小川洋子のレビュー一覧

  • 薬指の標本

    Posted by ブクログ

    限りなく現実でありながらも、ダークなおとぎ話みたい。
    不思議な夢をみて、しばしぼんやりとしてしまうような読後感だった。

    乾いた浴場に差し込む光や、ビー玉のつまみがついた引き出しが延々と並ぶ標本室。
    迷い込む暗い林、六角柱の部屋のつやめく木の質感。

    映画のように頭に情景が流れる。

    官能的なシーンも印象的。
    例えば、背中の感触。
    抱き合うのはベッドではない。
    一話目では、ひんやりと硬い浴槽の底。
    二話目では、陶芸工房の砂でざらついた床。

    どこかサディスティックな男のからだの重みを受け入れながら、背中は硬質な床に押し付けられている。
    逃れようとはせず、身を任せるのだ。
    美しい文章に導かれ、恍惚感すら覚える。

    ところで、二話目のミドリさんの赤い毛糸のポンポンをつけた白い水泳帽が可愛すぎる。
    あんなに可愛いおばあちゃんがいたら、私も注目してしまうだろうな。

    0
    2026年04月19日
  • 妊娠カレンダー

    Posted by ブクログ

    芥川賞を読みたくて買いました。小川洋子さんはやはり有名ですしタイトルのインパクトが凄かったのですが、やはり感心させられるばかりでした。大衆文学ばかり読んでいる私にとってこの純文学はまた違った読後感と高揚感を与えてくれて最高でした。

    0
    2026年04月13日
  • 続 遠慮深いうたた寝

    Posted by ブクログ

    続編がある幸せを噛みしめる。
    本当にありがたい。

    何気ない日常の中に独特なこだわりや細やかな洞察が垣間見える。
    興味深い。

    学生時代の話で自分の学生時代を思い出し感慨に耽る。

    エッセイだけではなく著者の愛する本も紹介。

    充実の一冊。

    0
    2026年04月10日
  • 妊娠カレンダー

    Posted by ブクログ

    小川洋子さんを友達にお薦めしたら早速読んでくれて、それに続いて借りた本。その日に一気読み

    これを読んで確信したんだけど、簡単に一言で面白いよ、というには覚悟が必要かな。。
    どんでん返しのないつねに漂う不穏な雰囲気は、すごく内向的で独特。特に身体の描写が多く、それは緻密でいやでも想像をさせられてしまうし、そして多くの場面でふつうの人にとっては当たり前でないか意識したことのない感覚であって、不気味さを感じる。

    妊娠カレンダーは題名の通り生理的な現状がテーマだし、ドミトリイで出てくる「先生」には両手と片足がない。
    『まぶた』の中の短編に出てくる左腕が上がったまま動かなくなった弟。『猫を抱いて像と泳ぐ』では、少年は唇を閉じて生まれ、口を開く手術で脛の皮を移植したせいで唇に産毛が生える。そして壁に挟まれてミイラになった少女や、太りすぎてバスから出られなくなったマスター。

    わたしはこの唯一無二の小川さんワールドに本当に引き込まれるし大好き。

    でもこの本の「身籠った姉のために、毒薬の入ったジャムを、今日も私は作りつづける」という帯は、サイコパスさをとっかかりに大衆に押し付けてる感じがして違和感があった。妹がとくだん狂気じみているということではなく(実際に姉の方が精神疾患を抱えている)、日常に溶け込む不気味さをすごく研ぎ澄ませて丁寧に描いているということだと思うんだけどな。実質的には毒薬のジャム、なんだろうけどね。

    0
    2026年04月07日
  • 最果てアーケード

    Posted by ブクログ

    読むごとに頭の中でアーケードのお店がどんどん充実していって楽しかった。時系列で話が進んでいかず、時が行ったり来たりする構成が読んでいて不思議だった。その行ったり来たりの中で出来事の点と点が線で繋がってくるのが面白かった。

