描かせない力があり、それがこの小説をファンタジー以上のものにしているのだ。
映像文化に押されている小説だが、この小説を読むと、今もって言葉だけに成し得る魔術がある事を再認識させられた。
ブラフマンとは何者だろう? 象徴的な解釈はいろいろあるだろうが、読み終えて、ほーっとため息をつくしかなかった。
小川洋子の小説は、いつも余韻がとりわけ素晴らしいのだ。
Posted by ブクログ
この人の文章、多分特に自分のツボなんだろうけど本当に魅力的。
小説の面白さの一つは、読み進めながら自分なりに想像を膨らませて着色していくところにあると思うけど、この作品ほど読者に想像のゆとりを設けてるものは無いように思う。
建物ひとつとっても、動物ひとつとっても、読む人によってまったく違った色形で記憶になっているような気がする。
小川洋子さんにしか書けないこの尊さというか、儚さというか、整いきった危うさはなんなんだろう。
沈むみたいに、縋るみたいに、飲み込まれるみたいに、ずうっと文章を読んでいたくなって、不思議。
今作においては、人物などの固有名詞が出てこないという世界観もてつだって、なにか物語全体に薄く靄がかかってるみたいな幻想的で、淡い、夢の中みたいな世界に浸れる。
日に当てられた古紙みたいな、薄い黄色なイメージのお話だった
Posted by ブクログ
小川洋子さんの作品を読んでいると、やはり他の作家の方々とは一味違う、静けさのようなものを感じずにはいられない。あとがきにもあったが、まるで夢のようである。
小川洋子作品の特徴として、登場人物の素性がわからないという点は誰もが知る所だろう。この点があるために、登場人物の感情に入り込みすぎず、夢を見ているように、俯瞰的に作品と向き合えるのかも知れない。
Posted by ブクログ
小川洋子らしい、静謐で穏やかだけれど、そこに世の中の秘密というか、簡単には触れられない大事なものがそっと置かれているような世界。
死は悲劇でもネガティブなものでもない。生の対極にあるものじゃなくて、生のそばにただあるものなのかなと思える。
ブラフマンの愛らしさの描写が卓越している。
Posted by ブクログ
「謎」の生物、ブラフマンが本当に愛くるしい。
この物語の、登場人物は
干渉せずただ、静かに各々の時を過ごしています。
しかし、干渉しない物語から足を1歩踏み出してしまった「僕」。
その先に訪れるのは…。
なぜ「僕」はあんな行動をしてしまったのか
好意か嫉妬か、愛すべきものを否定された仕返しなのか。
鼻の奥がツンとするような作品を読んだのは
久しぶりでした。
Posted by ブクログ
愛しい可愛らしい存在と
絵のように美しい景色
折り目正しい日常とゆったり流れる時間の心地よさ
とちょっとの違和感
当然訪れる結末にも覚悟はしていたけれど
Posted by ブクログ
どんどん残りのページが減っていく。
ほとんど無くなるページに焦らされる。
紙の本で読む良さを味わった気がする。
結末は、そうなりますか。
小川洋子さんの静かな物語。
Posted by ブクログ
不思議な手触りの小説。
まずブラフマンが人間ではないこと。でもどんな種類の生き物かは明かされない。
「僕」が何歳ぐらいなのか、どんな過去があってどうしてそこで働いているのか、そもそもどこの国のいつ頃の話なのか、すべてがはっきり語られない。
この手掛かりの少なさにも関わらず、ブラフマンの生き生きとして描写に冒頭から引き込まれる。
何と言ってもほとんど犬っぽいブラフマンの仕草の描写が可愛い。タイトルどおり「ブラフマン」は「埋葬」されてしまうという予測ができていたが、あまりの愛らしさに、ブラフマンが無事に元気なまま終わるように願いながら読んだ、
時々現れる、「僕」のブラフマンに関する観察日記のような、覚え書きのような文章。最後まで淡々と描かれるところが余計に悲しい
Posted by ブクログ
謎という意味のブラフマン。動きもなにもかもがかわいくて、僕との生活は微笑ましくて。タイトルが「埋葬」だからいつ死んでしまうのかドキドキしながら読みました。静かで独特な雰囲気の不思議な世界観。
Posted by ブクログ
小川洋子さんの小説はいつも不思議が詰まっている。
ここはどこなの?
この人はなんていう名前なの?
この動物は何?
