あらすじ
耳の中に棲む私の最初の友だちは
涙を音符にして、とても親密な演奏をしてくれるのです。
補聴器のセールスマンだった父の骨壺から出てきた四つの耳の骨(カルテット)。
あたたかく、ときに禍々しく、
静かに光を放つようにつづられた珠玉の最新作品集。
オタワ映画祭VR部門最優秀賞・アヌシー映画祭公式出品
世界を席巻したVRアニメから生まれた「もう一つの物語」
「骨壺のカルテット」
補聴器のセールスマンだった父は、いつも古びたクッキー缶を持ち歩いていた。亡くなった父の骨壺と共に、私は親しかった耳鼻科の院長先生のもとを訪ねる。
「耳たぶに触れる」
収穫祭の“早泣き競争”に出場した男は、思わず写真に撮りたくなる特別な耳をもっていた。補聴器が納まったトランクに、男は掘り出したダンゴムシの死骸を収める。
「今日は小鳥の日」
小鳥ブローチのサイズは、実物の三分の一でなければなりません。嘴と爪は本物を用います。
残念ながら、もう一つも残っておりませんが。
「踊りましょうよ」
補聴器のメンテナンスと顧客とのお喋りを終えると、セールスマンさんはこっそり人工池に向かう。そこには“世界で最も釣り合いのとれた耳”をもつ彼女がいた。
「選鉱場とラッパ」
少年は、輪投げの景品のラッパが欲しかった。「どうか僕のラッパを誰かが持って帰ったりしませんように……」。お祭りの最終日、問題が発生する。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
小説と並んで、装幀、装画・挿絵もすばらしい。群像に掲載された短編を集めた作品集です。なかでも『骨壷のカルテット』の世界観と描写は、これぞ小川洋子さんというもので、これから私は何かにつけて「耳に棲むもの」に思いを馳せることになりそうです。
Posted by ブクログ
「閉じ込められ、誰からも見捨てられ、忘れ去られたものを救い出すのと、閉じこもっていたいものに、それが求める小さな空洞を与えてやるのは、私にとって同じことです。」
幻想的だけど、人間の生々しさ描かれており、独特の読後感がある。
この作品の感想や解釈をもっと言葉にできるようになりたい。
Posted by ブクログ
第1章は補聴器のセールスマンとして生きた父に対する娘の視点から始まって、以降の章は父でありセールスマンである男が耳に棲むものと出逢う話が続いている。どの話も生き物の死が添えられているので、苦手な方はご注意を。小川洋子さんはいつも、現代でも中世でも何処でもない(登場するワード的には現代のものだけど)純粋に生きる人間を描き出すのがお上手だと思う。そんなひとり、ひとりに惹かれてページを捲る。
Posted by ブクログ
音と死をめぐる幻想的な物語。
補聴器売りの男が出会った物たちが彼の耳の中に棲んでいたのかもしれない。
静かに進む不思議な世界に引き込まれたが、難解でもあった
Posted by ブクログ
閉じられた静かな孤独で満たされている世界をひたすらにたゆたえる味わい深い本。小川洋子さんはこれまで何冊か読んで来たものの私個人の好みとは微妙にズレていることが多かったのですが、これは一瞬で恋に堕ちてしまった。心と身体に染み渡る静けさを深く堪能出来た。
Posted by ブクログ
骨壺の中の骨。
その骨は、生前、補聴器のセールスマンでした。
骨壺から始めて、彼の物語を遡っていきます。
耳の奥で誰かが音楽を奏でています。補聴器で塞げば、耳に棲むものがこぼれ落ちる心配はありません。
そんな小さな世界の奥へ奥へと導かれながら、人としての原点へと帰っていくような感覚になりました。
歳を重ねるにつれ「死」と「死に至るまでの苦痛」への恐怖が少しずつ増しているような気がしています。それでも、このような小説に触れることで、生死についての漠然とした不安がギュッと縮小されて手の中に収まり、穏やかな気持ちにもなるのです。
孤独を描くことで孤独を癒し、心に寄り添ってくれるような作品でした。
Posted by ブクログ
補聴器といえば、聞こえづらい外の音を伝えてくれるものだ。
だが、小川洋子さんの魔法がかけられると、耳の奥で鳴っている、かすかな音楽を聴き取るための道具に思えてくる。
そして、泣きたくなるような悲しみや苦しみに満ちた秘密が、思わずこぼれ落ちてしまわないように、そっと封印するための御守りのようにも感じられないだろうか。
補聴器の移動販売員だったお父さんは言う。
”閉じ込められ、誰からも見捨てられ、忘れ去られたものを救い出すのと、閉じこもっていたいものに、それが求める小さな空洞を与えてやるのは、私にとって同じことです。”
お父さんの骨壺の中から、かつて耳に棲んでいたものたちが四つの欠片として取り出されたとき、彼らはお父さんの胸に仕舞われていた心の声を、娘である私に話しだす。収められた四つのエピソードは、耳に棲んでいたカルテットが語る幻想譚だ。
