小川洋子のレビュー一覧
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ネタバレ舞台をモチーフとした短編集です。小川洋子さんだなあと思いながらの読書でした。研ぎ澄まされた文章に、不思議な世界が広がっていました。装画はヒグチユウコさん。この雰囲気と色合い、好きな感じです。そして何かが潜んでいるような感じもしました。背表紙もおしゃれです。
以下は、読者の私が気に入った短編の感想です。
【指紋のついた羽】
ひとことで言えば〈無言の世界の美しさ〉。
バレエのラ・シルフィードに魅せられた少女。逆さまに置いた工具箱の上で上演される無言の世界。その世界になぜか美しさを感じ、幼い頃から少女を知っている縫い子さんの優しさが心地よかったです。二つの光と二人の後ろ姿の描写で締めくくった最 -
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9話の不思議な世界の短編集だ。
特に印象深かったのは⋯
⚫︎「 曲芸と野球 」
「私」が少年野球を楽しんでいた小学校4年生の時、常に3塁側のファールゾーンで女性の曲芸師が椅子を4脚積み重ねての稽古をしていた。
しかしチームメイトには、その曲芸師の姿は視界に入っていないようだった。
大人になった「私」は、年に数回のペースで草野球を楽しむのだが、今でも三塁側のファールゾーンから曲芸師が「私」を見つめている。
⚫︎「 イービーの叶わぬ望み 」
老舗の中華料理店のエレベーター内で、誰かに産み落とされていたイービー。
お店に勤めていた心優しいチュン婆さんがイービーの育ての親になる。
成長とともにイー -
Posted by ブクログ
2編の短編が入っている。
1つ目は表題作「薬指の標本」。気味の悪いタイトルだな、と思いながら読み進めたが、意外とそうでもない。しかし、そうでもないな、と読み進めると、だんだん不気味になってくる…。
といっても、タイトルから想起されるような肉体的な不気味さではなく、精神的な不気味さだ。主人公が沼にはまっていくのを、不思議な気持ちで読み進めた。
2作目の「六角形の小部屋」の方が個人的には好きだった。小部屋に入った悩める子羊の「わたし」に、少しでも救いがあったのか、なかったのか? お悩み解決小説のような筋を辿りつつ、ハッピーエンドで終わらない。設定は非現実的なのに、そこがむしろリアルである。
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Posted by ブクログ
ネタバレファンタジーのような、それでいて物凄くリアリスティックな、その交差にある小説だった。個人的に主人公が書いている小説の内容と、主人公目線の物語とが並行し、そして最後には交わる点が興味深い。もともと一繋がりの話だったのではと感じる程。
物語の中には大きく2種類の生物が存在する:消滅の影響を受ける生物(恐らく秘密警察もこちら側?)と受けない生物。前者は薔薇や鳥等の消滅を感じたとしても、2〜3日もすればその世界に順応し、不自由を不自由とは感じなくなる。一方後者は消滅の影響を受けないので、その様を見て、簡単には手放してほしくはないと願う。面白いなと感じたのは、自分たちはその中間に位置付けられるのではない