たくさんの想像力をつかって、たくさんの優しさをもらって、たくさんの尊さを得ました。
次読んだら違う感想を持つのかな。
Posted by ブクログ
あらゆる種類の芸術家が集う〈創作者の家〉。その管理人である〈僕〉と、肉球と水かきを持つ謎の小動物〈ブラフマン〉との、ひと夏の邂逅そして別れを描く。南仏を思わせる架空の村を舞台に、物語は〈僕〉の抑制のきいた一人称で、水彩画で描かれた大人の絵日記のように淡々と静かに進んでゆく。
正体不明ながらも愛くるしいブラフマンと、〈僕〉の心の交流が物語の主成分となっている。しかし、これを心温まるハートフルストーリーと呼ぶのは少し違うように思われる。物語の始めから終わりまで繰り返し現れるのは、取り繕いようのない死の気配だからだ。古代墓地、石棺、埋葬人、碑文彫刻師、身寄りなく死んだ老人の所有していた家族写真、そして生活感を全く感じさせない登場人物たち。
生身の肉体を感じさせるのはブラフマンと、〈僕〉が思いを寄せる雑貨屋の娘だけだ。しかし、ブラフマンは予めタイトルで死が暗示されており、いくら愛らしくともこの蜃気楼のような村の無自覚な虜囚であることから免れないように思われる。雑貨屋の娘だけが虜囚であることに満足せず、生身の人間らしい欲望に従って村から飛び出していこうとするが、その陳腐で無遠慮な生命力の前に、ブラフマンの存在はあっけなく掻き消されてしまう。
ハートフルストーリーとしてはあまりに仄暗い物語は、しかしどこか遠い国のお伽話めいて、誰を罰するでもなく何を嘆くでもなく淡々と終幕を迎える。ここではこの世の価値基準は無効化され、ただ夢のような読後感と無常感が読者に残されるのみだ。この作品が受賞したのが直木賞や本屋大賞ではなく、泉鏡花文学賞だったというのはさもありなんと言うべきだろう。
Posted by ブクログ
穏やかな文章で、自然に囲まれた美しくも切ない情景をずっと頭に思い描きながら読みました。
静かで境遇がわからない部分もあるけれど、それぞれの人生というものがあるんだなと感じた。
ブラフマンの愛くるしさにほっこりとした。
Posted by ブクログ
タイトルからも、どこかでこの愛すべきブラフマンとの別れがあるのか、と推測しながら、その美しい自然に囲まれた世界の中での、ブラフマンとの愛おしい生活を、爽やかな文体と共にドキドキしながら味わった。
Posted by ブクログ
場所は日本なのか?登場人物は日本人なのか?それとも外国の話なのか?ブラフマンと名付けられた動物は猫なのか、野生動物なのか?最初から最後まで想像力をあちらへこちらへと働かせながら読書する絵のない絵本のような小説でした。
人生経験を総動員して小説中の情景を想像する。その情景をこれまで見聞きした人物、生き物、映像に当てはめる。あまりいい読書の仕方ではないなーと思いつつ、情景にあった映像パズル探しが覚醒しました。たぶん作者の意図に沿った映像を半分も見つけられなかったと思いますが、勝手に想い描いた映像を構成すると立派な映画が自分の中で出来上がっていました!