それは過去の記憶のようでもあり、また少し違うものでもあるだろう。
救い出したものたちが秘めていた物語。
そして消え失せてしまわないように、お父さんが自分の心と耳の小部屋を差し出して、匿ってきた物語たちなのだから。
夕暮れの砂場で、写真に写った涙の粒をトレースして譜面を作る縦笛演奏家は、鉱山の選鉱場から漏れる光を辿って作った架空の星座を五線紙へ音符に置き換えていた少年と、時を超えて響きあっている。
高齢者住宅を定期的に訪問する、年老いた補聴器のセールスマンさんと介護施設の助手である女子大生は、時や外界から隔絶された水面の世界で、耳をぴったりと重ね合わせて一つになる。
土に埋もれた小鳥のブローチを掘り起こすことで、世間の理解など決して求めない孤独で行き場のない魂への悼みが、静かに解放される。
すべてが、束の間だけ開いた時空のあわいに、滑り込んでしまったかのような物語たち。
補聴器の入った鞄を下げて、町から町へと旅するように巡っていたお父さんは、もう一つクッキーの空缶を鞄にひそませて持ち歩いていた。
クッキー缶とガラクタのような中身たちは、お父さんの死と共に消えてしまった。
独り遺された娘は、父の耳に棲んでいたカルテットを、自身の子供の頃の思い出が詰まった、のど飴の缶に納める。
娘の手で静かに振られた缶が奏でる音は、父の鞄から漏れていたカラカラという音と同じだ。
亡くなった者の声を思い出せずとも、懐かしい音が親と子をつないでくれる。そのイメージが美しい。
Posted by ブクログ
VRアニメ作品の内容と絡めた内容となっており、1章を先に読んでみたもののそこまでピンとこず、ネット検索してPVとあらすじを読むと腑に落ちた。
他の方のレビューでも、VR作品を見た後に内容を補完するような短編集であるらしく、PVだけでも読む前に見るのと見ないのとでは、世界観への入り方が変わりそうだ。
小説単体でも著者らしい独特の雰囲気は味わえる。しかし、映像を見た後の方が確実に面白いだろう。
Posted by ブクログ
短編連作。現実感溢れるけど、ダーク寄りファンタジー。どれも少し気持ち悪くズレてます。キーは耳。132ページと短く、あっという間に読めるので、この気持ち悪くズレた空間にお越しください。文章は美しく響くようです。切り取って入試の問題に使えそうな内容だな~って思いながら読みました。
エログロないものの、これを読んで面白い!と思う小学生はまれだと思うので、高校生くらいからが向いてます。中学校以上向け。
Posted by ブクログ
短編集だけどストーリーつながってて嬉しい。結局耳の中に住むものの正体はよくわからなかった。
世の中から忘れ去られたり静かに消えていく物をクッキー缶に集め、耳の中のものが落ちないように補聴器を売り回るセールスマンさんが素敵だと思った。この本の雰囲気が全体的に好きだと感じた
Posted by ブクログ
VR作品と本書の両方を楽しむと彼の人生の全体像が見えてすっきりします。
VRの公式のあらすじだけでもぜひ読んで欲しい。
小川洋子らしさ全開の洗練された短編集だったと
思う。忘れられたもの、閉じ込められたものに
手を差し伸べたやさしい小説だった。
自分にとって大事なものをここ最近は書き続けていると本人もどこかで言っていたのがよく分かる。
「琥珀のまたたき」「密やかな結晶」あたりと似た何かを感じたが、それ以上に主人公が小川洋子そのものである気がして、読んでいて満たされていくのを感じた。
編によっては好みが分かれるのは理解できる。
「今日は小鳥の日」は、共感はできない世界の1エピソードという受け止め方でも良いと思う。
小川洋子が影響を受けてきたものを考えると、「閉じ込められること」「自由」「祈り」「慰め」…そんなことについて描いたのかなあと、私はなんとなく解釈している。
「選鉱場とラッパ」は複雑な精神の成長過程が描かれていたのだと思う。
言い表せられないむしゃくしゃした感情、悪と分かっていても手を伸ばしてしまう衝動、成長に伴う綺麗ではない部分が小川洋子によって掬い上げられたということだろう。
彼女は、現実では許されない事にも、小説の中では優しく手を伸ばしてあげることができるとどこかで語っていた。
かつて彼の悲しみに寄り添ったカルテットの音楽。その演奏を聴けなくっても、それは消失ではなく彼の中に潜んでいる。その証に彼の涙はカルテットの演奏の音符となり楽譜となる。
そのことが軸となり、各編を繋いでいる密やかなまとまりが心地よかった。
Posted by ブクログ
とても久しぶりに小川洋子さんの本を手に取りました。
そうだった。美しく偏狂的でひっそりと閉ざされた世界観が小川洋子さんだった。
補聴器売りの方にまつわる短編集なのかな?