    0
    2026年04月02日
  • 妊娠カレンダー

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    妊娠カレンダー。姉と義兄と一緒に暮らす私。
    妊娠した姉の要求に、文句も言わずに答えている。
    いつも料理に文句をつけられたり、つわりが酷くて
    キッチンで料理ができないからと、庭に調理器具を
    持ち出して地面にござを敷いて食べる。
    (庭でご飯というのはとても楽しそうだけど)
    つわり後、食欲が増した姉にグレープフルーツジャムを
    毎日作るようになった。店員にわざわざアメリカ産かどうか確認して、防カビ剤が塗布されたものを買ってくる。
    発がん性があり、染色体を破壊する、という話を知りつつ皮を刻んでジャムにする。姉が食べたいというから?
    悪意とも親切とも取れる行動だけど、やっぱり悪意が
    勝っていると思う。最後の「破壊された姉の赤ん坊に会うために」という一文がぞっとした。
    姉や義兄には一生明かされない悪意が、
    すぐ近くにあるという怖さ。

    ドミトリイ。私が6年前まで住んでいたドミトリイ(学生寮)のお話。15年ぶりに年下のいとこから連絡があり、
    その学生寮を紹介した。管理人さんの男性(先生)は両手と左足が無く、顎と鎖骨、右足を使って日常生活を送っている。長年の不自然な身体の使い方で、肋骨が変形し続け、肺と心臓を圧迫している。肋骨の変形と、先生の部屋の天井のしみと、学生寮の空気の変性が、重なり合っているなあと思った。全てがじわじわ変わっていって、もう止められない。そして何故かいつ行っても、いとこに出会えない。以前起きた1人の寮生が突然消えるという事件、天井のしみから血のように垂れてきた何か。(屋根裏を見たら蜂の巣だったけど!)本当に、いとこは無事なんだよね?とドキッとする終わり方だった。

    夕暮れの給食室と雨のプール
    雨の降る夜、三歳の男の子と父親らしい男が尋ねてきた。「難儀に苦しんでいらっしゃいませんか?」何かの勧誘員だったらしい。その後わたしはジュジュのお散歩中、小学校の裏門で二人に再会すると、給食室を熱心に眺めている。「まるで給食室評論家みたい」とわたしが言うくらい、給食室の仕組みについてとても詳しく知っていた。そして男の小学生時代の話がはじまった。プールの授業で、泳げない印である赤いキャップを被るのが辛かったこと。給食室を覗いたときに発していた嫌なにおいと、錆びついたシャベルで掻き回されるシチュー、おばさんのゴム長靴の底でマッシュされて、模様がついたじゃがいも。それから給食が食べられなくなったこと。学校をサボった日、祖父と出くわして廃れたチョコレート工場に連れていってもらったこと。
    知らぬが仏というのは、日常にたくさん潜んでいるんだろうな。
    電報でフィアンセからオヤスミとだけ届いたちょうどその時、眠ろうとしていたところだったわたしが感動するシーンが素敵。電話がないから不便だとは思いつつも、思いがけない幸福がやってきてくれた、という感じが優しい気持ちになれた。

    0
    2026年04月04日
  • 妊娠カレンダー

    Posted by ブクログ

    第104回芥川賞受賞作、ということで。

    受賞作と、他2篇。
    91年に受賞、この文庫が94年に1刷ということで、35年の時を経ているというのは不思議に思えた。所々にその時代性は少しだけ顔を出すものの、全く古びていない。

    3篇の短編集の共通して根底にあるものは、何とも言いがたい淡々とした不穏、不気味さと、観察者としての「わたし」、そして高く一貫した描写力だと思った。

    個人的には「ドミトリイ」と、著者の文庫版あとがきの中の、新鮮な玉ねぎと猫の死体の話が一番面白かった。

    「ドミトリイ」は特に途中からミステリーのような急展開になり、真の小説が生まれるのはそういうところにあるものかと、短いあとがきですごく分かるような、謎のような気分を味わった。

    0
    2026年04月01日
  • 猫を抱いて象と泳ぐ

    Posted by ブクログ

    小川洋子さんのかく文章は本当に読んでて心地良いです。静かだけどその静かかさの中には深淵が広がっているような。とてもいろんな色の絵の具を幾重にも重ねて描いた絵画のようです。パッと見は青に見える。でも近寄って覗き込むようによーく見るとその中には黄色も緑も灰色も茶色もあらゆる色が隠れていてびっくりする、そんな感じです。(←我ながらわかりにくい 笑)