読書をする際に自分の感性を信じて読みひたることの心地良さを教えてもらったような気がします。
中学生に読んでもらいたいな〜
Posted by ブクログ
作者の動物の描写には脱帽。ワールド全開。
章の終わりのブラフマンの取説が微笑ましい。
ラストは唐突でありながら埋葬品の中身で救われる。
いつまでも読んでいたいと思わせてくれる作品。
Posted by ブクログ
これは残るなー何度も読みたい。
レース編み作家がなんとなく自分自身に重なる気がして、レース編み作家目線の話が読みたいと勝手に思ってみたり。
Posted by ブクログ
“夏のはじめのある日、ブラフマンが僕の元にやってきた。”
その子犬のような小さな生き物は、痩せて傷つき、震えている
“最初に感じ取ったのは体温だった。
そのことに、僕は戸惑った。
朝露に濡れて震えている腕の中の小さなものが、こんなにも温かいなんて信じられない気持ちがした。
温もりの塊だった。”
それから僕はブラフマンとの濃密な日々を過ごしていき、彼の生態について詳しく記録していくのだ。
※ブラフマンの尻尾
※ブラフマンの眠り方
※ブラフマンの食事
※ブラフマンの足音
・
・
そして最後は……
※ブラフマンの埋葬
なんて愛おしいのでしょう。
愛情しかありません。
この物語の世界はとても美しく静か。
自然に囲まれた小さな村は、死者たちの世界のようで現実味がない。
古代墓地にいくつも転がる石棺や墓標。
埋葬人の見張小屋。
過去も未来も持たない僕。
この静けさや曖昧さが、なんとなく村上春樹の世界を思わせる。
その中で、ブラフマンの存在が生き生きと生命力に溢れているのだ。
170頁程の文章には、想像を巡らせるのに充分な余白と余韻があり、胸の奥深くに沁みていく。
あぁ、私達は生きているのだな。
※この本は、いるかさん・地球っこさんに「小川洋子さんの好きな作品」として教えて頂いた中の一冊です。
ありがとうございます♪
Posted by ブクログ
4.0くらい
小川洋子っぽいと言えばぽいけど解説に書いてあったみたいに南仏の夜明けみたいな雰囲気を密に感じ取れて真新しくて微睡むような空気を言葉として紡いだみたいな話
Posted by ブクログ
太陽の光を浴びて輝く泉の水面、風に誘われてさざめく樹々たち、自然の中で思いきり遊ぶブラフマン……。すべての描写を記憶したくなる程、美しい文章だった。
架空の動物であるブラフマンの仕草は可愛さに溢れていて、見た事のない生き物を、ここまで鮮やかに描き出す文章に魅了され続けた。
穏やかな日常が次第に不穏な雰囲気へと変わっていく様子が、季節の移ろいと共に感じられる。主人公である〝僕〟の純粋さに翳りが差し、引き起こされてしまった結末は心が痛み切なさが込み上げた。しかし物語は〝僕〟の心に宿ったエゴを非難する事なく、淡々と出来事だけを書き連ねていく。その表現のされ方に心はより深い余韻に包まれた。
Posted by ブクログ
172頁と短くすぐに読めてしまった。
解説にも書かれていたけど登場人物や地名も固有名詞は出てこなくて、そういう意味で唯一スポットライトが当たるのが"ブラフマン"。彼が何という動物なのかは明言されず、森で生まれた水かきのあるしっぽの長い生き物ということのみわかる(犬?猫?リス?)。
最後の急展開にびっくり。タイトルから想像できた結末ではあるけど、余りにもあっけない。主人公はそれを受け入れられたのか?唐突でやるせないだろうけど作品ではそのあたりは触れられていない。
Posted by ブクログ
犬を飼っていた時の事を思い出しました。
描写が一つ一つ柔らかくて、とてもリアルだと感じました。
ペットとの大事な思い出を思い出したい時、寂しい冷ややかな日等ほっこりしたい時に読みたい本
Posted by ブクログ
懐いていただけに最後がさみしいです。世界観はあまりわからなかったですが、ブラフマンが可愛い。どんな姿をしているのか想像するのもちょっと楽しいです。
Posted by ブクログ
謎の生き物とのひと夏の暮らし。匂ってくるような自然。生と死を象徴するもの。石棺、古い家族写真、ブラフマン、肌の温もり。予感なく失う命。
2025.1.25
Posted by ブクログ
特筆すべきテーマや表現、共感ポイントは私にはないのだけど、解説にあった、「言葉のイメージ」というのに頷ける。
抽象画のように、淡く掴みにくいが、隣合う色同士が調和するように、人物の固有名詞が出てこない作品の中で、物の固有名詞が本の調和を奏でる。
ブラフマンの愛らしさ…みたいなのがいまいち私には煩わしく感じ、これは私が猫好きだからかもしれない。犬のような従順さとおちゃめさ。それから飼い主への絶対的な信頼感。どれも私が犬に対して苦手に思うことの全てだ。犬好きだったら受け取り方が違ったかも。