"骨壷のカルテット"が好きでした。
父は「耳鳴りがひどかったようです」
「しかし、それを苦にされていたご様子はありません」
「はい。むしろ外から入ってくるより、内側でなっている音の方に耳を傾けている方が、心が落ち着いたようです」
読み終わって、印象に残った言葉はここでした。
Posted by ブクログ
装丁が美しい。読後にこの表紙のカルテットが耳骨だったことに気づいた。小川ワールドが好きな人はたまらない世界だと思う。私は補聴器のセールスマンに少し期待を寄せすぎてしまいました。5つの中では『踊りましょうよ』が一番好き。
Posted by ブクログ
骨壺 鳥の死骸 心中 座敷牢 遺体 犬の死骸 溺死…
数えきれないほどのマイナスワード。
狂気に満ちた話がつながっていく。
補聴器の耳の中では外界では聞こえない音が静かに聞こえてくるのかもしれない。
マイナスワードの傍ら、星 収穫祭 カルテット 小鳥のさえずり プラスワードが安堵させてくれる。
Posted by ブクログ
今読んでいる で登録しましたが
この先 たぶん読まないでしょう。
静かな狂気の短編集です。
最初の2つの話しも うーん!
というはなしでしたが
飼っている小鳥を生きたまま飲み込んで自殺する話しは 相当な狂気です。
気持ち悪ーい!
おまけに そのお宅 沢山の鳥籠の下が
鳥の羽やふんが 空気中を飛び交っていて
そこでお茶を頂く
それも気持ち悪ーい!
この小鳥のブローチを読んで この本は諦めました。
素敵な表紙の本でしたが。
小川洋子さん どうしたの?
怪談話?ゆっくりと狂っていく感じが怖い!
Posted by ブクログ
不思議な感覚の中で読み進めた。
補聴器のセールスマンだった父の骨壷から出てきた4つの耳の骨。カルテット。
「骨壷のカルテット」が特に好き。
『耳の中に棲む私の最初の友達は涙を音符にして、とても親密な演奏をしてくれるのです』
装丁も挿絵もかわいく品があり素敵。
Posted by ブクログ
父の4つの耳の骨から、父の辿った人生を垣間見る。不気味でありながら、カルテット(4つの骨がぶつかり合ってこだました)の美しい音の調べが漂ってくる。最後の編は父の生い立ちのようで、それが各編の父の足跡に繋がっている。父が関わった人達はまるで内耳のなかでひっそり生きてきた、そんな感じの人達だ。
Posted by ブクログ
ちょっと難しかったかも。
小川洋子さんは昔から大好きで、期待していたのもある。
物語の展開ではなくて、場面をいかに読者と距離を近くするかに焦点をあてたかのような
こと細かい背景の描写と動きが特徴的に感じた。
とはいえあまり起承転結って感じじゃないから、夢遊病とか白昼夢みたいな、ふわふわした感覚で逆に読書の新体験だった。
読み終わった後は、幼少期の強烈な、謎の記憶が1つ増えた感覚。
Posted by ブクログ
不思議な話だった。
各地を旅する補聴器のセールスマンが亡くなったところから話は始まります。
この主人公は、耳の中には、不思議なカルテットが棲み、耳の中で踊るドウケツエビを飼っている。
そして、各地で出会った人との話がまた少し薄気味悪かったり、グロテスクだったり、官能的?だったり…よくわからなかった。
挿絵は、素敵でした。
Posted by ブクログ
なんとも不思議で不気味な読後感。
万人におすすめはできないけど、
お腹の底にずっしりと残る作品。
5つの短編のちょうど真ん中、
「今日は小鳥の日」
野鳥好きなわたしはそのタイトルに大いに期待したのだけど、結果は…ああ。。
久しぶりの小川洋子。
やっぱり「猫を抱いて象と泳ぐ」が一番好きかな。
Posted by ブクログ
[こんな人におすすめ]
*上質な物語に身も心もゆだねてしまいたい人
没入できます。著名なオーケストラの生演奏を聴いている時のように、睡魔も日常のモヤモヤも全部忘れて幸せな気分に浸れます。
なお、5篇に分かれているので少しずつ読み進めることも可能です。
[こんな人は次の機会に]
*動物を愛している人
思い出そうとするたびに「脳内で再生してはいけないよ。世の中には忘れてしまった方が良いこともある。」と脳内が優しく語りかけてくるほど気持ち悪い描写があります。困ったことに、該当部分を読んでいる時は文章の美しさに心を奪われているので恐ろしさに気づくのが遅れます。読む前にご注意ください。