    全体的に感じる空気感はファンタジーのような神秘的な夢物語のような印象を受けますが、実は窮屈な生きにくさを描いたダークファンタジーでした。リトル・アリョーヒンにとってチェス盤の下以外の世界は何と生きにくかったことか。リトル・アリョーヒンが悪いわけじゃない。支えてくれる人がいなくて独りだったわけじゃない。愛することも愛されることもリトル・アリョーヒンは知っていました。
    でも何故か最後までリトル・アリョーヒンは孤独でしたよね。なんでですかね。

    チェスを全く理解しない私でも面白く読めましたが、チェスを嗜む人が読んだらどんな感想になるんだろうなぁ。私とは違う世界が見えるのかもしれません。

    0
    2026年04月01日
  • 密やかな結晶 新装版

    Posted by ブクログ

    読みながら読んだ文字がポロポロと落ちていく感覚
    まさしく物語の中どおりの消滅のような感じがして面白かった
    主人公の名前も、おじいさんも、結局名前が出てるはずのR氏もはっきりとした名前が分からずにこの物語は進んでいってこうやって文章って書けるんだ…と圧倒された
    天然石や鉱石を見ているような透明なでも角度を変えると見方が変わるようなそんな物語だった

    0
    2026年03月31日
  • そこに工場があるかぎり

    Posted by ブクログ

    小川洋子さんの工場を見学してきたお話。

    小川さんは岡山県出身。
    幼い頃から近くに工場があり、ずっと興味を抱いていた。
    小川さんの工場愛がにじみ出ている一冊。
    文章がとてもきれい。
    読んでよかった。。。
    この本を読んで、鉛筆を購入。
    しばらく使ってみようっと。。

    メモ
    細穴の奥は深い (エストロラボ<細穴屋>)
    お菓子と秘密。その魅惑的な世界 (グリコピア神戸)
    丘の上でボートを作る (桑野造船)
    手の体温を伝える (五十畑工業)サンポカー
    瞬間の想像力 (山口硝子製作所)ガスクロマトグラフィー
    身を削り奉仕する (北星鉛筆)

    0
    2026年03月31日
  • カラーひよことコーヒー豆

    Posted by ブクログ

    言葉一つ一つがきれい

    私にだってちゃんと若い頃はあった。疲れを知らず、恐れを知らず、時間に限りが

    あるなどと考えもせず、今目の前を行くあの子のようにずんずん突き進んでいた。愛してくれない人を恨み、自分より愛されている人をねたみ、いつも、自分自身を哀れむために泣いていた。それでも思う存分泣けば案外とすっきりし、むくみも食欲不振も目の下の隈も、一晩で解消した。そんな時代があったはずなのに、ちょっと油断し

    ている隙に、すべてが遠くなってしまった。なぜだろう。あの日々は一体、どこへ消

    えてしまったのだろう。

    0
    2026年03月29日
  • 猫を抱いて象と泳ぐ

    Posted by ブクログ

    何の話?と思わせるこのタイトル。マスターから教えてもらったチェスに魅入られた男性の物語。独特の世界観で、いつの時代の話なのかもよくわかりませんが、一人の男性の生涯に思いを馳せながらの余韻の残る読書体験でした。チェスと将棋ってすごく似てるんだなぁと思ったり、最後はミイラと再会させたかったなぁと思ったり、この話ってノンフィクションなの?と思ったり、これはこれで一つの幸せな人生だっただろうなぁとか、いろんなことを思いながら楽しく読めました!