それにしても、間間にあるブラフマンの解説は何なのだろう。
Posted by ブクログ
この小さなブラフマンと呼ばれる生き物は結局何だったのか記されていない。穏やかに進む前半から徐々に不穏さを感じていき…。
小川さんの筆力があってこその作品で、おそらくこういった一見何も起こらない物語を描くことがとても難しいのではないだろうか。
温かな春から、急な春の嵐に巻き込まれたような、そしてまた静寂がおとずれる、浮遊感のある作品だった。
Posted by ブクログ
小川洋子さんらしい、優しく流れるような文章が素敵な作品でした。丁寧に描写されるブラフマンの一挙手一投足が可愛らしく、ずっと幸せに暮らして欲しいと願って止みませんでした。
芸術家が芸術をひねり出すために、献身的に、ときには透明人間のように人に尽くす主人公。唯一心を惹かれた女性の目線の先には、別の想い人。
慢性的な酸素不足のような主人公の日常において、ブラフマンは真っ直ぐに彼のことを慕い、彼の心を癒したのだと思います。ブラフマンにとっては、主人公が世界の全部だったのでしょう。
ブラフマンを最後まで、心ある誰かに愛された命だということを認めようとしなかった娘さん。対照的に、最初は動物アレルギーだからと彼を毛嫌いしていたレース職人がブラフマンのおくるみを縫ってくれた事にはっとしました。レース職人は、主人公のブラフマンを大切に思う気持ちまでは否定していなかったということなのだと思います。
芸術家、目に見えないものも大切に掬いあげようとする類の人種には、ブラフマンはただの未知の生物ではなく、一人の男の心を癒す友達に見えるのかも知れません。
Posted by ブクログ
全体としてフワフワとした夢物語のような感覚が
解説を読んで、なるほどなとスッと入ってくるものがあった。南仏にまつわる話、主人公を含む名前のない人間たちこそ夢の中で出会う行きずりの人物のように謎めいている、互いの領域に決して入り込まない人々の世界に起こった泉泥棒の登場と「僕」の侵犯行為、その結果としての死。
犬との関わり、育つ幼きものに寄り添う子育てを振り返りたくなるようなあたたかな前半もよいが
後半の展開は深く、余韻を残す一冊。
Posted by ブクログ
物静かな主人公とブラフマンとの、静かな出会いと静かな別れが、淡々とした叙事的な文章で語られる。
先日読んだ井伏鱒二「山椒魚」と同じく、この作品の中では空想上の生物であるブラフマンの描写だけがリアルだ。
現実的に「あり得る」はずの他の登場人物達は、主人公が密かに想いを寄せる「娘」でさえ、あるいはその「娘」への想いさえ、どこかぼんやりしている(村上春樹の世界の終わりを連想させる)。
ブラフマンを失った主人公の悲しみについては何も書かれていない。
書かれているのは、「娘」から聴く言葉がどこか平板であり、声を発さないブラフマンの表情は主人公に豊かな心情を語りかけていることである。
ブラフマンが枯葉を踏み締める音や、食事を求めてふくらはぎにすり寄る体温を、主人公はつぶさに語れるということである。
ベッドで眠る我が子の手を握り、寝顔に見とれていたくなる、そんな本である。(単に疲れて帰ってきただけのことかもしれませんが)
2016.5.11
Posted by ブクログ
作中ではブラフマンは「謎」という意味だけが出てくる。それゆえに、その姿が我々が名前を知っている何かに当てはまる必要はないのだろう。
とはいえ、造語ではなく元よりある言葉なだけに、その意味から作中の抽象が何を表現しているのか解釈したくなってしまう。
高校の倫理を履修した人なら覚えているかもしれない。"ウパニシャッド哲学"なんて言葉と一緒に出てくる「ブラフマン」とは、宇宙の根本原理をさす。
つまり、全てのものの根源がブラフマンであり、「宇宙の創造主」とも言われる。
とすると、作中のブラフマンは、芸術家たちが活動する〈創作者の家〉が、その創作が、生んだものなのであろう。いや、それぞれの創作がうまれる根源がもつ生きた熱量がこの家で融合し、姿をもっただけ、すなわちブラフマンから創作がうまれたという見方の方が哲学に即しているのか。
いずれにせよ、ブラフマンは作中でも宇宙の根本原理であり、僕の存在が認識される世界における原理原則、各人がもつ領域の調和そのものであったのだろう。
しかし、僕はラストシーンで娘の領域に踏み込む。その結果、ブラフマンは失われる。
小川洋子の描く世界がこんなに言語化しやすいとも思わないので、ただの素人の解釈に過ぎないが、これが私が読んだものである。
「創作」「宇宙」などのワードが見られたので、遠からずな気もしているが。
今回も、言葉と脳みそでは掴めないような物語に心が休まった。幹に空洞ができることを「まるで森がため息をつく時の唇のよう」と表現するところなど、また小川洋子の世界に触れることができているんだと静かで幸せな気持ちになった。