    0
    2026年03月29日
  • ゴリラの森、言葉の海(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    人間とゴリラまた他の動物たちとの様々な比較をしている本書はとても面白かった。言葉があることによって文学が生まれたりして文化的に豊かになった部分もあるけれど、本能を超えた残虐性が生まれたり、曖昧さが許容されなくなってきたり言葉以外の手段が弱くなったりということもある。使い方を考えていきたいし言葉だけを絶対視しないようにしたい。

    0
    2026年03月28日
  • 沈黙博物館

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    青年を主人公に据えて青年を支える少女と気難しい老婆がいる。
    この設定だけで「小川洋子」であれば、話が面白いのは決まっている。

    地域の人々の形見を集めた博物館を建てるための準備をしに来た主人公。
    形見はもっぱら遺族からの寄贈などではなく、青年や老婆による盗難。されど、それに気づく者はいない。

    爆発事件、女性の刺殺事件、兄への手紙などミステリーな要素が存分に入り込んでいて不穏な雰囲気。
    切り取られる乳首と庭師が研ぐジャックナイフの関連。

    不穏な中から急に陽が差し込む。どういった理屈だろうか??なぞは謎のままで物語は終わっていく

    0
    2026年03月25日
  • サイレントシンガー

    Posted by ブクログ

    童話のようでいて、少しリアルでもある。

    アカシアの野辺のような場所は、本当にこの世界のどこかにありそうだと思う。

    そして、リリカの声のような存在のものはこの世界に間違いなくたくさんあるんだろうな。誰にも強く認識されないのに、誰からも受け入れられ、必要とされるもの。

    0
    2026年03月24日
  • 密やかな結晶 新装版

    Posted by ブクログ

    全てを語らないラストに想像力が膨らまされた

    集団的に何かを一つずつ失っていくという表現はファンタジーの中のものでフィクションではあるけど、
    そう遠くない未来に、歳をとった自分がこの小説にあるように、一つずつ何かを忘れて認識できなくなる日が来るのかもしれないと思った

    優しいおじいさんが大好きになった

    0
    2026年03月23日
  • 密やかな結晶 新装版

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    文章が美しい
    主人公が、書いている小説の男と同じ立場になってしまっていってるのでは…と思えて怖かった 
    R氏は、妻や子供のことは気にならなかったのだろうか。。

    0
    2026年03月23日
  • 生きるとは、自分の物語をつくること

    Posted by ブクログ

    対談形式で、読みやすかった。
    前に読んだ「物語の役割」と重なる内容もあって
    小川さんにとっての小説を書く意味を、再確認できた。
    河合隼雄さんは、次の対談をする前に亡くなってしまったようでとても残念。カウンセリングと作家に共通することがいろいろあって面白かった。箱庭療法に興味を持った。言葉で表現する小説と、言葉では伝えられないことを箱庭を通して表現するというのは正反対だなあ。自分の心の伝え方はいろいろあるんだ、と知ることができた。

    0
    2026年03月22日
  • 遠慮深いうたた寝

    Posted by ブクログ

    さまざまな媒体に寄稿したエッセイをまとめた贅沢な一冊。
    河出書房新社はいつも良い仕事をする。
    感謝。

    文学、風景、趣味などに対する視点が独特で惹き込まれる。

    高梁川の夕日。
    フランスの子どもたちへの漢字の説明。
    幸せな気持ちを共有できる。

    0
    2026年03月19日
  • 夜明けの縁をさ迷う人々

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

     人と人の思わぬ交流を描いた短編集。
     最初の「曲芸と野球」は無茶な練習を繰り返す曲芸師のお姉さんとヒットの打てない少年が他の人なら気にしないような合図でお互いを励まし合うという話だった。心温まる人生の妙味を味わえるような個人的には好きな短編で、この短編集はこういう方向性の物語が多いのかなって思っていたが、以降「パラソルチョコレート」を除き、全てがファンタジーの作品であったため拍子抜けした(「ラ・ヴェール嬢の秘密」はどちらかと言えばファンタジーではないが)。
     「曲芸と野球」以外では「パラソルチョコレート」が好きだった。シッターに預けられた二人の姉弟が毎週カフェに連れて行かれるのだが、シッターさんはそこで一人でチェスを打っていた。姉がひょんなことから一人でいる時に家で空き巣と遭遇するも、空き巣から自分は裏側の人間だと言われ子ども騙しに踊らされてしまう。けれど、その子ども騙しで世界を理解しようとする様子が微笑ましかった。過程は全くの間違いではあるが、最後には子どもらしい正解に辿り着き、続きが知りたくなる物語だった。3.8。

    0
    2026年03月19日